夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「ところで、ソード・月岡さんが、本名は十文字豹介さんと言うんですか、彼が殺害された事はご存知です
か?」
 シュナイダー博士は話が一段落ついたと判断して、確認して置きたい事を言った。
「えええっ! ま、まさか! だ、誰が! ひょっとすると金森田が、いや、彼にはアリバイがあるけど……」
 夕一郎は本当に驚いた。直ぐ金森田を想像したが、少なくとも自分と一緒に彼は戦っていて、そして警察
に逮捕されたのである。

「いや、良く分かりました。我々の想像通りです。我々は金森田玄斎にも同じ質問をぶつけてみました。確か
に彼も驚いてみせましたが、どうも嘘臭かった。
 恐らく彼の仲間が殺したのでしょう。今の大黄河さんの話で、金森田が『神のマシン』に乗り込んで、世界
制覇を成し遂げようと考えていたことが分かりましたから、動機も十分です。
 先程の話からすると、彼はソード・月岡として、上手くSH教の代表者に成り済ます積もりだったのではあ
りませんか?
 もし一度死んで、復活したとすれば正に奇跡という事になりますから。そこまで行ったらそれこそ世界制覇
も夢ではないでしょう。奇跡の人ですからね」
 シュナイダー博士の考えに夕一郎も、他の者達も相当に感心した。実に的を得た鋭い読みだったからだ。

「なるほど、奇跡の復活ですか。ううむ、そこまでは考えませんでした。ところで金森田はどうしました? 彼
には色々と奥の手があるようですが、48時間以内に連絡しないとどうとか言う……」
「はははは、我々が一番苦心したのはその点なのですよ。しかし心配には及びません。但しこれは他言無
用に願いますよ。発覚すれば人権問題としてその方面の団体から追及されかねませんからね」
 シュナイダー博士は急に声を潜めて言った。

「分かりました、口外はしません。彼は今何処に居るのですか? まだこの施設に居るのですか?」
 夕一郎は相変わらず協力的な姿勢を見せた。地上の施設なら、場合によっては脱出を図るかも知れない
のだが、地下千メートルでは脱出は極めて困難である。
『兎に角猫を被っていよう』
 そう決め込んでいた。

「彼は間も無く釈放されます。我々との取引に応じましたから。彼は二者択一の一方を自分の意志で選ん
だのです。
 一つは裁判を受けて、なるべく軽い刑にして、我々の監視の下、ある場所に軟禁状態で、一生安全に暮
らす方法。
 もう一つは毎月一万ドルずつ、世界中に支店のある特定の銀行で彼自身が受け取って、裁判は受けず
に自由に暮らす方法。但し特に安全は保障しない。彼は後者を選びました」
 博士は少し辛そうな表情になった。

「えっ! あの男を解き放つのですか? それは危険ではありませんか?」
「我々としては彼に裁判を受けて欲しくなかったのですよ。裁判中に爆弾発言があるかも知れませんし、彼
が言わなくても、多くの者が彼について調べ出すと、知られたく無い事が表沙汰になる恐れがある。むしろ
その方が怖いのです。彼の性格ならば後者を選ぶだろうと思ってそう仕向けました」
「しかし、彼は凶悪な犯罪者ですよ。ほって置いたら何をしでかすか分かりませんよ!」
 夕一郎は思わず叫んでしまった。

「そこですよ、我々もそれを心配して、彼の体内に爆弾を仕掛けたのです。薬で眠らせて、手術をしました。
無論彼にそれを知らせてあります。
 万一の場合にはリモコンスイッチで爆破します。超小型の爆弾ですが、心臓に近い所にあるので、ほぼ即
死状態になります。勿論この様な事は許されない行為ですが、止むを得ませんでした。
 彼は生活費を受け取る為に、必ず銀行に行かなければなりませんから、逃げようたってそうは行きません。
しかもそこでリモコンで、爆破時刻の更新をします。更新しなければ、一ヵ月後にドカンッ! です」

「なるほど、電波の届かない所に逃げても無駄な訳ですね?」
「はい。最大二ヶ月間は更新無しでも生きられますから、それ程きつくは無いと思います。勿論凶悪な犯罪
を犯した場合には、即座に死んで貰います。ただ良心が咎めます。我々の行為も犯罪行為だと言わざるを
得ませんから」
 シュナイダー博士は正義感の強い男であると夕一郎は感じた。

「そうですか。それならあの男も少しは大人しくなるでしょうね。何か安心しました。……それで私は何をすれ
ば良いのでしょうか?」
 夕一郎は幾分肩の荷が下りた気がした。
「先ず、貴方のお仲間を呼んで頂きたい。ここには十分な設備が整っていますから、貴方の生命維持の為に、
貴方のお仲間の協力が必要です。
 我々の研究は遠く及びませんから。もし必要な機材が御座いましたら、取り寄せます。ただ、当分はこの地
下研究所で暮らして頂きます。それは政府の上の方の決定事項です。大統領も承諾していますから」
 シュナイダー博士は初めて大統領も関与している事を認めたのだった。

