夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「あのう、その前にちょっと聞いても宜しいでしょうか?」
黄味麻呂ユウカリは恐る恐る聞いた。
「はい、何ですか。どうぞ何でも聞いて下さい」
ソードは悠然と構える。
「そ、そのお顔は、やっぱり作り物なんですか? 身体もそうだとは思いますが……」
「はい、作り物です。自分では気に入っているんですが。ただ念の為に言っておきます。幾ら作り物だと言っ
ても、簡単にポンッと外れる様な物ではありません。
身体の方も同様なのですが、一部神経と繋がっていますので、付け替えるのには手術が必要です。時間も
数時間は掛ります。普通の手術とは違って、特殊な薬液を使って、パーツを外します。腕でも足でもね。見学
したければあとで見れば宜しい。慣れないと相当に気持が悪いですがね」
ソードはあっさりと言ったが、数人の者は少し吐き気をもよおした。各研究室で行われている不気味な実験
を思い出したのだろう。
「いいえ、け、結構です。もう一つあるのですが……」
「はい、どうぞ」
「今のお顔は、かつてのお顔と似ていますか? それとも似ていませんか?」
ユウカリは気持ちを落ち着ける為の時間が欲しかった。自分自身の為以上に皆の為であった。
「余り似ていないと思います。自分としては大分ハンサムになったと感じています。ただ前の顔の方が良かった
と言う人もいるようですが」
ソードは正直に言った。しかし急に大声で叫んだ者があった。
「ああ、思い出した! あん時のくそ野郎だ! あ、す、す、済みません。友達のキラちゃんを泣かせた、醜男、
い、い、い、いいえ、普通の男です」
菱目川吉野はすっかり思い出した様である。しかしつい何時もの癖で、感じたままに言ってしまった。
「ソード先生に向かって、醜男とは何だ!! 謝れ!!」
激しい口調で怒鳴ったのは若川原和寿だった。ここまで過激な言い方をする男ではなかったのだが、やは
り異常な状況の為に精神状態が不安定になっていたのだろう。
「あああ、良いのですよ、和寿君。菱目川さんはちゃんと訂正しましたから」
ソードは自分の顔について、やっと真実が分かった気がした。
『カスミさんとかは良い顔だと言ったけど、必ずしも皆がそう思う訳じゃない。色々に見える顔だというのが正
解なのだろう。
美人だと言われるアイドルタレントの中には、俺にはちっともそう思えない場合があるのと同じ事かも知れ
ない。
勿論どう思おうと、もはや自分の林谷昇時代の顔は失われてしまったのだし、今更顔で悩む事は無いな。
見る人によって良くも悪くも見える。そういう顔だったのだ!』
ソードはカスミにべた誉めされ、その時には気持が晴れた気がしたのだったが、しかし何かすっきりしない
後味の悪さを感じ続けてもいた。それが、ここに来て漸(ようや)く一つの決着を見た気分になったのである。
「さて、そろそろ宜しいですか? ……じゃあ、皆さんにして貰う仕事を言いましょう。私の手足となって働いて
貰います。私の目的の為にね」
「目的というのは何でしょうか?」
大橋メグミがやはり恐る恐る言ったが、ひょっとするとアレかも知れないと想像が付き始めた者も居たよう
である。
「気が付いた人もおられるかも知れません。私は金森田代表を殺害する積りなのです」
「オオオオーーーーッ!!」
一種のどよめきが起った。今度は悲痛さは無かった。ユウカリの時間稼ぎのお陰で、大分皆落ち着いて来
た様である。
「正義の為に、金森田代表を殺すのですか?」
大山田宗徳が今度は静かに言った。
「いいえ、結果的にはそうなるかも知れませんが、私の愛する者達を守る為です。ここからは彼を呼び捨てに
します。金森田は私を最初から殺す積りでした。最初は私は殺されても良いと思っていました。
私の愛する者達が生きていられるのならば、と思ったのです。しかし段々そうは思えなくなったのです。彼は
目的さえ達成出来れば、うかうかと真相を少しでも知る者を生かしておく様な男ではありません。
私の元の家族や私の愛する女性を生かして置いたのは、私の造反を防ぐ為以外には考えられません。彼
が私と摩り替わって、神のマシンに乗り込んだならば、放置しておいた人質の命を奪う可能性は極めて高い。
そこまでの用心深さがあったから今日まで彼は生き延びて来られたのです。実際彼は私の彼に対する殺意
を既に察知している様に思えます。
ここ数ヶ月来、私は彼と一度も直接顔を合わせていません。全て電話でした。彼は今アメリカのマッサーズシ
ティにいます。但し夜はベガシティで遊んでいるようです」
ソードは徐々に自分の意向を詳しく話し始めた。
「遊んでいるんですか? 金森田代表がですか?」
