夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「ふう、久し振りにお腹一杯に食べたな。と言うよりサイボーグになってから初めてだろうな、普通に食事をした
のは。お茶も美味しかったし。さて、林果、朝風呂はどうだ?」
「えっ、うふふふふ、私が欲しくなったの?」
「う、ま、まあね。困った事に俺は自分で自分の体の事が良く分からないんだよ。何せ、出来立てほやほやの体
なものでね。あっちの方もどうなのか良く分からないんだ」
「そうねえ、今朝は時間が無いような事を言ったけど、勿論エッチタイムはとってあるのよ。戦場に赴く夫の為に、
全力で奉仕させて貰うわ。でも、やり過ぎて腰が立たなくなっては拙いわね。その点は余り無理しないでね」
「はははは、でも後片付けは良いのかな?」
テーブルの上の食器類を見て言った。
「もう、うずうずしているくせに、ああん、この日をずっと待っていたのよ」
待ち切れないとばかりに林果はチャーリーに抱き付いた。
「ああ、俺もひたすら待っていたよ」
二人はキスをしては少し歩き、またキスをしては少し歩いてお風呂場に向かった。お互いに服を脱がせ合って、
全裸になると、下腹部をまさぐりあいながらお風呂場に入って行った。勿論チャーリーの一物はビンビンに立っ
ていた。
「昇!!」
「林果!!」
お互いに名前を呼び合って、激しい情交を始めた。チャーリーは昇と言われる事を拒否しなかった。暫くはお
風呂場で、その後はベットの中で延々と情を交わし続けたのだった。
『やっぱり昇だったんだ!! ああ、嬉しい!!』
林果の目には白人の筈のチャーリーが黄色人種の昇に見えた。やはりセックスの仕方や愛撫した時の反応
が昇そっくりだった。
『百パーセント間違いない。生きていたのよね。一時は本当に死んだと思っていたのに、ふふふふ、腰が抜ける
ほど愛してあげるわ。えへへへ、なんかさっき言ったことと矛盾しているわね!』
互いに何度と無く果てて、二時間余りが経過した。さすがに林果も体力の限界に達した。三十も半ばになると、
二十代の様な訳には行かないのだ。
『そろそろ限界なようだな。じゃあ、切り上げよう』
しかしチャーリーの肉体はサイボーグである。丸一日でも続けられるほどの体力があった。林果の状態を見
て終る事にしたのである。
「ああ、林果、素晴しかったよ。これで思い残す事は無いよ」
「でも、また帰って来てよね。地上での作業が終ったら、今度は宇宙なんですからね。帰って来る度に、たっぷり
してあげますから」
「ふふふふ、良かったのか?」
「ええ、大満足だったわ。何度しても良いわね。ああ、そろそろ本当に時間だわ。でも体が汗で汚れたから、ま
たお風呂に入りましょうよ。今度はエッチ抜きでね」
結局もう一度お風呂に入り直して、下着なども新しいのと取り替えて、林果が用意しておいたカジュアルっぽい
服を着て、部屋を出た。
「ところで、メ、メアリーさんにも、挨拶をして行こうかな」
「ふふふ、昇一に会いたいんでしょう?」
「ま、まあね」
「あの、こうしましょう。二人きりのエッチタイムの時は貴方は林谷昇よ。通常はチャーリー・クラストファーね。ど
お、それで?」
「分かった、そうするよ。もう林果には勝てないよ。しかし、二人きりじゃない時は、昇一の父親じゃないんだか
らね。あくまでも桜山さんの知り合いのおじさんなんだからね」
「はい、はい、承知しましたわ。じゃあ、チャーリー、メアリーと昇一に一目会って行って下さいな」
「ああ、ほんの挨拶程度にね」
二人は隣の21号室に入って行った。
「ドタドタドタッ!」
また昇一が走って出て来た。
「ママお帰り。あれ、またアメリカのおじさんと一緒だったの?」
昇一は何の気も無く聞いた。
「ええ、チャーリーおじさんは今度暫くお仕事で、お留守にするから、挨拶に来たのよ。ああ、メアリー、そういう
事なので宜しくね」
「はい。あの、ミシェルさんは?」
「ご自宅に帰ったらしいわよ。そうよね?」
「ああ、用事があるとかで、帰ったから。何だか私は嫌われたらしいですよ、ミシェルさんにね」
「へえ、そうなんですか。分かりました。それじゃあ、お仕事頑張って下さい」
「うん、じゃあ、メアリーさんも、昇一君も、お元気で。ああ、えっと、お迎えが来るのかな?」
「えっと、もう来る頃ですけど」
林果は時計代わりのケータイを見て言った。
「コン、コン」
タイミング良くドアがノックされた。
「こちらにチャーリー・クラストファーさんが来ておられますか?」
アーノルドの声だった。
「はい、えっと、今行きます」
