夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「ガチャッ」
 慎重にドアを開けて隣の22号室に入った。直ぐミシェルも続く。警護の兵士二人は、今度は22号室の前に
立って見張るようである。ただ顔ぶれが一人違っているところを見ると、一人は交代したらしかった。

「以前ヘレンが使っていた部屋となると、何か緊張するね。そこいらからヘレンが出て来る様な錯覚に囚われて
しまうよ」
 チャーリーは少し弱気になった。ヘレンの印象が強過ぎて、中々吹っ切れないところがある。

『結局はヘレンも林果も俺の手術には耐えられたんだよな。凄い女達だよ、全く。もしそれが俺だったら、直ぐ
逃げ出してしまうだろうね。
 俺は血に弱いからね。激しい攻防の最中だったら、血が飛び散ってもそれほど気にならないけど、普通の状
態じゃ正視出来ないよ。
 ああ、しかし今夜はミシェルをどうする? うーむ、正直言えば何とも思っていない。抱けない事もないけど、林
果の気持ちが気に掛るしね』
 チャーリーは上手い逃げ口上が無いかとそればかり探したが、中々見つからなかった。

「それは大丈夫だわ。ヘレンは収容所送りになったのでしょう?」
「ああ、確かにそうだ。まあ、なるべく気にしないようにすれば良いよね。ところで、お風呂に入ろうか?」
 チャーリーは大いに迷いながらお風呂に一緒に入ることを提案した。

『成り行きに任せよう。しかし何故好きでもない女を抱かなきゃならんのだ?』
 大統領の側近達の指示らしいがどうも解せなかった。
「えっ! うふふっ! 良いんですか?」
 少しニヤニヤしながらミシェルは言った。もうセックスが百パーセントあると信じているようである。彼女はまだ
チャーリーの本性を、林谷昇の本性を知らないのだ。

「ああ、ただ、もし立たなかったら、エッチは無しという事になるけど、それでも良いかな?」
「えっ! え、ええ、それは仕方がありません」
 急に不安になって来た。
『私の裸身を見ても何も感じないと言うの? ま、まさか。も、もし見ただけで何も感じないのだったら、一生懸命、
お口やオッパイで奉仕するわ。
 だけど、それでも立たなかったら? まさかインポなんてことは無いでしょうね? いいえ、有り得ないわ。ヘレ
ンと激しくやった筈だし、桜山さんとだって。
 それでもし立たないんだったら、私はどうなるの? 全然魅力の無いカスの様な女と言う事になる。ま、まさか、
そんなはずは無い! でも、もし駄目だったらどうしよう……』
 ミシェルは更に不安になって来た。

「顔色が悪いけど、どうした? 一つだけ言っておくと、男のこれは気まぐれなところがあってね。何でも無い時に
立つ事もあれば、魅力的な女性を前にしても萎(しぼ)んでしまう事もあるんだよ。
 だからもし立たなくても心配は要らないよ。ミシェルが十分魅力的であると私は思っているからね。さあ、入ろう、
お風呂に」
 チャーリーはミシェルの前で裸になってお風呂場に入って行こうとした。一物は小さく縮んでいた。ミシェルはお
風呂に入るのが怖くなった。

「あ、あの、私は今はアレだから入れないことを思い出しました。御免なさい」
「アレ? ああ、生理の事か?」
「はい。今日、明日は拙いんです」
 すっかり嘘だった。しかし精神的に脆(もろ)いところのあるミシェルは、大好きな男が自分とエッチ出来ないか
も知れないと考えただけで、もう一緒に入浴出来そうも無かったのである。

「それは残念だな。でも生理じゃ仕方が無いね。それじゃ悪いんだけど、一人で入るからね。もし極端に遅いよ
うだったら、様子を見に来てくれないか? また変になっているかも知れないからね」
「はい、30分が限度かしら?」
「うーむ、ゆっくり入るからね、様子を見に来るのは四十分後にしてくれないか?」
「分かりました。今、もう少しで九時二十分になるところですから、十時になったら迎えに行きますわ。ああ、その、
パジャマを置いておきますから、上がったらそれを着れば宜しいですわ」
 結局ミシェルはテレビでも見ながら、チャーリーがお風呂から上がって来るのを待つことにしたのだった。

『ミシェルをどうする? 抱くか抱かないか、それが問題だな。ミシェルは綺麗な女だ。本能は満足だろう。しかし
直ぐ隣の部屋に林果がいる。平気そうにしていたけどあの涙は堪(こた)えたな。彼女の本心を表している。
 だけどミシェルは? 抱かなければミシェルを傷つける事になる。その気になって来ているのに、男と同じ部屋
にいて抱かれもしなかったとなれば彼女、立ち直れないのでは? 心の病がぶり返すかも知れないからな、病
は拙いぞ、病は!』
 結局、一応抱く事に決めて風呂から上がった。直ぐパジャマに着替えた。

