夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「はい。ケッペルスターでベガシティの上空まで行って貰います。そこからハングライダー、ミニハングライダーで
降りて貰います」
「ええっ! ミニハングライダー? 何ですかそれは?」
「まあ、言葉通り小型のハングライダーのような物です。普通のハングライダーに比べると三倍以上のスピード
で移動、降下して行きます。人間では使えません。
 しかし、すぐれた運動機能を持つ貴方だったら、楽に使いこなせます。そうですね、背中に背負って貰うので、
コウモリみたいな感じになるのかな。
 ただコウモリの様に羽は大きくはありません。さっき言った様にハングライダーに近いので三角翼の様な感じ
です。時間がありませんから早速練習しましょう。直ぐに出発します」
 博士はもう歩き出している。チャーリーは残っていたミルクを飲み干すと、食器類を片付けない事が気になった
が、慌てて後を追った。

「えっと、場所は何処ですか?」
「ノアシティの十時の位置にある一般住宅地区です。以前見学した事があったでしょう? 地下にしては高い
建物がある所です」
「ああ、あそこですか。でもまさか屋上の辺りから飛び降りるなんてことは……」
「そのまさかですよ。あそこは既に殆ど屋上がありませんから、人を乗せる事の出来るクレーンを使います。兎
に角行きましょう」
 博士は有無を言わせなかった。二人と護衛の兵士達とはノアトレインで一般住宅地区に向かったのである。

「本当にここでやるんですか? 人目がありますよ? 極秘とかじゃないんですか?」
 一般住宅地区に着いてからもチャーリーは少し駄々をこねる感じで言った。
「はははは、貴方は有名になる必要がある。ほら皆何事かと集まって来ている。アピールするのに最適ですよ」
 博士は委細構わずどんどん歩いて行く。その先に巨大なクレーンがある。一般住宅地区で一番高い空間のあ
る辺りにそのクレーンは設置されている。
 そのクレーンの操縦席の辺りに、何人かいて、その直ぐ側に、それらしいハングライダーらしい物があった。
ただミニと言うだけあって、普通のハングライダーに比べるとかなり小さい。

「いやあ、お待たせ。こちらがチャーリー・クラストファーだ。早速だが直ぐ実験に入る。三十分もあれば彼なら
出来る筈だから」
「了解しました。じゃあ、チャーリーさん、これを背負って下さい。さあ、お手伝いしますから、どうぞ。背負いまし
たら、ベルトをしっかりと締めて……」
 係員も有無を言わせなかった。しかしチャーリーは不安だった。

『ろくに練習もしないでいきなりで大丈夫か? 第一随分翼が小さいぞ。これじゃあ墜落するんじゃないのか?』
 ミニハングライダーを背負うといっそう不安が増大した。
「ああ、先ずご自分で走って、ジャンプして、グライダーの様に滑空してみて下さい。スーパーマンみたいな感じ
で飛ばれれば良いと思います」
 係員も如何にもお気楽に言うのだったが何か逆らえない雰囲気があった。観衆は数十人位は居るだろう。そ
の数は徐々に増えつつあったのだ。

 疑問だらけではあったが、先ずちょっとやってみる事にした。その場所を良く見ると以前見た学校の校庭だっ
た。
『以前は簡単には入れなかったけど、今度は良いのかな? まあ、シュナイダー博士のご威光で何とでもなる
のだろうな。まあ、もう夜だしね、ここは余り昼も夜も関係ないけど、しかし……』
 チャーリーは係員からの指示を受けて勢い良く走りながらも、不満が増大しつつあったのだ。

「それっ!」
 兎に角飛んでみた。足を揃えて両手を前に伸ばす感じにしてみたのである。
『無様に転ばなければ良いけど……』
 チャーリーは最後まで失敗すると思っていた。しかしフワッと体は中に浮いた。ほんの数秒だが確かに宙を
飛んだのである。しかし着地がせわしない。

「着地の時、かなりのスピードで走らないと転んでしまいそうです。今は大したことは無いのですが、もしかして
ケッペルスターから飛び降りたとすると、こんな物じゃあないでしょう? 何とかなりませんか?」
 観衆は既に百人近くになって来ている。あちこちに小さな塊を作って遠巻きにしてヒソヒソとなにやら話をして
いる。

「ふむ。ケッペルスターは強力なエンジンを持っているからね。時速百数十キロ位のゆっくりした速度でも飛べ
るのだよ。
 しかし、百数十キロともなると今の二倍、いや三倍位のスピードはあるか。ふうむ、何か良い方法はないか
ね?」
 博士は少し困った様である。しかし言い出したチャーリーが良いアイデアを思いついた。

