夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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 ケッペルポイント地区に着いてみると、物々しい警戒に驚いた。相当の数の兵士達があっちにもこっちにも居
た。博士とチャーリーとを見ると、殆どの兵士はいっそう辺りに注意した。
「どうぞお通り下さい。お二人はチェックしませんから」
 警護の兵士の一人がそう言った。何時ものチェックの為の小部屋ではなく側面の特別ゲートから中に入って
行ったので、二人はフリーパスだった。博士達に付き添う他の警護の兵士達は、全員がチェックの小部屋で厳
重な審査を受けた。

「博士、やけに警戒が厳しいですね。どうしたんですか?」
「はははは、反乱軍が出たのでね、用心の為だよ。もっとも、今回は身内から出た様なものだったからね。今、
見たと思うけど兵士のチェックはかなり厳しくしている。ただ、しいて言えば、混血の進んだ連中が殆どだった。
 彼等は地上では余り良い扱いを受けなかった不満もあったらしい。地下へ来ても埒が明かないので、その不
満が蓄積して反乱という形になったのだろう。
 現在、彼らの背後関係を洗っているのだが、何しろ幹部がほぼ全員死んでしまっているので、迷宮入りにな
る可能性もあるようだ」
「そうですか。ところで反乱を起した兵士達はどの様な処罰になるのですか? 私個人としては首謀者は厳しい
罰があって然るべきですが、それ以外の者に対しては穏便な処分をお願いしたいですね。
 彼等は一生ここから出られないと思い込んでいるようですし。何時かは出られるんですよね、地上に。違うん
ですか?」
 話をしながらエレベーターに普通に乗る。

「ううーーん、それは何とも。簡単に言えば、反乱を起こした者は一生地上には出られません。しかし、今回の
事で私は反省すべき点があった事に気付かされました。
 ここで良い行いをした者にはそれなりの賞を与えるべきだったとね。そうすれば励みになる。反乱の気分も
そがれるでしょう。
 勿論、最大の賞与は地上に自由の身で出られることです。近い内にその政策を発表します。まあ、その位で
どうでしょうか?」
「分かりました。ただ出来ればある一定の年令に達した者は自動的に地上に出られるようにして欲しいですね。
例えば九十才に達した者は無条件で地上に出られるとか」
「ふんふん、それは良い考えですね。なるほどそれだったら、自分の命を大切にするようになるでしょう。あと三
年生きれば地上に戻れるなどと考えますからね。
 ということは過激な事をしなくなるという事に繋がる。いや、それは良い事を教わりました。それも政策の中に
含めておきましょう」
 博士と話をしているうちに、エレベーターはケッペルスターの発着基地に着いた。

「お待ちしていましたよ。漸く私の出番が来ましたね」
 博士等一行を迎えたのは数多くの兵士に混じって先頭に立っていた、ケッペル・ギルバートだった。
「ああ、ケッペルさん。ええと、私が分かりますか?」
 チャーリーはケッペルと暫く離れていたので、自分が白人に変貌した事を知らないかもしれないと思った。

「はははは、知っていますよ。私が操縦して大黄河君じゃなかった、チャーリー・クラストファー君をマッサーズ州
のベガシティまで送りますからね。
 予定では裏娼妓X号館の近くの幹線道路を通行止にするので、そこに降りれば良いですよ。それだったらそ
れほど時間も掛りませんからね。
 ここからベガシティまでは約千五百キロほどありますが、一旦ちょっぴり宇宙に出てから再突入すればあっと
言う間です。二十分とは掛りませんからね。直ぐ出発しますから、着替えをして、準備して下さい。
 係りの方宜しく頼みますよ。ああ、それから、何時もの場所とは乗る場所が違いますからね。詳しい事は後で
乗る直前に説明しますが、ベガシティの上空数百メートルから降りて頂きますのでね。
 余り低く飛ぶと下からマシンガンの攻撃を受けるかも知れませんし、騒音も酷いですしね。じゃあ、待っていま
すから宜しくね」
 ケッペルは徐々に自分がケッペルスターの産みの親らしい使われ方をして来ている事に満足気だった。

「じゃあ、こちらへどうぞ」
 数人の男女のスタッフに連れられてチャーリーはケッペルスターに乗り込む為の支度をした。しかし何時もと
少し違う事がある。
「えっと、この服装は何時もと違うみたいだけど?」
「はい。今回はミニハングライダーを体に装着した状態で乗り込みますので、それに合う様な体にフィットしたボ
ディスーツを着て頂きます。
 ああ、それから、練習に使われたミニハングライダーは翼が固定されていますけど、今回身に着けるのは、
意識スイッチで開閉します。
 後でその練習を少ししてから、ケッペルスターに乗り込んで頂きますので、宜しくお願いします。それじゃあ、
装着しますから、どうぞこちらへ」
 先ずはトイレに行って十分に出す物を出してから、風呂に入って、下着などを新品に取り替える所までは同じ
だったが、その後はかなり違った。

