夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「バタンッ!」
 今度は音が大きかったせいか、五人の男達がそれぞれに懐中電灯を持って走って出て来た。裏庭の中央の
辺りに、全身を覆う感じの変ったコスチュームを着た男が素足で立っていた。ただ地雷が怖くて誰も側まで走り
寄れなかった。

「あ、あんたは、一体誰だ!」
 数人が控えめにそう叫んだが、男達は一様に驚愕の表情になっていた。地雷の埋まっている裏庭の中央に
立っていられることが不思議でならなかったのだ。

「元の名前は大黄河夕一郎。今はチャーリー・クラストファー。サイボーグだ。君達を助けに来た」
 男達は顔を見合わせていたが、
「ダウクーガー様に報告しないと!」
 そう叫んで二人の男が館の中に戻ろうとした。

「止めろ、折角助けに来てくれたんだぞ!」
 三人の男達が阻止しようとして、もみ合いになった。
「バンッ、バンッ!」
 あっと言う間の出来事だった。ダウクーガーに報告しようとした男二人は、チャーリーの腹部への当身(あて
み)で失神してしまったのである。

「暗いうちにここから逃げた方が良い。内部事情を少し説明してくれないか。誰が何処にいるのか、詳しく聞き
たい。ただなるべく簡潔に頼む。ダウクーガーは私が阻止する。今は寝ているんだろう?」
「はい、その通りにダウクーガーは眠っています。起きる時間は決っていませんが、今までの経験だとそろそ
ろ起きる頃です。
 でも起きても直ぐには出て来ません。必ず女達を三十分ほどレイプしてから、更にシャワーを浴びて新しい服
を着て出て来ます。都合四十五分位は掛ります」
「うーん、呆れた日課だな。とすると女達の悲鳴が聞こえて来ないから、まだダウクーガーは起きてはいないん
だね?」
「はい。彼が起きたと分かったら、雑用係は忙しくなります。兎に角、徹底して掃除をしないと、手抜かりがあっ
たりすると首の骨をへし折られてしまいますから」
「はははは、変な所に凝るんだね」
 チャーリーは呆れて苦笑した。

「それでその、屋上に九人います。三基のロケット砲を常時スタンバイしています。それから表玄関の守りに
十二人。裏口はここにいる私共五人が守っていました。
 それとさっき言った雑用係が通常は控え室のような二階の部屋に五人います。最後に三階のダウクーガー
の寝室に五人の女性が鎖に繋がれたままになっています。それで全部です。
 かつてはもっと沢山人がいたのですが、ダウクーガーに殺されました。何故か殺されたのは殆どが日本人で
した。はっきりとした理由は分からないのですが、どうもダウクーガーの正体を良く知っているらしいからのよう
でした」
「うん、大体分かった。それじゃあ、君達はここから逃げてくれ。気絶している連中は負ぶって行けるか?」
「あ、あの、負ぶって行くのは良いのですが、裏庭は地雷が沢山あります。逃げられません」
 リーダーっぽい男が悔しそうな表情で言った。

「ああ、そうか、逃げ道が分からないのか。じゃあ、俺に付いて来てくれ。おっと、その前に博士に連絡しておこ
う。少しだけ待っていてくれ」
 チャーリーは体内通信機の意識スイッチを入れた。

「ああ、チャーリーか、メールは読んだよ。で、今は何処にいるのかね?」
「はい、裏娼妓X号館に潜入しました。まだ裏口の入り口付近ですが。人質の五人を先ず解放します。裏口に
は地雷が埋まっていたんですね」
「ええっ! それは初耳だ。だ、大丈夫なのかね。まあ君には地雷探知機も装備してあるから地雷の敷いてな
い所があれば通れるとは思うが」
「はい、ちゃんと抜け道がありました。それでこれから人質を順次解放して行きたいと思います。ただ、中には
ダウクーガーが怖くて彼に協力的な者もいますが、そこいら辺は理解してやって頂きたい。詳しい事は解放され
た者に聞いて下さい。それじゃ連絡はこの辺で」
「ああ、そっちの兵士達にはこちらから今直ぐ連絡しておく。チャーリー、生きて帰れよ!」
「了解!」
 そこで通信は終った。

「あ、あの、今の独り言は何ですか?」
 人質の男の一人が妙な顔で聞いた。
「ああ、私の体内には通信機が組み込んであるんですよ。シュナイダー博士直通のね」
「へええ、驚きました。あの、それで早速逃げましょう。どう行けば良いのですか?」
「先ずあの、変な羽みたいな物の所まで真っ直ぐ歩いて行きます。道幅は約一メートル。真後ろを付いて来て
下さい」
「はい」
 男達は気絶した男を負ぶって慎重にチャーリーの後を付いて行った。負ぶっていない者は最後尾について、
チャーリーと共に懐中電灯で道を照らしながら歩いた。ただ見つかり難い様に、地面のほんの一部だけを照ら
して歩いたのである。

