夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「フワッ」
 と、飛び、直ぐ着地。何度か瞬間的に飛んでみては直ぐ着地を繰り返した。羽は閉じられたままだったが、
「エーーーイッ!!」
 気合を入れて飛び上がるとスピードのあるせいもあってか、5メートルほども飛び上がった。

『開け羽!』
 強く念じると、羽が開き暫く滑空が続いた。
「オオオオーーーーッ!!」
 ほぼ全員から驚愕の声が上がった。遥か彼方まで飛んで行ったのだ。恐らく二百メートルは飛んだだろう。
助走も含めると三百メートル以上先に着地したらしかったが遠過ぎてはっきりとは分からなかった。

 驚きは更に続く。往復のジャンプと滑空、そして着地とを繰り返しているうちに、ケッペルスターの発着基地の
地下部分の天井一杯、二十メートルほどの高さすれすれまで飛び上がり、しかも百メートル位の助走も含めれ
ば滑走路の地下部分約三千メートル一杯一杯まで飛ぶ事が出来たのである。その気になれば距離も高さもま
だまだ伸ばせそうだった。

「奇跡だ!!」
「新たな人類の誕生だ!!」
 等と大袈裟にも思える驚嘆の声が何人からも上がった。

「ふう、はははは、少し疲れました。少し飛ばし過ぎましたかね。でも、一休みすれば直ぐ体力は回復しますか
ら大丈夫ですよ。でも、この格好はちょっと恥ずかしいんですけどね」
 観衆達の驚嘆の眼差しに大して気付きもせず、チャーリーにとっては格好の悪さだけが気掛かりだったのだ。

「いや、驚きました。はははは、私は何か夢を見ているようだ。いや、その逆だ。目からうろこが落ちた思いで
すよ。チャーリー、君だったら必ずダウクーガーを倒せるし、君こそがその役にもっとも相応しい!」
 博士は別人の様に態度を変えて接した。強く握手を求めたが、その場に居た全員が握手を求めた。

「超人と言うのか何と言うのか、たまげてしまいましたよ。ううむ、その、はははは、適当な言葉が浮かんできま
せん。君こそ我がケッペルスターに乗り込むのに相応しい男だ。チャーリー、私は誇らしいよ」
 ケッペルも感激しているようだった。

 その後も賛辞の嵐だった。チャーリーはかなり照れ臭くて仕方が無かったが、
『でもねえ、こんなに期待されて、ダウクーガーに簡単にKOされたんじゃ、それこそ格好がつかないよな』
 そう思うと、ますますプレッシャーが掛った。

「それじゃあ、ぼちぼち行きましょう。余りゆっくりもしていられませんからね」
 時間的に言えば深夜だったが、いよいよ出発となった。宇宙飛行機ケッペルスターの下の部分のハッチが左
右に開いた。
 チャーリーはやはり下部が開閉式になっている筒状の台に腹ばいになって乗り込んだ。頭の部分には特殊
ヘルメットがありそれに頭を挿入し固定する。数人のスタッフがそれらを手伝った。

 簡単に言えば、チャーリーは爆弾の様な感じである。ベガシティ上空で彼を落とすのだ。後はチャーリー自身
が上手く羽や体の捻りなどを利用して、通行止めにして空けてある筈の道路上に安全に着地すれば良いので
ある。

 勿論、道路には街灯が点いていて明るいので深夜であっても問題は無い。問題があるとすれば天候である。
強風が特に怖いが天気予報によればよく晴れていて風は殆ど無いとのことだった。

「じゃあ、行ってきます!」
 ハッチが閉まる直前にチャーリーは頭部を宇宙仕様の特殊ヘルメットに覆われた状態でそう叫んだ。彼の
声は直接ではなく、マイクで拾われて外部スピーカーで流されたのだった。

「行ってらっしゃい!!」
 多くの兵士はそう言うと敬礼して見送った。別に敬礼の決まりがあった訳ではなかったが、自然にそうなった様
である。

「ギューーーーーンッ!!!」
 轟音を轟かせてケッペルの操縦するケッペルスターは闇の夜の彼方に飛んで行った。その機影が見えなくな
るまで全員が立って見送った。それだけのことではあったが中には涙して見送った者もあった。
 サイボーグではあっても、超人的な能力を見せ付けられた印象は余りにも強かったのだ。ただ兵士達は彼の
正体を知りたがった。
 彼が本当は何処の誰なのか何も知らされていなかったからでもあり、また、様々な噂が流れていたからでも
あったのだ。

 しかし博士はしらを切り通した。が、僅かな動揺の色から、信じた者は殆どいなかったのである。
『何か秘密がある。クラストファー大統領の遠い親戚で、しかも記憶喪失で、尚且つ途方も無い能力のサイボー
グ。余りにも話が出来過ぎている。きっと何か裏がある。何かがある!!』
 その兵士達の強い思いは、やがて噂となって全世界へ流れて行く事になったようである。

「チャーリー聞こえるか?」
 ケッペルはどんどん高度を上げながら一応声を掛けてみた。
「はい。良く聞こえます。宇宙空間へは何時行きますか?」
「現在急上昇中だからね。あと一分位で高度百キロ位に達するよ。今回は高度二百キロまで上がって、それか
ら降りて行く。降りて間も無くベガシティだ。到着まではあと十五分位だな」
「了解。しかし、ここは真っ暗なんですね。はははは、爆弾に心がある訳じゃないけど、普通爆弾には明かりは
灯しませんよね?」
 暗闇は予想していなかったのでチャーリーは洒落で言ってみた。

