夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「ふんっ! じゃあそうさせて貰うわ! 悪いけど宇宙服を着るのを手伝ってくれないかしら?」
 早速リタイヤを決め込んだのは、二十才の天才科学者イザベルだった。彼女には女性達が手伝おうと
したのだが、
「ジェリー、貴方手伝って。他の人達には手伝って欲しくないから」
 そう言って嫌ったのだった。

「ああ、分かった。じゃあ、手伝うから。ああ、それで僕も止める事にするよ。こんな無意味な実験に付き
合っていられないよ」
 イザベルにはジェリーが、ジェリーには夕一郎が手伝って何とか宇宙服を着込んで、隣の小部屋に二人
並んで入って行った。宇宙服を着るのには一時間位も時間が掛った。宇宙服の装脱着に随分時間が掛
るので、実験開始からもうかなりの時間が経過している。

 模擬宇宙船の実験室には夕一郎と、ヘレン、ミシェルが残った。
「ふう、行っちゃったわね。うふふふふ、私達はこれからどうすれば良いのかしらね。まさかエッチしろって
言うんじゃないでしょうね? まあ、どうしてもというのならしない事もないけど」
 少し危なめな冗談を言ったのはヘレンだった。

「ヘレンさん、少し冗談がきついわよ。私達は監視されているのよ。分かっているの?」
 まだ二十代のミシェルがヘレンに忠告した。サイボーグであるとはいえ、れっきとした男性が目の前にい
るのである。異性を目の前にしての冗談にしてはきついと思ったのだ。

「ふふふふふ、若いわねえ、私にも貴方みたいな潔癖な時代があったわ。ところで今回の実験の目的は
何かしら?
 私の想像だと、多分緊急事態における冷静な判断能力の育成か何かでしょうね。今の状態は目的も
無く密室に閉じ込められた状態ですものね。
 普通だったらデニーみたいにいらいらして暴れたくなるものなんでしょう。それから、博士は今が実験中
であることをしきりに強調していた。
 その言葉の意味は、いいえ、その言葉の意味を冷静に考えることが、今回の目的の一つなんじゃない
のかしら?」
「じゃあ、さっきのテストは何の為だったの?」
 ヘレンの推理にミシェルが疑問を呈した。

「それは多分、見かけ上の能力の劣る者に、冷静に対処出来るかどうかの判断の為だと思うな。つまり
テストの結果は予想通りだった。
 その場合に生ずる差別意識をむしろ助長して、人間性を厳しく判断する。たかがテストの成績が悪い
位で差別意識を持つ者は、人間的に劣る者として冷酷に排除する。
 シュナイダー博士は今回のこのプロジェクトをなんとしてでも成功させなければならないので、非常手段
を取っていると俺は思うけどね」
「えっ! だ、大黄河さん、それは博士から聞いたんですか?」
 ミシェルは夕一郎が翻訳機を通して英語が普通に喋れると分かって、自分も英語で話す事にしたの
だった。

「ふふふふ、ミシェル、大黄河君がそうだとは言っていないでしょう? 勿論彼の推理よ。ねえそうでしょう?」
「ああ、そういう事です。今回のプロジェクトに沢山の人を集めたのは、勿論沢山の仕事があるからでしょ
うが、それだけじゃなくて、俺の良きパートナーを選択する意味もあるんじゃないのかな? つまり大勢の
中から選ぶ方が確かな人材を得られると言う考え何だと思います」
 夕一郎は熱弁を振るった。彼にもやっとシュナイダー博士の意図が見えて来たのである。

「その通り! さっきのテストはダミーに過ぎなかったのですよ!」
 突然、モニター画面に現れたシュナイダー博士は今回の実験について詳細を語りだした。

「大黄河君には一切知らせていなかったのだが、数千人の研究者の中で、今回の実験に耐えられそう
な人材五人を事前にテストして絞って置いたんですよ。
 一番成績の良かったのは、デニー君だった。我々は大いに彼に期待していたんですが、その彼がまさ
かあんな態度に出るとはね。
 彼は事前のテストでは、差別は許されない行為だとか、成績だけで人を判断すべきではないと言ってい
たのですよ。
 ところが実戦になると化けの皮が剥れてしまった。イザベルとジェリーも同様に予選では素晴しい主義
主張を展開していたのですよ。
 立派な人格者だと我々は考えて期待していたのです。しかしそれは見せかけに過ぎなかった。勿論、今
回の実験はそれを見破る為のものだったのですが、予想外の結果に、スタッフは大慌てです。
 それから、デニー君の怪我はそれほど酷いものでなかったので、安心して下さい。まあ、全治一ヶ月位
でしょうけどね。それでは、今日の実験はこれで終了ですので、宇宙服を着て戻って来て下さい。
 大黄河君は二人の宇宙服の装着を手伝って下さい。最後に装着するのは勿論貴方ですよ。それでは
無事帰還を待っておりますからね」
 一方的に長々と言って、終るとまた一方的に切ってしまった。

