夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

                              126


「コン、コン!」
 4747号室に戻った綾香とソードは、ドアをノックした。綾香はお酒を飲んでいて、やや足取りが怪しかった。
お酒を飲む事を勧めたのはソードである。
「お酒を飲んだりしないと、ちょっと怪しまれるから、飲んで酔った方が良い」
 そう耳打ちしたのだった。ソードもお酒を一応は飲んだ。勿論ソードは酔う事はない。二人で大いに酔った振
りをして、陽気に部屋に戻ったのである。

「三月八日は何の日ですか?」
 中から女の声。
「はははは、ちょっと待ってくれ」
 ソードはケータイを取り出して計算を始めた。

「6561」
 ソードがケータイを見ながら数値を言うと、
「ガチャリッ!」
 ドアが開いた。

「どうぞ!」
 プラチナがドアを開けたのだった。
「あれ? お一人なんですか?」
 部屋に入るなり、綾香はしゃんとして言った。

「はい。彼は別室なんですよ。赤の他人なんですからね。一応別室の男性の部屋に遊びに行ったことになっ
ていますけど、情報収集の為だとか言って、女の部屋に行きました。勿論商売人のね。
 もう男の人ってどうしてそうなのかしらね。ああ、済みません。ソ、その、えーと、ローズマリーさんは別です
けど」
 プラチナは慌てて言い繕った。

「はははは、良いのですよ。ただ、今日は何も連絡は無かったですね。変り無しと言う事ですか?」
 ソードは笑いながら今日一日の成果について聞いてみた。
「はい、今の所は。カンキチさんの方も何も無かったのかしら?」
「ええ、パチンコで大儲けをしたこと位かしらね。ああ、係員にちょっと怪しまれましたけど、パチンコホールの
中で二人して全裸になって、身の潔白を主張したら、直ぐ疑いが晴れました」
 綾香はやはりかなり酔っていたのだろう、普通なら恥ずかしくてなかなか言えない事をあっけらかんと言っ
てしまった。

「ええっ、全裸になったんですか? 皆の前で?」
 プラチナは顔を赤らめながら聞いた。
「え、ええ、そ、その、そうです……」
 綾香はプラチナが恥ずかしそうにしているのを見て、急に自分も恥ずかしくなった様である。 

「さて、今日は進展無しという事が分かったのですから、もう眠りましょう。私はソファーに眠りますから、お二
人はベットでお休み下さい。いやあ、今日は精神的に本当に疲れました。
 処罰などしたくないのに、しなければならなかったし、パチンコホールの係員の目を欺いた事も、良心が
咎(とが)めましたしね。それじゃあ、お先にお休みなさい」
 ソードはあっと言う間に眠ってしまった。

「ローズマリーさんが可哀想だわ。本当に善良な人なのでしょうね。精神的に相当参っているのだと思います
わ。
 出来る事なら何とかお慰めしてあげたいのですけど、それも出来ませんし、本当にお気の毒です。う、ううう
うっ!」
 綾香は心底ソードを気の毒に思って泣いたのだった。もう傍目からも恋をしている事がありありと分かって
しまったのである。

「カンキチ、貴方、ローズマリーのことを……」
 プラチナは綾香の気持を察してやりたかった。しかし、ソードに惚れているのは綾香だけではない。
『私だって、ソード様の事を特別な感情で見ているのに……』
 そう思うとかなり複雑な気分だった。

 女二人は、互いに牽制し合いながらも、無難にツインベットで眠りについたのだった。綾香はソードの体に
毛布を掛け、プラチナはソードの頭の下に自分のベットの枕を置いたのだった。
 自分はタオルを巻いて作った即席枕で辛抱したのである。二人は競うようにして、ソードの役に立つことを、
些細な事であってもしたかったのである。

『出、出来たぞ! 今度こそ絶対だ! あれえ、どうしてだ! どうして白紙なんだ!』
 その夜、ソードは夢を見た。もう解放されて良い筈なのに、未だにテストの夢を見る。それに反して小姫の
夢は現在殆ど見なくなっていた。
 キャリアの差なのだろう。小姫に実際にやられたのは一度きりだったし、今はもう彼女より遥かに強いと実
感出来ているからのようである。

 しかしテストは違う。未だに克服出来ていないし、何年にも渡って植え付けられたコンプレックスだったのだ。
そうおいそれと解消する事は無さそうである。夢は直ぐ次の場面に変った。
『好きだ!!』
 そう叫んで全裸の女性を抱き締め、情交を始めた筈だった。しかし、
『あれ? おちんちんが無い! 俺のペニスは何処にある? お、俺は女だったのか!』
 ぞっとする瞬間だった。最近はこの種の夢を良く見る。最初は普通に衝動的にセックスを始めるのだ。しか
し直ぐ駄目になる。目の前の女は軽蔑の表情で自分を見るのだ。
 女は何時の間にか消え去り、愕然とうな垂れる自分がそこに取り残されているのである。ふと見ると、女は
別の男に抱かれているのだった。絶望の思いを、存分に感じた瞬間目が覚める。

