夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「キャロル! そういう言い方は失礼だろう! かりそめにも私達の雇い主であり、私もそうだが、君も崇拝し
ているのだろう? 少しは言葉を慎んだらどうだ!」
 ゲルクはかなり激高して言った。

「あら、私の崇拝する気持ちに嘘は無いわよ。敬称でお呼びしているし、私の様な僕(しもべ)の体など、お気
に召さないかも知れないけど、精一杯尽くさせて頂くと言っているのですから、失礼ではないと思いますけど。
 チャーリー様、どうで御座いましょうか、私の言い方がお気に召しませんか? もしお嫌でしたら、仰
(おっしゃ)って下さい。すぐに直しますから」
 ゲルクに注意されてもキャロルは一歩も引かなかった。

「まあまあ、私は余り気にしていないから。ゲルク君、ご注意有り難う。確かに人前で言うべき言葉だと思えな
いから、その種の事は二人きりの時に言うべきだろうね。キャロルさん、良いかな?」
「はい、以後気をつけます。うふふふふ、二人きりの時には宜しいのですね?」
「はははは、はい、別に構いませんよ。ただご期待に添えられるかどうかは分かりませんけどね」
 チャーリーはさらりと身をかわす言い方をした。

「ふふん、そうね、キャロルさんは何も知らないものね。サイボーグの実体を知ったらどう思うのかしらね。惚
れた腫れたが一辺に吹き飛ぶ事になるわよ。
 その点私は平気よ、そっちの方も良く知っていますからね。はははは、ゲルク君も目を覚まされる日が来る
と思うけど、それでもついて来れたら誉めてあげるわよ。
 さあ、ビジネスで行きましょう。余り時間が無いわよ。そうでしょう、秘書のキャロルさん。早く仕事を進めて頂
戴な」
 キャロルとゲルクのやり取りを、鼻で笑って正美は仕事の再開を催促した。

「そ、そうね、早速なのですけど、今夜から仕事が始まります。テレビの番組で『世界の超人集合!』の、メーン
ゲストになります。
 場所はオーランド競技場を借り切って行います。午後七時から午前零時まで、五時間の拘束時間。ギャラの
方はゲルク君お願い」
「はい。事前の了解無しに事を進めてしまって申し訳ないのですが、出来るだけ高額のギャラを早く貰いたいと
いう意向は、ケッペルさんや、シュナイダー博士からも伺っておりますので、勝手に決めさせて頂きました。
 今回はテレビの録画取りなのですが、五百万ドルで請け負いました。宜しいでしょうか? もしお気に召さな
ければ、キャンセル致しますが」
 ゲルクは慎重に聞いた。

「ふうん、ギャラは良いけど、どんな番組なのかな? メーンゲストと言うと何か話すのかな?」
「はい、ほんの少しだけ。話すと言っても、色々なパフォーマンスを見せて貰う時に、あれは出来ますかとか、
これをして下さいと言われた時に、イエスかノーかを言うだけみたいです。
 つまり、チャーリー様が司会者と話をして、何かをやって見せ、次に他のゲスト達が色々やって見せます。
そうしたら更に司会者がこれはどうですかと言うので、再び挑戦する。
 圧倒的なパワーを見せつけて、次の課題に進む。そして最後に、空を飛ぶパフォーマンスを見せて終了とい
う事らしいですわ」
 キャロルは番組の趣旨や要点を分かり易く伝えた。

『ふうむ、エッチ系の話が出て来た時にはどうかと思ったけど、仕事はきちんとこなせる様だな。まあ、キャロル
も秘書としては合格だろう。
 正美は勿論合格。彼女無しでは今後が大変だからね。それにしても空を飛ぶ? 気安く言ってくれるねえ。
少し詳しく聞いておこうか』
 チャーリーはキャロルの話を聞いて少し考え込んでから返事をした。

「その、空を飛ぶということをもう少し詳しく聞きたいね。ミニハングライダーを背負って飛ぶということかな?」
「はい、皆さんそれを待っていますわ。あの圧倒的スピードは凄いですわ。とても人間業では無かったですから」
「はははは、私はサイボーグなんだからね、人間業で無いのは当然なんだけど、他の人はどうするのかな?」
「はい、他の方々が普通のハングライダーで飛びます。競技場に特設ジャンプ台が設置されていて、そこから
飛び降りるらしいですわ。競技場の中央に描かれた着地地点に正確に降りて頂きたいという事でした」
「へえー、そうなんだ。ざっとの事は分かった。それで今日の仕事は終りかな?」
「はい、ただ明日は朝早くから仕事があります。それで、そろそろここを出ませんと、競技場に着くのが遅れる
恐れが出て来ますので、夕食の方は機内で食べることになります」
 ゲルクは時間を気にした。

「機内で夕食? ここから何で行くのかな?」
「ヘリコプターじゃよ。一旦研究室地区へ戻って、エレベーターで地上に上がり、空軍基地の大型ヘリコプター
に乗って競技場に行く。一時間位で到着するが、その間夕食を取りながら明日の予定などを話すのじゃろう?」
 話が長引いていたからか、何時の間にか戻って来ていたケッペルが説明した。