『何かあるのかな?』
 夕一郎は少し考えてみたが、結局分からなかった。三人はやはり一時間以上も掛って宇宙服を着込ん
でから三人一緒に地上に戻った。実験開始からざっと七時間掛っている。その殆どが宇宙服の装着や
脱着に掛った時間だった。

「いや、ご苦労だったね。お迎えが来ているよ、桜山さんが貴方の帰りを待っておりますからね。じゃあ、
今日はゆっくり休まれると良い。明日もハードな訓練がありますからね」
 シュナイダー博士は夕一郎の労を労(ねぎら)って後は林果に任せた。

「お帰りなさい、実験の内容や結果はざっとですけど、博士に知らせて貰いました。結構精神的にハード
な事をするんですね。ねえ、たまには私の部屋に寄って行きませんか?」
「ああ、そうだな。でも、その、良いんですか? サイボーグだけど一応男なんですよ。ひょっとすると狼に
変身するかも知れない」
 冗談めかしながらも夕一郎は半ば本気だった。

『林果と部屋の中で二人きりじゃ、情欲を押え切れるかどうか自信が無いな』
 そう感じていた。
「うふふふふ、狼になっても良いかも知れないわ。私、少し変なんです。ふしだらな女なんでしょうか?」
 歩きながら、心の乱れを正直に話した。

「うーん、その、何と言うか、……」
 本気で判断に窮した。
「あはははは、そんなに深刻に悩まなくても良いと思いますわ。だって、子供は出来ないんでしょう?」
 笑った後は耳元で囁いた。

「はははは、ま、まあ、そうなんだけど、俺は絶頂に達しないんですよ。何故か分かりませんけどね。エッ
チは出来るのにね」
 お返しとばかりに、耳元で事実を囁いた。

「えっ! まさか。ああ、ここが私の部屋ですから。桜山林果って漢字で書いてあるでしょう? 何時でも
夜這いに来ても良いですわよ。うふふふふ、やっぱり私って変!」
 冗談とも本気とも付かないような事を言い合って、二人は仲良く彼女の部屋に入って行った。

「ちょっとそこに座っていて下さい。今コーヒーを入れますから。あの、食事はいらないんですわよね?」
「はい。後でアレする必要があるので、まあ、コーヒー位が良いところなんですよ」
「コーヒーもアレするんですか?」
「はい、残念ですけど、全てアレします」
「うふふふふふ、私達の会話を誰かが聞いたら何て思うのかしらね。実に変なカップルだと思うでしょうね」
「はははは、そうですね。でも部屋の中が女性らしい感じなのに驚きました。もっと学者らしく、難しそうな
本だらけだと思っていたんですけどね」
「はい、お待たせしました。砂糖とかミルクとかはどうします?」
 林果は自分のにはもうたっぷりミルクも砂糖も入れてかき混ぜながら聞いた。

「いや、ブラックで良いです。その方がアレする時楽ですから。あああ、済みません。今は言うべきじゃな
かったですね」
「いいえ、そんなに気にしていませんから。それよりさっきのご質問の答えなんですけど」
「質問?」
「はい、部屋が女性らしくて驚いたって言う、疑問に対する答えですわ」
「ああ、そうですね、じゃあ、答えて下さい」
「はい。貴方を待っている間に大改造したんです。昨日までは確かに、大ちゃんの言う通りの殺風景な部
屋でした。でもそれでは来て貰っても、エッチしたいとか思わないでしょう?
 それで赤やピンクの飾りを沢山付けたりして、若い女性っぽくしたんです。ちょっと子供っぽかったかし
ら?」
 コーヒーを啜りながら時々、夕一郎をじっと見詰めた。

「いや、子供っぽいと言うほどではないし、とても魅力的なんですけど、その気になっちゃっても良いんで
すか? でもがっかりしますよ。
 俺は何と言ってもサイボーグなんですからね。元々は全く感じなかったのですけど、何とか改良して、感
じるようにはなりました。でも果てる事が無い。虚しいんですよね。……あああ、林果!」
 コーヒーは途中だったが、テーブルの上に少し慌てて置くと、林果に抱き付いて、キスをした。一瞬の躊
躇いはあったが、意を決して林果は応じた。 

『あああ、駄目だ、してはいけない!』
 理性は必死に押し止める。しかし、キスはとろける様に美味しかった。理性のたがは外れ、林果のベッ
トの上で情を交わし始めてしまったのだった。林果もしばしば躊躇う瞬間があった。しかし彼女の理性も
何処かへ消失してしまったのである。

『どうしてだ、今までと全然違う。この心の奥底からの歓喜は何だ?』
 絶頂に達しないまでも何人かの女性とエッチして来たのだが、印象が違い過ぎるほど違っていた。

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