夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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『女がダウクーガーの部屋に五人居て、鎖に繋がれているのか。何とも気の毒だな。それと男達はいざとなった
ら格好の人質だし、想像通り協力者でもあるんだな。まあ恐怖心から仕方無しにだろうけどね。
うーむ、もう少し聞いてみよう。何か役に立つ情報があるかも知れない。しかし、ここを取り囲んでいる連中が
行動を開始しなければ良いがな』
チャーリーはもう少し詳しい話が聞きたかったが、兵士や警官達が動き出さないことを祈るより無かった。
「だけど、ダウクーガーがゴールドマン教授を殺したのには驚いたよな。まあ、彼は教授の言う事に従う積りが
無かった事は良く分かるけど、お陰で資金が決定的に不足して結局自分の死期を早める事になったのだから
ね」
「ああ、それには俺も驚いた。サイボーグの手術には莫大な金が掛る。金づるでもある教授を殺したらどうにも
ならなくなることぐらい分かる筈だけどね」
「あれは多分衝動をコントロール出来ないからなんじゃないのか」
「恐らくね。時々無性に人を殺したくなるらしいよ。レイプもしたくなるらしい。でも最近少し落ち着いて来た様に
思えるけどね」
「うん、ふう、まだ交代の時間までかなり時間があるけど、コーヒーでも飲むか?」
「ああ、頼むよ」
話は一旦そこで途切れた。
「ふう、美味い! 外はかなり暑いけど、ここは一応冷房が効いている。自家発電だからこの辺りの停電とも
関係ないしね」
「ああ、暗い所が多いのはそのせいだな。でも、最近では自家発電も普及して来ているから、明るいところは
大抵自家発電だよな」
「うん。中の光が外に洩れない様にするのに、結構大変だったけどな。窓の目張りなんかがね」
「ああ、本当に大変だった。もたもたしていた連中がダウクーガーに殺されたよな、三人ばかり」
「ああ、目の前で殺されても、作業の手を休められなかった時は本当にぞっとしたよな」
「うん。それはそうと、地下都市のノアシティで反乱があったらしいな」
「ああ、まだ地下に残っている俺達の仲間の連中が連絡して来たんだけど、全部SWX教団の仕業らしいよ」
「SWX教団と言うと白人第一主義の過激な宗教団体のことか?」
「ああそうだ。ミシェルとか言う若い女性がノアシティにいるんだけど、彼女は教団の大幹部の娘らしいよ」
「へえー、その女性が首謀者なのか?」
そこまで聞いてチャーリーはハッとした。
『ミシェルってまさか彼女じゃあ。……ううむ、ひょっとすればそうかも知れないな』
更に聞き耳を立てて聞き続けた。
「そうじゃないらしい。そのミシェルって女子は親に反抗して、ちょっとグレて、それで地下に送られる羽目になっ
たらしいよ。
それでその親達は彼女に目覚めさせる為に、混血の進んだ連中に無意味な反乱を起こさせて、鎮圧すると
いうとんでもない手段を使ったらしい。白人は偉いが混血などの白人で無い連中は、ろくでもない事をするとい
うことを見せ付ける意味でね」
「訳が分からないな。どうしてそこまでする?」
「仲間の研究員の話じゃ、まあ、推測に過ぎないんだけど、一石二鳥を狙っているらしい」
「一石二鳥?」
「うん、さっきも言った様にミシェルに目覚めて貰う事と、その鎮圧にSWX教団が便宜を図った。つまり莫大な
資金提供をした、ということらしい」
「まだ分からないな。莫大な資金提供をしてどうするんだ?」
「つまり、その功績から、ミシェルを地上に戻すのさ。俺達の時はまだ警戒が甘かったけど、最近は相当に厳し
くて、そうそう簡単に地上には逃げ出せないそうだ」
「ふふん、読めて来たぞ。でももし反乱軍が、SWX教団にそそのかされた事を白状したらどうするんだ?」
「そこは抜かりがない。事情を知っている反乱軍の幹部を皆殺しにして口を封じてしまうのさ。実際、幹部は皆
殺しになったようだ」
『何と、そんな陰謀だったのか。呆れた話だ! しかし、そうするとルーカスさんがSWX教団の仲間?』
チャーリーは首を傾げた。
「しかし随分都合良く殺せたものだな」
「はははは、反乱軍を掃討する司令長官はルーカス・ベンタム。彼はSWX教団の隠れ信者らしいんだぜ」
「隠れ信者? 何だそれは」
「つまり表面的には一切の差別をしない態度を取るSWX教団の中堅幹部達のことさ。もっとも噂に過ぎないけ
どね。でも辻褄は合うだろう?」
「ああ、確かに。でも、噂だけじゃあね」
「はははは、仕方が無いよ。良く分からないから隠れ信者なんだしね」
「なるほどそうだな。隠れキリシタンみたいに踏み絵で調べるという訳には行かないだろうしね」
「うん、SWX教団は強固な信念を持ってもいる。これも噂なんだけど、たとえ教祖の踏み絵であっても、彼等は