「あ、ああ、早かったんですね。まだ眠るのには少し早いですから、少しお話致しましょう。何か飲み物でも飲ま
れます? コーヒーじゃ寝付かれないでしょうから、ワインにしようと思うのですけど、どうかしら?」
 ボリュームを小さく絞っているテレビを見ていて、平気そうに言うミシェルだったが涙の跡があった。ただお揃
いのパジャマを着ていたところを見ると、ワインなども予(あらかじ)め用意していたようである。

「う、うん、じゃあ、貰いましょう。ああ、でもワインとかあるんですか?」
 敢えて聞いてみた。
「はい。こ、この日の為に、ワインと生ハムとかは買って冷蔵庫に入れておきました。生ハムは嫌いかしら?」
「いや、好きだよ。ワインは赤ワイン?」
「ええ、その、白もありますけど、赤が良いかしら?」
「そうだな、赤ワインにしておくよ。ポリフェノールが沢山入っていて健康に良いらしいからね」
「ふふふ、もう、色気より食い気なんだから」
 会話をしているうちに楽しくなって来たのか、ミシェルは笑って取りに行った。

『この日の為に、か。ふうむ、何だか健気な感じがする。しかし、気に入らない事もあるぞ。お膳立てが大統領の
側近の差し金だとすると、かなりムカつくぞ! ああ、すっきりしないな……』
 その気になって来ていたチャーリーだったが、手回しの良さに逆に不快感を感じたのである。

「ふふっ、お待たせ」
 お盆に赤ワインとワイングラス二つ、栓抜き、お皿に盛り上げた生ハムとを持って来たのである。他に生ハム
を食べる為の小さなフォークが二本あった。

「はははは、随分生ハムが多いんだね。高いんじゃないのか?」
 高価な生ハムの量にちょっと驚いたのだった。言いながら栓抜きで早速ワインの栓を抜く作業に取り掛かった。
簡単に抜ける仕組みの栓抜きだったので割合上手く行った。

「はい。その、こ、この夜の為に奮発しましたのよ。精力をつけて貰おうと思って、うふふっ!」
 ミシェルはチャーリーの隣に座って甘えながら言った。チラッと股間を見もした。しかし相変わらずチャーリー
の股間は盛り上がってはいなかった。

「乾パーイ!」
「乾パーイ!」
 一応陽気に乾杯をして、二人は生ハムを肴にワインをやや速いペースで飲んで行った。テレビではかなり濃厚
なラブシーンをやっていた。際どいエッチシーンが続く。

『うーん、何だかわざとらしいな。これを見せる為にテレビをつけていたんじゃないのかな?』
 少し考え過ぎかも知れないと思ったが、中々その気になってくれない自分を何とかしたいと考えての、切ない
女心なのだと、なるべく良い方向に考えた。

「いや、しかし美味しいワインだ。これも高かったんじゃないのか?」
「うん、貴方の為にちょっと無理したのよ。分かってくれるでしょう、この気持ち。何があっても貴方と結ばれたい
のよ」
 ミシェルは酔いが回って来たのか少しはっきり物を言い出した。

「ああ、嬉しいよ、ミシェル……」
 二人の顔が徐々に接近し、キスも間近になった丁度その時だった。何か玄関の辺りが騒がしかった。
「ミシェルに話があるのよ!! 離してよ!!」
 激しい怒鳴り声は林果だった。兵士の止める声も聞こえる。

「ちょっと行ってみよう」
 キスの気分はそがれ、チャーリーは走って玄関へ行った。ミシェルも不快感を露にして、顔をしかめながら後
に続いた。
「ガチャッ!」
 今度は少し乱暴にドアを開けた。

「ああ、チャーリー! あの女は何処なの? ベットの中なのね!」
 直ぐ側に居たミシェルが目に入らないほど激高していた。お酒臭くもあった。相当に酔っている。二人の兵士
達は持て余し気味だった。

「兎に角中に入れよ。良いでしょう警護の皆さん。このままでは近所迷惑なので少しお話してから帰しますから」
 ここは英語で言った。兵士は顔を見合わせていたが、
「誰も入れるなと命令を受けている。気の毒だがそれは出来ない」
 一人がそう言った。

「じゃあ、俺がその人の家に行くのはどうなんだ?」
「それも困ります。明朝まで誰も入れないし、誰も出さない、という命令です。事情はお察ししますが、命令には
従って貰う」
「それじゃあ、仕方が無いですね、トッ!!」
 小さな気合を入れて、兵士の腹部を激しく突いた。二人の兵士は白目を剥いて失神してしまったのである。

「ひっ!!」
「きゃっ!!」
 林果とミシェルは殆ど同時に短く悲鳴を上げた。チャーリーの、サイボーグの凄まじいパワーを目の当たりに
して、一辺に酔いが醒めてしまった様である。

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