夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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 ソードは北本部教会の地下に戻った。それまで不満を言っていた彼の付き人を始めとするSH教の、特に
彼を信奉する者達は、今は一人も不満を漏らす者はいない。
 恐るべき秘密、知った事を後悔するであろう秘密がある事を、知ってしまった為である。しかも、もう後戻り
は出来ない。ソードからの呼び出しが何時あるのか、その日が一生来ない方が良いとさえ思う者も少なくな
かった。

『しかし、本当に俺は金森田より強くなったのか?』
 何時もの様に、肉体のパーツ交換をしながら、ソードは考え続ける。
『アハーラの連中を疑う訳ではないが、彼等は例えば泥酔していたとは言え、三人の荒くれた一流の格闘家
を一人であっと言う間に叩きのめす事など出来るのか? 
 金森田にはその様な武勇伝がある。多少の誇張はあるにせよ、あの男の身体つきを見ると、あながち嘘
には思えない。駄目だ、まだ自信が無い……』
 ライジンを倒した時にはかなりの自信を持っていたソードだったが、少しずつ自信を失い、今では殆ど自信
は消え失せていた。

『百パーセントで無ければならない。多分大丈夫位の自信はある。しかし万に一つも取り逃がしたりしてはア
ウトだ! その為にはもっともっと強くなければ。一対一ではなく一対三で勝てるかどうか。
 うーむ、しかしその様なチャンスはそうそうある筈も無い。待てよ、三人相手にするということは一人を倒す
時間が問題だ。相手は一流の格闘家。一人一分では遅い!
 一人十秒未満! いわゆる、秒殺ってやつだ。しかもルール無用の喧嘩ファイトで無ければ駄目だ。だけど
そんな場所があるか? 少なくとも日本では無いだろう。あああ、駄目だ、外国に行っている暇なぞ無い!』
 ソードは諦めかけたが、念の為に、研究員の明日葉唯心に聞いてみることにした。彼はソードに帰依してい
る筈であり、如何なる相談にも彼の考える方向で乗ってくれる筈である。幸いにも今はたった一人で作業をし
ていた。

「ところで唯心君、私は金森田代表と戦って勝てると思うか? 勿論素手での話だけどね」
 ソードはそのままズバリ聞いてみた。
「金森田代表と素手で戦うのですか?」
 唯心はソードの意図が分からずに聞き返した。

「ああ、勿論、万が一の時の為の用心なんだけどね。五分五分位かな?」
「ええと率直に申し上げますと、四分六位でソード先生の方が強いと思います。ソード先生は今や世界最強に
限りなく近いと思いますからね。金森田代表も人間離れした強さを持っておられると思いますが、先生には恐
らく勝てないでしょう」
 唯心は体のパーツの交換をしながら、正直に言った。

「なるほど。しかし四分六なのか? もっと差があると思っていたけどね」
「もっと圧倒的に強くなりたいのですか?」
「ああ、出来れば、彼を一瞬で仕留めたいのだけどね。そんな事が出来るかな?」
「うーん、金森田代表が油断してくれれば今のままでも十分に可能なのですが、用心深い方ですからねえ。ボ
ディの強化の方はバッチリでしたでしょう?」
 唯心は少し話を逸らした。ソードの要求がかなり難しいと感じたようである。

「ああ、その点は申し分ない。そうか、金森田代表を油断させるしかないか……」
 ソードの気持はかなり暗くなったが、しかし方法が無い訳でもない。兎に角自分が十分強いと聞いてそれな
りに安心した。

「ところで、強化は更に進めるのかな?」
 ソードは現在でも十分な強さだと思って居たが、もっと強くなれればそれに越した事は無いと思った。
「はい、更に三十パーセント位の強度とパワーが獲得出来ます。ただその位が限度でしょう。より強くなろうと
すれば、体形を大きくしませんと無理です」
「うん分かった。今交換しているのがそれなのか?」
「いいえ、まだもう少し時間が掛ります。恐らく年内には何とかなると思いますが」
 唯心はそれも正直に言った。

「うん、分かった。それはそうと『神のマシン』の方はどうなった? かなり製作が進んだと思うが……」
 ソードにとって、もう一つの気掛かりがそれである。
「残念ですがまだ十五パーセント程度です。食機能無しにしても、性機能を完全に近いものにするのは、実に
大変でして、大きな声では言えませんが、かつての様に何十人何百人もの生体実験が出来れば速いのです
が、流石に今はそれは出来ません。
 全力を挙げてはいますが完成は早くても来年の春頃かと思います。お急ぎでしょうか? どうしてもとあれ
ば、心を悪魔に売ってでも早目に完成いたしますが……」
 唯心は暗に生体実験を仄めかした。

