夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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 案ずるより産むが易し、という諺どおりと言うべきなのか、実験中二人は実に協力的だった。大過なくそ
の日のメニューは終了した。
「それじゃあ、また明日!」
「さよなら!」
「さよなら!」
 ミシェル、林果、夕一郎の三人は一応機嫌良くそれぞれの部屋に戻って行った。

『ふう、ああ、何事も無くて良かったな。しかし近い内に俺の手術がある。二人とも見る積りなのかな? う
うむ、見て欲しい様な、見て欲しくない様な、複雑な気分だ。
 もし、もし、林果に嫌われたら? 俺はもう終りかも知れん。ううむ、考えたくないが、その時は、その時
は、……駄目だ、自分が本当は林谷昇だなんて言ったら、彼女は深く傷つくんじゃないのか? ああ、駄
目だ、どうしたら良いか分からん!』
 例によって風呂に入りながら考え込んでいたが、私案投げ首の状態である。

『ふう、今日は大人しく寝ておこうか。明日はシュナイダー博士直々の講義がある。いよいよ最終結果の
発表ということになるのかな?』
 風呂から上がって、ベットに潜り込むと、精神的な疲れがどっと出て来て、直ぐ眠ってしまった。その夜
は、ミシェルも林果も各自の部屋で休む事になっていた。

 加重耐G実験が相当に身に応えたらしく、別れ際は元気だったが、肉体的精神的に相当参っていた事
は明らかだった。
「今夜は早く眠るから、その積りでいてくれ。明日は博士からの重大発表があるようだから、何と言うか、
今から相当緊張しているからね。お二人さんも自分の部屋でゆっくり休むと良いよ」
 そう言ったのであるが、夕一郎は二人に対して、
『今夜は絶対にエッチは無いぞ! だから尋ねて来るな!』
 と、宣言したようなものだった。普通なら林果だけに言う所なのだが、まだ諦め切っていないミシェルに
も、厳重に釘を刺して置いたのである。

「お早う御座います! 林果です!」
 眠ったと思っただけだったが、もう朝になっていた。時計を確認すると確かに出掛ける時間である。
「ああ、い、い、今行くから、十分だけ待っていてくれ!」
 かつての様に超スピードで身支度を整えてからドアを開けた。

「うふふふ、何か懐かしいわね。でも今日はどうしたの? 十二分も掛ったわよ」
 林果は楽しそうに言ったが、
『えっ! 何時も通りにやった積りなのに、そんなに掛ったのか? ……そうか、やはり能力が落ちて来
ている。パーツ交換の手術をしないとますます能力が落ちて行くぞ!』
 そう思うとかなり不安を感じた。

「まあ、色々あって疲れていたからだろうよ」
 と、誤魔化したが、
『昨夜林果とセックスをしなくて良かった。能力が落ちた状態に気が付かないでいると、彼女に満足感を
与えられないかも知れないからな。ふう、危ない話だ!』
 かなり冷や汗を掻いていた。

 何時ものように第五小会議室に入ると、シュナイダー博士とケッペル講師とがなにやら話をしていた。
ミシェルは既に自分の席に座っている。
「さて今日は、博士が直々講義と言いますか、今後の方針について詳しく述べるそうですから、しっかりと
聞かれるように。私も一応聞かせて頂きますので、今日は生徒という事になります」
 何時もは講義をしている、ケッペル・ギルバートが夕一郎の左隣に座った。夕一郎の右隣が林果、更
に右隣がミシェルになる。
 以前はケッペルの席にヘレンが座っていたのだが、今彼女は地下の牢獄の何処かにいる。ゴールド
マン教授は、有名人なので、地上の拘置所に入っているが、その他の者は殆どが、地下に監禁されて
いるのだった。

「さて、今ケッペル君が言った様に、今日は重大な発表を致します。皆も聞いていると思うが、大黄河君
から一つの提案があった。
 それから桜山君からも色々な提言があって、実は相当に悩んだし、大統領とも相談した。その前にひと
こと言っておけば、地球と小惑星ニューアメリカのニアミスの確率はほぼ百パーセントとなった」
「ええっ!」
 予想外に大きな声を出したのはミシェルだった。ここにいる者の中では彼女一人だけが、詳しい情報を
得ていなかったからである。