「大統領が承知しているのですか?」
「はい。サイボーグの研究は表沙汰には出来ません。しかしアメリカは全てにおいて世界一でなければなら
ない。
 何でも思い通りになる訳ではありませんが、その方向を目指す国、それがアメリカです。そう言って、私は
大統領を説得しました。
 彼もアメリカ人です。暫く考えて承諾してくれました。ですが、もしどうしても、認められないと言うのなら、解
放致しましょう。
 但し、一切の協力はありません。せいぜい口止め料として十万ドル差し上げる程度です。さてどうしましょ
うか?」
 博士は決断を迫った。

「うーん、そうですねえ」
 夕一郎はじっと考え込んだ。
『正直言って、もう研究開発費が底を付いてしまっている。それどころか日々の暮らしにさえ困っている位だ。
何しろ俺が金食い虫なのだからな。
 それに入院している黄味麻呂ユウカリさんや、怪我をしている少女達。怪我が回復したと言っても、リハビ
リにお金の掛かる助乃川栄太郎さんの事もあるし。彼等に対する援助もして貰えるならという条件付で交渉
してみよう」
 夕一郎の腹は決った。

「条件付で承諾したい。宜しいでしょうか?」
「条件?」
 博士の隣の男が訝しい顔になった。囚われの身でありながら条件を出すとは何事だ、そんな感じである。

「その条件と言うのを伺いましょう。受け入れられるものであるのならば、呑みましょう」
 博士はすんなり言った。
「シュナイダー博士。確かに彼は貴重な存在ではありますが、多少なりとも犯罪を犯した者です。その様な者
の条件を呑む必要は無いと思いますが」
「ゲーリー君。話を聞くだけでも聞いてからにした方が良いと思うが。条件が何であるのか分からないのに、
とやかく言うべきではないでしょう」
 博士は穏やかにたしなめた。
「は、はい」
 ゲーリーは渋々承諾した。

「それでは、条件を言いましょう。私の為に怪我をしたものが何人かいます。心に傷を負った者も居る。彼等
は病院に入院しているか、我々と一緒に住んで居ても、リハビリの必要な者も居る。
 彼等の治療費を出して貰いたいのです。それから、彼等は地下の生活は難しいでしょう。事情をかなり知っ
ている者もいますが、彼等は地上で生活させたいのです。それが唯一の条件です」
 夕一郎はかなり慎重に言った。やや難しい条件だと思っているのだ。

「ううむ、事情を知っている者が居るのですか、怪我人の中に。それは拙いですね。前にも言いましたが、こ
こには殆ど全てが揃っています。勿論病院もです。精神科もありますからね。
 申し訳ないが、全員ここに連れて来る事が、言わば我々の条件です。大黄河夕一郎君がサイボーグであ
る事を知っている者全員です。
 何しろアメリカ大統領の関与する最重要機密です。バレたら大統領の失脚位では済みませんからね。全
世界から非難を受ける恐れがある。唯一の例外が金森田玄斎なのですから。これ以上一歩も譲れません」
 シュナイダー博士は毅然と言った。

「なるほど。……分かりました。病人や怪我人の治療をしてくれるのですね?」
「勿論です」
「だったら、良いでしょう。しかし彼等を呼ぶ方法は?」
 それも難しいと夕一郎は思っていた。

「貴方が連れて来る事です。我々が行っても信用しないでしょうし、電話では怪しむでしょうしね」
「私が行くのですか?」
 夕一郎は意外に感じた。

「勿論貴方一人という訳には行きません。その為に美女三人が居るのです。貴方のパワーは凄まじい。如
何に屈強の男でも、到底太刀打ち出来ません。
 しかし貴方は元来優しい男です。強くも何ともない、むしろ弱い女性達に逆に弱いと、私は考えました。抵
抗しなければ、極悪非道な金森田の様な男でさえ殺せない貴方です。
 余程の事が無い限り、女性達を見殺しにしたり、見捨てたりは出来ないとね。どうです、良い考えでしょう?
 ふふふふふ」
 シュナイダー博士は自信有り気に笑った。

「はははは、参りましたね。人の心をよく読んでいらっしゃる。……分かりました、それで何時行けば宜しい
のですか?」
「我々にも色々と準備というものがありますから、今夜はここで一泊して、明日の朝という事にしてはどうで
すか? ただお仲間が心配しているでしょうから、電話を掛けますか? 我々は貴方がインドからやって来
た所までは掴んでいますが、それ以上は知りません」
「ええっ! インドから!」
 殆どの者は知らされていなかったらしく、中会議室の中はやや騒然となったのだった。

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