夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「分かった。しかし出したメダルを換金したいんだけどね。今の時点では俺は犯罪者じゃない。疑わしいとし
てもね。
 このメダルを換金して、俺はそれを持って行くけど良いかと言ってくれ。もし後で俺の不正がばれたら、そ
の時はそのお金を没収すれば良い。そう言って欲しいんだけど」
 ソードは俗人らしさを強調する意味を持たせる為にも、メダルの換金を強く要求したのだった。

「了解したと言っているわ。じゃあ、換金しましょうか?」
「ああ、そうしよう。メダル一枚が二十五セント。ざっと五千枚以上あるから、千二百五十ドル超ってとこかな。
日本円にして十五万位の儲けになったみたいだ。
 昨日より随分時間が短かったから、割りに良いギャンブルだね。景品交換所に運んでっと、じゃあ、これお
願いします」
 ソードと綾香は五千枚入りのドル箱を二人で力を合わせて景品交換所に持って行った。勿論商品等ではな
く換金したのである。

「千三百ドルを超えたぞ! やったね。ああ、じゃあ、行きましょうか。カンキチも一緒に来てくれ。通訳無しで
はさっぱり分からないかも知れないからね」
 ソードはなるべく早く終らせたかった。目的のカモが引っ掛らなくては何にもならないからである。

「プリーズ、カムイン!!」
 二人はホールを出て少し歩いた所で、小さな部屋に通された。
「あんた良い腕してるね」
 中に入ると、待っていたのは、数人のボディガードらしい黒ずくめのスーツを着た男達に守られている、中年
の一癖ありそうな男だった。立派なイスにどっかりと腰を掛けている。日系人の様である。

「良い腕? まあ、ちょっとはね」
 ソードは待っていた男の人相が悪いことに驚いたが、
『うーん、カモじゃ無さそうだな』
 と、ちょっとがっかりした。

「どうだい、ものは相談だが、『荒し』をやってくれないか? それともここを『荒し』に来たのかね?」
 男は静かに言った。
「荒し? 俺は遊び好きな男でね、人に指図される事が嫌いなのさ。ここにはひと稼ぎして遊びの為の軍資金
を作りに来ただけで、荒しじゃないし、そんな事には興味は無い」
 一応もっともらしい事を言った。

「私は気が短いんだ。断ったりすると、あんたの連れが、地獄を見る事になるがそれでも良いか?」
 男は相変わらず静かに言った。
「それは困る。……話を聞こうか」
 ソードは一応話しに乗る事にした。

「へへへへ、結構物分りが良いじゃねえか。なあに、簡単な事さ。うちと目と鼻の先に、似た様な商売をしてい
るビルがある。筋向いにあって、うちより一回り小さい三十階建てのビルだから、直ぐ分かる。
 そこが出来るまでは、うちは何時もそうだったんだが、特に年末の稼ぎ時には大入り満員だった。だがそこ
が出来てからというもの、あんたも見たろう? がら空きだ。以前はホールから人が溢れるほどだったんだぜ」
「しかし、ヤクザと言うか、その連中に頼まなかったのか?」
「はははは、それが出来りゃ苦労はしねえよ。ここいら一帯のボスに向こうも資金を提供しているから、ボスが
言うのには、『喧嘩せずに仲良くやれ』だってよ。
 まあ、ボスには逆らえないからこうやって手をこまねいているんだが、あんたみたいな風来坊が勝手にやる
んだったら、別にどうという事は無い。
 前金で十万ドル出す。思いっきりやって、やばくなったら逃げれば良い。あんたが仕事をしっかりやったと判
断すればこちらのお嬢さんには、指一本触れずに、お返ししてやるよ。その条件でどうだ?」
 男は綾香を人質に取る積りの様である。

「ふうん、十万ドルねえ。キャッシュだろうね?」
「ああ、勿論だ」
「しかしここいら一帯のボスは何を考えているんだろうねえ、下手をすると共倒れになるんじゃないのか?」
 ソードは一種の鎌を掛けてみた。

「そうは言っても逆らえないのさ、誰もねえ。私も命が惜しいからね」
「へえー、俺だったら一発がつんと言ってやるんだけどね。本当に共倒れになるかも知れないから、言っても
良いんじゃないのか? 何だったら俺が言ってやろうか?」
「ば、馬鹿な事を。泥酔した三人の凄腕の格闘家をあっと言う間に叩きのめしたお方だぞ。あ、いや、何でも
ない。くだらない事を言ってないで、その、やるんだな?」
 男はつい余計な事を言ってしまったようだったが、
『泥酔した三人の格闘家をあっと言う間に叩きのめしたお方? そうか、ここいら一帯のボスと言うのは、金
森田に間違いない!』
 ソードに確信を与えたのだった。   

「ちょっと、気が変った。俺をそのボスに会わせてくれないか? 華奢に見えるかも知れないが、俺は強いぞ」
 ソードは何とか直接金森田に会いたいと思った。
『もし直接会えれば、その時は彼を仕留めてしまおう。後は何とかなる!』
 そう判断していたのだ。