『あああ、夢だった。夢で良かった。いや、夢と言うよりこれが自分の本当の姿なんだ。悲しい。余りにも悲し
過ぎるよ!』
 目覚めた瞬間は殆ど泣いている事も少なくなかった。ただ、今朝は一人ではなく、女が二人も同じ部屋にい
るのである。泣き顔を見せる訳には行かない。如何にも楽しげに起きてみせた。

「お早う!」
「お早う御座います!」
「あの、お早う御座います!」
 翌朝はソード、プラチナ、綾香の順で目覚めた。それぞれの思いはあったが、三人で一緒に朝食を取りにレ
ストランに向かった。一階のレストランでバイキング形式の朝食が食べられる。

「ローズマリーはダイエットなの?」
「ああ、この頃少し太って来たからね」
 プラチナは食べる事が苦痛なソードにアドリブで気の利いた事を言ったのである。

「でもお酒をたらふく飲んだら意味が無いわよ。今夜からはお酒も控えた方が良いわね」
 綾香も負けじとアドリブで応酬した。
「ああ、分かった、分かった。お酒も控える事にするよ」
 ソードもアドリブで答えた。特に意味は無いが、
『無言で女性二人が食べて、自分だけが食べないよりは、ずっと良い!』
 と、感じての事だった。

「じゃあ、ぼちぼち行きますよ。プラチナ、それとマイケル、留守を頼むよ。何かあったら、連絡してくれ。今日
は四階のスロットマシンの所に居るからね」
 朝食を取り終わり4747号室に戻った三人はそれぞれの仕事に取り掛かった。ソードと綾香は遊び人らし
くきらきら光る衣装に着替えて、出掛ける事になった。
 間も無く、マイケルが帰って来て、留守番及び連絡係は本来の二人体制に戻ったのである。マイケルは何
事も無かったかの様な顔をして、任務に復帰した。

「行ってらっしゃい。ええと、その、成果があると良いわね……」
 プラチナが情感を込めて言った。どうも綾香に嫉妬している様である。
「キョウハ、キットイイコトガアリマスヨ」
 マイケルはいたって暢気(のんき)に言った。一晩たっぷり女と遊んだからか、余裕が感じられた。

「じゃあ、お願いします」
 綾香は多少の優越感を感じている。今日もソードと一緒の仕事なのだからだろう。勿論直ぐ側に危険があ
る事は忘れていない。

「スロットマシンじゃ磁石は使えないわね?」
 エレベーターの中で綾香は今日はどうするのか、興味深々に聞いたのだった。
「今日はカンキチさんには見ているだけにして貰います。多分メダルがザクザク出て来るでしょうから、ケー
スに入れる役目をやって貰いましょう。それだけで良いですから」
 ソードはスロットマシンでは磁石が使えない事を、使っても意味が無い事を勿論知っている。

「へえーーーっ、アメリカ人はパチンコよりスロットマシンの方が好きなんだな。昨日のパチンコホールより、
ずっと人が多いぞ」
 二人がホールに入ると、何人もの客がヒソヒソ話を始めた。

「何て言っているんだ?」
 話がすっかり英語なので、ソードには理解出来なかった。
「昨日の私達のパチンコホールでのストリップが相当噂になっているみたい。パチンコで大勝ちした事は、付
け足しみたいね」
「へえーっ! 俺達のヌードが話題になっていたんだ。大勝ちした事より上って事は、それだけじゃ大して話
題にならなかったんだな。へへへへ、裸になって良かったよ」

 ソードは半ばふざけながら言った。内心では大いに気を良くしていた。
『これなら、カモが引っ掛る可能性大だな!』
 そう思って、今日も何か、特別なパフォーマンスをしようと考えていた。

「さて、スロットマシンは単純明快。コインを入れて、レバーを引いて、ボタンをプッシュするだけ。さあ、やって
みるか」
 昨日のパチンコと違って、ソードは特に何もしなかった。実際暫くは何も起らなかったのだ。異変が起き始
めたのは一時間ほどしてからだった。

「ほれ、当ったぞ777!!」
 それが大当りの始まりだった。
「また当った777だ!!」
 レバーを十回引くうちに必ず一回位は大当りが来るのである。メダルの数はどんどん増えて、メダルの一
杯になったプラスチックのケースが一つ二つと増えて行く。十分ほどで元が取れて、更に大当りは続く。

「おおお、三回連続で777が当ったぞ!!」
 ソードがそう叫んだ辺りで、やっぱり係員がやって来た。
「何を言っているんだ?」
 ソードは係員の言葉が分からなかった。

「直ぐ中止してこっちに来いと言っている。言う事を聞かなければ、警察を呼ぶと言っているわよ」
 綾香は青くなって言った。
「ここで調べろと言ってくれ」
 ソードはもう一度ストリップ作戦をやってみようと思って言った。
「ここでは調べない。別室で調べると言っているわよ。拒否すれば警察を呼ぶと言っているわ。これが最後通
告だと言っている!」
 綾香は険しい表情で言ったのだった。

          前 へ       次 へ        目 次 へ        ホーム へ