夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「ふうむ、エッチもねえ。トイレはちょとバッチくないか?」
 エッチと聞いても夕一郎はいたって冷静である。三人の女性には夕一郎が大人に見えたのだった。しかし
本当はそうではなかった。

「ト、トイレがバッチイのは仕方がありません。私達は崇高な目的の為に、我が身を投げ打って汚れる事を
覚悟の上で、志願したのです。
 シュナイダー博士は数多くの女性の中から私達を選んで下さいました。知性、ルックス、体力、包容力、
忍耐力、等々全てに優れた者三人が、私達だと仰って下さいました。私達は選ばれし者なのです」
 割合大人しく余り話さなかったローラが急に雄弁になったのだった。

「その決心が何時まで続くかな。……まあ良い。ちょっとした疑問があるんだけど、一つ、二つ聞いても良い
か?」
 夕一郎は三人がサイボーグについての知識がなさそうなのが気になったが、それはおいおい分かる事な
ので、目の前の疑問から片付けて行く事にしたのである。

「はい、何なりとお聞き下さい、ご主人様、うふふふふ」
 詩織はちょっとふざけて言った。ふざけても怒ったりしない男である事を早くも看破していたのだ。
「はははは、先ずその服装について聞きたいね。その艶々(つやつや)した白を基調とした繋ぎ服は一体何
なんだ? 何かこうカーレーサーとかみたいな感じなんだけどね」
 夕一郎は誰も彼女達の様な服装をしていなかったので、不思議に思っていたのである。

「これは未来志向の言わば制服ですわ。カーレースではなく、新しい生命体、サイボーグに相応しい服装の
積もりなんです。私のデザインなんですけど、かなりSFチックでしょう?」
 サマンサが自信有り気に言った。
「ああ、そうか、SFチックな服装という訳か。他に着ている人は居ないんだよね?」
「勿論です。これは選ばれし者の象徴ですわ。格好良いでしょう?」
 ローラは子供っぽく格好の良さを強調した。

「ところでインドにもその服装で行くんじゃないだろうね?」
 夕一郎は一番の心配事を言った。
「まさか、そこまで非常識ではありませんわ。これは研究所専門の服装ですわ。ここの施設から外に出る時
は通常の服に着替えますから、ご安心下さい」
 詩織は夕一郎の心配している事が分かって、それにすかさず応えたのだった。

「「いや、それを聞いて安心したよ。今流行のコスプレ何とかだと思われそうで、ちょっとドキッとしていたんだ
けど。やれやれ良かったよ」
「えーっ! この服が嫌いなんですか?」
 相変わらず子供っぽくローラは言った。

「いや、そんな事は無いけどね。ちょっと目立ち過ぎてね。えっと、それで、エッチの撮影の事なんだけどね。
それって拙くないか?」
 夕一郎はなるべくあっさりと言った。この種の事は躊躇えば躊躇うほど嫌らしくなるのである。

「お気持は分かりますけど、研究の為にどうしても必要なんです。シュナイダー博士にもきつく言われており
ますので、お嫌でしょうが、どうかご協力の程お願い致します」
 詩織は真顔になって真剣に夕一郎に頼んだのである。

「いや、そういうことじゃなくて、三人が交代で眠るんだろう?」
「はい。それが何か?」
 サマンサがキョトンとして言った。

「だから、寝ている所でやるのは、起してしまって拙くないのか? かなり煩いと思うけど?」
「ああ、それだったら大丈夫。やる場所は別室ですから。ここは単なる寝室ですので。まあ、それ以外にも
食事とか今みたいに話し合いの為とかに使いますけど。
 そのセックスルームにご案内致しましょう。と言っても直ぐそこなんです。ここの中にありますから。完全防
音の部屋で、どんな声を出しても大丈夫ですわ。うふふふ。直ぐにしましょうか?」
 詩織は冗談っぽく笑いながら言ったが、内心かなり本気だった様である。

「ここの中というと、ああ、隣の部屋のことか?」
 確かに隣室がある。ドアが頑丈そうなのは完全防音の為なのだろう。
「ねえ、ちょっと行ってみましょうか?」
 ローラが顔を赤らめながら言った。
「そ、そうね。どんな部屋かお知らせしておかないと、はあ、はあ、へ、変ねえ……」
 サマンサも息が荒い。

『おやおや、もうその気になっているのか? サイボーグとの情交に憧れているのかな? やっぱり何も分
かっちゃ居ないんだな。性機能が不完全だと言ってある筈なんだけどね』
 夕一郎はもったいぶって言わないのも拙いと思って、真実を話す事にした。

「部屋を見るのは良いけど、何もしないよ。まあ、その、セックスルームの中で話そう。もうお昼も近いから、
そこで少しお話をしてから、昼食にすれば良い」
 夕一郎は相変わらず冷静だった。三人の女性達は顔を見合わせて、兎に角部屋に案内する事にしたの
である。