栄太郎が呆れ気味に言った。
「はい、信じたくないかも知れませんが、彼は夜毎淫乱パーティを開いて、酒池肉林に浸っているという情報が
あります。SH教、マッサーズ支部から連絡がありました。信頼度の高い情報です」
「酒、酒池肉林、ま、まさか、宗教者にあるまじき行為だ! 最低の所業だ!」
和寿が罵った。
「はははは、驚くには当りません。彼は元々そういう人物でしたから。私は近々向こうへ行く積りですが、皆さ
んにも同行して貰いたいのです。
悪いのですが拒否は出来ません。第一もし私が死ねば、皆さんは彼に殺されます。皆さんは事情を知り過
ぎましたから、彼が皆さんを生かしておくことは有り得ません。つまり金森田を殺す事は皆さん自身の命を守
る事にもなるのです。
それでも拒否するのだったら、仕方がありません。事が終るまで、ここの特別室に幽閉させて貰います。事
が終った後で処分は決定しますが、国外追放位にはなります。それでも良かったら拒否して下さい。
さてそろそろ、夜も遅くなりました。ここには宿泊施設も御座いますので、ゆっくり休んで下さい。明日の朝、
もう今日になってしまいましたが、朝食の後で最終的な決を取ります。それまでの間じっくりお考え下さい。マッ
サーズシティに行ってからは、金森田と戦闘状態になるかも知れません。命の危険があります。
そこのところを良くお考えになって結論を出して下さい。それでは最後の質問を受け付けます。一つだけで
すが何かありますか?」
ソードはみんなの疲労を考えて、質問を一つ受け付けて、それで終わる事にした。
「あ、あのう、ソード先生の世界記録は、その、『神のマシン』とかに乗り込めば、誰にでも出せるのですか?
その、私の気持ちはもう決っているので、ちょっと脇道にそれる質問みたいでアレなんですけど……」
白金アザミがやっとの思いで質問した。信じられない事ばかりで精神的に参っていたのだが、漸く気持ちが
落ち着いて来た様である。
「うーん、それは難しい質問ですね。比較したいのですが、サイボーグは現在世界で私が唯一人なので、他
の人にもやれるのかやれないのかは分かりません。
まあ、私に出来たのですから、他の人にも多分出来るのだろうと思います。断定は出来ませんが、何時か
サイボーグ人間が沢山出て来る時代になったら、自然に分かるようになると思います」
ソードは恐らく誰にでも出来るだろうというニュアンスで言った。
「それは違います。ソード先生はご自分の凄さをご存じない」
割合大きな声ではっきりと否定したのは、手に沢山のキーを持って部屋に入って来た、女性研究員の瀬
知恵だった。
「ああ、ビックリしました。違うんですか?」
ソードは如何にも驚いた様子で言った。
「はい。私共は、それまでの知識を総合して判断し、世界記録に迫る記録を出すだろうと予想していました。
ところが先生は大幅な記録の更新を成し遂げてしまったのです。
私共研究員は大いに驚き、そして一つの結論に達しました。ソード先生は正に神であると。先生の出された
記録は、人間ではありえない記録だったのです。例えサイボーグであったとしてもです。
それ以来私共は神のマシンに乗り込むのはソード先生以外には有り得ないと考えて来ました。ただ、研究
員の中には金森田代表に帰依した者もおりました。
しかしご安心下さい。今現在、ソード先生派が全権を掌握し、この地下研究所は完全に、ソード先生のもの
になりました」
瀬知恵の発言はソードにとっては爆弾発言だった。
「えええっ! じゃあ、金森田派は?」
ソードはかなり険しい顔で言った。
「はい、現在全員幽閉しております。先生がお命じになれば、殺害しても宜しいのですが……」
瀬知恵も険しい表情になった。喜んでくれると思ったソードの表情が険しかったからである。
「ううむ、早まりましたね。勝手な行動を取らない様に釘を刺しておくべきでした」
「と、言いますと?」
「私の造反が金森田に知られてしまうからです。あの男の事だ、恐らく毎日定時に自分に連絡を入れる様に、
予め設定している筈です。
その定時の連絡が無い時は、何か重大な問題が生じた事を意味する訳です。あの男は恐ろしく用心深い。
例え女遊びに夢中になっていても、その点だけは抜かりが無いでしょう。そういう男だ、金森田は」
ソードは悔しそうな表情に変った。
「大変申し訳ないが、直ちに行動を起す必要があります。こういう時の為に飛行機を一機チャーターしている
のです。直ぐに旅立てる様にね。明日の朝まで待っていられません。私に付いて来る者は手を挙げて下さ
い。直ぐ出発しますから」
ソードは滅多に見せた事の無い厳しい表情で、付き人+αの面々の顔を見詰めていたのだった。