夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

                              107


「それではソード選手と相原選手、互いに礼、始め!!」
 ソードと相原二段の試合が始まった。今度は大学生であり、体も大きい。
「ウウリャーーーッ!!」
 相原は全力で突っ込んで来た。
「りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、……」
 猛烈なパンチの嵐である。ソードが少し困ったのは、ルール上正確に当たりさえすれば、ダメージが無くても
ポイントを取られ、二ポイントで負けになる事だった。

『兎に角当てられない様にしないと……』
 ソードは防戦一方になった。ジリジリ下がって、このまま場外に出ると、故意の場外とみなされ、一ポイント取
られるルールになっていた。

『うーん、ルールが厄介だな……』
 そう思った。ソードの目標はあくまでも金森田との戦いに勝つことである。ルール無しの死闘になる事は避け
られないと思っている。
『最終的には肉体と肉体との戦いになるだろう。武器を所持してあの男に近づくことなど、不可能だろうから
な!』
 そう考えると防具を付けての今のこの戦いが、如何にも気だるい。

「はりゃさーーーーっ!!」
「どんっ!!」
 一か八かでやった、横中段蹴りが、ものの見事に決ってくれた。相原二段は数メートル吹き飛んで、今度は
胸部を押さえたまま動けなくなった。

「タ、タ、タンカ!! あばら骨が折れているみたいだ!!」
 相原選手の様子をみた主審は大声で叫んだ。
「オオオーーーーッ!!!」
 場内では恐怖心の入り混じった歓声が上がった。二段ともなれば相当に肉体は頑強で、防具も付けている
のである。そう簡単に壊れる筈が無い。それがあっけなく壊されてしまったのだから、ソードのパワーの凄まじ
さが分かるというものである。

 その時点で、しきりにアハラ三人衆がヒソヒソと声を潜めて協議していた。やがて結論が出たらしく、ハヤブ
サがマイクで説明を始めた。
「ええ、ご覧の通り、ソード選手は圧倒的に強いので、この後の試合は、中止とします。今日はこれから閉会式
を行います。それでは昇級昇段者の名前を言います。それは担当の石川が発表します。発表が終ったら、こ
こに整列。皆で次回の健闘を誓い合って解散となる。それでは石川君、発表の方宜しく」
 事務職の石川洋之助(いしかわようのすけ)が、手馴れた感じで、昇級昇段者の名前を次々に発表して行っ
た。

 会場内はざわついた。どうにも釈然としないのである。しかし昇級昇段者の名前が次々に発表されると、
「おめでとう!!」
「わーっ、やった!!」
 などと小さい子達の歓声が上がって、場内が和やかなムードになって来て、
『すっきりしないけどまあ良いか……』
 そんな雰囲気になった。

「あのう、済みません。閉会式が終った後に残って頂けませんか。事情を詳しくご説明いたしますので。お願い
します」
 アカツキがソードと付き人達の所にやって来て、軽い感じで言って、直ぐ去って行った。

「……、それでは今日は解散!!」
 ハヤブサの閉会宣言で、ぞろぞろと殆どの者は帰って行った。ただソードの周りにはサインを求めたり、握
手を求めたりする者が暫く居たが、それもやがて無くなり、会場の後片付けを係員がし始めていた。

「いや、ソード先生、先生の強さは格別です。先程はその、失礼致しました。どうでしょう、これから上級者専用
の『アハーラの間』で、続きをやりたいのですが」
「ええっ、これからですか?」
「はい、途中で終了したのは、怪我の状態が凄くて、小さい子達にあれ以上はちょっと見せたくなくて、急遽、
閉会式をやる事にしたのです。その点ご了承下さい」
 ハヤブサが事情を説明した。

「なるほどそう言う事ですか。それでしたらこちらからも一つお願いがあるのですが、宜しいですか?」
「ええと、どの様な事でしょうか?」
「防具無しにして欲しいのですよ。まあ、せいぜい股間をガードするもの位だけにして欲しいのです。顔面への
攻撃は無しという事でどうでしょうか?
 得点制もそれなりに意義があるとは思いますが、例えば護身術としてアハーラ拳法を考えると、ポイント制は
必ずしも合理的とは言えません。
 相手が動けなくなったり、失神したりする様でなければ、護身術にはならないと思います。この様な事を言う
のは面映いのですが、さっきの私の試合の場合、彼の攻撃を無視して、つまり二、三発打たせても、こちらが
攻撃すればどうだったか、大変失礼かも知れませんが、それで決着は付いていたと思います。少し自惚れて
いますか?」
 ソードの言葉には、物凄いほどの重みがあった。並の者だったら、
『自惚れも大概にしなさい!』
 と叱るところだが、相手がソードではとてもとてもである。