「どうぞこちらです」
 先導したのは詩織だった。隣の部屋に入る前に小部屋になっていて、右はバスルーム。直進するとセック
スルームの様である。どちらにも内鍵が掛けられる様になっていた。

「なるほど、これだったら、寝室に戻らなくてもバスルームから直接セックスルームに行けるんだな。まあ、そ
の逆も考えられるけどね。エッチして汗を掻いたら、直ぐ風呂に入るというか、なかなか便利だね。
 ああ、本当に音が、外の音が聞こえないね。ドアも分厚いから、大声で叫んでも良い訳だ。ふうむ、カラオ
ケにも使えるな」
 夕一郎はセックスルームと言う割には、部屋の中に大きなベットが置いてあるだけの簡素な事に驚いた。

「はい。何度も申しますが、研究の為なので、見通しを良くしてあるんです。それでその、今カメラを持って来
ますから、ちょっとお待ち下さい。ぬ、抜け駆けは駄目よ、ちゃんと待っていてね」
 詩織は慌てて、部屋を出て行った。

「しょうがないな。何もしないと言っているんだけどね……」
 夕一郎はそんな風に呟いたが、かなり興奮して来ている三人の女性達には、彼の心情などまるで分かって
いなかったのだ。

「お、お待たせ。直ぐにしましょうか? それともお風呂に一緒に入って……」
 詩織はもうすっかりその気になっている。
「さっきから俺はやらないと言っているんだけど、聞こえなかったか?」
 夕一郎は少し呆れてたしなめた。

「ええっ! どうしてですか? 私達が嫌いなんですか?」
 ローラが悲しげな表情で言った。
「苦痛なんだよ。いい所までは行くけど、絶頂が無いんだ。インドで何度も試みたけど、どうしても駄目だった。
研究者達とも色々と話し合ったんだけど、理由は分からない。
 快感があり興奮もするけど最後が無い。そのうち萎えて来てしまう。男だったら分かると思うけど、とても辛
い事なんだ。
 気持ちが落ち着いたらそのうちまた試みようと思うけど、今はその気にならないんだよ。分かって貰いたい
んだけどね」
 夕一郎は事実を話した。

「す、済みません。私どうかしてました。すっかりその気になっちゃって、馬鹿みたいです」
 詩織はすっかり、しょ気てしまった。
「ああ、その、淫らになってしまって、とても恥ずかしいです。済みませんでした」
 サマンサも今度はしくじりの恥ずかしさで顔を赤らめている。
「あのう、テ、テクニックが上手くても駄目なんでしょうか?」
 ローラはセックスが上手である事を仄めかした。

「はははは、切羽詰って、夜の街に繰り出して女性を買った事があった。ところがインド一とか豪語する、そ
の方面のベテラン女性テクニッシャンでも駄目だったんだよね。彼女には悔し泣きされてこっちが困った位
だった。
 ローラさんのテクニックはいずれそのうちに教えて貰う事にして、今日のところはここまでにしようよ。俺は
風呂に入らせて貰うから、皆はその間に昼食を取ってくれないか? 前にも言ったけど食べる事も苦痛な
んでね、本当は」
「わ、分かりました。あのう生意気言って済みませんでした。インド一の人でも駄目なのに、私ったら何を言っ
ているのかしらね。本当に御免なさい」
 ローラは素直に謝ったが、聞き様によっては物凄い事を言っていたのだった。何しろ二十二、三の若い
まだあどけない感じの女性が、性のテクニックの凄い事を強調していた様なものだったからである。

「もう、ローラ、あんた、それ程男性経験があるの?」
 詩織が呆れて言った。
「えへへへへ、それは内緒」
 ローラは急に口を噤(つぐ)んでしまったのだった。

「まあ、皆が変じゃなくて、俺が変なんだから仕方が無いよ。この顔だって作り物なんだからね。それにさっき
普通にセックス出来る様な事を言ったけど、本当はかなり違うんだよ。
 普通だったら体の何処を撫でられても気持ちが良いけど、俺は何も感じない。触られている事が分かって
も、快感は無いんだよ。
 キスだってやっと出来る様になったけど、快感は殆ど無い。快感は脳の中で自分で作り出すしかないんだ
よね。ああ、じゃあね」
 夕一郎は真実を話したが、そのこと自体とても辛い事だった。

『絶頂に達した振りをして、彼女達を満足させてやれば良かったかも知れないな。こっちは苦痛でも、相手を
満足させる事は出来るんだから、皮肉な話だよな。
 しかし良い女達だから、尚更嘘は吐けないよ。この連中を騙してはいけない。良心が、理性が厳しく俺を律
している!』
 夕一郎は多少の後悔の念を感じながらも、しかしそれで良かったのだと考え直して、一人風呂に入ったの
だった。

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