ドアを開けると、アーノルドが一人で立っていたが、何人もの兵士が隠れて待機しているらしい事をチャーリー
は察知した。
「じゃあ、ここでお別れね。またお会いする日までさよなら」
「ああ、さよなら。また直ぐ来ますからね。なるべく早くね」
「グッバイ!!」
昇一が曲がりなりにもチャーリーに自発的に声を掛けたのはこれが初めてだった。
「はははは、グッバイ!!」
チャーリーは嬉しそうに笑って別れを告げた。
「さてと、地上に出るまでの間、作戦を色々とお話しますからね。何しろ相手はモンスターですからね。世にも残
忍なね」
アーノルドは歩きながら言ったが、二人の周囲には相当の数の兵士が取り囲んでいた。どうやら、チャーリー
が警護の兵士にした事がばれていたようである。
「はははは、凄い数の兵士達ですね。でもね、何処に誰がいるのか、音とか体温とかで、察知出来るんですよ。
でも、まあ、何もしませんけどね」
「勿論でしょうとも。私は貴方を良く知っておりますからね。ですが、兵士の中には信じない者がおります。一つ
聞きますが、コインを折り曲げたそうですね。二つ折りならまだしも、四つ折にしたとか。
確か以前、コインを引き千切ったと思ったのですが、今回は何故そうしなかったのですか? いつも同じ事で
は芸が無いと思ったのですかな?」
アーノルドもチャーリーが警護の二人の兵士にした事を良く承知しているようである。
「はははは、知っておられたのですか。理由は簡単です。硬貨を引き千切ると凄い音がしまかすからね。ご近
所迷惑かと思って遠慮したのですよ。
二つ折りではまだ大したことが無さそうだったので、四つ折にしてみました。考えてみれば防音もしっかりして
いるので、それほど気にすることも無かった思いますけどね。ところで作戦と言うのは?」
チャーリーは作戦の事が気になった。二人はノアトレインに乗り込んだが、二十数名の兵士も一緒に乗り込
んだ。がら空きの車内が完全武装の兵士によって珍しくも満員になってしまったのだった。
「相手は好色のモンスターです。貴方と何人かの女性とでマッサーズシティの、ダウクーガーの出そうな所を歩
いて貰うのですよ。まあ、言うなれば囮捜査みたいなものです」
「なるほど。で、目的は殺害ですか、それとも捕獲ですか?」
「第一は捕獲。手に余る場合には殺害しても宜しい。捕獲が第一なのは、仕掛けたのがゴールドマン教授であ
ることを証明したいからなのです。
それは大統領とシュナイダー博士のたっての願いです。しかし、敵もさるものですよ。何時も素早いのです。
僅か十分ほどで女を犯し、男を殺し、金品を奪って行く。
通報があって警官が駆けつけて銃を撃っても、貴方同様、弾を弾き返してしまう。悠々と逃げられてしまうの
です。マッサーズシティでは厳戒態勢を敷きつつありますが、都市のイメージが悪くなるとの理由で、余り大っぴ
らには兵士達を配備出来ないのが悩みの種なのですなこれが、ふうっ」
アーノルドは悔しそうに溜息を吐いた。その時、一人の兵士がつかつかと歩み寄って話し掛けて来た。
「アーノルド長官。この男、信用出来ません。失礼ですが騙されているのではありませんか? こいつはダウクー
ガーの仲間だという噂があります!」
兵士達のリーダーのようだった。
「はははは、それは有り得ない。私はこの人を昔から知っている。信頼の出来る人だ」
「ですが、我々の仲間を気絶させ、脅して言う事を聞かせたのです。仲間に落ち度が無かったのにも関わらず
です。家族をダウクーガーに襲わせると言えば誰しも言う事を聞かざるを得ません。
その様な者のいう事を聞いたり、ましてやダウクーガー退治の先頭に立たせるなど、言語道断なのではありま
せんか!」
相当に激しい口調で食い下がって来たのだった。
「君は誰に向かってものを言っているのかね? 私はノアシティにおける防衛本部長長官なのだよ。極秘では
あるがクラストファー大統領の任命を受けている。
しかも、チャーリー君をダウクーガー捕獲作戦に任命した最高責任者もまた、大統領なのだ。君は大統領の
命に背く積りなのかね!」
アーノルドはかなり厳しい言い方をした。それで治まると思ったのだ。しかしとんでもない事になった。
「長官、貴方の身柄を拘束させて頂きます。おいっ! ダウクーガーの片割れ! 動くなよ。動けば長官の命は
無いぞ!」
厳しい口調で叫んで、長官に銃を向けた。チャーリーには勝てない事を知っているが、長官ならば何とでもな
る。長官と親しい間柄である事を確認した上での行動のようだった。
「分かった。命令には従うから、長官を撃たないでくれ」
チャーリーも命令に従うしかなかった。