夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「だけどその収集家が良く取らせてくれたね。何か見返りがあったからなんだろう?」
コンポン君はちょっと鎌を掛けてみる。
「ま、まあね。あいつらはお金持ちだから、こっちの提示する金額じゃ、全然オッケーは取れないしね。女性を
世話するっていう手もあるって聞くけど、生憎と女性とは無縁な男だからね。奥の手を使ったんだよ」
芳樹は言い難そうだった。
「ひょっとしてソード・月岡偽物説の根拠を示したとか?」
「ゲホッ!」
的中したらしく芳樹はむせてしまった。
「よ、よく分かったな。ふう、危うく吐き出す所だったよ。本当は内緒にして置きたかったんだけど、どうしてもう
んと言わないから止むを得ず、その話をしたら、二つ返事でオッケーしてくれたのさ。勿論、今回の結果も含
めてね」
「へえ、それじゃまあ仕方ないな。それでその他に何か知っていることがあるんじゃないのか?」
コンポン君は尚秘密があると睨んだ。
「ちょと待ってくれよ。ええと、食後のデザートにチョコレートパフェが良いな。これは俺だけでも良いぞ」
芳樹は更におねだりした。
「チェッ、人の足元を見やがって。分かった。チョコレートパフェなんて何年振りだろうね、俺も食べてみたく
なったよ。それじゃ、モニターのスイッチを入れてっと」
コンポン君はチョコレートパフェ二つと更にコーヒーも二つ、モニターテレビの画面に接触して注文した。
「えへへへ、悪いねコーヒーまで。前にも言ったけど、俺はソード・月岡さんは双子だと考えた。まあ場合に
よっては三つ子かそれ以上の場合もありうると踏んだのさ」
「おいおい、三つ子以上だったら世間的に有名になって直ぐばれるんじゃないのか?」
コンポン君は常識的な判断をした。
「まあ、話しは最後まで聞けよ。俺がどうしてそう思ったか分かるか?」
「いいや、全然。少なくとも俺の、もう終っちゃったけど『一にスポーツ、二にスポーツ!』の番組に登場した時
には、全然違和感が無かった。つまり彼は一人だったと思うよ」
「しかし例えば仮に三つ子だったとして、よくコミュニケーションしていたとすれば? 俺が疑問を感じたのは
異なる競技に出ていながら、次々に世界記録を出したことなんだ。
極端なのはマラソンと短距離競技だぜ。有り得ないだろう普通。使われる筋肉が全く違うのだからさ。そこ
で考えられるのが、運動能力の極端に高い三つ子とかだとすれば、それぞれに役割分担が出来る。
幼い頃から、そんなふうに育てられて来たとするんだよ。そうすれば一応辻褄は合う。そこで俺は、彼の身
元を調べる事にしたのさ。戸籍上はやはり一人だった」
「ピピピ、ポポポンッ!」
やはり軽やかな音と共に、注文したパフェとコーヒーが一緒に来た。
「ありゃ、コーヒーは後にした方が良かったかな?」
コンポン君は失敗したと思った。
「いや、いいよ。俺は自慢じゃないけど、パフェを食うのは十分に速い男だからね。それっ!」
確かに芳樹は速かった。物も言わずに夢中で食べ続けて、五分とは掛らずに完食した。
「はははは、凄いね。真似が出来ないよ。俺はまだ半分も減ってない。ところで戸籍上は一人だったらもう決
まりなんじゃないのか?」
コンポン君はチョコレートパフェが冷たいこともあってか、時々コーヒーを飲みながらパフェを食べていた。
「何か気色悪い食い方をするね。まあ、良いか。でもね俺はどうしても、信じられなくて尚調べたのさ。彼は、
養子だって知ってたか?」
「ええっ、それは初耳だ。全然知らなかったな。それじゃあ、彼の前身は? 本名が別にあるんじゃないのか?」
コンポン君はやっとパフェを食べ終わって、コーヒーも残り少なくなっていたが、耳に神経を集中していた。
「いいや、彼の本当の身元はハッキリしないんだぜ。そもそも月岡家は昔から海外に住んでいる。奇妙なの
は、ソードさんが彼等に会いに行った形跡が無い事なんだ。
養子になったのはもう二十年以上前に遡(さかのぼ)る。にも拘らず彼が海外のインド在住の両親に一度も
会いに行った事が無い」
「でも、向こうからは日本に来ているんだろう?」
「ああ、盆や正月にはね。しかしここ数年、両親は体調を崩していて日本には来ていないって聞いた。普通な
ら会いに行くだろう?」
コーヒーも啜り終わって芳樹はいよいよ核心に触れ始めたのである。
「仲が悪いんじゃないのか? 実の親子だって何年も音信不通状態の場合はざらにある。物事を複雑に考え
ないで、単純に考えれば?」
コンポン君は尚疑ってみせた。
「ソードさんは曲がりなりにも宗教指導者だぜ。親子で犬猿の仲だなんて、立場的に拙いんじゃないのか?
