夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

                              125


「ところで、お腹が空かないか? 朝食はまだだったよね? それにもうお昼近いしね」
 ソードは綾香が食べていなかった事に気が付いた。
「うーん、少し減ったけど、でも途中では抜け出せないんでしょう?」
「いや、何か目印になる物を置いて行けば、食事して来ても大丈夫。それに俺が見ているからさ。直ぐ隣が
回転すしバーになっているみたいだから、十分位で帰って来れるだろう?」
 ソードは英語が分からないので、余り長く席を外されてはちょっと困ると思ったが、十分やそこらなら大丈夫
だと思って言った。

「そ、そうねえ、じゃあ、お願いしようかしら。直ぐ帰って来ますから」
 綾香は小走りに出て行った。かなり空腹だったのだろう。
「ああ、慌てなくても良いから、充分に食べて来れば良い」
 ソードは綾香を見送ると、自動で出ている、綾香の台の上に、自分の台にした様に、チャッカーの上の辺り
を何度か指で擦ったのだった。
 すると綾香の台も大当たりが来なくても、次々にパチンコ玉がチャッカーに入って、賞球が面白い様に出て
来る。

「お待たせ、あら、随分出てるわね。もうパチンコ玉がストックの所から溢れそうだわ。ケースに取れば良い
のよね」
 十数分で戻って来た綾香は自分がいないうちにかなり当っている事に驚いた。

「へへへ、おまじないをして置いたからね。それにしても良く効くおまじないだ」
 ソードはちょっとふざけ加減に言った。
「おまじない? ひょっとしてパチンコ台の上から指で擦った事?」
「まあね。景品所のお姉さんがチラチラこっちを見ているよ。まあ、簡単に言うと不正行為をしているんだか
らね。ちょっと目には見えないけど、かなり強力な磁力シールを貼ったのさ。
 物凄く薄いから、透けて見えているし、遠目からじゃ分からないけど、目を近付けてみると、何か貼ってある
事に気が付くと思うよ」
 ソードが言うと、綾香はパチンコ台のガラス面に目を近付けてみた。

「ああ、本当だ。結構大きなシールが貼ってあるんだ。全然分からなかった」
「ふふふ、マジッシャンが使う類の物だからね。肉眼で簡単に見破れる様な代物じゃないのさ」
「でも不正行為なんかして大丈夫なの?」
 綾香は少し心配して言った。

「はははは、最終的には大丈夫な事になっている。これ位もしなければカモは寄って来ないと思うよ」
 ソードは楽しげに言った。その後も賞球は増え続け、更に大当りまで来て、出玉が急激に多くなった。
「ねえ、景品交換所の女性が係りの男の人と何かこっちを見ながら話をしているわよ。ほ、本当に大丈夫か
しら?」
 綾香は気が気ではなかった。実際、少ししてから係りの男性が二人に向かって歩いて来たのだった。

「ニホンノカタデスカ?」
 驚いた事にその係員、白人の中年男性は片言の日本語で話し掛けて来たのだった。
「はい、そうですが、何か?」
 ソードは係員ではなく、客の一人が来てくれると思っていたのだったが、それは当てが外れた様である。

「イジョウニ、タマガデテイマスネ。フセイノウタガイガ、アリマス。コチラニキテ、イタダケマセンカ?」
 丁寧な対応だった。
「ノーと言ったらどうする? 折角こんなに玉が出ているんだ、不正があると言うんだったら、ここで調べてくれ
ないか?」
 ソードは強気に言った。

「ハダカニナッテ、モラウノデスヨ。ツレノジョセイノカタモネ。ココデシテモイイノデスカ?」
 係員もなかなか強気である。
「分かった。じゃあ、直ぐそこで裸になる。カンキチ、お前も裸になれ。但し何も無かったら、その時は、覚悟し
て置けよ!」
 ソードはパチンコ台と景品所の間の少し広くなっている場所に出て、早速服を脱ぎ始めたのだった。綾香も
どんどん脱いで行く。ついに二人とも全裸になった。

「ワオーーーー!!」
 周囲が騒がしくなった。パチンコを打つ手を止めて、しきりに様子を見ているものもあったが、流石に個人
主義の国アメリカ、わざわざ立って見に来るものはいなかった。 

「さあ、調べて貰おうか。俺達の体も、服もね」
「そうよ、私の裸が見れて満足かしら?」
 二人とも強気そのものだった。もっとも綾香の方はソードの強気に合わせただけだった。

「アイム、ソーリー。モウ、ケッコウデス。オモイチガイヲシテイマシタ。ゴメンナサイ。フクヲキテクダサイ」
 係員は真っ青になって、謝罪した。ここまで簡単に裸になれるという事は、絶対の自信がある事を意味して
いる。

「服を着ても良いんですね。しかし、落とし前を付けて貰わないとねえ。ただと言う訳じゃないんだろうな!」
「そうよ、赤っ恥を掻かせて、済みませんで済むと思ってないでしょうね!」
 二人は本当は心の中では係員に謝罪していたが、態度はちょっとした悪党らしい言い方になった。

