夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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 シャワーも浴び、着替えも終ると、若い兵士は以前に行った事のある、深い地下研究所へ通ずるエレ
ベーターのある軍事施設へと夕一郎を案内した。
「いや、お懐かしい。二度と会えないのではないかと心配しておりましたが、お元気そうで何よりですよ」
 軍事施設のエレベーターの前で待っていたのは、アーノルドとルーカス、そして久し振りに出会ったシュ
ナイダー博士だった。

 夕一郎は笑いながら軽く頭を下げたのに止めた。
『一体何が待っていると言うのだ。以前とは明らかに雰囲気が違う。ゴールドマン教授が主導者になった
時も大きな方針転換があったと聞かされたが、今回は更に大きな方針転換があったのではないのか?』
 そう思うと、気安く話をする気にはなれなかったのである。

「ご苦労、君は休んでいてくれたまえ。明朝からは通常の勤務に戻って良いぞ」
「はい、失礼致します!」
 若い兵士はルーカスやアーノルドに敬礼をしてから、足早に自分の住居に戻って行った。

 用心の為か、他に数人の屈強の兵士がいたが、彼らは武器を携帯していなかった。恐らく夕一郎の感
情を刺激しない様にという配慮なのだろう。しかも良く見ればそのうちの一人は女性兵士だった。シュナイ
ダー博士らしい気配りのようである。

 一行は直ぐにエレベーターに乗った。相変わらずの狭さだったが、内装が少し変ったようだった。
「何か前の時と、エレベーターが変った様な気がしますが?」
 夕一郎は素直に聞いた。

「はい。ちょっと揉め事がありましてね。何もエレベーターに八つ当たりする事は無いでしょうに、蹴飛ば
したりして、内部をボコボコにした者があったのですよ。
 某教授とその配下の者達だったのですがね。彼らはお払い箱になってしまったのでね。その腹いせだっ
たのでしょう。はははは、困ったものです」
 博士は暗にゴールドマン教授一派の事を示唆したのだった。

「あああ、そんな事があったのですか。大体想像が付きます。……しかし不思議ですね。何かこう以前来
た時とはかなり雰囲気が違います。シュナイダー博士、何か重大な変更でもあったのですか?」
 ゴールドマン教授の事などどうでも良かった。夕一郎は現在進行中の『何か』について探りを入れてみた
のである。
「ああ、しかし、その翻訳機は以前渡した物と、形が違っているようだが?」
 博士は質問には答えずに翻訳機の形状の変化について聞いたのだった。

「これは使い易い様に改良しました。今までのものでは翻訳機と自分の声と両方聞こえて話し難いので、
呟くだけで、それがちゃんと音声になる様にしたのです」
 その点に付いては正直に言った。

「ほほう、大したものですね。工学系の素質もあるかも知れませんね」
 博士は肝心の事には答えずに何か誤魔化そうとしている様だった。
「博士、そろそろ我々にも聞かせてくれませんか? 私もアーノルド君も大統領に忠誠を誓った身だ。秘
密を漏らす事など、有り得ないのだがね!」
 ルーカスは悔しさを滲ませながら言った。

「はい。そう言うだろうと思っておりましたよ。地下研究所に着いたらお話致しましょう。今回研究所のメン
バーも大幅に変更になりました。
 それに当たっては、種々のテストを実施して合格した者のみ研究員に採用しています。申し訳ないが、
皆さんにもこれからそのテストを受けて頂きます。
 そこまでしなければならない最高機密中の最高機密なのです。話を聞けば何だそんな事かと思うかも
知れませんが、私もクラスファー大統領も用心深い性格でしてね。
 今回のプロジェクトは百パーセントを期することなのですよ。失敗は絶対に許されない。これ以上の事
は申し上げられませんが、兎に角パーフェクトを要求する事なのですよ。
 まあ、大黄河君には本来必要ありませんが、念の為にテストを受けて貰いますよ。宜しいですか?」
 博士の言葉にはとてつもない重さがあった。

「テ、テストですか? はははは、この老骨にはちょっときついですな」
 七十才に近いルーカス総合司令はやや不愉快そうに言った。
「はははは、仕方がありません。これは大統領も承知の事なのですから。ちなみにここにいるボディー
ガードの若い兵士達も、ちゃんとテストを受けて合格した者達なのですよ。
 テストを拒否なさるのならば、お帰り頂くしかありませんよ。それでも宜しいですか、ルーカス総合司令。
アーノルド連隊長も宜しいですか?」
 シュナイダー博士は非情に言い切った。