仮に仲が悪くたって、形ばかりでも仲良さそうに見せるもんじゃないのか。そう思って俺はインドまで月岡家へ
尋ねて行って来たのさ」
芳樹の爆弾発言だった。
「えええっ、そりゃ凄いな。しかし良くそんな金と暇があったな。サラ金に借金でもしたか?」
コンポン君はちょっと怪しんだ。
「はははは、お金はさっき言ったお宝収集家に借りたのさ。偽物説か双子以上説が確認出来たら、借金は
チャラになるって条件でね。
それと休暇は有給休暇全部使ってわざわざインドまで行って来たのさ。向こうじゃ結構有名人らしくて、家
は直ぐ分かったよ。ニューデリーの郊外に豪邸があってね、あらゆる物を売り買いする、月岡商事という会
社で、今は息子達が跡を継いでいる」
「えっ、息子達が跡を継いでいるって? 息子がいるのに養子を貰ったのか?」
「へへへへ、カラクリが分かって来たのさ。普通だったら会えないんだけど、わざわざ日本からやって来たっ
て言ったら、快く会わせて貰った。ただ、ご両親には会えなかったんだよ」
芳樹は思い出した様に眼を細めて言ったのだった。
「はい? どうして? 病気が酷くてか?」
「いや、二人とももう亡くなっていたんだよ。何年も前にね。そして不思議な事に息子達はソード・月岡が自分
達と義理の兄弟である事を知らなかった」
「お、おい、それって、まさか?」
「ああ、そのまさかなんですよ。信じ難いかも知れないけど、ソード・月岡さんはそこの本当の養子ではなかっ
たんですよ。要するに名前を貸しただけであって、それ以上の事は無かった」
「そんな馬鹿な! あ、有り得ない!」
コンポン君はかなりの大声で叫んだ。
「とすれば、話は振り出しに戻る。つまりあらゆる可能性が考えられるということさ。日本ではちゃんと国籍も
何もかもあるのに、一歩国の外に出ると何処の誰だか分からない。
何とも不思議な話なんですよ。そしてそれには今は行方不明になっている、SH教の元代表の金森田玄斎
が大きく関わりあっている。
さっき言った月岡家の息子達に聞いても、詳しい事は分からなかったけど、亡くなられたご両親が金森田
先生に迷惑が掛るから、取材等は一切受けない様にと言明されていたそうなんだ」
「へえええっ! こりゃすごい事になって来たな。うな重竹+チョコパフェ+コーヒーでも、安い位だ」
「だろう? おっと、そろそろ時間ですよ。指紋の採取、なんとしてでも成功させないとね」
「ああ、全面協力を約束するよ。こりゃ面白くなって来たぞ」
二人は意気揚々と個室レストランを出て、『東京スーパー競技場』の、放送スペースに戻ったのだった。
「さあ、午後の部張り切って参りましょう! 私、先程は、豪華にうな重を食べて参りました。決して自分の
為ではありません。
スタミナをつけて少しでも皆様の為に、気持ちよく放送させて頂きたいと思いまして、身銭を切って食べて
参りました。もう、美味しかったな〜、す、済みません、思い出して涎(よだれ)なんか垂らしてしまって。
えーっ、冗談はさておき、河本さん午後のメニューをお知らせ下さい。ええと、注目の大黄河選手の出場科
目はあるんでしょうか?」
「はいはーい、私も元気一杯で御座いまーす。優しい彼とデート、じゃなくてお喋りな女友達とたっぷりお喋り
して来ましたから、もうすっかりストレスも発散して、元気もりもりでーす。
えーと大黄河さんですが、潜水競技、百メートル走、格闘技、そしてもう一つ。何だと思いますか? これは
台本には無いでしょうコンポン君、ふふふふ」
河本アナウンサーは自慢げに笑って聞いた。
「えええ、ちょっと聞いてないな。普通は司会役の自分が一応全部を把握してやるんですけど、今回はサプラ
イズ、つまりビックリを入れると言うか、私の頂いた台本に空欄があるんですよね。何でしょうね、そろそろ教
えて下さいよ」
コンポン君はちょっとじれったそうに言った。
「じゃあ、第一ヒント。今回の競技の殆どが男女別々ですが、これだけは男女一緒なんですよ。さあ何でしょ
う?」
「ええっ、うーん、男女混合リレーとか?」
「ブーッ! 相当かけ離れていますよ」
「そうだな、分かった、男女混合綱引きだろう?」
「ブーッ! 男女混合から離れなさい! 混合じゃありません!」
河本アナウンサーは気分良さそうに叫んだのだった。
「混合じゃない? ええっ、分からないな。第二ヒントを頼むよ」
「しょうがないわねえ、じゃあ、第二ヒント。女子が男子に負けない数少ない競技の一つだわね。もう分かった
でしょう?」
「うーん、ますます分からない。そんなものあったか?」
「もうじれったいわね、頭を使う競技よ」
「分かった、カーリングだ!」
「ノーッ! ブッブーッ! 時間切れよ。降参ね?」
「ああ、ギブアップだ。想像が付かない」
「もう少ししたら、競技が始まるわよ。競技会場の、吉喜沢影美さーん、中継の方宜しくお願いしまーす!」
河本アナウンサーは勝ち誇った様に吉喜沢アナウンサーに中継のバトンタッチをした。
「はーい、こちらは、男女一緒にやる競技、フラッシュ暗算競技会場です。これだけは男女国籍を問わずに
行える頭のスポーツです。
加減算の得意なアジア系の人達と、乗除算の得意な欧米の人達との格差も考えて、両方同時に計算して
頂きます。番組では二桁の計算のみです。
例えば28×38÷14+85だとすると、画面には、28、×38、÷14、+85の順序で出てきます。割り算
は今回は割り切れるもののみの計算となります。ちなみに答えが分かりますか、コンポン君」
吉喜沢アナウンサーはしてやったりの顔でコンポン君に問い掛けた。
「はははは、知らんよそんなもの。フラッシュ暗算だなんて、想像が付く訳無いじゃないか。でも何、それに大
黄河さんも出場するの?」
コンポン君はややムッとした表情で言ったのだった。