夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「私はどんなことがあっても、ソード先生について行きます。例えサイボーグであったとしてもです!」
 いの一番に若川原和寿が挙手をした。
「あたしも付いて行くよ。あたしゃ他に行く所が無いんでね」
 二番目は菱目川吉野。
「私は金森田代表、いや金森田玄斎という男が許せない。一緒に行きます。なんか道場の方がちょっと気に
なりますけど、この際仕方ないでしょう」
 助乃川栄太郎はアハーラ拳法の道場の事を気にしながらも三番目に承諾した。

「アハーラの方は暫くは、片岩倉小姫さんに代行して貰うように既に手配しています。彼女はそんじょそこらの
男よりよっぽど強いですから、当座の所なら大丈夫ですよ。それと私達がいなくなっても大丈夫な様に、既に
善後策は講じておりますから安心して下さい」
 ソードは既に各方面に手を回している事を強調した。皆を安心させる為である。

「こうなったら一蓮托生、アタシも行くわよ!」
 蛮勇を奮う感じで、黄味麻呂ユウカリは四番目に言った。
「冷静に事を成す為に私の力も必要な時が来るでしょう。……私も参ります」
 慎重に決断を下したのは大山田宗徳だった。五番目である。

「済みません。私は行けません。ううううっ、サイボーグだなんて私の理解を超えています。付いて行けません」
 大橋メグミは拒否した。
「申し訳御座いません。メグミさんと同様に、これ以上は付いて行けません。もう、パニックです。判断不能です」
 白金アザミも拒否した。

「そうですか。では、気の毒ですが、瀬知恵さん、メグミとアザミに手錠を掛けなさい。この二人は裏切り者とみ
なします」
 ソードがそう言うと、瀬知恵は持っていた鍵の束をテーブルの上に置いて、素早く白衣のポケットから取り出
した、簡易タイプのプラスチック製の手錠をあっと言う間に掛けてしまった。

「そ、そこまでしなくても」
 同情の声が男性陣から上がった。
「申し訳ないのですが、情に溺れていては金森田に勝てません。瀬知恵さん、その二人は女性用の特別室に
入れて厳重に監視して下さい。如何なる理由があっても、私の許可無しに出してはいけません。連れて行き
なさい」
「はい、こちらへ来なさい。命令には従う事。従わなければ、命の保障は出来ませんからね」
 二人を連れて瀬知恵は相当に厳しい口調でアザミとメグミとを連れて行った。

「さっきまで仲間だったのに……」
 ユウカリが残念そうに言った。
「皆さんは金森田の怖さを知らない。私は骨身に染みています。これでも随分優しい扱いの積りです。さっき
も言いましたが鉄の規律があっても金森田に勝てるかどうか。
 念の為に言って置きます。一歩間違えば、皆殺しにされる。金森田という男は殺人を躊躇する様な男ではな
い。女子供であってもです。人殺しを楽しむ事さえ出来る男です」
 ソードは何としてでも金森田を仕留める為に、非情にしているのだという事を力説した。

「ソード先生、車の手配が出来ました。飛行機の方も準備万端だと連絡がありました。参りましょう」
 研究員の明日葉唯心が他の研究員を伴って迎えに来た。
「ああ、じゃあ、行きましょう」
 ソードに引き連れられる様にして、事実上の新しい付き人となった、背の大きい黄味麻呂ユウカリと負けん
気の強い菱目川吉野は何か張り切って付いて行った。

「でも、深夜に飛行機を飛ばして大丈夫なのですか? それに私はパスポートも持っていませんが」
 宗徳は当然の事を切り出した。
「勿論大丈夫です。日本国政府の承認を得ています。世界記録を沢山持ったお陰で、政府要人と随分親しく
なりましたので、もっともらしい理屈を言えば、大抵の許可は下りるんですよ。
 今回はマッサーズシティの病院にいる死に瀕している難病の人に、治療用の緊急物資を送る人道上の理由
が付いています。それでは許可しない訳にも行かないでしょう?」
 ソードはやや自慢げに言った。研究員達と一緒になって知恵を絞ったのである。随行している研究員達を誉
める意味もあった。

「あれ? 来た時と違うわよ!」
 ユウカリが小さく叫んだ。
「そ、そうだよ。何処へ行くんですか?」
 吉野も不思議に思って聞いた。

「はい、出口は実は沢山あるのです。きつい言い方のようですが、裏切り者にはその事実は教えません。ここ
の出口を完全に把握しているのは、私の他には、ほんの数名だけなんですよ。
 裏切り者達が本当に裏切って金森田に味方した場合の事も考えての事なんです。ちなみに、金森田でさえ
完全には知らない筈です。中は大幅に改造していますからね。しかも今も改造中なんですよ。
 真に私が信頼した者のみがそれを知る事が出来ます。私の付き人であり、私に帰依した筈でありながら、ア
ザミとメグミは私を裏切りました。これからも裏切り者は出るかも知れません。
 だから私は、本当に申し訳ないのだけれど、帰依したという言葉を完全に信じ切る訳には行かないのです。
私が信じ切れるその証(あかし)を見せて頂きたいのですよ。
 その証があって初めて私は皆さんを信じ切ります。厳し過ぎると思うかも知れませんが、そこまでしなければ
ならないほど、金森田という男が手強い相手だという事を認識して貰いたいのです」
 ソードはくどいほど丹念に言った。誰も言葉を返せなかった。暫し沈黙の行進が続いた。

