夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「ピピピ、ポポポン!」
 五分も掛らずにハンバーグセットはやって来た。人気メニューで大量に予め仕込んでおいたのだろう。
「それでどんな話があるんだ? 何か発見した事でもあったか?」
 ハンバーグセットを美味そうに食いながら芳樹は言った。

「ああ、俺の考え過ごしなのかも知れないけどね、フラッシュ暗算の会場で見たんだけど、例のゴッドマンと
一緒に居た凄い美人を覚えているだろう?」
「ええっ! フラッシュ暗算の会場で見たのか?」
「ああ、勿論テレビ画面でだけどね。でも予選突破したんだよね。そればかりじゃない、もう一人男の方もい
たんだよ。その彼も予選突破したんだ。
 ええと、彼女の方は愛伊達花江、それから男の方は、山際厳庸とか言ったな。何というか、集団競技会荒し、
みたいな感じに思えてね。でも何と無く違う様な気もするんだよ」
「違う様な気がするって、どういう事だ?」
 芳樹は相変わらずハンバーグセットを美味そうに食いながら、コンポン君の顔を上目遣いに見て言った。

「だって普通はさ、得意競技の連中が集まるだろう? 格闘技だったら格闘家が集団で来るのなら理解出来
る。でも、格闘技とフラッシュ暗算だぞ。余りにもかけ離れていると思わないか?」
「そりゃそうだけど、でも大黄河さんの場合は、一人でそのかけ離れた競技に出てるじゃないか。考え過ぎな
んじゃないのか?」
 芳樹は殆どハンバーグセットを食べ終わった状態で、少し名残惜しそうにして、最後の一口を食べながら
言った。

「いや、一人の場合だったら逆に有り得ると思うよ。実際今回、かなりの連中が複数の競技に出ている。水
準は兎も角として、大黄河さん並に、いやそれ以上の種目に参加している奴だっているんだからな。
 しかし、いや、やっぱり考え過ぎかな。ただ他にも男女一人位ずついたよね。彼等も並みの連中には思え
なかったから、何かに出ているんじゃないのかな。そして多分、予選突破しているんじゃないのかな」
 コンポン君は話をしているうちに段々自信が無くなって来ていたので、余り手を付けていなかったハンバー
グセットをせっせと食べ始めた。

「ピピピ、ポポポン!」
 間も無くアイスクリームとコーヒーがやって来た。アイスクリームの量が少ないので、コーヒーも一緒で良い
と考えたのである。
 しかし画像で見たアイスクリームよりずっとボリュームがあって、
「えっ? 随分多いな。コーヒーがちょっと早かったかな?」
 芳樹は失敗した感じで言った。

「いや、別に構わないさ。作る人達の身になってみれば、一度に仕事が済んで、きっと良かったと思っている
と思うよ。それにこっちだってそれ程時間がある訳じゃないからね」
 コンポン君のトーンは一気に下がった。
『芳樹の言う通り、思い過ごしかも知れないな……』
 そう考えると、
『勢い込んで芳樹に奢るほどの事も無かったな……』
 と、後悔した。

「うひゃ、このアイスクリームもサービス品とは思えない美味さだな。ただだと思うと尚更美味いや。……えっ
と、仮にその連中が何か特別な目的があってやって来たとしても、一体何をするんだ?」
 芳樹は、ちょっと落ち込んでいるコンポン君を励ます意味で、そう聞いてみたのである。

「うーん、そうだよな。何か特別な事があると一瞬そう感じたんだけど、それが何なのか全然分からないんだ
よね。その、ソードさんと何か関係は無いかな?」
 コンポン君は当てずっぽうで言ってみた。

「ソードさんね。うーん、ところで今思いついたんだけど、SH教の元の代表は金森田とか言ったよね。今は
行方不明になっているんだって?」
「ああ、そうだ。随分体格の良い人だって聞いている。物凄いパワーで数々の武勇伝があるらしいよ」
「武勇伝?」
「ああ、酔って暴れる格闘家数人を簡単にノックアウトしたとか、特に格闘技を勉強した訳でもないのに、生
まれながらに強かったとか何だとかね」
「へえー、ところで、その金森田元代表は何処でどんな風に暮らしているんだろうね? お金はどうしているん
だろう? それだけ強かったら、道場荒しとか何だとかしているんじゃないのか?」
 芳樹は話の流れから簡単に言ったのだった。

「道場荒し! そうか、腕に覚えがあるんだったら、誰かのボディガードとか、それこそ道場荒しでもするだろ
うな」
「……ゴッドマンって、その金森田なんじゃないのか? かつて帝王だった男が他人の下で働くなんて、考え
も及ばないんじゃないのか。だからボディガードの線は消えて、道場荒しをする。
 今回もその一環だとすれば辻褄が合う。それと相手は元宗教家の頂点を極めた男だ。彼を信奉する人間
が大勢いてもおかしくは無い。
 ただその中に特技を持つ連中がいるとしても、せいぜい一人位だろうね。そうなるとまた分からなくなる。幾
らなんでも、フラッシュ暗算の予選突破者が二人というのはちょっとね……」
 芳樹の閃きも暗礁に乗り上げてしまった。その時点でコーヒーも飲み終わっている。

