夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「しかし今度の事件は何か解せない所があると、チャーリー君と私とで話し合っていたのですがねえ」
 手術室に向かって歩きながら、アーノルドは言った。
「解せない所?」
「はい、余りにお粗末なので、むしろ拍子抜けしていたのですが。私達が脱出出来たのは突然の停電のお陰
だったのです。発電機の故障だとか。
 最初から薄暗かったので、元々余り性能の良い発電機を使っていたのでは無さそうだった。そんなに準備が
お粗末で、よくも重大犯罪の反乱を起したものだと思います」
 チャーリーも本音を言った。

「ふうむ、誰かに扇動されたと言うのかね?」
「はい。そう考えるのが自然でしょう。しかもある程度の資金援助も受けている」
 アーノルドは少し踏み込んだ言い方をした。

「なるほど言われてみればそんな気がするわい。しかし、申し訳ないが今はそれどころではない。事態は切迫し
ている。
 先ずはダウクーガー退治。一刻も猶予がならない。従って今直ぐに、手術をして、小休止したら直ちに、所定
の場所に向かって貰う。
 後それから、幾つかの変更点がある。今回の事でコリを見たからね。詳細は後でお話しするとして、まあ、忙
しくて申し訳ないが、了解して貰えないか?」
 博士は奥歯に物の挟まった様な言い方をした。

「その、内容を聞いていないのですが?」
「はははは、確かにそうだが。アーノルドさん、お気の毒な気もするが、ここでお別れにしたい。いきなりで悪い
のだが、ここから自宅に戻ってくれまいか?」
 やはり何か言い難そうだった。

「ノアシティの実質的最高責任者である博士の申し出とあらば、従わない訳には参りません。ただ、今直ぐにと
は申しませんが、いずれ折をみて、その理由を教えて頂けませんか?」
「ああ、勿論、訳は近い内にお話致しましょう。今日のところは護衛に信頼のおける兵士三名に送らせましょう。
万一の事がありますからな」
「はい、承知いたしました」
 結局アーノルドは理由も聞かずに屈強の兵士三人に送られて、極秘になっている彼の自宅に帰って行ったの
だった。

「さてここで、少しお話してから手術という事に致しましょう。どうぞ、お入り下さい」
 そこは懐かしい第五小会議室だった。ケッペルが講師を務め、へレン、ミシェル、今はチャーリーとなった夕一
郎、林果と共に、ケッペルスターの勉強などをした場所である。
 部屋の外に護衛の兵士を何人か立たせて、二人きりで向き合い、座って話をし始めた。博士はかなり急いで
いるようでもある。

「今回の反乱騒動は我々にとって重大な教訓を残した」
「あのう、まだ事件は完全に終了した訳ではないのでは? まだ立てこもって抵抗していると思うのですが?」
 チャーリーは事件はまだ終わっていないと考えている。

「はははは、確かにそうだが、余り長く持つことはあるまい。ノアトレインを使って続々と援軍を送ってる。あの
連中が墓地を選んだのは、ノアより他にあそこに行く事が出来ないからなのだと思う。つまり防御し易いと思っ
たのだろう。
 ところが逆に、もしノアトレインが動かなくなったら、あいつらは持ち込んだ食料が尽きれば自動的に全滅する。
攻める事が難しく守り易いと思ったのだろうが、逆にノアトレインを破壊出来ない事が彼らの運の尽きにもなった
のだ。幾らでも軍隊を送れるのだからね。
 多分もうルーカス君率いる、反乱軍討伐隊は百人を超えているだろうからね。最新鋭の装備を持っているし、
後数時間もすれば決着がつくだろう。だからその方面の心配は一切無いのですよ」
 博士は自分の言ったことの裏づけを自信を持って話したのだった。

「ま、まあ、そうですね。ところでその教訓とは何ですか?」
「アーノルド君のことなのだがね、私は彼が適役だと思って君の面倒を見てくれる様に頼んだのだが、うっかり、
彼が人質としても最適な人物である事を忘れていた。
 良く考えてみれば、君の能力は超人的なのだった。アーノルド君に限らず誰かが君について行っても、むしろ
足手纏いにしかならないのだという事に今頃気がついたのだよ。全く頼りないリーダーで申し訳ない」
 博士は日本風な謝意を頭を下げて示した。

「あああ、博士頭を上げてください。私も全然気がつかなかったのですから。それで今後はどうするお積りなの
ですか?」
「一人で行って貰う。行き先やその手順などはこれから手術をしながらでも、じっくり話すことにしますから。今
回の手術は、弾の当たった部分の部分的修繕で済む様だから、話は出来るからね」
「ああ、そうですね。中位の手術ですからね。分かりました。その他に何か御座いますか?」
 博士はまだ何か言いたい事があると思った。

