夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「わ、分かりました。それでソード様のお役に立てるのならば、この命に代えても必ず使命を果たしてみせま
しょう!!」
「有難う。勿論むざむざ死なせはしません……」
 ソードがそこまで言った時、
「シートベルトをして下さい。間も無く目的地に到着いたします」
 シートベルト着用のアナウンスがあったので、全員が着席してベルトを締めた。

「でも妙なアナウンスね。マッサーズシティ空港じゃなかった? 目的地に到着って言ったわよね?」
 ソードの席の近くに吉野と並んで座ったユウカリは首を傾げながら言った。
「そう言えば変ね。飛行機は段々下に降りているけど、マッサーズシティは過ぎた気がするわよ」
 窓際の席に座った吉野は夜の街並みの明かりが段々過ぎて行くのを見ていた。

「はははは、隠していて申し訳ない。言い難いのだけれど、万一裏切り者が行き先を金森田に連絡した場合
の事を考えて、正確な場所は言わなかったのですよ。
 行き先はマッサーズ空軍基地の中なんです。その事は研究員達でさえ誰も知らない。知っているのはジェッ
ト機の乗員だけなんですよ。まあ、地上のこの飛行機の発着に関わる関係者は勿論知っていますけどね。
 私達はまだ日本に居る事になっているのです。通常の空港に着陸したら、後が困りますから。日本から妙な
飛行機が飛んで来たってね。この点はアメリカ政府も承知しています」
 ソードは最終的に残った付き人達と信頼関係にひびが入ることを恐れながらも、今後も秘密主義を押し通す
事を暗示した。

「承知しました。もう何があっても驚きません。ソード様を全面的に信頼しておりますわ、うふふふふ」
 ユウカリは嬉しそうに笑って言った。
「あたしも全然平気です。今直ぐここで裸踊りをやれって言ったら、踊っちゃいますから!」
 吉野は少々脱線して了承した。
「私は端っから驚いちゃいませんよ。もう慣れっこですよ、はははは」
 ソードの隣に座っていた栄太郎は余裕で笑ってみせた。

「いや、皆さん頼もしい限りですね。これで私も安心して、大仕事が出来ます。そうそう、ついでだから言って
おきますが、仮に彼等が、金森田の側近達が逃げ出したとしても、追う必要はありません。
 目指すはただ一つ金森田の首だけです。何と無く赤穂浪士の討ち入りみたいな感じかな。それとも本能寺
に攻め入って信長を倒した明智光秀のような感じかな?」
 ソードは歴史上の事件とダブらせて言った。

「明智光秀は無いでしょう。どちらかと言えば吉良の首を取りに言った赤穂浪士の様な感じでしょうよ。しかし
吉良上野介(きたこうずけのすけ)はそれ程の悪党ではなかったと聞きますけどね」
 男同士の話はしかし女性陣には退屈なものだった。

「そんな事より、ああ、段々地上が近づいて来るわよ。ええと今現地時間で午前四時過ぎたところね。空軍基
地だと二十四時間眠らないのかしら?」
 ユウカリはそれと無く話題を変えた。歴史上の話は苦手な様である。

「周辺は砂漠地帯だし、マッサーズシティやベガシティからは二百キロも離れている。日本だと深夜の飛行訓
練なんかが問題になるけど、その点は殆ど問題ない。つまり眠らない基地なのです」
 ソードは勉強して来た知識を披露した。

「へえ、じゃあ、ベガシティとかに軍人達が遊びに行くのかな?」
 吉野は興味深々で聞いた。
「まあ、多分休暇の時とかには大勢行くんじゃないのかな? ただ私達が行く所は、会員制で軍人が入会する
事が厳重に禁止されている裏世界の売春宿だからね。
 入り口に怖いお兄さんが二、三人立って見張っているらしいよ。フリーパスで入れるのは、女子供だけらしい。
男は会員証の提示を求められるそうですよ。無ければ直ぐに追っ払われる。無理に入ろうとすれば、ズドンッ
と一発頭に鉛の弾を打ち込まれるそうです」
 ソードは怖い話を事も無げに言った。

「ええっ!! で、でもどうやって会員になれるんですか?」
 ソードの話にぎょっとしたが、栄太郎は気を取り直して詳しく聞いた。
「はい、それが簡単だったら、私達も会員に成り済まして中に入り込めるのですが、そう簡単ではありません。
先ず一般の売春宿で長期間遊びまくります。
 週に一回位ずつで三ヶ月掛るらしいですよ。その遊びっぷりが良い者に向こうから声を掛けてくるという事ら
しいです」
「遊びっぷりが良いってどういう事かしら?」
 ユウカリも興味を持って聞いて来た。

