夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

                              200


「宇宙船『ニューアメリカンV』は現在宇宙で組み立てられています。急ピッチにです。近い内にその宇宙
船の目的が正式に発表になりますが、多分世界が大騒ぎするでしょう。
 メガトン級の核ミサイルが搭載される事になるのですから。ですが、それに乗って行く者はいません。
いや本当は一人いるのですが、建前としては居ない事になります。
 その宇宙船の組み立て場所は、アメリカ空軍基地の真上から南東へ数千キロの地点、赤道上空の静
止軌道上にあります。宇宙船の出発まで、船内で君たち三人が活動する事になります。
 もうお聞き及びの事と思いますが、大黄河君は宇宙船と一体となって頂きます。その為にもう数人のス
タッフが乗り込んでその作業を致します。
 しかし船内の活動は沢山あって、先ほど言ったスタッフの人達は主に、大黄河君を宇宙船と一体化さ
せる作業をします。それ以外の作業を、ヘレン、ミシェル、君達二人にやって貰うのです。
 ああっと、前置きが長くなりましたね。それでは授業に入りましょう。先ずテキストをお渡ししておきます。
全部英語ですので、日本語への翻訳は、ミシェル、貴方がやって下さい。では、テキストの最初のページ
ですが……」
 かなり一方的に講師のケッペルは話し続けた。授業内容が大量にあるので、ゆっくりしてはいられない
のだろう。

 夕一郎にとっては辛い時間だった。テキストはオール英語であり、翻訳はして貰っているものの、微妙
なニュアンスが分かり辛く、完全には飲み込めない個所が何ヶ所もあった。
 昼食、夕食、二食の休憩を挟んで十二時間にも及ぶ授業だったのだ。頭の中がパニックになりそうだっ
た。

「ご苦労様。大変ね、素人には難し過ぎると思うわ。あの、私の部屋で寛いで行って下さい。コーヒー位し
か出ませんけど」
 もう、林果の送り迎えは毎度の事になっていた。しかし拙い事があった。険しい顔でヘレンが林果に挑
発的なことを言った。

「貴方、桜山さんよね?」
「は、はい。それが何か?」
「大黄河君が貴方のセックスフレンドだと言うことは、分かっているけど、何も毎日、送り迎えする必要は
無いわ。恋人の積りな訳? いい加減にして欲しいわね!」
「べ、別にセックスフレンドと言う訳では。こ、恋人でもありません。ただ私は仕事としてやっているのです。
大黄河さんの面倒をみるようにとシュナイダー博士に仰せつかっていますので」
 林果は一歩も引かなかった。

「でも、私達は大黄河君とこれから一緒に親密に付き合って行くんですから、余りしゃしゃり出て来ては困
ります!」
 意外にもミシェルが強い口調で言った。
「それとこれとは別ですわ。私と大黄河君とは体の関係もある親密な間柄なんです。昨夜だって感激して、
泣いた位なんですからね。私を心底愛しているんだと思いますわ」
 林果は方針を変えて、二人が愛し合っていることを強調した。

「うふふふふ、どうあがいても駄目な事が分からないのかしらね。もう直私達は宇宙船に乗り込むのよ。
邪魔者は誰もいない。なんせ宇宙なんですからね。
 私は大黄河君をたっぷりとお慰めしてあげるわ。私の虜にしてみせる。一晩中、いいえ、一日中エッチ
三昧よ。私の体は二十代の女性に負けない位若くて美しいわ。
 その上テクニックも抜群。後何日も無いから、せいぜい頑張ってみれば。じゃあね、失礼しますわ。行
きましょうミシェル」
 ヘレンは言いたい放題だった。

「ふん、何よ、勝手にすれば良いわ! 大ちゃん行きましょう」
「あ、ああ」
 林果は夕一郎の手を引いて、自分の部屋に向かった。しかし、歩いているうちに目に涙が溜って来て、
幾筋か零れ落ちたのだった。

「り、林果、あ、いや、桜山さん、な、泣いているんですか。あの連中の言う事なんか信じなくても良いのに。
適当な事を無責任に言っているだけですから」
 夕一郎は慰めの言葉を言った。しかし、その言葉の中には嘘があった。二人は昨夜の時と同様一緒に
部屋に入った。違う事があるとすれば林果の涙だった。

「御免なさい、私、私、……」
 部屋に入って間も無く、二人は抱き合ってキスをした。濃厚なキスが暫く続いた。
『二度とセックスは無い筈だったのに!』
 思いは同じだった。十分以上もキスをしたが、
『今夜はセックス抜きにしましょう』
 やっぱり同じ思いで情交は躊躇ったのだった。

