夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
158
「はい、今の要領で次、行きます。スタート!」
「3、7、0、2」
「オッケーです。それじゃ次スタート!」
「9、1、8、4、2」
「はい、オッケーです。それじゃ、次、……」
十問やったが、全て正解だった。
「それでは知能テストです。……」
こうして夕一郎の身体能力測定は途中の一時間の休憩も含め、五時間ほども掛けて、様々な能力が測定
されたのだった。
「それでは総合的な能力判定を出しておきましょう。言わなくとも想像が付くとは思いますが、判定はスーパー
Aクラス。もっと上のスーパースーパーAクラスではないが、全体の0.01パーセント、一万人に一人しか居
ないすぐれた能力の持ち主であると判定が出ました。
もっと高い能力を想像された方もあると思いますが、欠如している能力もありますので平均してそうなった
訳です。例えば匂いや味に関しては限りなく低い能力しか持っていません。
これはサイボーグとしては止むを得なかったのですが、厳密な判断としてはそうなります。しかし各々の能
力においては正に超人的でありましょう」
シュナイダー博士は最大限の賛辞を送ったのだった。ただそれは彼の研究テーマがサイボーグであった
からだったとも言える。
誰しも自分の追求するテーマが、最高のものであると思いたいのであるから、ごく普通の事であって、特
に夕一郎を褒め称えた訳ではなかった。その日の行事はそれで全て終り、後は銘々の部屋で休む事になっ
た。
「大黄河様、お疲れ様でした。どうぞ、ごゆっくりお休み下さい。さあ、今度は私が眠る番ですわ。ご一緒に
眠りませんか?」
サマンサは半分冗談の様な本気の様な事を言った。
「何言っているのサマンサ!」
目を覚ましたローラが怒って言った。
「もう、冗談に決っているでしょう。セックスが出来ないお体なんですからね。でも、甘くとろける様なマッサー
ジだったら、疲れも吹き飛ぶかも知れませんからね。
全身を使ってたっぷりして差し上げようと思っただけですわ。お子様には出来ない大人のお色気で味付け
してね」
サマンサはわざと体をくねらせて言った。
「サマンサ、ちょっと、貴方行き過ぎよ!」
今度は詩織が怒りの声を上げた。
「もう、詩織さんまで、本気にして。冗談よ、単なるジョークよ。ああ、もう私は眠りますからね。お休みなさい。
済みません、ネグリジェに着替えますから。あら? もう、お休みよ、大黄河さん」
ローラとは反対側の端にあるベットで、夕一郎は既に深い眠りについていたのだった。肉体的な疲労は
殆どなかったが、五時間に亘(わた)る能力検査は精神的に相当の疲労を与えたようである。
「それじゃ、お休みなさーい!」
サマンサはネグリジェに着替えると、さっさと眠ってしまった。夕一郎の隣のベットである。
「もう、サマンサは危ないわね」
詩織はローラに言った。翻訳機は使っていなかったが、ある程度の日本語は詩織の指導で、サマンサも
ローラも喋れるのである。
「うん、あたしより危ないよ」
「ふふふふ、ローラの言う事じゃない様な気もしますけどね」
詩織は二人のライバルが手強過ぎて疲れを感じていた。しかしまだ眠る訳には行かない。暫くは起きてい
て、ローラの監視が必要だと感じていたのである。
目の前にはテスト用紙があった。
『ふふん、誰が答えなぞ書くものか!』
夢を見ていた夕一郎は何もしなかった。教師が怪訝な顔で見ても、意に介さなかった。すると画面は直ぐ
に切り替わって、明るい街の歩道を数人並んで歩いている光景になった。
子供と女性とそして多分自分とである。
『アーーーーッ!!』
いきなり暴漢が襲って来た。子供の胸にナイフが突き刺さり血が溢れ出る。倒れた子供を抱き締めて自
分は泣き崩れたのだった。しかし子供は死んでしまったのだった。
「ああああっ!」
夕一郎は飛び起きた。
「はーーーーっ、ふうううっ! 夢か! 嫌な夢だな……」
ふと見ると、少し離れた位置で、パジャマ姿のローラが一生懸命DVDカメラで撮影していた。イスに座って
心配そうに見ていたのは、ネグリジェ姿の詩織である。
「だ、大丈夫? 何か凄くうなされていたわよ」
詩織が声を掛ける。
「ああ、子供が殺される夢を見たのでね。恐ろしい夢だった」
「子供が?」
「ああ、誰なのかは分からないけど、男の子だったと思う。ふう、はあ、疲れたからまた眠るよ。良いよね?」
「あ、はい、どうぞ。お休みなさい」
詩織はちょっとあっけに取られたが、その時にはもう夕一郎は眠っていた。
「ふふふふ、本当に眠るのが早いわね。何か日本のアニメの『のぼっ太君』に似てない?」
