夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「うふふふふ、私がトップだわ。くじは公平ですから恨みっこ無しよ」
 サマンサはそれなりに自信があるのだろう。
『はあー、泣き出さなければ良いが……』
 夕一郎は気が重かったが、一回は体験させないとどうしても納得して貰えそうもないので、一応協力的な
態度を示す事にした。

「ああ、二番目か。でも、私は余り自信が無いな。でもセックスって、肉欲なんて言うけど、本当はかなりメン
タルなものなのよね。魅力の無い女性だと、上手く行かないって聞いた事がある。大黄河さん、私達って魅
力があるかしら?」
 自信満々のサマンサに比べると詩織は如何にも自信無さげだった。

「うん、十分に魅力的だよ。普通の男性だったら今頃嬉し過ぎて、鼻血出しているかも知れないよ。流石に
選ばれただけの事はあるよ。
 プロポーションも良いし、ルックスも申し分ない。これで彼氏がいないという事が信じられない位だよ。おっと、
余計なお喋りは後にして、じゃあ俺はベットに腰掛けているからそのカッコウでやってみようか?」
 夕一郎はベットに腰掛けると、下半身を露出した。直ぐに一物は大きくなってそそり立った。

『ひょっとすると、今度こそ行くかも知れない』
 夕一郎も一応は期待に胸を膨らませたのだった。サマンサは予想通りなかなか上手だった。しかし、約束
の十分間、幾ら攻め立てても、夕一郎は最後までは行かないのである。強烈な快感はあるのだ。性器の周
辺だけは快感を感じる様に作られている。

「ううううっ、どうして駄目なの? こんなに感じているのに……」
 予想通り駄目だった。次に詩織がやったが、経験の少ない彼女では全然無理だった。そして、目の色を変
えて必死にローラが挑戦した。
 口と手を使い、舌も巧妙に使った。ただ口を動かすだけではなく、全身を、特に腰を使って、上手に愛撫し
たが、とうとう果てる事は無かったのである。

「うえーーーーん、悔しいよう!」
 ローラは子供の様に泣きじゃくった。
「いや、その、とても気持ち良かったよ。有り難う。でも、どうしようもないんだよ。サイボーグになる前だった
ら普通だったんだけどね。
 研究者達も首を捻っているんだけどね、何故駄目なのか。まあ、そういう事だから、気を落とさない様にね。
君達が能力が低いとか魅力的でないとかいう事じゃないんだから」
 夕一郎は必死に慰めたのだった。

「あのう、今頃言うのもあれですけど、その翻訳機は私達の間では要りませんから。私は勿論話せますけど
サマンサもローラも日常会話位は楽に日本語をこなせるんです。ちょっと言いそびれていました」
「ああ、そうだったんだ。じゃあ、安心して話せるね。でもどうしてなのかな?」
 夕一郎はローラから聞いてある程度知っていたが、何故秘密にしていたのか分からなかった。一応、必要
の無くなった翻訳機は直ぐ外した。必要が無ければこれほど邪魔な物は無かったからである。

「もし私がいなければ、サマンサもローラも日本語が分からないと思って、本音を日本語で言うかも知れない
と思ったの。でも、その必要は無さそうだって事に気が付いたわ。本当に優しくて素敵な人なんだもの」
 元々エッチに自信の無かった詩織は、さばさばした感じで言った。

「ところで、今のはどうする? 報告する? カメラで写さなかったと思うけど……」
 夕一郎は24時間記録すると聞いていたので一応聞いてみた。
「今のは報告出来ないわね。サマンサ、ローラ、それで良いでしょう?」
 自分のベットに腰掛けて、しょ気ている二人に詩織はリーダー風に聞いた。

「勿論だよ。成功したら大威張りで報告するけど、大失敗だもの。恥ずかしくて報告出来ないよ」
 ローラにはエッチな事をした羞恥心なぞ微塵も無いようである。それよりも好きな男性を満足させられなっ
た事が相当にショックなようだった。

「私も、あの、日本語が出来るから宜しくね。その、選考基準の一つが日本語がある程度出来ることだった
の。内緒にしていて御免なさい。内緒にしていた理由は詩織さんの言った通りです。
 私も報告しない事に賛成です。自信はあったんだけど、粉々に砕け散りました。セックスも含めて人間の
能力や機能というのは、奥が深いものなんですね」
 サマンサは完敗を認めながら言ったのだった。

「えっと、その、明日はインドに行く事になるけど、宜しく頼みますよ。それからトイレの話が出た事があった
けど原則として俺は行かないから。
 何かを食べたり飲んだりした時には、それらを吐き出す為に行くんですよ。大小便は全く出ません。どう考
えても人間じゃありませんね。
 はははは、じゃあ、明日の朝、ああ、もう数時間後ですけど、宜しくお願いします。さっきの事は余り気にし
ないで眠る事です。じゃあ、お休みなさい」
 夕一郎は相変わらずの、『のぼっ太君』風の瞬眠だった。

