夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「えー、格闘技は今回は男子だけです。その代わりと言ってはあれですが当番組で行われる変則新体操は
女子のみです。
 新体操は女子のみの競技だと思い込んでいる人もいるかも知れませんが、実際には男子にもあるのです。
ただ何故かオリンピックでは女子しか採用されていません。
 男女平等を主張するのであるのならば、男子の新体操の種目もあって良さそうな気がするのですが、どん
なものでしょうか……」
 コンポン君は女子の変則新体操競技を前にして、一説ぶったのだった。

「ええっ! 男子の新体操ってあったんですか?」
 信じられないという顔で河本アナウンサーは言った。
「はい、私の入った高校では、ちゃんとありましたよ。詳しい事は余り覚えていないんですが、女子の優美な
新体操に対して、男子のそれはダイナミックでなかなか素晴しいものだったと記憶しています」
「へえーっ、一度見てみたいわね。……さて話は変りまして、ここからは女子の華麗な変則新体操、何かちょっ
とエッチな気もするのですが、コスチュームはビキニ水着着用が義務付けられています。
 しかも露出度は九十パーセント以上というとっても恥ずかしいルールです。もう、誰ですか、こんなルールを
作ったのは! えっ、局長さん?
 ああ、失礼致しました。す、素晴しいルールですわ。女性美を十分に表現出来る様に、という配慮なのです
わねきっと。私、感心致しましたわ!」
 河本はビキニ水着着用にクレームを付けようとしたのだったが、放送局の局長のアイデアと知って、即座に
クレームを引っ込めた。世渡り上手な女である。

「いや、優美な女性の舞。なかなか素晴しいのですが、予選の第一グループ終了の後の休憩時間に、男子の
格闘技の方のダイジェスト版をご覧頂きましょう。
 五分間に凝縮して御座います。特に注目されるのがアマチュアなのに覆面をしておられる方が、数名いらっ
しゃるということです。正確に言えば四人なのですが、その四人を順番に見ていきましょう」
 コンポン君は興味深げに言った。

「先ず先にご紹介するのはミスターA、ミスターH、ミスターR、の三人です。どうもこの三人は同じグループと
言いますか、仲間の様な気が致します。
 最初にミスターA。素晴しい動きで相手を翻弄しています。御覧のように45秒でノックアウト勝ちでした。次
にミスターH。鋭いパンチ力でこれも相手を圧倒。40秒ジャストでやはりノックアウト勝ちを収めています。
 さて次はミスターR。もう、強いの何の、27秒で軽くKO勝ち。ローキック三発で相手は立てなくなりました。
決して弱い相手ではありませんよ。プロの格闘家ですからね、彼は!」
 コンポン君は感心して言った。

「しかしです、問題は次です。この映像を御覧下さい。相手は名にし負うプロレスラー、ハンマーマンです。相
当の強豪です。
 その彼が腕を掴まれただけで悲鳴を上げている。凄まじい握力です。その覆面格闘家は、自らを、『ゴッド
マン』直訳すれば、『神の人』とでも言うのでしょうか。兎に角、ハンマーマンは僅か五秒でギブアップ。
 彼も、新年のプロレスの大会に出場する予定なので、ザ・トルネード同様、壊される前にギブアップしたもの
と思われます。まあ、この四人が今後どの様な戦い振りを見せるのか、非常に楽しみであります」
 コンポン君は格闘技が好きなのだろう、如何にも楽しそうに言ったのだった。

「はーい、男の戦いも宜しいのですが、華麗なる女の戦いも見逃せませんよ。変則新体操、第二グループの
始まりです!
 今回は一度に必ず異なる二つの道具を使う事が義務付けられています。なかなか上手く行かなくて皆さん
もう大変です。
 慌て過ぎて、おっぱいがポロポロ見えたりしておりますが、男の人ってこういうのがお好きなのでしょうね。
もう本当にスケベなんですから! 私かなり怒っていますのよ。あ、でも、まあ、その、何でもありません」
 河本アナウンサーはかなり番組に批判的な発言をしたが、途中で尻すぼみになった。

『余り厳しく言うと、首になるかも知れない。それはちょっと嫌だな。まだ新人なんだし、やっと入社出来たの
だしね。ここはちょっと我慢しておこうかしら』
 と、妥協したのだった。考えてみれば妥協だらけだった。ただヒステリーを起して、仕事を棒に振りたくな
かったのだ。何しろこの就職難である。それに、彼女の一番の目標は、
『女子アナになって、玉の輿に乗ろう!』
 だったのだから。

 女子の変則新体操の予選も終わる頃になって、男子の格闘技の予選もかなり終りに近くなっていた。テレ
ビで取り上げられた強者達に恐れをなしたのか、大量の棄権者が出た為である。

