夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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 それから数日間は夕一郎はヘレンとセックス三昧の日々だった。シュナイダー博士の行方は知れな
かったが少し奇妙な事もある。
「毎日数時間ずつテレビのニュースを見ているけど、博士の事件の進展が無いね。直ぐにも捜査が進展
するかと思ったけれど、強制捜査は一体何時行われるんだ?」

「そうねえ、私も気になっているのだけど、何だか妙だわね。何と言うのか、テレビでの博士の公金横領
事件の報道そのものがトーンダウンしている様な気がするのよね」
 ヘレンも首を傾げた。

 その日はヘレンの部屋に夕一郎は居た。逃げ出すことは無さそうだと分かって自由に出入り可能に
なったのである。
 夕一郎は白人になる手術を受ける事を、甘んじて受ける事にしていたので、逃げる気はサラサラ無かっ
た。

『手術の様子はヘレンも見ることになったから、多分それを見たらそれっきりになるだろうな、それで良い。
その時に食欲の方もカットして貰う事にしたから、まあ、出来そこないの人間みたいだけど、仕方がある
まい。
 出来ればその前に林果と思いっきり情を重ねたかったけど、それは見果てぬ夢みたいなものだからな。
林果は今頃どうしているのだろう? 俺が、大黄河夕一郎がいなくなって悲しみにくれていなければ良い
がな……』
 そんな事を考えると胸が張り裂けそうな気持ちに襲われる。ヘレンがいない時にはそういう思いで、し
ばしば泣いてもいたのだが、その泣き顔を絶対に他人には見せた事が無かった。他人の中にはヘレン
も含まれている。

「手術は今夜に決ったわよ。ああ、残念ね、その美しい顔立ちともお別れだなんて。教授が言うのには、
『正統的なアメリカ人の顔にしたい』のだそうよ。
 でもそれってどんな顔だって言いたいわね。……ああん、今夜までの七、八時間。存分に情を重ねま
しょうよ」
 ヘレンはその日二度目の情交を迫って来たのだった。彼女のベットの中で情交は一時間ほどかけて
存分に行われた。

 それから、一応衣服を身に着けて、二人で昼食を取りに行った。その研究所には、ちゃんとしたレスト
ランがあり一通りのメニューが揃っている。
 何時も通り夕一郎はコーヒーだけ飲んだ。生身の肉体を持つヘレンはパンとミルクと野菜サラダとチ
キンナゲットを少し食べた。

「精力を付ける為には、肉食も必要よ。沢山食べて一杯エッチするわね!」
 そう言いながらも、ダイエットにも気を配って、食べ過ぎないようにしているのは、魅力的なプロポーショ
ンを維持する為なのだろう。

 食事も終わってヘレンの部屋に戻り、夕一郎は何時もの食後の儀式、『吐き出し』をしにトイレに入っ
た。トイレから出て来てみると、ヘレンは美容体操に余念が無かった。
「ねえ、これが終ったら、二人でお風呂に入りましょうよ。そこで一杯エッチしましょう。もう後五時間切って
いるわね。ああ、なんだか少し緊張して来ちゃった。
 私が手術を受ける訳でもないのにね。あああ、でも、本当に、本当に残念だわ。……もう少しで体操が
終りますから、ちょっとだけ待っていてね。
 その間、テレビでも見ていれば良いわ。うふふふ、この部屋のテレビには翻訳が入るのよね。えへへ
へ、今まで黙っていて御免なさい。本当は夕一郎の部屋のテレビにも日本語翻訳機能がついているのよ」
「ええっ、なあんだ、すっかり騙された。ということは、テレビを設置した時、俺とエッチしたくてわざとそうし
たんだろう? 悪い奴だな、ふふふふ」
 テレビのスイッチをリモコンで入れながら、ニヤニヤ笑った。

「御、御免なさい。貴方と一緒にベットインしたくて仕方が無かったのよ。分かるでしょう、女の気持ちが。
嘘を吐いてでも、貴方に抱かれたかった女心のなせる業なのよ。悲しい女の性なのよね。
 お詫びの印に、お風呂場ではうんとサービスしてあげますからね。それで許してちょうだいな、ウフフー
ンッ!」
 最後にはエロチックに甘えた様な笑い声を出したのだった。また美容体操ではあるが、それもまたその
動きはかなりエロチックであり、夕一郎をその気にさせようと懸命らしい。

「ここで緊急ニュースです。午後三時現在、ゴールドマン教授の研究所の捜査が間も無く行われようとし
ています。教授の容疑は、日本人の拉致監禁となっています。
 その日本人は、大黄河夕一郎と言い、シュナイダー博士の指導の下、宇宙飛行士としての訓練を受け
ておりましたが、かねてより博士に敵対心を抱いていたゴールドマン教授は、その配下の数名を博士の
研究所に送り込み、彼を拉致し自分の研究所に監禁しているものと思われます」
 寝耳に水のニュースだった。

