夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「あ、あのう私は今はあっちの方は必要ありませんから、大吾さんと一緒に上がって、レストランで食事とい
う事にしたいのですが。
正直な所疲れておりますので、食事をしたら一眠りしたいのですよ。まあ、エッチの方はその後ということ
にして貰えませんか?」
泰治も柔らかな口調で断った。
「そうですか、それもそうですね。ここは普通二人で入るのでしょう? まあ、日本人の体格からすれば、
四人でも狭くはありませんけどね」
「えっ、じゃあ、私達も一緒に上がりますから。あのう、おこがましいのですが、食事をご一緒するのは、駄
目でしょうか?」
ユカリは恐々聞いた。
「うーん、今日のところは遠慮してくれないか。枯山河さんと二人だけで話があるんですよ。それでその、
今頃気が付いたんだけど、私の服の着替えが欲しいから、買って来てくれないか、ユカリさん、フィリーさん」
全身を泡だらけにしてシャワーを浴びながら夕一郎は言った。
「あ、はい。承知しました。普段着で宜しいのですか?」
「うん、そうだな。動き易くて丈夫な素材の物が良いな。派手過ぎず、地味過ぎず、まあそこいら辺は任せる
よ。ここの部屋で待っているからね。
取り敢えずは備え付けのガウンを着ておくよ。お金は後で支払うから。まあ手数料としてテンパーセント
位は払うからさ」
夕一郎はメイドに対する様な感覚で言ったが、直ぐ訂正した。
「いや、君達はメイドじゃないんだから、手数料は三十パーセントにしておくよ。これだったらまあまあじゃ
ないか?」
「あ、あのう、お金は要りません。お詫び方々私達にプレゼントさせて下さい。お願いします」
「ワタシカラモ、オネガイシマス。モウシワケナイコトヲ、シテシマイマシタカラ」
二人の女性は全裸のままで頭を下げた。風俗関係の仕事をしているので裸でも恥ずかしく無さそうだった。
「うーん、そうだな。今回限りということで、お言葉に甘えましょう。じゃあ、そろそろ上がりますよ」
夕一郎がタオルで体を拭くのを二人の女性が慣れた手付きで手伝った。そそり立っていた一物は、今は
すっかり萎(しぼ)んでいる。
「それにしても凄い傷だわ。こ、これで痛くないんですか?」
ユカリは怖くはあったが聞かずにいられなかった。
「ああ、全然痛くないよ。一応僅かな痛みは感じる様になっているんだけど、それは、強いダメージがあった
時だけなんだ。
さっきも言ったけど、この事は国家機密なんだ。ここだけの話にしてくれ。もし誰かに聞かれても、知らな
い振りをしていた方が良い。
だけど、身の危険を感じたら言っても良いからね。フィリーさん、それから枯山河さんにもお願いしますよ。
出来るだけ言わない様に、でも危ない時には話しても良いですからね」
夕一郎は言った事を後悔はしたが、最早言わなかった事には出来ないので、聞かれた場合の対処の仕
方を説明した。
その後、枯山河も女達に丁寧に体を拭いて貰って、二人ともガウンを来て待つことにした。ユカリとフィ
リーとは一緒に連れ立って二人の服を買いに行った。
二人が居たのは待合室の様になっている小さな部屋で、2626号室に入ると、そこに行く事になるのだ
が、ここでは順番を待つ部屋になっている様である。
大きなテレビが置いてあって、四つある特殊浴場の様子が映し出される様になっていた。客達が自分
の順番の前にそれ等を見て、興奮状態を高めて貰おうというものらしい。
一応ソファーとテーブルがあって、冷蔵庫の中にビールやワイン、ちょっとした摘み等が入っている。し
かし、二人とも今は酒類を飲む気になれなかったので、ウーロン茶にした。
「乾杯!」
「乾杯!」
妙な気分だったが、ウーロン茶で乾杯した。服を買いに行った女達はなかなか帰って来なかったが、
「まあ、女性に服を買わせたら、時間が掛るでしょうからね。その間、少し眠っておきましょうか?」
ウーロン茶で喉を潤した後、夕一郎の提案で二人ともソファーに腰掛けたまま、うつらうつらしていた。空
腹のせいもあるのだろう、泰治はなかなか寝付かれなかったが、夕一郎は直ぐ眠ってしまったのだった。
「起きて下さい、あのう、大吾さん!」
肩を揺すられながら声を掛けられて、夕一郎は目を覚ました。幾分強張った顔のユカリが目の前にいた。
「ああ、すっかり眠ってしまったな。ええと、枯山河さんは?」
「トイレデス。フクヲキガエテ、スグトイレニハイリマシタ」
フィリーが説明した。
「ああ、そう。じゃあ、私も着替えるか。服はどれだ?」