「い、今コーヒーを入れるわね」
「はい、お願いします。はあーっ、先の事を考えると憂鬱ですね、ああ、いや、何でもありません」
 夕一郎はつい本音を漏らした。しかし直ぐ訂正した。
「うふふふ、分かっていますわ。でもどうしてなんでしょう? 私は貴方にどんどん引かれて行く。昔愛した
彼に、貴方はそっくりなのよね。外見が似ていないのに、性格がとても良く似ているわ。
 ……お待たせ。同じインスタントでも今日のは、ワンランク上のやつなのよ。値段もそれなりに良いけど
香が素晴しいでしょう?」
 林果は話をコーヒーの方へ持って行った。

「ああ、本当に良い香だ。ふう、美味しい。その、昔愛した彼って、今何処にいるんですか?」
 夕一郎は惚け加減に聞いてみた。
「前にも言ったと思いますけど、もう亡くなったんです。十年位前に。何とかという病原体に冒されてね」
 林果もコーヒーを啜りながら昔を思い出して言った。

「も、もしですよ、林果さんが愛した男が生きていたとしたらどうしますか。ただし、姿形を変えてですけど」
 夕一郎は危険な賭けに出た。
『俺が正体を明かさなければ良いと思っていたけど、全然違うぞ。林果は俺を愛する事で苦しんでいる。
裏切りの愛だと思っている。これでは正体を隠している意味が無い。いっその事正体を明かした方が良
いんじゃないのか?』
 そう思い始めていた。それでもまだ相当迷いはある。

「生きていたら? 有り得ないわね。亡くなった時確認したもの。随分泣いたわ。本当に悲しかったけど、
私のお腹の中には彼の子供がいたから生きていられたのよ。
 でなかったらとっくに死んでいたと思う。勿論彼が本当は生きているんじゃないかって何度も思ったけど、
その後何の音沙汰も無かったし、遺体は確かに彼、林谷昇だったわ。
 間近で見たんだから間違いないわ。残念で仕方が無いけど、事実は事実よ。それから、貴方が彼にと
ても良く似ていることも事実なのよね」
『林果には付入る隙は無い。話しても無駄だ』
 夕一郎はそう思った。

『しかし、詳しく説明すれば?』
 そうも思った。
「うーん、これはもしもの話なんだけど、仮に彼が、人間ではなくなっていたとしても、エイリアンみたいに
なっていたとしても、愛は変らないのかな?」
 夕一郎は恐々聞いた。

「うふふふふ、今夜の大ちゃん、何だか変。やっぱりアレをしたいの? まあ、そのう、私もしたいんだけ
どね。とってもいけない女だって分かっているし、あの、ヘレンとか言うむかつく女の指摘通りなのが悔し
いけど、でも、あのう、お風呂に一緒に入りませんか?」
 林果はヘレンに対抗する気分になっていた。

「うーん、林果、……さん、えっと、じゃあ、その、入りましょうか? 勿論アレはするんですよね?」
「はい、貴方と一緒にいると、私は女になってしまうんです。研究第一の筈が、大ちゃん第一に変ってしま
う。あ、……愛しています。キ、キスして下さい」
 林果は背徳の愛を受け入れた。林谷昇に良く似た性格の大黄河夕一郎を愛さずにはいられなかった
のだ。

「ああ、林果、俺も愛しているよ」
 二人は脱衣所で再び熱烈なキスを交わした。それから服を脱ぎ、二人一緒に風呂に入った。目くるめく
情交に我を忘れた。
 二度、三度と情交を重ねた。昨日より更に長く、三時間ほどもセックスをし続けたのである。風呂から
上がって更にベットの中でも何度も情を重ねた。そのまま抱き合って朝まで眠りこけたのだった。

「ふふふふ、もう朝ね。このまま、朝食を取って、お勉強をする、第五小会議室に行きましょうよ。皆なん
て言うかしらね?」
 林果は優越感に浸り切っていた。

「ま、そのう、余り挑発しない方が良いと思うけどね……」
 朝になると、現実がプレッシャーを掛けて来る。
『これからヘレン達と半日一緒にいるんだぞ。チクチクと嫌味を言われるのは堪らないな』
 そう思うと憂鬱になる。林果は起きてテキパキと朝食の支度をした。夕一郎が食べられない事は知って
いるので、野菜ジュースをコップ一杯だけ飲んで貰う事にしていた。

「ああ、美味しいわね、我ながら。ところで昨日、実はシュナイダー博士にお願いしていたんだけど、今日
からは私も一緒に講義を受けるわよ。と言っても私は英語のテキストを翻訳するだけですけどね。
 でもそれだって十分に重要な仕事だと思いますから。翻訳に大分てこずっているって聞きましたから、
私の作業はたっぷりと必要性があるわよね。うふふふふ、これでずっと一緒に大ちゃんと居られるわ」
 林果は如何にも嬉しそうだった。

「ああ、翻訳の手伝いか。まあ、それだったら大助かりだよ。ただ喧嘩はしないで欲しいな。余りトラブル
が大きいと、リストラになりかねないと思うからね」
 夕一郎は、内心非常に心配していたのだった。

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