「アイム、ソーリー、コ、コレデ、オユルシクダサイ」
 係員は如何にも辛そうにしながらも、十ドルの商品券二枚を手渡したのである。どうやらトラブルの時はそ
れで片を付ける事になっているらしかった。二人分で僅か二千数百円である。
 公衆の面前で全裸にまでしたとすれば、日本の感覚では有り得ない位少ない金額だが、ここではそれが相
場なのだろう。

「チッ! 気分が悪いけど、思いっ切り勝たせて貰うよ!」
 ソードはそれ以上の言い掛りは控えた。その場に居座ってカモが引っ掛るのを待つ為である。
「あ〜あ。随分安く見られたものね、私も。仕方ないわね、ふんっ!」
 綾香もちょっとしたアバズレ女を演じたが、それもソードの態度に従っただけであった。周囲の注目もそこま
でで収まってしまった。

「でも凄い傷ね。ソー、いいえ、ローズマリー、ふう、その傷は如何にも修羅場を潜り抜けて来たって感じに見
えるわよ」
 綾香はうっかりソードの名を言いそうになったが、何とか飲み込んで誤魔化した。
「ああ、まあ、そうだな。でも、何と言うか、素晴しい裸身を見せて貰いましたよ。ちょっと目の毒でしたね。ふう、
気持ちを落ち着けないと……」
 ソードは綾香の裸身を誉めて、躊躇うことなく裸になった彼女の労を労(ねぎら)った。

「はははは、また大当りだ。へへへへ、もう十万発は稼いだな。ここはアメリカだから換金も景品交換所でやる
んだな。ええと、換金率は一発二セントか、ひえーーーっ、渋いね。
 たった二千ドルか。まあ、カンキチも同じ位だから、二人で四千ドル。端(はした)もあるから、まあほぼその位の儲けになるな。
 日本円だと四十万を超える事になるのか。まあ、一日の儲けとしては日本だったら相当多い方になるから、
良しとしておくか。ふふん、毎日来たら、月千二百万位にはなるな。へへへ、それじゃあ、おまじないは外す事
にしよう」
 ソードは独り言の様に呟きながらパチンコ台のガラス面に貼った磁力シールをさり気無く剥がした。自分の
台と綾香の台の分もである。

「へえー、月二人で千二百万円にもなるのね。えええっ! 何か、人生観変わりそう」
 綾香は半ば本気で言った。
「ちょっと、係りの人、重いから運んでくれよ」
 ソードは山の様なドル箱を係員に運んで貰った。換金するとほぼ予想通り、四千五百ドルになった。景品交
換所の女店員は目を白黒させて驚いていたし、他の客から羨望の眼差しで見られたが、
『この位、何時もの事さ!』
 といった風情で、ソードは当り前の様な顔をしていた。綾香も調子を合わせて平然としていたのだった。

「お腹が空いたろう。最上階のスカイレストランで食事していこうか。もう夜の十時をかなり回ったから眠いか
も知れないけどね」
「ソ、その、ローズマリーはお腹が空かないの?」
 パチンコ店を後にして歩きながら二人は親しげに話をした。綾香は元々ソードを崇拝していたし、ソードは
綾香の裸身に心惹かれていた。

『ああ、エッチしたい気分が高まって仕方が無いよ。でも不可能だしな……』
『あああ、ますますソード先生に惹かれて行く。もう恋をしている気がする。でも駄目なのよね……』
 二人とも似た様な感情を持ったまま、スカイレストランに行った。

「暗いね、ここは。まあその分外の景色が見えて良いんだろうけどね」
「うふふふ、あちこちで、皆さん、キスしてますわよ」
 綾香の言う通り、あちらこちらから、キスの音がしきりに聞こえて来る。もう午後十一時になっているので、
そういう目的の者達が来ている様だった。エッチし易い様に薄暗くもしているのである。
「私だけ食べるのは申し訳ないわね」
 綾香はちょっと辛そうに言った。辛いのは一人で食事をするからばかりではない。裸で抱き合っているカッ
プルさえあるのだ。当て付けられて仕方が無かった。

「はははは、ここを選んだのは大きなミスだったみたいですね」
 ソードはコップで水を飲むだけだったが、
『綾香さんに申し訳なかったな。自分も辛いしね』
 そんな風に感じて、
『明日からここは止めよう』
 と決めたのだった。

「いいえ、私は良かったですわ。恋する女が、ついに恋に狂う、その瞬間が理解出来ましたから」
 綾香はなかなか強気だった。周囲はキスどころか、情交をするカップルさえあって、声を押し殺してはいても
ソファの軋む音等があちこちから聞こえて来て、淫らに賑やかだった。

「ふう、はははは、もうここまで来ると可笑しい位ですね。セックスだらけの中で、セックスの有り得ない二人が
いるのですから。
 ……はーーーっ! しかし今日はカモが現れませんでしたね。さて明日はどうしましょうかね? またパチン
コじゃ芸が無い様な気がしますし、今度は見破られるかも知れませんからね」
 ソードは決して綾香に早く食べる様に催促しなかった。今日を無事にやり過ごせたお礼の気持ちもあったし、
淫らな環境は兎も角、二人だけの時間をなるべく長く持ちたかったこともあったのだ。いや、淫らな環境の中に
二人きりで居たかったのかも知れない。

          前 へ       次 へ        目 次 へ        ホーム へ