「はい、これなんですけど。何と言うのか、よく分からなくて、高級なトレーニングウェアにしたんですけ
ど……」
散々迷ったらしいユカリが心配そうに言った。
「ズイブンカンガエタノデスガ、コウキュウカンノアル、スポーツウェアデス。シロヲキチョウニシテイマスケド、
ゴージャスカンガ、アルデショウ?」
フィリーは一生懸命説明した。
「はははは、心配しなくても良いよ。それで十分だ。じゃあ、着替えるから」
夕一郎はそこでも想像を絶するパフォーマンスを見せた。たった五秒で、ガウンを脱ぎ、スポーツウェア
の上下を着てしまったのである。
「えええっ! まるでマジックみたいだわ!」
「シンジラレナイ!」
ユカリもフィリーも唖然とした。まるでビデオテープの早送りみたいだったのだ。
「ああ、お待たせしました。ああ、良く似合っていますよ」
泰治は何があったのか分からずに、取り敢えず夕一郎の服を誉めた。自分も似た様な、夕一郎のもの
よりは少し地味な感じのスポーツウェアだった。
ただ値段的に言えば二人のものはさほど違いが無かった。二人分で約二千ドル。スポーツウェアとして
は最高級品である。
二人の男は余り服装には頓着しない方なので、それで満足だったが、二人の女にとっては重大な事だっ
たのである。特に夕一郎が満足するかどうかは気になるところだった。
『に、人間じゃない! 本当に人間じゃない! だったら何なの? 拳銃で撃たれても死なない。ナイフを刺
されても平気な顔をしている。
モンスター? モンスターって何? もう理解出来ないわ! 国家機密! アメリカ大統領とも関わってい
る! 兎に角大変な何かなのよね。怖い、怖過ぎて声が出ない位だわ……』
ユカリはそんな事を感じていた。
『ナニカオソロシイコトニ、ナリソウネ。ナントモイエズ、コワイワネ』
直接、夕一郎の恐るべきパワーを見ていないフィリーは、ユカリほどショックは受けていないが、それでも
ただならない気配は感じていたのだった。
「ああ、枯山河さんもスポーツウェアだったんですね。しかもなかなか洒落た感じの。これは貰っても良い
んですよね?」
「はい、私達からのプレゼントです。じゃあ、御用が御座いましたら、呼びに来て下さい。ああ、電話でも良
いですけど。私は2655室に居ますから」
「ワタシハ2656ゴウシツデス。デンワデヨンデクダサレバ、スグカケツケマスカラ」
ユカリとフィリーは自分達の部屋の番号を教えて、待機する事にした。
「2655室と2656号室だね。じゃあお二人さんはお隣さんなんだ。まあ、後で連絡すると思うけど、それ
までゆっくりしていれば良いよ。私達は大事な話があるから、最上階のスカイレストランに居るからね。
緊急の用事があったら、電話とか直接来るとかして連絡してくれ。それじゃあ暫く失礼するよ。じゃあ行
きましょう、枯山河さん」
「はい。ああ、意地汚いと思われるかも知れませんが、もう、お腹がペコペコなんですよ」
「はははは、別に意地汚くなんか無いですよ。丸一日以上何も食べていないんですから、何はともあれ空
腹を満たす事です。兎に角行きましょう!」
二人はいそいそとスカイレストランへ向かったのだった。
「はーっ、良かった。スポーツウェアが気に入らなかったらどうしようかと思ったわ」
「ハイ、ワタシモデス。デモ、ダイゴサン、ドコカデミタキガシマス。テレビデ、ミタキガスルンデスケドネ
エ……」
「ええっ、テレビで見た?」
「ハイ、タシカニミタキガシマス。ダンダンオモイダシテキマシタ。ナマエハチガイマスケド、ネンマツノバン
グミニデテイタヒトデス」
フィリーは思い出したようである。
「だ、だ、だれ? 芸能人なの?」
「イイエ、アマチュアノヒトデス。ナントカトイウ、バングミニデテイマシタ。ハシッタリ、アンザンシタリ、カクト
ウギトカシタヒトデ、ユウショウシタヒトデス」
「番組に出て、優勝した? 走ったり、暗算したり、格闘技とかした? えええっ! それだったら私も見た
事があるわよ。
全部見た訳じゃないけど、確か、名前は、……駄目だ、思い出さない。そうだわ、日本のテレビ局とかに
電話すれば、……いいえ、ネットで調べれば良い! フィリー貴方も私の部屋に来てくれない? 凄い事が
分かるかも知れないわよ!」
ユカリは勢い込んでフィリーに言った。
「ウン、ワカッタ。イキマショウ!」
フィリーもその気になった様である。
その頃夕一郎と泰治はスカイレストランで食事を頼んでいた。
「わ、私は、ジャパニーズ・スープ・パスタ! とうとううどんが食えるぞ!」
念願のうどんが食えるとあって、泰治は興奮気味である。