夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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 機内では大晦日の深夜、日本ではもう新年を迎えたお昼少し前位だろう。玄斎と夕一郎を乗せた軍用機は
アメリカ、フロリダ州の空軍基地の空港に到着した。
 二人は再び手錠を掛けられて、車である施設に連れて行かれた。飛行機に乗っていた者達の大半はそこ
で降りて、二人と同じ施設に入った。

「こいつ等はよっぽど手錠を掛けるのが好きらしいな。意味が無いと思うのだがね、へっ!」
 玄斎は小馬鹿にしたように言った。
「手錠を外せば、射殺する口実が出来ると思っているんじゃないのか? そっちの方が本当の趣味かも知れ
んよ」
 夕一郎も少し同調した。いや、より過激に言った。彼も手錠に少しウンザリしていたのである。二人は板の
間の道場の様な所に通された。しかし靴を履いたままだったのには少々違和感が有った。

「イヤア、ヨクキタナ。コチラガ、アメリカコクボウショウノ、サイコウコモン、ウィチガロンデス」
 やや怪しい日本語の通訳が、体格のいい背広姿の初老の男を紹介した。手錠を外された二人は、憮然とし
て立っていた。

「ソレカラコッチガ、セイタイカガクノキョウジュダ。シュナイダーハカセデス」
 今度は小柄な男だった。周囲には飛行機に乗って来た者や、その他の者達が相当数二人を取り囲んでい
た。逃亡を防ぐ為もあるらしい。

「一体俺達をどうしようと言うんだ? もうこっちの時間で新年だろう? ア・ハッピー・ニューイヤーとか言うん
じゃないのか?」
 玄斎はますます不快そうだった。

「あんた等は強いらしいね。しかもサイボーグだそうじゃないか。先ずはその強さを確かめさせてくれないか?
国防にも大いに関係があるからね」
 今度は別の大学教授風の男が流暢な日本語で話し掛けて来た。

「断ったらどうなるんだ? 俺は指名手配はされているが、だからと言って実験材料にされる筋合いは無い!」
 玄斎は毅然と言った。
「私はゴールドマンと言うものだが、取引と行こうじゃないか。我々に協力的な態度を示してくれれば、大幅に
刑は軽減される。執行猶予の付いた刑と一生安泰に暮らせるだけの住宅や資金を提供しよう。
 金森田玄斎君。君は裁判になれば間違いなく死刑だ。若しくは懲役千年とかそんな所だが、それでも良い
のかな?」
 ゴールドマンは飴と鞭を使う積りらしい。

「へへえ、聞かなかったか、48時間以内に俺が連絡を入れなければ、大変な事になるんだがね」
「ああ、すっかり聞かせて貰ったよ。別に構わないよ。スキャンダルに関わっている連中は、事実上引退して
貰っているからね。
 それでもかなりの騒ぎになるだろうが、致命傷にはならない様に既に手を打ってあるからね。それと、大黄
河君。君も結構な罪を背負っていると睨んだんですがね。
 君は本当はソード・月岡じゃないのか? 我々の研究者達はその様に言っておるのですよ。違うのかな? 
もしそうだとすると、裏娼妓X号館での事件で、かなりの犠牲者を出したと聞き及んでいるのですがね」
 ゴールドマンは相当の自信を示した。

「ドウシマスカ? キョウリョクスレバ、イキナガラエル。キョヒスレバミジカイイノチヲチラスコトニナル。ト、コモ
ンハイッテマス」
 通訳は多少洒落た言い方をした。ゴールドマンに対抗意識があるようである。

「ちょっと、考えさせてくれないか。昇、いや、夕一郎、二人きりで少し話し合わないか?」
 玄斎はスキャンダルを持ち出せば、自分は無罪放免になると軽く考えていた様である。しかし情報はかな
り洩れているようである。善後策を夕一郎と話し合う積もりになった。

「ううむ、まあ、良いだろう。少し時間をくれないか? 十五分で良いから」
 夕一郎も思案に余った。海外にいる自分の仲間の安全が気に掛っていたのだ。宿敵と思っていた金森田
と協議する事など、何も無いと考えていたのだが、アメリカ側の腹のうちが読めないのだ。
『ここは目を瞑って協力し合おう』
 そう思った。

「分かった。向こうの隅にでも行って話したまえ。時間は十五分。それ以上は待てないぞ、ふふふ」
 優位を確信しているからなのか、ゴールドマンは幾分ずるそうに笑いながら言った。
「分かった、行こうぜ、夕一郎」
 玄斎はここでも少し夕一郎を見下した言い方をした。もう立場は逆転している様なものだが、つい、昔の癖
が出たのである。

「そうだな、玄斎」
 夕一郎はカチンと来て、敢えて玄斎を呼び捨てにした。
「うっ、く、まあ、良いか。はははは」
 呼び捨てにされてムカついたが、殺せるチャンスを待っている様な男、恐ろしく強い男が相手では、分が悪
いと感じて、笑って誤魔化したのだった。