「基準がハッキリしている訳ではありませんが、一晩で十万ドル以上、三月、十二、三週で百五十万ドル以上
使う事が条件らしいです。情報によれば金森田は三月で三百万ドル以上使ったようです。
 しかも貸切に使った金額は一日に百万ドルと聞いています。まあ、呆れ果てた行状としか言い様がありませ
ん。少なくともSH教の代表者としては相応しくない事この上ない人物です。ああ、そろそろ着陸ですね」
 ジャンボジェット機は外が晴天の事もあってか、実にスムースに殆ど揺れる事も無く無事に着陸した。午前
四時二十分の事だった。時差の関係で日本を発った日と同じ日のほんの二十分後ということになった。

 いわゆるターミナルの様なものは基地には当然無い。階段車が設置されて、階段を降りる事になるのだが、
外の寒さに震え上がった。マッサーズシティから二百キロ南に基地は位置しているのだが、ニューヨークよりも
北にあるのである。
 雪の少ない地方ではあるが冬はマイナス二十度になることも少なくないのだ。その日もマイナス十度だった。
日本の北国から来たのではあったが、来た時にはプラス八度の気温であった。

「うわーーーー寒い!! 風邪引いちゃうよ!!」
 大袈裟に騒ぎ立てたのは吉野だった。他の三人はアイススケート等をしている関係もあって、寒さには慣れ
ている。勿論ソードは別格だが、その点吉野はスポーツがさほど得意という訳でもないので、寒さが身に染みたのだろう。

「は、早く乗ろうよ!」
 吉野は出迎えの七人乗りのワゴン車に走って乗り込んだ。来た時には大型のバスだったが、ソードと付き
人の三人以外は飛行機の中で待機している事になっていた。
 ソード達が車に乗り込むと、ジャンボジェット旅客機は巨大な格納庫目指して地上を走って行った。外にあっ
たのでは目立つので、格納庫内に暫く滞在するのである。年内一杯およそ一週間の予定だった。
 秘密を保つ為にソード一行以外は、誰も飛行機から降りずに燃料の補給や食料の差し入れなどをして、一
週間を密かに過ごす予定なのである。

「ご苦労様です。ワゴン車一台で済むとは思いませんでしたが、目立たなくて良いかも知れませんわね」
 車を運転していたのは、SH教マッサーズ支部の今は支部長をしている平島綾香だった。彼女も熱烈なソー
ドファンだった。
「やああ、しかしこっちは寒いですね。日本で言えば北海道の内陸部の寒い地区みたいだ。雪も少ないしね。
でも夜道の運転は大変ですね。まあ安全運転で行って下さい、急ぐ事はありませんから」
 ソードは走り出した車の中で、綾香の労を労(ねぎら)う意味も兼ねて、寒さと安全運転を強調した。

「お心遣い有難う御座います。でももうこちらに来てから何年にもなりますから慣れました。ただ夜明けが遅い
のが玉に瑕ですわね。
 宗教者が愚痴を言ってはいけませんが、私は暗い夜は余り好きではありません。ああ、ちょっと、ゲートを
通り抜けますので、その前に一旦止ります」
 ゲートでは出入りは厳重にチェックされる。綾香は英語でやり取りして居たが、何人かの軍人が車に接近し
て来たのだった。

「何かトラブルでも?」
 ソードはそう言ったのだが、
「そのう、本当にソード・月岡なのか信用出来ないって言うんです。勿論極秘事項ですし、アメリカ政府から承
諾されていると言っているのに、言う事を聞きません。こ、困りました。ソード先生に車から降りろと言ってい
ます」
 綾香は相当に焦って言った。  

「分かりました。じゃあ、私だけ降りますから、心配要りませんから。皆さんは車の中にいて見ていて下さい」
 ソードは自信満々で言った。
「いや、し、しかし、先生に万一の事があっては、私が代りに行きましょう!」
 栄太郎はかなり慌てて言った。格闘技の心得があるとは言っても、相手は軍人が七、八人。相当ごつい連
中ばかりである。
 しかも更に軍人達は集まって来つつあった。あっと言う間に車は数十人の軍人に取り囲まれてしまったの
だった。

「はははは、私は鬼の様に強いですよ。ジャンボジェット機の中で長時間の手術をしたのはその為なのです。
大丈夫、軍人の十人やそこらどうという事はありませんから」
 ソードは余裕の笑顔で外に降りて行った。

「お前がソード・月岡か?」
 日本語の分かる日系人らしい男が側に寄って来てそう言った。
「はい。ただ、極秘の行動なので、他言無用に願います」
 ソードは笑顔を浮かべて言った。

「ソードは何をやらせても世界一だと聞いた。しかしお前が本当にソードかどうか疑う者もいる。本物かどうか
確かめたいと言っている。証拠を見せてくれ。走るか、飛ぶか、それとも……」
「今は格闘技に自信があります。この中で最強の男と勝負しましょう。はははは、三十秒以内に倒して見せま
すよ」
 男が言い終わらないうちに、ソードは余裕を見せて笑いながら挑戦したのだった。

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