「お早う御座います!」
 ローラの声だった。頗る明るい。
「ああ、お早う!」
「お早う御座います。もう私達は朝食を済ませましたけど、宜しいですわよね、食べなくても」
 サマンサもすっかり陽気になっている。
「はい。それで良いのです。それじゃ、行きましょうか? ええと、詩織さんは?」
 夕一郎は詩織がいない事に気が付いた。

「てへへへ、トイレです。時間が掛っているから多分大の方ですよ、きっと」
 ローラが可笑しそうに言った。
「誰が大なんですか?」
 笑いたくても笑えないような顔で詩織がやって来た。

「ははははは、そんなに気にしなくても。大、中、小どれでも良いじゃないですか」
 夕一郎は冗談めかして言った。
「はい? 中ってあるんですか?」
 ローラが真顔で聞いた。

「あっははははは、可笑しい、中なんてある訳ないでしょう。ジョークよジョーク!」
 サマンサが噴出して笑った。
「あはははは!」
「ははははは!」
「もう、からかうんだから。えへへへへ、もう、あはははは」
 夕一郎も詩織も大笑いをした。ローラは照れ臭そうにしながら笑って、仕舞には自分でも大笑いをした。
夜の失敗なぞ無かったかの様に陽気で和やかな雰囲気になったのである。

「なかなか楽しそうですね」
 四人が笑いながら部屋の外に出たのと、シュナイダー博士やその取り巻きがやって来たのとほぼ同時
だった。
「ああ、お早う御座います。今、大黄河さんが冗談を言って笑わせたので、皆して大笑いしていた所なんで
す」
 詩織が英語で説明した。勿論、夕一郎を始めとして、殆どの者が翻訳機を使っている。

「ふん、いい気なものだな。さぞかし楽しい夜だったろうよ!」
 聞こえよがしに皮肉ったのはリーダー格のゲーリーだった。彼も含めてその場に居たかなりの者達は、
夕一郎が性的に満足出来ない体である事を信用していなかった。女達と宜しくやる為の、口実の様なも
のだと思っていたのである。

 ただ博士の手前、余りきつい事は言えなかったのだが、楽しげに談笑している姿を見て、カッとなった様
だった。
 楽しそうにしていたのは、夜の営みの失敗の裏返し。やりきれない気持ちを何とかカバーしようとする気
持ちの現れであった事なぞ、無論知る由もなかった。

「妬むのは良くないな、ゲーリー君。もしそれ程妬ましいのだったら、君もサイボーグになってみるかね? 
何時かは、第二号のサイボーグも作ろうと思っているのだが、流石になり手が無くてね。
 脳とその周辺の神経などだけが自分の体で、後は全て作り物である事がどんなものか、体験してみるか
ね。但し元の体には絶対に戻れないのだよ。分かっているのかな、その意味が!」
 博士は厳しい口調で注意した。

 実際、夕一郎は今、空腹にじっと耐えているのである。仮に淫らな夜の営みに耽(ふけ)っていたとしても、
決して割に合う話ではない。
 何かと寝てばかりいるのは空腹に耐えようとしているからでもあるのだ。しかも一切の味覚と殆どの臭覚
とを失っている。夕一郎自身は性機能よりも、食機能を完全にして欲しかったのだが、どうやらそれは不可
能な様である。

 更に不自由なのは、月に一度は体の一部を交換する必要があることだった。人工の肉体は機能的に期
限があって、最長でも一年位しか持たないのである。
 つまり一年以内に本来の自分の脳と、その周辺の神経などを除く、全てを入れ替えなければ、死に至るの
である。
 当初は予想していなかった事だった。その為に何十億円というお金が掛かってしまうのだ。彼の場合、お
金の切れ目が、命の切れ目になってしまうのである。その様な厳しい現実をゲーリーはもとより、シュナイ
ダー博士すら十分には把握していなかったのだった。

「す、済みません。ついその、余りにも楽しそうだったので……」
 ゲーリーは慌てて繕った。博士に睨まれては自分の出世に関わると思って自重した。
「ああ、楽しそうに見えましたか。でも、例えば今、目眩(めまい)がするほど空腹な事を知っていますか?」
 夕一郎は事情を仄めかす事にした。ゲーリー達とはこれから長い付き合いになるかも知れないのである。
気拙い関係にはなりたくなかった。

「空腹? そう言えばそうだったね。解消出来ないんだったよね?」
 博士は思い出した様に言った。
「はい。食機能が全くありませんのでどうにもなりません。定期的に襲って来る空腹感を誤魔化す為に、部
屋の中にいる時も殆ど寝てばかりいました」
 夕一郎は頻繁に寝ている事を強調したのだった。

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