「うーん、全身を覆う感じですね。まるで潜水の時に使うウエットスーツみたいですね。結構分厚い生地だし、
でも関節部分はゴムとかを使っているらしくて動き易くしていますね。どうしてこんなに分厚い物を使うのです
か?」
「はい。宇宙に出ることがその理由の一つですが、失礼ながら貴方はサイボーグなので宇宙服は必要ありま
せん。頭部を除いてはね。その頭部はケッペルスターの中に備え付けられていますから頭部を除いた部分だ
けやや厚手の生地にして万一の場合に備えています」
 スタッフの説明にしかし、チャーリーは納得出来ない部分があった。

「宇宙に出るとするとちょっと拙いんじゃないのかな。温度とか気圧とかもかなり急激に変化するんだし。それ
で大丈夫なのか?」
「ああ、それは大丈夫です。ケッペルスターの中の気温は摂氏二十度位に保たれていますし、気圧も一気圧に
保たれています。頭部を特に保護するのは万一に備えての事ですから」
「ああ、そうなんだ。それを聞いて安心しました。やれやれ、サイボーグだから宇宙に放り出しても大丈夫だと
か思われているのかと思って心配しましたけど、そうじゃなかったんですね」
「はははは、勿論です。幾らなんでもその位は心得ていますよ。さて、ミニハングライダーの装着状態はどうで
すか?」
 スタッフは、見ようによっては天使の羽の様にも見える畳まれたミニハングライダーの装着状態を、鏡の前で
チャーリーに確かめさせた。

「ふうん、大丈夫、きっちり装着されている。それで意識スイッチの言葉かイメージは何かな?」
「はい。『開け羽!』です。ここは狭いですから外でやりましょう」
「ああ、じゃ、じゃあ、外に出るか。ふう」
 チャーリーは鏡に映った自分の姿が何とも恥ずかしかった。

『おいおい、これじゃあ、仮装行列に出る出来損ないの天使みたいじゃないか。羽も何だか張りぼてと言うか、
如何にも作り物っぽいし。まあ、実際作り物なんだから仕方ないけどね』
 そう思うと憂鬱だったが今更文句も言えなかった。何しろ時間は無いのである。

「じゃあ、ここで羽を開いてみて下さい。合言葉は『開け羽!』ですからね」
「はははは、何だかアラビアンナイトに出て来る、アリババと四十人の盗賊の話の中の『開けゴマ!』みたいだな」
「ええっ! 分かりましたか。実はそうだったんですよ。はははは、面白いでしょう?」
「あ、ま、まあね」
 チャーリーはちょっと呆れたが、気持ちを切り替えて、直ぐ念じてみる事にした。

『開け羽!』
 一度目は動きが悪く少し開き掛けて止ってしまった。
『開け羽!』
「シャッ!!」
 今度は上手く行った。開いたと言っても、二枚の閉じた羽がずらされて一つの三角翼に近い形を作りだしただ
けだった。

「今度は閉じてみて下さい。『閉じろ羽!』ですよ」
「ああ、分かった。やってみるよ」
 仕方無しに、それもやってみた。

『閉じろ羽!』
「シャッ!!」
 今度は一発で一瞬の内に閉じた。その後何度か試みて、確実に開閉出来る様になったので、いよいよ博士
やケッペル達の前で滑空実験である。

「それじゃあ、助走を付けて滑空してみますから。ローラースケートを履きますからちょっと待っていて下さい」
 チャーリーは持って来たローラースケートを履こうとしたのだが、
「ああ、これを履いて下さい!」
 スタッフの一人が走ってやって来た。どうも今届いたばかりのより高級なローラースケートらしい。

「ああ、分かりました。えっと、ああ、これは軽くて履き心地が良い。それに足にピッタリのサイズだ。ど、どうも
有り難う」
 チャーリーは礼を言ったが、
「いえ、私は何も。貸しローラースケート屋さんの差し入れの様な物のようです。その、チャーリーさんのお役に
立ちたいとかいう話でした」
「へえ、それは、それは。その貸しローラースケート屋さんに宜しくと、お伝え下さい。じゃあ、走って飛んでみま
すから。それっ!」
 さすがにケッペルスターの発着基地だけあって、床はしっかりした硬質のコンクリートが敷いてあって、非常
に滑らかだったし、十分に広いので、かなりのスピードを出すことが出来た。

「オオオーーーーッ!!!」
 噂には聞いていても実際のサイボーグを見るのは初めての兵士達も多い。そのスピードに圧倒された。素晴
しいローラースケートのお陰もあって時速は百キロを軽く超えていたのだった。

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