夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「アーノルド長官!」
暗闇ではあったが、そこはサイボーグの強み、視力をかなり自由に操れる。殆ど暗視スコープを使ったのと同
様に良く見えるのである。
「ああ、チャーリー君。助けに来てくれたのかね」
「はい。今ドアの鍵を壊しますから少し下がってください」
「分かった。ああ、しかし誰か来るようだぞ」
懐中電灯の明かりで誰かが来たらしい事が分かった。チャーリーは監獄小屋の陰に隠れた。幸いにも彼らが
一番の人質と考えていたのはアーノルド長官だった。真っ先に長官の小屋を調べに来た。二人きりだった。
「ウゲッ!」
「グオッ!」
チャーリーは飛び出すが早いか、瞬時に二人を失神させた。
「バキッ!!」
ドアの錠前を引き千切って壊し、難なくドアを開け、奪った懐中電灯をアーノルドに持たせて、行き先の足元
だけを照らして逃げ出した。周囲は未だに暗闇だった。
この様な場合の訓練など殆どしていないらしく、ひたすら動き回るばかりで、何時の間にか出入り口の警備が
お留守になっていた。
「グギギギギッ!」
相変わらずの馬鹿力で正面の出入り口の錠前さえ破壊した。ここがお留守だったのは、頑丈な錠前が付い
ているから、まさか突破出来ないだろうと思っていたからの様である。
「人質が逃げたぞ!! 長官とモンスターが逃げたぞ!!」
脱獄逃亡がとうとう発覚した。しかもその辺りで、周囲が明るくなった。どうやら発電機の故障が直ったようで
ある。それでも、正面の出入り口からの逃亡とは思わなかったらしく、二人が逃げて、五分位が過ぎてからやっ
と正面突破に気が付いたのだった。
チャーリーとアーノルドは墓場をもう殆ど抜けようとしていた。ノアトレインのステーションまで後百メートルほど
の所に来ていたのである。二人にとって幸いだったのは、そこが地下であった事である。
所々に直径が二メートルほどの太い柱があって天井を支えていた。その柱が邪魔でマシンガンをかなり撃っ
て来たが、全く当らなかったのである。
「ヒュンッ! ヒュンッ!」
かなり離れた所を、弾丸が飛んで行った。当る筈は無かったが、気持ちの良いものではない。幸いにも間も
無く、ステーションに着いた。
ただ困るのは直ぐは列車がやって来てくれないことである。ステーションの時計から判断すると、二分は掛る。
それでもかなり距離があるので直ぐ側には寄って来れないだろうが、拙いのは弾が当る確率が高くなるという
ことだった。
「ううむ、後一分ですか。マシンガンだとこのステーションの扉や壁でも弾が突き抜けて来るかも知れませんね。
あの、俺の後ろに居て下さい。はははは、俺は大丈夫ですから」
チャーリーはそう言ったが、本当は必ずしも大丈夫ではないのである。通常の拳銃などに比べると、マシンガ
ンの弾の威力はかなりのものである。
『同じ場所に二、三回当ったら、多分アウトだ。頭に七、八発も、マシンガンの弾を喰らったら死ぬかも知れんぞ。
しかし、長官を不安にさせる訳にも行かない。ここは出来るだけ平気そうにしておこう』
そう思って、笑顔で言ったのだった。
「はあ、はあ、はあ、しかし、さすがサイボーグですな。私はもう息も絶え絶えなのに、平然と話をしている。それ
じゃあ、お言葉に甘えて、隠れさせて貰います。
はあ、はあ、いや、ここまで長く走ったのは久し振りですよ。ノアが来るまで四十秒位ですな。何とか間に合っ
てくれれば良いのですがね」
アーノルドはぎりぎりセーフだと踏んでいる。
「バンッ! バンッ!」
後三十秒のところで、マシンガンを相当に撃って来た。数発の弾が、壁やドアを突き破って中にまで入って来
た。ただまだかなりの距離があるので、命中精度が悪く、少しの間弾は別の場所に当っていた。
「はあ、はあ、後十秒。頼む持ってくれ!」
アーノルドは思わず手を組んで叫び、祈ったが、
「バンッ! バンッ! バババンッ!!」
扉に何発も当って、人の頭位の穴が開いてしまった。その内の数発がチャーリーの体に命中した。
「くっ! さすがにマシンガンは強烈ですね。俺は痛みは殆ど感じないので、平気なんですが、少し損傷しまし
た。ああ、ですが、もう、着きますよ、ノアトレインが!」
事件発生にも拘らず、ノアトレインは定時に到着した。
「プシューッ!」
独特の音でドアが開いた。
「オオオッ!」
「ええっ!」
二人とも驚いた。中から武装した兵士達が三十人位降りて来たのである。
『もう駄目か。こっちからも来るとはな!』
アーノルドもチャーリーも半ば諦めかけたのだが、奥の方から懐かしい元空軍総合司令のルーカス・ベンタム
が降りて来たので、どうやら味方の様である。ルーカスもかなりの武装をしている。防弾チョッキの類も着ているら