「何と何と、男子の格闘技の方は、棄権者が続出。つい先ほど華麗な新体操の予選が終了したのですが、
まだまだ何時間も掛ると思われた格闘技の予選は、どうやら、午前中に決着が付きそうです。
 さてこれから、水泳競技や陸上競技の予選が立て続けに行われるのですが、その前にどうやら、格闘技の
最終予選が中継出来そうですよ。
 ただし例によって、コマーシャルタイムが刻々と迫っております。しかも午前中最大のコマーシャル&ニュー
ス&天気予報のお時間です。
 お伝え出来るのはせいぜい一試合か、二試合でしょう。相生方アナウンサー、実況の方お願いします! 
出来るのならば、時間よ止まってくれ!」
 コンポン君は洒落た言い方で午前中の司会を締め括ったのだった。

「はいこちらは、同じ『東京スーパー競技場』の中にある、格闘技ブースです。今リングの上ではその前の試
合が、かなりの流血試合になりましたので、その掃除が行われている所です。
 その間に、皆さんお待ちかねの最終予選突破のニュースからお伝え致しましょう。既に二人が決定してお
ります。
 一人はミスターH。鋭いパンチに、鋭い蹴り技も見せまして、最終予選も含めて全てKO勝ちでした。流血
は彼に殴られた選手の物でした。
 故意の顔面打ちは禁止されていますが、偶発的に頬に当ってしまい、かなり大きく傷が開いて、頬から相
当の出血がありました。即座に試合はストップしたのですが、ミスターH選手のTKO勝ちとなった次第です。
 それから今一人はミスターR。彼は絞め技で、最終予選をやはりKO勝ちでした。他の試合も全てKO勝ち
です。
 さあいよいよ、次の試合が始まるようです。これは楽しみな一戦です。覆面同士、小柄なミスターAと、大柄
なゴッドマン。リングのカメラに切り替えますどうぞ!」
 相生方アナウンサーはかなりの早口で捲し立てて、何とか試合開始まで必要な説明をし終わったのだった。

 それと言うのも、放送時間が切迫しているからである。残り時間は三分を切っている。困った事に、最終戦
のみ試合時間は三分なのだ。
 しかも決着が付かない場合には、更に三分の延長戦が認められる事となった。それでも決着が付かない
場合に限り、判定で勝者を決めるのである。

「カーンッ!」
 ゴングの音と共に、ボクサー風のコスチュームに覆面という奇抜な感じの二人が対戦を始めたのだった。
しかし勝負はあっけなかった。
「バシッ! バシッ! バシッ! バシッ!」
 ミスターAが速く鋭いパンチを腹部に炸裂させたのだが、ゴッドマンはケロリとしている。決して甘いパンチ
ではない。ゴッドマンの耐久力が超人的なのである。

「ムンッ!」
 ゴッドマンは繰り出したミスターAの左腕を右の腋(わき)の下で挟み込んでしまったのである。そのままぐい
と上にねじ上げる様にしたから堪らない。

「ウアーーーーッ!!」
 ミスターAは悲鳴を上げた。このままでは手首付近の骨がへし折れそうだった。
「ストップ、そこまで、ゴッドマンの勝!」
 審判は勝負あったと判断して、試合を止めたのだった。ミスターAは手首を痛そうにしながら押さえて、リン
グ下に降りて行った。

 ゴッドマンは余裕の笑みを浮かべながら、しかし驚くべきパフォーマンスを見せたのである。ごつい体で、決
して跳躍力など無さそうに見えたが、
「そりゃっ!」
 と、気合一閃、フワリとロープの上に飛び乗り、それからやはりフワリとリング下に降りたのだった。会場に
観客が殆どいなかったので、
「ほうっ!」
 と、驚きの声もまばらだったが、テレビを見ていた者には強烈な印象を与えたのである。生半(なまなか)
な事で出来る業ではないのだ。

「こ、これは、只者ではありません。ゴッドマン、正しく神の人です!」
 相生方アナウンサーは思わずそう言ってしまったのである。しかし、神の人に陶酔している暇は無い。いよ
いよ最終予選の中の最終予選、大黄河夕一郎選手と、古武道の達人、神野武人(じんのたけひと)との一戦
が始まろうとしていたのである。

 神野武人は力こそさほど無いが、相手の動きを見極め、その虚をついて行くやり方で、ここまで危なげなく
勝ち残って来たのである。殆どが絞め技か関節技だった。
「カーンッ!」
 ゴングが鳴ると、早速神野は大黄河の動きを読み取ろうとした。しかし、
『何だこれは、滑らかに滑らかに動いて来る。タメが殆ど無い。駄目だ、隙が無い!』
 そう感じて何も出来なかった。

「バシィッ!」
 凄まじいパンチが腹部に炸裂した。
「ウウッ!」
 少しひるんだところを大黄河は情け容赦なく、攻め続けた。

「バシッ!! バシッ!! バシッ!! バシッ!!」
「バタンッ!」
 比較的小柄な神野はあっけなく倒れ伏してしまったのだった。

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