「そう言えばそうね。……詩織さん、眠かったら、眠っても良いわよ」
ローラは何か邪魔そうに言った。
「貴方、大黄河さんに悪戯(いたずら)しないでしょうね?」
詩織は真顔で言った。
「百パーセント無いよ。大黄河さんあっちの方あんまり好きじゃなさそうだし。彼のベットに潜り込んだりしたら、
きっと嫌われると思う」
ローラも真剣に答えた。
「分かったわ。貴方を信じてみるわ。それじゃお休み」
「お休みなさい」
詩織が眠るとローラは暫くは真面目に仕事の撮影を続けていたのだった。しかし夜の静けさが彼女の心
に魔女の様に囁き掛ける。
『インド一のテクニッシャンが何よ! 私の可愛いお口は、世界一のテクニッシャンよ! どんな男も直ぐに
果ててしまうのよ!』
そう思うと矢も楯も堪らなくなった。
『詩織ご免!』
夕一郎のベットに潜り込み、抱き付いた。
「ふうむ、えっ! ローラ? ちょっと待って、今翻訳機を使うから」
「大丈夫よ、私、本当は少し日本語を話せるの。込み入った会話は苦手だけど、エッチ用語はバッチリよ」
「そうか、それで何の用なんだ?」
夕一郎は惚けた。ベットに潜り込んで来て、抱き付いているのだ。エッチしに来たのに決っている。
「もう、私の気持ちを受け止めて欲しいのよ。貴方の事が大好きなのよ。まだ言ってなかったと思うけど、選
ばれし者になる条件がもう一つあったのよ。何だか分かる?」
「いや、全然」
「それはね、彼氏がいない事なのよ。つまり大黄河さんとこういう関係になる様にって事なのよね。分かるで
しょう?」
ローラはすっかり甘えて言った。
「気持ちは嬉しいけど、エッチは出来ないと言った筈だけどね。どんなに頑張っても行かないんだよ。嘘だと
思っているのか?」
「ううん、でも私には世界一のテクニックがあるわ。きっと満足させてみせる。お口でやるのがとっても上手
だって皆に誉められているのよ。一度で良いから、挑戦させて下さい」
「ふーん、まあ、仕方が無い。でも抜け駆けは駄目だから、他の女子にも見て貰うよ。カメラも回して、その様
子を写せば良い。駄目だったらノーと言うことになる」
夕一郎はキッパリと言った。
「でも、皆に怒られちゃうよ。半殺しにされるかも知れない」
ローラは怯えの表情を見せた。
「じゃあ、一旦、自分のベットに行ってくれないか。俺が全員を起こして、今言った事をやる事にするよ。急に
ムラムラして来たから、頼むと言ってね」
夕一郎はギリギリの妥協をした。
『一回はやってみせないと、本当には信じられないだろうからね』
そう考えたのである。
「わ、分かりました。じゃあ、お願いします。本当は起きていなくちゃいけないんだけど、つい寝てしまった事
にしますから」
「ああ、分かった。じゃあ、取り敢えずお休み」
「はい、お休みなさい」
ローラは半信半疑な気持ちで渋々自分のベットに潜り込んで寝た振りをした。
「サマンサ、起きてくれ」
夕一郎は一応翻訳機を使って演技を開始した。
「はい? な、何?」
サマンサはやや寝惚け加減で起きた。
「詩織さん、悪いけど起きてくれないか」
「……」
詩織は熟睡していてなかなか起きなかったが、二、三度体を揺すって起すと、何とか起き出したのだった。
「ローラ、起きてくれ」
「うーん、むにゃむにゃ、ええ、あら? 私、寝ちゃったんだわ。御免なさい」
ローラはわざとらしく寝惚けた様な振りをしながら起き出したのだった。
「急に、ムラムラして来て眠れないんだよ。でも本格的にエッチする訳には行かないし、何とかならないかな?」
夕一郎は芝居を続けた。
「五分、いいえ十分ですっきりさせて上げられるよ。私、お口のテクニックが上手だって皆に言われているか
ら。サマンサ、撮影を頼むわ。
詩織さんは時間を計っていて。十分、いいえ、十五分頑張ってみる。それで駄目だったら諦めますから。ど
うかしら?」
ローラも必死の演技だった。
「ど、どうしてそんな事になるのよ! わ、私だって何かしたいのに!」
サマンサは承服しかねるようだった。
「じゃあ、こうしよう。もし、ローラが上手く行ったら、サマンサと詩織ともエッチする。もし失敗したら、エッチは
しない。それでどうだ?」
夕一郎は妥協案を出したが、
「私達だけ何もしないというのは、不公平だわ」
詩織も納得しなかった。
「ふうん、じゃあ、仕方が無い。一人十分ずつお口で奉仕するというのはどうだ? 何度も言うようだけど、
本格的なセックスでは俺が辛過ぎる。
もし、三人がやって、仮に誰かで果てたら、この次は本格的なセックスをする事にするよ。有り得ないと思
うけど、それでどうだろう?」
本当にギリギリの妥協だった。
「分かったわ。じゃあ、順番を決めるからちょっと待っていてね」
詩織が言った。三人は簡単なくじを作って順番を決めたのだった。