「ああ、そうですか。ケッペルさんはどうされるのですか?」
「はははは、私は当分出番は無い。チャーリー君、兎に角出来るだけ稼いで、次の手術代を捻出したまえよ。
金額によって、君のボディの水準が決るのだからね。
 何か悲しい気もするが仕方が無いね。あの、金森田の様に他の人を犠牲にして金儲けをする訳には行か
ないからね。
 ただまあ、これはあれなんだが、君がその気だったら、宗教団体を立ち上げるか、さもなければ既成の宗教
団体を利用する手もあるがね。
 まあそれは非常手段というか、最後の手段として取っておくのも良いだろう。まあ、何にせよ今は急ぎたまえ。
私は見送らないからね。ここでグッバイだ」
 ケッペルは今後のチャーリーの身の処し方のヒントを言って、お別れの言葉で締め括った。

「ああ、そうですね。それじゃあ、コーヒー美味しかったです、あの、近い内にまたお会い致しましょう」
 チャーリーも謝辞を言って別れを告げた。他の者達も同様に謝辞を言ってケッペルの研究室を出た。短い
時間だと思ったが、もう一時間以上は掛っている。

 暫く歩いていると、間も無く駅舎代わりの部屋が見えて来たが、
「ええっ! 拙いぞ、あいつらまだ居るよ!」
 チャーリーは一旦歩みを止め、小声で叫んだ。改造したらしい大きな窓から中が良く見えるのだ。

「ほんとだ、しつこいわね。でも困ったわね、何か前より人数が増えているわよ。十人、いいえ、十四、五人は居
るわね。どうしましょうか?」
「少し引き返しましょう、見つかったら何かと拙いわ」
 正美の問いにキャロルが答えた。
「ああ、それが良い。見えない所まで戻って、作戦を練りましょう」
 ゲルクも付言した。四人は少し引き返して、角を曲がってから立ち止まって話をした。

「うーん、私と君達と別々の行動の方が良いだろうね。ただ、人数が多いから、幾ら私のスピードでも、誰にも
見つからないようには、ノアトレインに乗れそうも無いね。
 駅舎の部屋が狭いから動き難くいし、早く動くと誰かにぶつかってしまう恐れがある。怪我でもさせたら大変
だからね。ううむ、参ったな」
 チャーリー達が思案していると、ケッペルがやって来た。

「あれ、ケッペルさん、どうされましたか?」
 ゲルクが不思議そうに聞いた。研究に忙しくて出歩くとは思えなかったのだ。
「はははは、まだここにいましたか。大方そんなことだろうと思って、出て来てみれば案の定だ。熱烈ファンとい
うのはしつこいものだという事を言い忘れたのでね。チャーリー君の帰りを待っていたのでしょう?」
「はい。もう一時間以上も駅舎で待っていたんですね。しかも更に人数が増えている。困りましたよ」
 チャーリーもほとほと困ってしまったのだった。

「分かりました。じゃあ、こうしましょう。キャロル、ゲルク、それと正美さんは普通にノアトレインで研究室地区へ
向かって下さい。
 もしファンの人達にあれこれ聞かれたら、チャーリー君はもう既に、ケッペルスターに乗って帰ったと言って
おいて下さい」
「ケッペルスターで帰るんですか?」
 ゲルクが再び疑問を呈した。

「はははは、嘘も方便ですよ。ケッペルスターが一回出動するのに、最低でも百万ドルは掛りますからね。予
算もありませんし、それに今日は全く飛行の予定はありませんから、準備もしていないので無理ですよ」
「じゃあ、チャーリー様はどうやって空軍基地へ行くのですか? 変装か何かされるのですか?」
 キャロルも疑問を呈した。ケッペルの考えが読めなかったのだ。

「幸いと言ってはあれですが、ケッペルスターの発着基地にはミニハングライダーもローラースケートも幾つか
ストックしてあります。
 性能の向上の為に、今もそれらは研究されていますからね。あそこで見せたチャーリー君の飛翔のパフォー
マンスが忘れられないのですよ。
 今思い出しただけでも、ううう、目頭が熱くなる位です。ははは、済みません。……私だけではなく、あれを見
た者全員がそうでしょう。だから何時かまた来て貰って、再び更に素晴しいパフォーマンスをしてくれる事を皆
期待しています。
 それで、何時来て貰っても対処出来る様に、常日頃から準備万端整えておるのです。チャーリーさんにはご
苦労様ですが、ケッペルスターの基地から飛び立って、空軍基地まで飛んで行って貰いたいのです」
 ケッペルの考えは四人を驚かせた。

「でも、かなりの距離がありますわ。幾らチャーリーさんでも無理なのではありませんか?」
 正美は青くなって言った。
「今日も良く晴れていますし、風も殆ど無い。ローラースケートで勢いを付ければ、十分に空軍基地に届くと思
いますよ。ケッペルスターの発着基地は結構な高台にありますからね、大丈夫楽に行けますよ」
 ケッペルは自信を持って言ったのだった。

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