「わ、分かりました。ならば、股間にのみ防具を付けさせて貰います。勿論股間打ちは反則という事で良いで
しょうね?」
 ハヤブサは青くなりながらも、意を決して言った。格闘家の面子に懸けて後には引けないと思った。勿論ソー
ドはすんなり了承した。

 少し歩くと、アハーラの間があった。中では十数人がきちんと正座してソード達の到着を待っていた。
「ソード先生お待ち申しておりました。次に稽古を付けて頂きます、小路山三段です。宜しくお願いします」
 凄い気迫で小路山は言った。

「ええと、ソード先生からの申し出で原則防具無し、で行う。防具は股間のみ。顔面攻撃は無し。それ以外は
素手で行うことに決った。
 無理する事は無い。それでも良いと思う者のみが、先生に稽古を付けて貰いなさい。小路山君はどうする?
止めても決して恥ではないぞ」
 ハヤブサは真剣な表情で言った。

「いいえ、自分はやります。前々から、防具が邪魔に感じていましたから、丁度良かったです。フルコンタクト
でお願いします!」
 小路山は決死の覚悟で言った。ソードのパワーがどれほどのものか彼も良く知っている。しかし男には男の
面子がある。例え死んでも後には引けないのだ。

「審判は私が務めましょう。両者前へ!」
 ライジンがそう言うと、股間にだけ防具を付けてソード、小路山次春(こうじやまつぎはる)三段の二人は相対
した。ソードは現在、二段格となっていた。
 二段格というのは二段の力があるが正式の免状が無いものを言う。しかし実際のソードの力はそれより遥か
に上である事は誰もが認めるところであった。

「ソード・月岡二段格、小路山次春三段の一戦を行う。互いに礼、始め!!」
 緊張し切ったライジンの声が余り大きくは無いアハーラの間に響いた。
「ハリャッ!! タッ!!」
 次春三段の鋭い攻撃が暫く続いたが、少し攻撃疲れした辺りで、
「キエーーーーッ!!!」
 ソードの凄まじいパワーの中段回し蹴りが炸裂した。

「何のっ!!」
 次春三段は両腕を交差させて、しっかり受け止めたのだった。確かに常識的にはそれで防御は完璧である。
「バキィッ!!」
 凄い音がした。
「ウギャーーーーーッ!!」
 次春三段は数メートル吹飛ばされたが、それだけではなかった。防御した左腕の骨が折れて、奇妙な形に
なっていた。激痛で殆ど失神状態だった。一刻も早く病院に連れて行って処置をしないと、腕一本が駄目にな
りそうである。
 その様な場合に備えて、医療班も待機していたのである。次春三段は直ぐタンカで運び出されて行った。ア
ハーラの間には恐怖心が充満していた。

「つ、次は、ええと、相馬四段だね。し、支度しなさい」
 ハヤブサは相馬四段が気の毒に思えた。自分より力量の劣るものが、自分でも勝てそうも無い相手と戦う
のである。
 しかもそのパワーは想像を絶する。筋骨隆々たる次春三段の腕でも持ち堪えられなかったのだ。力量的に
大差の無い相馬四段では、大怪我は必定だった。

「す、済みません。は、腹が痛くて、やれそうにもありません。あああ、痛たたたたた!」
 相馬四段は急に腹痛をもよおして、青い顔で退席してしまったのだった。
「腹痛では仕方が無い。ええと、誰か、相馬四段の代りにやるものはいないか? もしいなければソード先生
の不戦勝となるが……」
 ハヤブサは一応形式的に聞いてみた。予想通り、誰もいなかった。

「それではソード先生の不戦勝。次はアカツキ、君だ。まさか腹痛ではあるまいな?」
 ついに、アハーラ三人衆の出番である。アハーラの間では重苦しい雰囲気が充満していた。
「はい、やります。スピードでは負けませんから、大丈夫です」
 アカツキは自分自身に言い聞かせている様だった。

「それでは、ソード四段格、ついさっき四段格になったので、今後はそう呼ばせて貰う。もう一度改めて言う。
ソード四段格とアカツキ五段。前へ」
 今度はハヤブサが審判を務める。アハーラの間の緊張感は一段と高まった。

「互いに礼。始め!!」
 ハヤブサはアカツキの健闘を祈りながら、試合開始を宣言したのである」
「タッ!! ハッ!! ハリャッ!!」
 アカツキのスピードは速い。しかも的確にパンチを入れて行く。ところがソードは全く平然としていた。

「痛くも痒くもない! もっと本気で打て!!」
 ソードは実際にはそうは言っていないのだが、そんな印象を彼の目から読み取れた。暫くして、
「ウリャーーーッ!!」
 ソードは凄まじいスピードとパワー溢れるローキックを繰り出した。
「バシィッ!!」
「ウアッ!!」
 アカツキの体は宙に舞って、一回転半ほど回って、床に落ちたのである。

          前 へ     次 へ        目 次 へ        ホーム へ