「何よこれ!!」
 ヘレンも体操を止めて、汗をタオルで拭きながらテレビに見入っていた。研究所は全体としてはかなり
大きな建物だったので、何処からも逃げ出せない様に、軍隊の協力を得ていた。
 実に三千人の兵士がぐるりと研究所の周囲を取り囲んでいる。その映像がリアルタイムに放映されて
いるのだ。

「これじゃあ、蟻の子一匹逃げ出せないぞ。一体どうなっているんだ? 博士が指名手配されていたん
じゃないのか?」
「そうよね、これってあべこべだわ。何が何だかさっぱり分からない。えっと、大変だわ。ちゃんと服を着て
いないと! 夕一郎も早くこっちに来て」

 ヘレンの部屋のクローゼットからこの様な時の為に用意していたのだろうか、地味な普段着を二人とも
着た。更にヘレンは体操で乱れた髪形を直し化粧もして万全の体制を作った。
 ほぼ同時位に、軍隊と警察とが一斉に研究所に突入する映像が生々しい迫力で放映され続けていた。
少しあって、
「コン、コンッ!」
 ドアがノックされ、ヘレンが返事をすると、怒涛の様に兵士達が侵入して来たのである。銃口はヘレン
に向けられた。英語でのやり取りがあって、間も無く、ヘレンは手錠を掛けられたのだった。

 夕一郎の側に見覚えのある数人の顔が近付いて来た。
「久し振りだねえ、夕一郎君。またこうして会えて嬉しいよ。ああ、これは君の翻訳機だ。早速使ってくれ
給え。いやあ、それにしても懐かしい、はははは」
 そう言って笑ったのは、アメリカ空軍特殊部隊『E連隊』の隊長アーノルド・シュバルツだった。手渡され
た、自分の改良した翻訳機を装着してからは英語で話し合った。
「いや、君がいないと何かこう寂しいよ」
 柄にも無く寂しげだったのは彼の上司でもある空軍統合司令のルーカス・ベンタムである。三人は歩き
ながら今回の経緯(いきさつ)について話し合った。

「まあ、自慢する訳ではないが、今回は私とルーカス統合司令とが頑張ったのですよ。二人で大統領に
直談判したのです。『シュナイダー博士がそんな事をする訳が無い!』とね。
 まあ、大統領も分かってくれて、今回の運びとなったのだよ。それと、君の恋人と噂される、桜山林果君
はシュナイダー博士に色々と言ってくれてね。
 君は本来宇宙船に組み込まれる筈だったのだが、それだけはなんとしてでも止めて欲しいとそれこそ
博士に直談判してね。君を宇宙飛行士と認定するのに至ったのだよ」
 アーノルドは一気に核心を言ってしまった。

「おいおい、私の言うべき部分を残してくれたまえ。……ゴールドマンは先ほど逮捕されたよ。拉致監禁は
重大な犯罪だからね。
 実刑は免れないだろうよ。それから、ミシェルも助かったからね。君と一緒に勉強していた仲間だったん
だろう?
 彼女の拉致監禁も勿論罪に問われることになるが、それは君と一緒に居た、ヘレン君の仕業らしいね、
彼女から何か聞いていないかね?」
 ルーカスは部外者にしては実に良く知っていた。

「はい、確かにミシェルを拉致監禁したのはヘレンです。本人がそう言っていたし、拉致の仕方を詳しく話
してくれたので間違いありません。
 それから俺を拉致監禁した実行犯も彼女です。臭いを嗅いだだけで眠ってしまう睡眠薬を使ってやっ
たのです。眠らせておいてお花の運搬用のボックスに乗せられて、ここに車で運ばれました」
 夕一郎の証言はヘレンを重大な犯罪者にする事になるのだが、事実を曲げる気にはならなかった。

『悪いがあんたを擁護する気は無いよ。それにまあ、俺と十分にセックスを楽しめたのだから、思い残す
事はあるまいよ』
 夕一郎は非情な態度を取る事にした。
「二人を拉致監禁した実行犯だとすると、どの位の刑になりますかね?」
 気になって聞いてみた。

「ふうむ、私は法律の専門家じゃ無いからはっきりとは分からんが、恐らく十年は固いだろうね。何と言っ
ても睡眠薬を使ったとなると罪はより重くなるからね」
 アーノルドは即座に答えた。すかさず夕一郎は自分とのセックスについても聞いてみた。いや、聞かず
にはいられなかった。

『林果の手前もあるからな、ずるいと言われても、ヘレンを糾弾するしかない!』
 そう感じてのことである。
「あのう、ヘレンにセックスを強要されました。断れば林果の身にもしもの事があるかも知れないと思う
と、拒否出来ませんでした。これって準レイプですよね?」
「セックスを強要した? もしそれが事実なら更に罪は重くなる。懲役二十年位になってもおかしくは無い
だろう。しかしとんだ災難と言うか、羨ましい災難と言うか、あはははは、これは失礼。貴方には桜山君と
いう恋人が居たのでしたね、あはははは」
 ルーカスは笑いながら豪快に答えたのだった。

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