秘密を守る為に平気で踏みにじるそうだ。そういう教育を受けているらしいよ」
『ううむ、ルーカスさんが隠れSWX教団の信者? その様な素振りは全くなかったけど、今の話が本当だった
らさもありなんだよな』
チャーリーにはちょっと信じられない話だったが、
『しかし、反乱軍の首謀者の殆どが殺害された事が少し府に落ちなかったけど、その謎はそれで解けることに
なる。辻褄は合うのか……』
そう考えて、更にもう少しだけ聞いてみることにした。
「それにしても、驚いた武器があったものだよな。まさかロケット砲まであるとはね」
「ああ、ゴールドマン教授が何かの時の為にロケット弾百発と、それを撃つ発射台が三台。しかも最新式の奴
で、目標をロックオンしたらほぼ百パーセント命中させられるんだからね」
「ヘリコプターに見事に命中した。でも、発射台はここの屋上に備え付けなのが欠点だよな」
「その代わり命中精度が高いし、最悪このビルごと吹飛ばす為にジェット戦闘機やヘリコプターで攻撃し掛けて
来るかも知れないからね。しかしさっきのヘリコプターは何をしていたんだ?」
「ああ、何かサーチライトで照らしていたと思うけどね」
「ノアシティの仲間から何か連絡は無いのか?」
「ああ、その方面の警戒も急に厳重になったようだ。さっき話した反乱軍の掃討作戦辺りまでは連絡があった
けど、その次辺りからの連絡は全然無くなった。重大な何かが動いているらしいのだけど、はっきりしない」
「例のサイボーグ、大黄河夕一郎の件はどうした?」
「悪いけど、大黄河先生を呼び捨てにしないでくれるか?」
「ああ、そうだったな、その、彼はその後どうなった?」
「彼は今はチャーリー・クラストファーと言うんだそうだ。従って俺はチャーリー先生と呼ぶ事にしている」
「チャーリー・クラストファー、さん? 大統領と同じ苗字だぞ? どういうことだ?」
「ああ、それだったら、俺も知っているよ。大統領の親戚とかいう設定らしいね」
「うん、チャーリー先生は正に白人。その彼がダウクーガーを倒して、その親戚であるクラストファー大統領の
次の選挙を有利にしようという魂胆らしい。陰でSWX教団が一枚噛んでいるという噂だ」
「またSWX教団か。うーん、何かまだ裏がある気がするけどね」
「そのチャーリー先生はダウクーガーに勝てるかな?」
「勝てると思うよ。何しろ相当にパワーアップしたらしいからね。でもその中身までは知らせて貰えなかった。と
言うより、そこまでは知らないみたいなんだよ。担当が違うらしくてね」
「ふーん、それでその先生は何時こっちに来るんだ?」
「残念だけどそこまでは知らないな。どういう方法で来るのかも分からない。さっきも言ったけど、連絡が全く無
いんだ」
「そうか、じゃあ、仕方が無いな。ああ、コーヒーカップは俺が洗って置くよ。それにそろそろダウクーガーも起き
る頃合だしね。ああ、今日は誰が殺されるんだろう。俺達で無い事を祈るしかないな」
話はそこで終った。
『ほほう、俺がここに来ている事を知らないのか。何故だ? ははーん、ここにはテレビが無いからかも知れな
いぞ。さっきはテレビ中継されていたけど、わざわざここに知らせに来る連中はいないしね。
集まっていた観衆はテレビで予告されていたから来たのかも知れない。恐らくそうなのだろう。ケッペルスター
の接近はここからかなり離れていたし、直ぐ通り過ぎたから注目はしなかった。しかしヘリコプターは割合近くに
居たし、サーチライトで照らしていたから如何にも目立った。
しかし何故撃墜した? 多分ロケット砲の性能の確認と言うか射撃訓練の意味があったのじゃないか。それ
にひょっとして裏娼妓X号館を攻撃して来るかもしれないと思ったとか? まあ、その内のどれかだろう。
だけどダウクーガーは俺の所在を本当に知らない? それは何とも言えないぞ。自分だけ知っていて知らな
い振りをしているのかも知れない。
たださっきの話だと、俺を未だに崇拝している者があるのだな。ふうむ、だとすれば、いや、今はダウクーガー
がもう一度眠りに付くのを待つしかあるまい。人質の命を一人でも多く助ける為にね』
一旦はそう考えたのだったが、拙い事があった。
『あれっ? 東の空が明るくなって来たぞ。そうか、今は夏なんだ。夏至が過ぎて間もないからな。駄目だ、もう
行動を起さないと。仕方が無い、物音を立てて、もう一度ここに来て貰おうか』
チャーリーは少しずつ辺りが明るくなって来ていて、自分の姿が発覚したら、兵士の中にいるであろう、ダウ
クーガーのスパイが早速連絡をするのに違いないと思った。
「それっ!」
ごく小さく叫んで、裏口の直ぐ前の地雷の無い辺りに飛び降りた。それから大急ぎで背負っていたミニハング
ライダーとローラースケートを脱いで、やはり地雷の埋まっていない裏庭の中央に置いたのである。素早く動く為
に靴下も脱いで置いたのだった。