「はははは、冗談も大概にしろ。何処の馬の骨とも分からない奴を会わせたら、私の首が飛ぶ。どうも、余計
な事を言うお人ですね。ひょっとすると当局からの回し者ですか? おい、こいつを捕まえろ。抵抗したら殺し
ても構わん。やれ!!」
 男は日本語でも英語でも言って彼のボディガードに命令した。どうやら、日系人が大半で日本語しか分から
ない者や、英語しか分からない者がいるらしい。

「ギャーーーッ!」
「ウアーーーッ!!」
 しかしソードを捕え様とした、彼の五、六人のボディガード達はあっと言う間に叩きのめされてしまった。ソー
ドと綾香を連れて来た係員は逃げ様としたのだが、ソードに捕まって、一発ボディに強烈なパンチを貰うと、
失神してしまったのだった。残ったのはオーナーらしい男一人だけである。

「うううう、な、何だお前は。た、ただの鼠じゃないな!」
 男は真っ青になって叫んだ。
「ボスと言うのは、金森田玄斎だろう?」
 ソードは勝負に出た。

「ど、どうしてそれを!」
 男は震えながら言った。
「俺は金森田を殺しに来た。あの男が死ねば、あんたにお咎めは無い。あんたの言う様にただの鼠じゃない。
俺のバックにはアメリカ政府や日本政府がついている。
 ここにも本当は俺の仲間がかなりの数入っている。狙うのは金森田の確保か殺害だ。協力して貰えれば、
あんたの命や、財産も保障する。ここの営業にも目を瞑るし、競争相手を潰す事に協力しても良い。それだ
けの条件でどうだ?」
 ソードは逆に条件を出した。

「む、無理だ。条件は有り難いが、何時もボスの方からの指示が一方的にあるだけなんだ。恐ろしくてとても
言えやしないよ」
 男は恐怖に引き攣った顔で言った。嘘では無さそうである。

「ちっ! 早まったか。じゃあ、カンキチ、マイケルとプラチナを呼び出してくれ。他の仲間に連絡して、ここを
始末するように言ってくれ。最終段階に入る事にする」
 ソードはいよいよ決戦の決意をした。オーナーらしい男が金森田と繋がりがあるとすれば、今日明日中に
も異変に気が付く筈である。

「……ということなので、宜しく頼む。もう猶予は出来なくなった」
 ソードはユウカリと栄太郎達にも連絡したのである。辛い決断だったが仕方が無かった。ユウカリには直ぐ
にも金森田が潜んでいると思われる、裏娼妓X号館に潜入する様に指令を出したのだった。それからある程
度時間を置いて、栄太郎と自分とが突入するのである。

「先生ここはお任せ下さい。ついさっきユウカリさんが仲間と一緒に例の場所に向かいました。車を待たせて
ありますから、マイケルやプラチナと一緒に行って下さい」
 四十九階の特別スイートルームで待機していた、仲間の研究員達はほぼ全員やって来て、気絶している連
中とオーナーらしい男に簡易手錠を掛けて、連行した。

 非合法な事を数多くやって来た彼等は全員警察のご厄介になるようである。ただ気絶している者は殆どが
重傷を負っていて、病院送りとなってしまった。ソードは手加減した積りだったが、余りにも破壊力が大きく、
ほぼ全員の骨が折られていたのである。

「ここまで本当にご苦労様。綾香さんには通常の仕事に復帰して貰います。SH教の仕事も大切ですからね。
お願いしますよ」
「は、はい。な、何だか、寂しいです。あ、あのう、ギュって抱き締めて貰えませんか?」
 綾香はユウカリからソードに抱き締めて貰った話を聞いていたのだった。

「はははは、わ、分かりました。じゃあ、お礼ということで……」
 ソードは苦笑しながらも、綾香を十秒間ほど抱き締めた。
「ああああ、これで報われます。ああああ、もっと長く、……済みません情に溺れてしまって。有難う御座いまし
た、ううううっ」
 綾香は感激に咽びながら、ソードを見送った。

「先生こちらです」
 プラチナの案内でソードはビルの裏手に止めてあった車に乗り込んだ。車は普通の乗用車だった。運転は
マイケルがする様である。助手席には既に栄太郎が極めて厳しい顔で座っていた。

「お久し振りです、ソード様。いよいよですね。覚悟は出来ております」
 栄太郎は真っ先に決意のほどを述べた。
「ああ、車のトランクに、防弾チョッキなどが入っている筈だから、直前に身に着けてから突入する。じゃあ、
行こうか。プラチナさんには万一の時の為の通訳や連絡係をやって貰う」
「はい、承知しています。当初の予定より二日ほど早いですが、兎に角頑張りましょう! マイケル、ゴーッ!」
 プラチナの気合と共に、車は最後の決戦の為に西へ向かって走って行った。

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