「……分かったよ。テストを受ける。それで合格すれば良いが、もし不合格なら?」
 ルーカスは仕方無しにそう言った。
「残念ですが、その場合は、プロジェクトから外れて頂きます。相当の数の研究員がそのテストで不合格
になって、地上勤務に変更になりました。大幅な研究員の入れ替えはそれが最大の理由でした」
 シュナイダー博士は冷静に言った。

「ははははは、それほど不合格者が多かったのですか。む、難しいのですか?」
 アーノルドは自信無さそうに聞いた。
「難しくはありません。一種の性格テストなのですよ。今回のプロジェクトに向くか向かないか、それを見
極める為のテストです。
 ですから問題そのものはごく易しい物ばかりです。と言うよりも全く難しさはありません。質問に対してイ
エスかノーか、それを答えるだけですから」
 シュナイダー博士はあっさりと言った。

「性格テストか。うーむ、余り自信が無いな。自分でも性格が悪いと思っているのでね。シュナイダー君、何
とかならないのか? コツは無いのかね?」
 ルーカスは相当に困った様子だった。
「性格テストですよ。しかしその、普通の性格テストじゃありません。何度も言うようですが今回のプロジェ
クトに向くか向かないか、それを見極めるだけですから。
 人間的に優れているとかどうとかいう事ではありませんから。たった一人だけの例外は大黄河夕一郎
さん。貴方だけはテストの成績に関わらず、不合格は有り得ませんから。その積りでいて下さい」
「チンッ!」
 その辺りでエレベーターは地下千メートルの研究所に到着したのだった。一行はテストが行われるとい
う小会議室に入って行った。

「先ず、最初にお断りしておきます。テストを受けるか受けないかは自由です。受けたくない人は、直ちに
部屋から出て、地上にお戻り下さい。
 別に恥でも何でもありません。今回のプロジェクトには向かなかった、それだけの事です。その事によっ
て今後不利益を受ける事は一切ありませんから。
 五分間だけ待ちます。良く考えて下さい。このままテストを受けない方が、精神的に傷つかなくて良いか
も知れませんよ。じゃあ五分間の準備タイムスタート!」
 シュナイダー博士は自分の腕時計のストップウォッチ機能を使って、五分の計測を始めたのだった。

「アーノルド君、君はテストを受ける積もりかね? 止めて私と一緒に帰る気は無いのかね?」
 ルーカス司令は如何にも自信無さそうに言った。
「申し訳御座いませんが、テストは受けます。はははは、たかが性格テストですよ。不合格の時はそれこ
そ、男らしくキッパリと諦めます。
 テストも受けずに、諦めたのでは男が廃(すた)ります。ここは度胸一番、テストを受けてやろうと思って
います。もう一度言います、たかが性格テストですよ。ドンと来いですよ!」
 アーノルドは強気に言い放った。

「ふーーーーうっ! 分かった、君は案外冷たい男だったんだね。ああ、受けてやる、受けてやるとも!!」
 ルーカス総合司令はもうやけくそになって言ったのだった。
「はい、五分経ちました。これが最後です。テストを受けたくない者は、今直ぐ地上に戻って下さい。良い
ですか? 締め切りますよ。良いですね? 締め切りました。
 この後、途中でテストを放棄したり、テストの妨害をしたり、テストの途中で帰ったりした場合にはそれなり
の処罰があります。
 念を押します。テストを受けたくない者は今直ぐここを出て行って下さい。無いのですね? 分かりました。
これ以降は処罰がありますので、宜しく」
 シュナイダー博士は実に念入りにテスト拒否者を排除した。少しくどい位だったが、彼らしくもあった。

「では、これより、簡単なペーパーテストを行います。出来るだけ頑張って、良い成績を取って下さい。得
点が低い者は失格です。失格の者は直ちに地上に戻って頂きます。それではテストペーパーを配布して
下さい」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今、成績の良い者が合格と言ったよな?」
「はい、確かにそう言いました」
「さっきまでの話と違うじゃないか。性格テストで成績の良し悪しと関係が無いと言わなかったか?」
 ルーカスは納得しなかった。

「はははは、ちょっと説明不足でしたか。改めて正確に言いましょう。今回のプロジェクトに相応しい人は
高得点を取れる様になっています。
 何度も言いますが、テストの点が低くても、人格に問題があるとかじゃありませんから。ただ、今回のプ
ロジェクトに向く人は自然に点が高くなる様に設定されているだけの事ですから。
 もう一度言います、この期に及んで文句ばかり言っていると、減点されますよ。減点は今後の収入にも
響いて来ます。さてテストの制限時間は一時間。用意、始め!!」
 シュナイダー博士は情け容赦なくテスト開始を宣言したのだった。

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