「うーん、道場荒しは良い考えだけど、そこまでかも知れないな。ゴッドマンが金森田かどうか、はっきりしない
しね。さてそろそろ帰ろうか」
 コンポン君はやっとアイスを食べ終わって、冷めてしまったコーヒーを啜りだした。温いのでどんどん飲めた。

「ピロピロピロピロ……」
 丁度その時、ケータイが鳴り出した。
「ああ、俺だ」
 鳴っていたのはコンポン君のケータイだった。

「ああっ、そうですか。直ぐ行きます!」
「な、何だ!」
「何か事件があったらしい。至急戻れと、上の方から指示があった。詳しい事はスタジオで話すそうだ」
 コンポン君と芳樹は競技場内の臨時スタジオに向かって大急ぎで戻って行ったのだった。

「コンポン君大変よ、フラッシュ暗算で不正があったらしいわよ!」
 先に戻っていた河本アナウンサーが青い顔をして叫んだ。どうやら事情は誰かに既に聞いているようである。
「ええっ! それってどういうことだ? 不正なんて出来るのか? 皆見ているんだぞ」
「それよ、テレビで見ていた人が、暗算に出ていた人の何人かの様子がおかしいので、再生機能が付いてい
るテレビだったから、繰り返し見たんですって。それもズームアップしてね」
「そ、それで?」
「透明の電卓を使っていたのよ。完全に透明じゃないけど、デスクの上に置いて手の平で上手く隠しながら
使っていたみたい。
 それを確認してから、その視聴者の人が局の方に電話して知らせてくれたのよ。局の人達も確認して、そ
の不正をした人達は、五年間業界の番組には一切出られない処分になるそうよ」
 河本は顔をしかめて言った。

「で、その不正をした人達って、誰なんだ? 予選突破者なのか?」
「ええ、愛伊達花江さんと、山際厳庸さんの二人なのよ。日本人が二人だなんて、本当に恥ずかしい限りだ
わ」
 河本アナウンサーは悔しそうに言った。

「えええっ、よりによって、その二人なのか?」
 芳樹は自分の持ち場に戻ってその場にはいなかったので、コンポン君は顔を見合わせる訳には行かな
かったが、もし側にいればきっと顔を見合わせていただろう。
『へへへへ、こりゃたまげたな。本当にひょっとするとひょっとするぞこれは!』
 コンポン君はしてやったりの気分だった。

「よりによってって、どういう事? 何か訳あり? 二人に何か関係があるの?」
「ああ、大有りなのさ。その二人が格闘技の方に出場したゴッドマンと、一緒に食事しに行く所を見たんだよ。
この目でね」
 コンポン君は自分の目を両方の人差し指で、指差ししたのだった。

「えええっ! じゃあゴッドマンもひょっとして不正をしたのかしら?」
「はははは、そこまではしていないと思うんだけど、ちょっと耳を貸して」
 コンポン君はゴッドマンが元SH教の代表、金森田玄斎であるかも知れない事を耳打ちしたのだった。

「えっ! まさか、彼は悪事をしたとかの噂があるのよ。バレたら大変何じゃない?」
 洋子は半信半疑で言った。
「だからバレない様に覆面しているのさ。それにまだ絶対の確証がある訳じゃない。体形が似ているとは思
うけど、自信を持っては言えないよ」
 コンポン君は内心では相当に自信を深めていたのだった。

「そうなんだ。それじゃあ、そっちは少し置いておくわね。それで、さっきの話の続きなんだけど、上位に二人
しかいなくなったから、次点の四人が繰り上がり予選突破ということになったわよ」
「という事はひょっとして……」
「そうなのよ、うふふふ、大黄河さん奇跡の復活よ!」
 洋子は実に楽しそうに笑いながら言った。

「あああ、驚いた。大黄河さん、何という強運の持ち主。正に神がかり的だ。はあーーーっ!」
 コンポン君は驚いたと言うより、むしろ呆れて大きな溜息を吐いたのである。その直後位に会場内がざわ
つきだした。
 どうやら、今日の、一番の目玉である、ソード・月岡が会場入りしたという情報が流れたのだった。間も無く
スタジオにも来て、簡単な挨拶をする様である。

「いよいよソードさんが来るのね。ウワー、何かドキドキして来たわ。どんな人なのかしら? 世界記録を幾つ
も持つ、正に世紀のスーパースターよね」
 事情を何も知らない河本洋子アナウンサーは、憧れの人と出会うチャンスが巡って来たと思って、相当に
興奮していたのだった。

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