「えっと、ローラースケートだったらどうですか? この間、ケッペルポイント地区から隣の特別住宅地区へ歩い
て行く時、ローラースケートで私は多分時速にして八十キロ位出したと思います。
 まあ、私にとってはあの位のスピードは何でもなかったですからね。でも一つだけ問題がある事に気が付きま
したよ。着地するのに広い場所が必要だという事です。
 最低でも百メートル、出来れば二百メートル位の舗装道路の様な場所が必要ですよ。勿論車とか走っていな
い場所に限りますけどね」
 チャーリーは気の付いた事を次々に話した。

「ああ、じゃあ、ローラースケートは直ちに手配しよう。それじゃあ、今度は少し高い位置から飛び降りてみてくれ
ないか? 数メートル位で良いから。
 ええと、クレーンの高さを三メートルに設定頼む。それとベガシティには降りるのに十分な場所がある筈だから
大丈夫!」
「はははは、大丈夫ですか。じゃあ、まあ、やってみましょう」
 博士の強引さに少々呆れながらも、要求に応え様と思った。

『この人は本当に一生懸命なんだな。悪気の無い事は良く分かるから怒る訳にも行かないしね』
 チャーリーは苦笑しながらも従った。
「じゃあ、行きます、それっ!」
 特製のクレーンには数メートル程度だったが助走路が付いていた。チャーリーの脚力のお陰で少しの助走で
さっきと同様にフワリと体は宙に浮いた。
 二十メートルほどの滑空で着地した。やはりかなりのスピードで走って減速しなければ怪我をしそうだった。
それでも博士はまだ余裕があると考えて、高さを少しずつ上げて行った。今の高さは七メートル。

「ソーーーーレッ!!」
 段々要領が飲み込めて来た。着地の時の走り方も無駄を無くし、上手に減速出来て、もう少し高くまで、十
メートル位までなら大丈夫に思えた。しかし、そこいら辺りまで来た時に、スタッフに頼んでおいたローラース
ケートが届けられた。
 ケッペルポイントからの秘密の通路にある店から届けられたのである。持って来たのは店の従業員だった。
早速チャーリーはローラースケートを装着して実験が続けられる事になった。間も無く練習を始めてから一時
間が経過する所である。

「えっと、高さを十五メートルにしてみて下さい。お願いします」
 初めてチャーリーが高さの指示をしたのだった。
「それじゃあ、行きます!」
 今回は百メートル以上も飛んでからの着地だった。ローラースケートの威力は絶大で飛行機みたいな感じで
綺麗に着地出来、数十メートルの滑走で静止した。

「パチ、パチ、パチ、パチッ!」
 観衆達の間からは思わず拍手喝采が起ったのだった。
「今度は二十五メートルにして下さい。これで最後にしましょう」
 またチャーリーが指示した。しかも最後にするとまで言った。

「もっと高くから飛んでみなくて大丈夫か?」
 博士が今度は心配した。
「はい。むしろこれ以上だと滑走距離が長くなり過ぎて危険です。ここは直線距離でやっと百メートルほどですか
らね。校舎とか縁石とか金網とかにぶつかってしまいそうですから」
「なるほど。じゃあ、そうしよう」
 博士も納得してクレーンの操縦者に指示を出した。しかし二十五メートルでも相当に高い。ビルディングだっ
たら六、七階に相当するだろう。

「じゃあ、行きまーーーす!!」
 チャーリーは高いクレーンの上から大声で叫んでから助走をつけて飛び出した。滑空は二百メートルを超え
た。体を少し捻ってUターンして戻って来た。やはり綺麗な着地で見事に滑走し、見守っていた博士等関係者
の近くでピタリと止まった。

「ウワーーーーッ!!」
「パチ、パチ、パチ、パチッ!!」
 大きな歓声と拍手でチャーリーは観衆にも迎えられたのだった。観衆はもう二百人を超えていた。
「凄いぞ、チャーリー・クラストファー!!」
 観衆の中にはそう名前を呼んで称える者達もかなり居たのだった。博士の狙い通りの事が起っていたのであ
る。

「チャーリー、それじゃあ、練習はここまでにして、早速ケッペルスターでベガシティに、ダウクーガー退治に行き
ましょう」
 わざと博士はチャーリーがダウクーガー退治に行く事を強調した。それを聞いて観衆達はまたもヒソヒソと話
し合った。

『ああ、何もかも博士や、特にクラストファー大統領の思惑通りなんて、気分が重いけど、今は仕方が無いか
な……』
 チャーリーは内心では悲しく辛い気分だったが、
『何しろ今こうして、より人間に近い姿、能力で生きていられるのも二人のお陰だし、今後の事を考えると、特に
博士には面倒を掛ける事になるのだから、無下には断れないしな』
 そう考えると憂鬱ではあったが、我慢するしかないと思った。

 ミニハングライダーの滑空着地訓練は見事に成功して、スタッフと共にケッペルポイントにノアトレインで向
かった。
 ミニハングライダーは分解して小さく折り畳んでスタッフが手分けして運んだ。チャーリーが運んだのはロー
ラースケートだけだった。

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