「はははは、それには及ばない。じっくり作ってくれたまえ。それじゃあ、少し休ませて貰うよ」
 ソードは本当は急がせたかったのだが、それで人の命が失われるのであれば、何にもならないと思った。
『そんな事をしたら、あの金森田と同じになってしまう。あの糞外道と同じでは林果に会わせる顔が無いじゃな
いか!』
 ほんの少しでも悪魔的な感覚を持った自分を恥じて、一種の諦め気分で眠りについた。

 数日後、ソードは怪我をしたライジン達との代りに、カスミとアハーラ拳法東京支部の応接室で話し合ってい
た。アハーラ側はカスミの他に小姫、事務の石川洋之助も一緒だった。
 ソードは相変わらず付き人五人と一緒である。アハーラ側とはテーブルを挟んでソードの右に和寿、左に宗
徳が座っていた。メグミ、アザミと栄太郎は立って不審者の出入りに神経を尖らせていた。

 ソードの持つ怖い秘密は秘密として、やはり命を懸けても守るべき男だと認めていたのである。何しろアス
リートとしてばかりか、格闘家としても世界一に限りなく近い男である。
『ソード先生は国の、いいえ、人類全体の宝物だわ。この命に代えてもお守りしなければ!!』
 アザミはそう感じて居たが、他の付き人達にとっても思いは同じだったのである。

「どうしても駄目でしょうか?」
 カスミは失望して言った。
「はい。何しろ私は現在急激に信徒数を増やしているSH教の言わば副代表です。金森田代表も忙しく全世
界を飛び回っておられます。
 私も実に多忙でして、まあ、せいぜい、月に一度位しか来れません。もし当座の指導者が必要ならば、後ろ
に立っております、助乃川栄太郎君が良かろうと思います。彼は強いですよ」
 ソードがそう言うと、
「そ、そ、そんなに強くはありませんから。ソード先生はその、じょ、冗談を言っておられる。あははは……」
 栄太郎は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。元々彼は格闘技には相当の自信があった。アハーラ拳法のラ
イジンと戦っても互角以上に渡りあえると自負していたのである。
 しかしソードのアハーラ三人衆との戦いを見て、肝を潰した。
『走っても泳いでも、スケートでもソード先生に遠く及ばないばかりか、格闘技でも歯が立ちそうに無い!!』
 そういう思いが強く、、ソードに強い等と言われては、恐れ入るばかりだったのだ。

「いやいや、彼は本当に強いですよ。まあ、失礼かも知れませんが、ここのライジンさんといい勝負だと私は
思っています。
 どうだろう、助乃川君、ライジンさん達が退院して来るまで、仮の指導者としてやってみてくれないか? 東京
支部のね」
 ソードは何か意味深な言い方をした。

「東京支部のですか?」
 カスミが聞き返した。
「はい。どうも、気が変り易くてあれなんですが、私は近い内にマッサーズシティに行こうと思うのですよ。向こ
うに本部があるのでしたね?」
 ソードは急に方針を変えた。その最大の理由は、金森田が年内はマッサーズシティに滞在するらしいという
極秘情報があった事を思い出したからである。

『正確に言えば、マッサーズシティの隣町のベガシティだ。不思議な気がするがマッサーズシティは大都市で
はあるが、お堅い学園都市でもあるよな。
 その隣に、世界一とも言われる歓楽街、ベガシティがあるのだから、アメリカという国も面白いと言えば面白
い国だな。
 金森田は昼は真面目にマッサーズシティで講演活動に余念が無いが、夜はベガシティで遊びまくるらしい。
あの男を仕留める為には、偶然を装って、何処かで接点を持つしかない。
 日本にいる限り、仕留める事は不可能だ。何しろ本人が日本に帰って来ないのだからな。あの男、俺の殺
気に感付いているのか? 兎に角最近は直接出会った事が無い。やはり行くしかないな!』
 ソードはついに対決の為の直接行動を起す事を、その場で決心したのである。

「ええっ! 本部に行って頂けるのですか?」
 喜んだのは小姫だった。
「はい。その、ちょっとお恥ずかしい話なのですが、少しは遊ぼうと思いましてね。ベガシティでね」
 ソードは嘘を言った。少なくとも女遊びは出来ない体なのだ。ギャンブルにも殆ど興味は無い。しかし金森
田の命を狙うとは流石に言えない。

「ええっ、あ、遊ぶのですか?」
 カスミが驚いて言った。その言葉には、
『自分というものがあるのに、何故娼婦なんかと遊ぶの! 遊ぶんだったら私と遊んでも良いのに!』
 そんな思いが隠されていた。

「はははは、私も少しは遊びませんと、人間として不完全なのではないかと思いましてね」
 ソードはそう言ったが、納得しない者もあった。
「先生は女色断ちをしたのではありませんか? あれは嘘だったのですか?」
 メグミが非難めいた言い方をした。勿論、
『自分を差し置いて何故!!』
 という思いがあった。

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