「ガチャッ!」
 出口らしいドアの前に立つと、入って来た時と同様に唯心がケータイを操作した。少し間があってから、分厚
い鉄の扉が開いた。
「ああ、外だ。星が見える!」
 栄太郎はちょっと驚いて言った。まだまだ外には出ないと思ったのだろう。

「あのバスですから」
 唯心の指差した方向百メートルほど先に、室内灯の灯してあるバスが見える。少し広いアスファルト舗装の
してある円形の空き地の様な感じの場所に、ポツンとバスが一台だけエンジンを掛けて待っていた。

「ええっ、全員行くんですか?」
 和寿が驚きの声を上げた。大型バスの座席は既に半分位埋まっている。全員フォーマルっぽい私服であっ
たが、見るからに研究員風だった。

「はははは、詳しい事はバスの中でお話しましょう。小一時間位かかりますからね北岩空港までは。ああ、でも
眠くなるかも知れませんね。眠った方が良いかも知れないな。飛行機は半日掛りますからね。
 いや、実際にはもう少し掛る。着陸順番の関係もあって、暫く上空で待機する必要があるらしいですからね。
マッサーズシティの天候にもよるしね」
 ソードは何とも暢気な感じで言った。ソード自身が眠そうでもある。

「先生宜しく!」
 ソードがバスに乗り込むと、研究員達は次々に握手を求めて来た。
「宜しく頼みますよ」
 ソードは一声ずつ掛けながら握手をした。研究員は二十人ほども居た。大半は男性だったが女子も数名い
る。当然の様に瀬知恵もいた。何故か皆張り切っている。バスは間も無く静かに走り始めた。

「ふうむ、なんだか良く分からない世界ですね。マッサーズシティに行く事がそんなに嬉しいのでしょうか? 
ソード先生と一緒に行けることが嬉しいのかな?」
 宗徳は慎重に考えて言った。

「そりゃ嬉しいですよ。先生と行動を共に出来るなんて滅多にありゃしないんですからね。しかも海外旅行な
んですから」
 ソードの付き人と割合近くに座った、小柄な男がぺらぺらと喋った。

「口は災いの元ですわよ、拍子木(ひょうしぎ)さん」
 楽しそうにしながらも注意したのは瀬知恵とは別の女性研究員だった。
「拍子木?」
 ユウカリは聞き間違いかと思って口に出して言った。

「拍子木薫(ひょうしぎかおる)と申します。変った苗字なので、皆さんに直ぐ覚えて貰える。軽そうに見えるか
も知れませんが、根は良い奴なので宜しく」
 拍子木薫は自分を良い奴だと紹介した。

「自分で良い奴は無いでしょう、拍子木さん。ああっと、私は植田正美(うえだまさみ)宜しくね。皆さんはええ
と、和寿さん、栄太郎さん、宗徳さん、それとユウカリさんに吉野さんね」
 正美は付き人全員の名前を当ててみせた。

「ええっ、どうして知っているんですか?」
 驚いて栄太郎が言った。
「そりゃ皆さんがアメリカに行く手続きの代行をしたのは、この私なんですからね。知っていて当然ですわ」
 しゃあしゃあと正美は言った。

「そ、そうだったんですか。それはどうも有り難う御座います」
 ユウカリは一応礼を言ったが、何かピンと来なかった。
「しかし本人が何も知らないうちに手続きが完了しているというのは、気持の良い事ではありませんね」
 宗徳がやや不快そうに言った。

「でも仕方がありませんよ、急だったんだから。もっとも私らの早とちりのせいもあったんだから大きな事は言
えませんけどね」
 薫は相変わらずぺらぺらと喋った。

「はははは、申し訳ないが、私は眠くなりましたから、眠らせて貰いますよ」
 ソードは目がトロンとして如何にも眠そうだった。
「ああ、どうぞ、お眠り下さい。着きましたら起しますから」
 すかさず薫が言った。それを聞いて安心したのかソードは直ぐに寝入ってしまった。

「へ、変な事を聞きますが、サイボーグでも眠るんですか?」
 吉野は興味深げに聞いた。
「はい。勿論です。ソード先生は本来お優しい人なのに、今回は大変厳しい態度を取らざるを得ませんでした。
どれだけ辛く苦しい事か、胸の内お察し申し上げます。それで疲れ切ったのに違いありませんわ、ううううっ!」
 しっかり者の瀬知恵が意外にも泣き出したのだった。

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