しかった。
「ここは我々に任せて、君達はノアトレインに乗って行き給え。さあ、早く!」
「じゃあ、後はお願いします」
「失礼します」
アーノルドとチャーリーはノアトレインに乗った。ドアは本来自動で閉まるのだが、弾丸が飛んで来る恐れがあ
るので、手動で閉めた。操作は一人車内に残っていた警備員が行った。余り見かけない顔である。
「バアンッ!!」
穴の空いてしまったステーションの扉が乱暴に開けられて、
「バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、……」
一斉にマシンガンの攻撃が始まった。更に、小型の機関砲や地下空間の戦闘用に開発された水平に飛ぶ
小型のロケット砲までもが次々に発射されたのだった。
その様子を見ることは出来なかったが、音で大体の推測は出来たのである。間も無くノアトレインは発車した。
「いやあ、ルーカス顧問がお出ましになるとはね。かなりの大事だと言うことなのですな。まあ、この様な反乱が
あるとは夢に思いませんでしたがね」
アーノルドはかなり複雑な表情を見せた。
「そうですね。たださっきドアに穴が開いた後、少し向うの攻撃が止みましたけど、あれはどうしたんでしょうか
ね?」
ほんの少しの間反乱軍の攻撃の手が緩められた事に、チャーリーは疑問を感じた。
「ああ、多分弾丸の節約でしょう。相当撃ちっぱなしでしたからね。弾の残りが少なくなったので、後はもっと接
近してから、もう一度攻撃する積りだったのでしょう。戦場では良くある事です」
アーノルドは手馴れた感じで言った。
「ああ、なるほどね。でも、こっちの兵士達は準備万端ですから、まともな戦闘にはならないでしょうね? あの
ような場合だったら、一旦は撤退するのでしょうね?」
「まあ、普通はそうでしょう。折角のアジトですから、一応篭城して戦うんじゃないんですか? 半日とは持たない
と思いますけどね」
アーノルドはチャーリーの考えた通りの事を言った。
「ただ少し解せない所があるんですけどね」
「解せない所?」
「はい。ちょっとお粗末過ぎます。アーノルドさんの人質の価値を高く評価したのでしょうが、それにしても、目的
は何なのかもう一つ分からないんですが」
チャーリーは今度の反乱に納得が行かなかったのだ。
「うむ、実は私もそう思っていました。しかもそれなりの資金がありそうでした。彼らの給与だけでは、反乱も難し
いんじゃないんですかね。
アジトそのものはオンボロでしたが、弾薬や食料などの蓄えはかなりあったようだし、それとここの警護の者
にも、金を使ったんじゃないんですかねえ」
アーノルドは仕舞いの方は声を潜めた。警護員に聞かれると拙いと思ったのだ。
「そうですよね。彼等は自分達を雑種と呼んでいた。奇妙な言い方ですよね。犬や猫じゃあるまいし。そう言え
ばこれは関係無いかも知れませんけど、SWX、スーパーホワイトエックス教団とか言うのがあったと思うので
すが、何かその全く逆のイメージの様な気がします。
その教団は白人第一主義。確か、神は先ず黒人を作った、しかしそれが進化して黄色人種になり、更に進
化した白人こそが究極の人類である。
だから他の人種は我々白人に従うべきだとか言う、そんな主張のやや過激な宗教団体ですよね。それと全く
逆な感じがするのですが」
チャーリーはどこかで耳にしたSWX教団のことを言ってみた。
「はい、その宗教団体なら私も聞いた事があります。少々変っているのは、差別的でありながら、また一方で
は白人でありさえすれば、一切の差別をしないという風変わりな団体でもある。
一方で差別を主張し、一方では同じ白人同士が争ってはいけないと言う平等の思想も持っている。全世界に
数百万の信徒を持っておるようですが、大半はアメリカ人です。
しかもお金持ちが多い。更に言えば彼等は現大統領、クラストファーを支持していると言う事です。大統領自
身はSWX教団の信者ではないが、何かと便宜を図っているらしい。ふうむ、少し臭いますね」
アーノルドは今回の反乱の裏を考え始めたが、何分にも何の証拠も無い事なので、それ以上の追及は無理
なようであった。
ノアトレインは程なく研究室地区に到着した。大勢の兵士や警官がいたが、シュナイダー博士の顔もある。少
し蒼ざめていた。
「いや、チャーリー、アーノルドさん、難儀な事でしたな。ああ、やっぱり。チャーリー、体がボロボロだ。これでは
もう一度手術をやり直す必要がある。
ええい、忌々しい反乱軍達め! 地上に出たいなら出たいと言えば良かろう。直ぐは無理としても、それなり
の年月が経てば、何とかなるものを。全く持ってけしからん!」
博士は本気で怒っていたのだった。