「そこで、私とまあ、仲間の研究員達とも話し合ったのだが、君の居場所さえ分かれば、もしもの事があっても
何とかなる、と考えたのだ」
「なるほど。ひょっとして体内に電波発信機の様な物を入れるとか?」
「はははは、さすがに鋭い。その通り。但しそれだけでは芸が無い。君の方からの連絡が可能な様に意識スイッ
チを操作して、私の個人的研究所のパソコンとやり取りが出来るようにしたいのだが、良いかね?」
 博士にそう言われて、少考したチャーリーだったが気になる事を聞いてみることにした。

「ふうむ、ひょっとしてこっちの状態が筒抜けになるのでは?」
「はははは、そう言うと思った。しかし、それだけは断じて無い。ただし意識スイッチを切り忘れると、プライベー
トな内容までこっちに筒抜けになるから気をつけてくれたまえ」
「分かりました。その、直接話は可能ですか?」
「ああ、勿論。パソコンに備え付けられているマイクを使って私と話が出来る。そのマイクさえ使えば誰でも話が
出来るけどね。
 さてそれでは、先ず、お風呂に入って貰おうか。全身の消毒も必要だから、女子研究員に洗って貰うが良い
かな?」
「え、ああ、そうですね。今までは部品の交換だったから、必ずしも消毒の必要は無かったのですね?」
「その通り。今回は部分的な修理だから逆に消毒が必要になる。女子研究員で良いね? 嫌だったら男子に
するが」
「はははは、女子で良いです。まあ、昔風に言えば看護婦さんですからね。慣れていますか? その男性の裸
に?」
「ああ、三十代の女性が二人だから、免疫はあると思うよ。二人とも既婚者だから。ただ二人ともバツ一だがね」
「はははは、分かりました」
 そこまで話し合ってから、二人は手術室に向かった。チャーリーにとってはお馴染みの場所である。その手術
室の中からお風呂場へ直接行ける様になっている。

 二人の女子研究員に丁寧に全身を洗い、消毒されて、手術着に着替えたチャーリーは手術台の上に寝そべっ
た。胸にある三つの弾痕を削除して、ピッタリの筋肉と皮膚を接合するのである。
 普通だったら麻酔の必要があるのだが、サイボーグのチャーリーにはその必要は無い。ほんのかすかな痛
みしか感じないのである。誰かと話でもしていれば気付かない程度の痛みだった。その話し相手を博士が務める
ようである。

「さて、それでは手術を始めよう。まあ、チャーリー君は私と余り体を動かさない様にして話をすれば良いのだか
らね。そこがサイボーグの都合の良い所。何しろ呼吸している訳ではないから、体を固定すれば、殆ど筋肉を
動かさずに話が出来るのだからねえ」
「はははは、確かに。こうやって笑っても、胸は殆ど動いていませんからね。それじゃあ、研究員の方々手術の
方宜しくお願いします」
 チャーリーは天井から下げてあるモニターテレビに映る、シュナイダー博士の顔を見ながら話すことになった。
博士は手術の邪魔にならない様に、隣室のテレビ画面の中に映るチャーリーの顔を見ながら会話する。
 お互いにテレビ画面を見ながらの話し合いになるのである。直ぐ近くにいるのだが、そうせざるを得ないことに
何か不思議な気が二人共にしていた。

「では、手術後の君の行動について話しておこう。手術後暫くは君の体内に埋め込まれた電波通信機が上手
く行くかどうかのテストになる。
 それが上手く行ったら、明日にも地上に出て貰う。君はチャーリー・クラストファー。そのまま名乗ってくれたま
え。普通に民間の飛行機でマッサーズシティに行くことになる。
 その後の事は向こうに着いてから詳しく話すが、手頃なホテルに泊まってくれ。お金は行く前に五千ドルほど
渡しておく。飛行機のチケットは我々が手配するからその点は心配要らない。さてここまでで何か質問はある
かね?」
「えっと、服装は? 確か今は地上は夏ですよね?」
「ああ、明日から七月だ。地球温暖化のせいか、やたら暑い様だ。勿論、下着も含めて一応全部我々が支度す
る。ただ着替えまでは手が回らないから、それは適当に買ってくれたまえ。
 しかしその、くれぐれもトラブルだけは起さないでくれないか。ただ、チャーリー・クラストファーの名前はなるべ
く使って欲しいと言うのが、大統領からの意向だ」
「了解しました。あの、それでちょっと気になることを聞いても良いですか?」
 チャーリーには少し不思議に思う事があった。

「勿論聞いても良いが、何かな?」
「その、研究員で、見知った顔が一つも無いのですが……」
 前々からその点が気になっていた。

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