「大人しく言う事を聞くか? それともひと暴れして、ここを抜け出すか?」
 玄斎は単刀直入に言った。
「ここを抜け出すだけだったら容易いが、俺の仲間が心配だ。相当の情報を掴んでいるらしいから、この際
従うのも仕方が無いだろう。あんたの仲間はどうする?」
 夕一郎は一応玄斎の仲間の心配もして見せた。

「ふん、仲間の命なぞどうでも良いが、本当にこいつ等が約束を守ると思うか? そこが不安なんだよな」
 玄斎は一番心配な点を強調した。
「うーん、そうなんだよな。しかしそいつはどうにもなるまいよ。だったらこうしよう。もし約束を違(たが)える
事があったら、二人でここを逃げ出す事にしよう。仲間には気の毒だけど、こいつ等の言う事を聞いてばか
りもいられないからな」
「おいおい、お前が俺を助けるってか?」
 玄斎には信じられなかった。

「はははは、そういう事になる。殺したいほど憎い男だけど、それとこれとは別だ。あんたも嫌いだが、ここの
連中はもっと嫌いだ。勿論、約束を違えたらの話だ。
 なんだか変な話だが、もし俺とあんたとどちらかを助ける事になったら、俺はあんたを助けるよ。全く妙な
話しだと思うけど、俺としては先ず仲間の命が一番。
 しかしその為に俺の命が欲しいと言うのならくれてやる。その上であんたと俺との命の一つしか助からない
と言うのなら、俺はあんたの命の命乞いをする。
 正直言ってサイボーグで生きるのがかなり辛くてね。食欲が満たされない事は性欲が満たされない事以上
に辛い。
 どうもおかしいんだけどね、食欲の処理をした筈なのに、この頃無性に食べたいんだよ。何故か腹が減っ
て仕方が無いんだ。ここまで言ったら分かるだろう?」
 夕一郎はかなり本音を言った。

「へへえ、そういう事になっていたんだ。分かった、納得した。良し、それじゃあ商談成立ってとこだな。そろそ
ろ時間だ。戻ろうぜ」
 玄斎は今度は少し気を使って名前を言わなかった。
「ああ」
 夕一郎もそれに応える様に名前は言わなかった。

「話は付きましたか?」
 ゴールドマンはイエスに決っていると思って言った。
「ああ、あんた等の言う事に従う事にした。但し、約束は守って貰いたい。もし約束を破る様な事があれば、こ
ちらも、それなりに抵抗する事にした。それで良いと思うがどうだろう?」
 夕一郎は簡潔に言った。

「はい、必ず約束は守りますよ。さっきは言いませんでしたが、大黄河さん、貴方も我々に協力すれば、最
低限貴方のお仲間の命は保障します。
 貴方の命の保障も勿論致しますよ。さあ、それでは早速ここでやって見せて貰いましょうか。我々は自分の
体で確かめる主義でしてね。
 先生を二人呼んであるのですよ。お二人とも我々が三人がかりでも、いや、五人がかりでも歯が立たない
方々なのです。我々が勝てない先生方に貴方方が勝てば、確かに我々より遥かに強いと証明出来た事にな
ります。どうぞ、先生方お入り下さい」
 ゴールドマンが呼ぶと、
「オウ!」
「はい!」
 ごつい男とやや小柄な男とが現れた。

「こちらは、総合系格闘術のモンスターマンと桑伊里裕次郎先生です。世間的には知られておりませんが、
私共は世界最強と信じております。
 モンスターマンはアメリカ人。桑伊里先生は日本人です。尚、モンスターマンは、桑伊里先生の一番弟子で
す。どちらからにしましょうか? こちらはモンスターマンが先行です」
 ゴールドマンは余裕で言った。

「はははは、分かっちゃいないね。俺一人で片付けてやるから、一緒に掛って来な」
 玄斎は一目で見切った様である。
「ナ、ナンデスカ! ホエズラカクナヨ! コレハ、ツウヤクデハナイ! ワタシノイケンダ!」
 通訳の男は怒り狂って怒鳴った。

「まあまあ、玄斎さん、モンスターマンさんと、普通にやってみれば良いでしょう。ルールはどんな風になるん
ですか?」
 夕一郎も余裕を見せた。
「床に白線が描いてありますから、その中で試合をして下さい。一般的な反則技以外は何をしても良い、とい
う過激なルールですが宜しいですか?
 制限時間は三十分。インターバル無し。どちらかが失神するかギブアップするか逃げ出すかしたら、試合
終了ということで。審判は私がやりますから」
 ゴールドマンは相変わらず自信満々だった。

「ああ、良いだろう。服はこのままで良いのかな?」
「ははは、それでは破れてしまいそうですから、専用のコスチュームに着替えて下さい。君、お二人をお連れ
しなさい」
 ゴールドマンに言われた青年は渋々二人を着替え室に連れて行った。

「テキトウナサイズノ、ヤツヲキレバイイ」
 片言の日本語で面倒臭そうに言った。アマレスのコスチュームに似た白い衣装があったので、二人ともそ
れに着替えた。元の場所に戻ってみると、モンスターマンと桑伊里は、何故か道着に着替えていた。
「衣装が違うけど良いのか?」
 玄斎は怪訝な顔で言ったのだった。
 

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