「ここで言うニアミスというのは地上に大きな影響を与える地上高三十万キロ未満の事です。勿論近けれ
ば近いほど大きな影響が出る。
 十万キロから三十万キロ位だったら、小津波程度で、大したことは無い。しかし十万キロメートル以下
になると、大津波の恐れがある。それでも壊滅的と言うことはありません。
 問題なのは更に近く、一万キロを切った場合です。超特大の大津波が来て正に壊滅的打撃を被る事
になる。
 しかし残念ながらまだそこまで正確に予測出来ません。言えるのは、地上高三十万キロメートル以内
に小惑星ニューアメリカが通過する確率は百パーセントだと言う事だけです。
 日にちも分かっていますが、それは申し訳ないが言えません。皆さんに余計なプレッシャーを掛ける恐
れがあるので、言いません。そこまででご質問が御座いますか?」
「はい」
 即座にケッペルが手を挙げた。

「巷(ちまた)では色々言われていますが、その、既に激突の予想をしている天文学者もいるのですが、
ざっと聞いておきます、年内ですか?」
「はい、そうです。それ以上は申し上げられませんが年内です。ただ、一部の天文学者の言う事は当て
になりません。不正確な数値で計算していますから、大幅なズレが考えられますからね。他は宜しいです
か?」
 今度は誰も聞かなかった。

「それでは次に行きます。大黄河君からの申し出もあって、核兵器を所有する各国に打診してみました
が、より正確な情報を求められました。どの国からも一様にです。
 大統領と相談の結果、これ以上の情報提供には慎重にならざるを得ませんでした。何故ならば、現在
建設中の『ニューアメリカンV』、今宇宙で組み立てられていますが、それには百メガトン級の水素爆弾ミ
サイルが搭載されていて、これは国際法に違反するばかりか、そのこと自体が他国に対する侵略行為と
見做されて、例えばロシアなどに先制攻撃されても文句が言えない状態だからなのです。
 改めて言っておきます。今言ったこと、『ニューアメリカンV』に、百メガトン級の核ミサイルが搭載されて
いる事は、極秘中の極秘です。
 たとえ殺され掛っても口を割ってはいけません。絶対にです。きつい要求ですが仕方がありません。そ
れから秘密遵守の為に、たった今から、皆さんは地下からは出られません」
「えええーーーっ!!」
 今度は林果が大声で叫んだ。

「お静かに。桜山さんはお子さんの心配をなさっているのでしょう?」
「はい、それだけはご容赦願えないでしょうか? 絶対に秘密は守りますから。今までも一言もここの事
は言っていませんし、激突の件も一切誰にも話していませんから」
 林果は哀願した。

「はははは、大丈夫ですよ、昇一君は一週間以内にここに来る事になっていますから。計画が完了する
まではお二人ともここにいて貰います。それでどうでしょうか?」
 博士は落ち着いて言った。

「し、仕方がありませんね。ここの計画が少しでも早く終る事を祈るしかないですね」
 林果は妥協した。
「ええと、その他に何かご質問は?」
「あのう、ケッペル・スターに乗り込む実験と言うか訓練はするんですか? ここから出られないと言うこと
になると無理な気がしますが?」
 夕一郎が当然の疑問を呈した。

「ああ、そうそう、言い忘れていましたが、まだ未公開の場所があります。皆さんは地下施設はここだけ
だと思っておられるでしょうね」
「他に何処かあるんですか? ケッペル・スターの産みの親たるこの私が知らないというのはちょっと……」
 ケッペルはムッとした表情で言った。

「はい、申し訳ない。この地下研究所は言わば、研究所地区。他にケッペル地区、収容所地区、動力
地区、等々沢山の地下施設がまあ、地下鉄とまでは行かないのですが、それに近い乗り物で結合され
ているのですよ。さっき言った地区の他に、歓楽街地区、などもあります」
「オオオーーーッ!」
 博士以外の全員が驚いたのだった。ただ夕一郎には、
『そう言えば、前にお風呂に沈んで眠った時、何か機械音の様なものが聞こえていた事があったな。あ
れって、その地下鉄みたいな乗り物の音だったのか?』
 一つの謎が解けた様な気がしていた。

「それで、そのケッペル地区というのは地下の滑走路から、『ケッペル・スター』が地上に出られる様に
なっているんですよ。勿論、エレベーターでその滑走路のある所まで昇ってから行くんですけどね。
 上から見れば、山の中腹から、百メートルほどの短い滑走路しか見えませんから、まさかそこがスペー
スプレーンの発射基地になっているとは思わないでしょう」
「と言うことは、山の中のトンネル内から発進するんですか?」
 また当然の事を夕一郎は聞いた。

「はい。普段はシャッターで出入り口は仕切られていますが、発進の時だけシャッターが開けられます。
つまり一般の住宅などには一切出て行く必要がないのです。
 それから、ついでに言いますと、昇一君は研究所地区ではなく、住宅地区に住んで貰います。そこには
学校もありますからね」
「ヘエーーーッ!!」
 皆たまげてしまった。

    

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