 厄介なのが、ミニハングライダーの折り畳まれた羽である。小さいとは言っても、全長は一メートル五十セン
チ位。高さが六十センチ、幅は八十センチ位あった。これでは側をすり抜けることもままならない。

「ああ、ちょっと待って下さい、今これを片付けますから」
 チャーリーは懐中電灯を下に置くと、ミニハングライダーを右の小脇に抱え、靴下はローラースケートの中に
詰め込んで、そのスケートは二つ一緒に左手に持ち、猛スピードで走って行った。暫く走ると再度下に置いた。
それからまた猛スピードで走って戻って来た。 

「ええと、今あの変な羽みたいな物を置いて来ましたが、あそこが目印で、真っ直ぐ歩いて行けば良いです。羽
を置いた所が地雷原の二メートル位先になります。
 隣のビルの入り口に近い所ですから、分かりやすいでしょう。ここからだとあと二十五メートル位ですかね。
さあ行きましょう」
 チャーリーは再び懐中電灯を持って、先頭を行った。人質になっていた研究員達はゆっくりと慎重に歩いた。
一歩でも間違えば爆発すると思うと、プレッシャーが凄かったのである。

「さあ、着きました。ええと、地雷原は裏庭だけなんですか?」
 リーダー風な感じの男に聞いてみた。
「はい。表玄関の方はバリケードとマシンガンで固めていますから簡単には入れませんし、屋上にはロケット砲
があります。
 当初は裏口の守りも大勢の人で固めていたのですが、先ほども言いましたように、ダウクーガーの気まぐれ
もあったのかどうか分かりませんが、かなりの人達を殺害してしまいました。
 人数が間に合わなくなって、用意してあった地雷の敷設をしたようです。しかも抜け道を知っていると言う理由
で敷設した人達も殺してしまったのです。おぞましい限りです」
 男は顔をしかめた。

「分かりました。ええと、あなた方の事はシュナイダー博士に連絡してありますので、もうこっちに連絡が来てい
ると思いますが、兵士や警官達に事情を説明して下さい。分かって貰える筈です」
「はい、了承しました。それではその、どうかご無事で!」
「うん、必ず生きて帰って来るさ。ああ、その、悪いんだが靴を貸して貰えませんか。サイズが合いそうだから
ね。普通の靴を履いて来なかったもので難儀しているんだけど」
「ああ、どうぞ。ローラースケートで来られたんですか?」
「はい。ちょっとした理由がありましてね。じゃあお借りして置きます。あの、お名前は?」
「はははは、名乗るほどの者じゃないですよ。靴は差し上げますから。どうぞ早く行かれた方が良いですから」
「じゃあ、今度こそ失礼します!」
 チャーリーは持って来た靴下を履き、軽快そうな借り受けたばかりのズック靴を履いて、二、三度ジャンプな
どして感触を確かめると、大急ぎで裏娼妓X号館の裏口目指して走って行った。

「オオオーーーッ!」
 彼を見送った三人は驚きの声を上げた。大黄河夕一郎の動きの素早さなどは知っていたが、チャーリーの
動きは更に数段素早かったのである。
『あれだったら、ダウクーガーに勝てるかも知れない』
 三人の男達は皆そう思った。

『ダウクーガーは先ず起きてから三十分ほど女達をレイプするのか。やれやれ、元々レイプ好きの男だったが
今はそれに拍車が掛ったみたいだな。とすれば、まだ大丈夫だろう。女達には悪いが、少なくともさっきは起
きていなかったのだからな』
 あっと言う間に裏口に着いたチャーリーは、屋上の連中が空の上ばかり注視していて下の方には殆ど注意を
向けていないことを知った。

『それもそうだよな。ロケット砲は通常上に向かって撃つのだからな。それに地上を攻撃したんじゃ拙いよな、
特に地雷原は。爆発が終れば、ただの荒地みたいなものだからね』
 外はやや明るくなって来て、そろそろ懐中電灯を使わなくても歩けそうである。しかし、館の中の明かりの無
い所は暗かった。中の様子を知られないようにカーテンなどを厳重に何重にも閉めてあるからだった。

『ふうむ、まだ眠っているらしいぞ。静かだからな。さて次は雑用係の五人の解放だ。確か二階だったな』
 静かに階段を登って行った。裏口の方の階段と玄関の方の階段とがあって、幸いにも裏口の方の階段は
玄関からは見え難い位置にあった。
『ダウクーガーは大勢の人質達を殺してしまってかえって自分の身を危うくしている。やはりサイボーグになった
事で精神的に不安定になっているのだろうか?』
 チャーリーはサイボーグになりたての苦しかった日々を思い出していたのだった。

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