「ああ、申し訳ない。そこまでは気が付かなかった。ああ、高度百キロに達した。もう宇宙と言って良いだろう。
元々辺りは暗かったけど、暗さの質が違うね。
 ああ、それから、間も無く無重量状態になるよ。燃料節約の為にエンジンを切るからね。あとは慣性の法則
に従って動くだけだから重量が感じられなくなる」
「はい。ああ、体がフワフワして来ました。最初は吐き気がしましたけど、慣れると快感ですね。何とも楽しい」
「はははは、私も同じですよ。それはそうと、ベガシティの暑さは聞きましたか?」
「はい、異常に暑いそうですね」
「ああ、とんでもなく暑い。連日摂氏四十度を超えているそうだ。その暑さの為に皆がクーラーを使う物だから、
発電が追い付かなくて、停電が起きて来ている様なんですよ。
 その為に人は外に出る。家の中が蒸し風呂状態なので外の風に当りにです。木陰だとまだ少しはましなよう
ですし、水浴びも多くの人がする。
 家に人がいなくて暗いので、泥棒が大流行。いまやベガシティは半ば無法地帯の様になっているらしいのです。
特にあなたが行く事になっている、裏娼妓X号館付近は酷いらしいですよ。
 ダウクーガー退治に警察や軍隊が手こずっている理由にはそれもあるらしいのです。周囲の人達が全く非
協力的で、彼らに対して石を投げる連中さえいるようですよ。どうぞお気をつけて。さて、そろそろ、宇宙は終わ
りです」
 ケッペルが夢中になって話しているうちにケッペルスターは再び大気圏に突入した。

「少し気温が上がりましたか?」
 チャーリーは暑さを感じて言った。勿論人間の様に暑いと思うのとは微妙に違って、温度の上昇を感じるだけ
であり、三十度を超えても暑苦しさは感じないのだ。
「はい。若干ですが上がりました。大気との摩擦熱があって機体の温度が数十度上がったようです。室温は数
度程度の上昇に抑えてあります。速度を抑えて摩擦熱を下げる為に、エンジンに今点火しますからちょっと衝
撃がありますよ」
「ガンッ!!」
 ちょっとと言うより、かなりと言った方がいいくらいの衝撃だった。生身の人間だったら失神していたかも知れ
ない。

「あはははは、凄い衝撃ですね。ケッペルさん大丈夫でしたか?」
「……、はははは、いやちょっと驚きました。まあ、予想していたから耐えられましたけど、そうでなかったら危
なかった。何しろ本格的に宇宙に出たり入ったりしたのはこれが初めてだったものですからね」
 ケッペルは一瞬気絶した様にも感じられた。

「さあ、そろそろ、ベガシティの上空です。速いですね、十二、三分位しか掛っていません。先ず、頭部の特殊ヘ
ルメットですが、ネジを弛(ゆる)めて簡単に外れるようになっていると思いますからやってみて下さい。
 もう高度は一万メートルを切っています。どんどん下降しています。温度や気圧は大丈夫だと思いますから直
ぐ外して下さい」
「了解。……はい、外しました。ちょっと寒いですね」
「分かりました。現在高度七千メートル。もう少しすると気温も気圧も平常になると思います。……高度五千メー
トル。温度と気圧はどうですか?」
「まだ少し寒いし、気圧は少し低めです。ヘルメットを外したのがちょっと早過ぎた気がしますけど?」
「うーむ、これは予想外でした。もし我慢出来なかったら、もう一度ヘルメットを装着して下さい」
 ケッペルは予想外の出来事にやや慌てて言った。

「大丈夫です。少し暖かくなって来ました。気圧もほぼ正常に感じます」
「了解しました。現在高度は三千メートル。街の灯りが、美しく見えて来ました。ベガシティまであと数分です。現
在高度は二千メートル。外の気温は二十度を超えて来ました。蒸し暑い地上が想像出来そうですよ」
「はい、急に気温が上がった気がします。気圧はまあ普通ですけどね。ああ、どんどん暑い感じになって来た。
へえなるほど暑いんですね。今真夜中なのにね。今日は七月一日ですよね?」
「はい。午前零時を少し回ったのでそうなります。高度は千メートルを切りました。天気は全く快晴です。星が良
く見えます。でも瞬く星です。地上から見る星ですよ。少しがっかりですね」
「はははは、そうがっかりする事もないでしょう。それにしても気温は三十度位でしょうね。如何にも暑くなりまし
た。地球の温暖化ですかね」
「地球の温暖化かどうか知りませんが外の気温は摂氏三十三度です。高度は約五百メートル。もうそろそろ降
りて貰いますが準備は良いですか?」
「何時でもOKです」
「ああ、千メートル位先に道路が見えて来ました。投光機まで使って一際明るい。長さは約五百メートル。それ
じゃあ行きますよ!」
「はい!」
「ガタンッ!」
 ケッペルスターの下部ハッチは開き筒状の台も開いて、チャーリーは正に爆弾の様に落ちて行った。

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