夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
277
「時間が切迫しています。ここはケッペルさんの言う通りにしましょう」
チャーリーが一言言って皆の態度は決った。
「チャーリー様がそう仰るのなら異論は御座いませんわ」
「僕も異論はありません。ただそのくれぐれもお気をつけて」
キャロルとゲルクはすんなり了承したが、正美は気に掛る事を聞いてみた。
「空軍基地へ空から侵入して大丈夫ですか? 撃墜なんて事は無いでしょうね?」
中々用心深い。
「はははは、勿論ちゃんと連絡は入れて置きますよ。と言うより、もう連絡は付けて置きましたよ。多分こうなる
だろうと見越してね」
「ええっ! 随分早かったですね。良くそこまで予想されましたね、大したものです」
チャーリーはケッペルの素早い行動力に敬服した。
「いや、何ね、私は若い頃はこれでも、随分もてましてね。一応若き天才科学者なんて言われた事があったも
のですからね。
それこそ熱烈なファンが居たものです。国際会議の会場に行った時なんか、半日以上も会場の前で私の帰
りを待っていたりしたのですからね。
それでまあ、ピンと来たのですよ。そこで一しきり考えて、さっき言った方法を思いついて空軍基地に連絡し
ておいたのです。
チャーリー君だけが、空を飛んで基地内に入るから、撃墜などしないようにと念を押して言っておきましたか
ら、絶対大丈夫ですよ。一人だけではなく、三人の責任者に伝えて置きましたからね」
「それを聞いて安心しましたわ。それじゃあ私共はこれで失礼します。チャーリーさんの空を飛ぶ勇姿は基地
の方で拝見させて頂きますわ」
正美もすっかり安堵して了承し、一行は二手に分かれた。
「それではケッペルスターの発着基地に参りましょう。実は最新鋭のミニハングライダーが出来ておるのです
よ。ローラースケートも更に格段に性能をアップしてあります」
「へえ、何時の間に?」
間も無くエレベーターに乗ったが、幸い他の乗客も無かったので、尚二人は結構大きな声で話し続けた。
「実はミニハングライダーの試作品はまだ他に何種類もあったのですよ。この間使ったのは最もシンプルなタイ
プで、安全第一に考えたものだったのだが、今回使って貰いたいのは、よりスピードの出る奴でね。
勿論呼吸の必要な人間には使えないのだが、君だったら大丈夫。最高時速は三百キロを超えることになる。
どの程度までスピードが出せるかは実は未知数でね、まあ、君次第というところだろう」
「三百キロですか? ジェットヘリ並みのスピードですね。でも、どうやってそのスピードを出すんですか? 羽
を開いていては無理ですよね?」
チャーリーにはケッペルの言う最新鋭のミニハングライダーの機能が今一つ理解出来なかった。
『上空から墜落する感じにすれば三百キロ出すことは可能だけど、制動が難しくないか? その状態で羽を開
いたら逆Gが掛り過ぎてこっちの身が持たないし、ひょっとして身が持っても、ハングライダーの方が破損する
恐れがある。
どうもケッペル先生の考えている事は理解が難しいな。なるほど若い頃天才科学者と言われただけの事は
ある。ローラースケートの方の性能アップなら一応理解出来る。
あの種の回転部分のある道具類は軸や軸受けに高級素材、高価な金やプラチナとか、ハイテク超合金何か
を使えば、格段に性能が向上する事が知られているからね。
でもそうなると、また物凄く高価な物になるんだけどね。多分ローラースケートの方はそれだろう。しかしあっ
ちの方は……』
チャーリーには、やっぱり最新鋭のミニハングライダーの想像は付かなかった。
「さあ、そろそろ到着だ。何かワクワクして来るのう」
「あのう、ケッペルさん、ご自身の研究の方は宜しいんですか?」
チャーリーは自分の研究の事を忘れているような気がして、気になって聞いてみた。
「あはははは、研究の方は一休みじゃよ。今はそれどころではない。何しろあれを使ってみるのだからね」
「あれ? あれって何ですか?」
「はははは、それは装着してからのお楽しみというところじゃよ。さあさあ、降りたり、降りたり!」
ケッペルはチャーリーの問いには答えずにエレベーターを降りるといそいそと歩いて行った。
「ケッペル先生お待ちしておりました。チャーリーさん、今日は新しい機能の付いたミニハングライダーを装着し
て頂けるそうですね、さあ、こちらの部屋で装着して下さい。
今回はスピードも桁違いですからゴーグルも着けて頂きますし、衣装も新品をご用意致しましたので。先ずは
お風呂に入って下さい。全身の洗浄から何から何まで私共のスタッフが致しますから」
待っていた空軍の青年は嬉しそうに説明した。
「どうぞこちらで御座います。私達がお体の洗浄も、衣装やニューミニハングライダーの装着も全て致しますの
で宜しくお願い致します」
三人の若いやはり軍人らしい女性達がチャーリーを先ずお風呂場に連れて行って服を脱がせると、全身をく
まなく洗い、拭き、乾燥室で乾かしてから、全身を覆う繋ぎ服の様な白いやや厚手のかなり丈夫そうな衣装を
着せた。
更に別室でニューミニハングライダーなるものを装着させると、再び先ほどの青年が現れて、詳しく説明を
始めたのである。
『何とも手際が良いな。まるでこの日の為に相当の訓練をしていたみたいな感じだな。聞いてみようか?
いや、聞くまでも無い事か。
それにしても俺の体を洗うのにどうして全員が若い女性なんだ? まあ、美人揃いだし悪い気はしないけど、
どうしてなのかな?
うがった見方をすれば、俺の熱烈な女性ファンだったりするのか? ははーん、多分そんなところだろう。ま
あ、それも聞くには及ばないな』
チャーリーは幾つかの疑問点を聞いてみたかったが、時間的余裕が無さそうだったので、省略することにし
たのだった。
「今度のニューミニハングライダーは羽の部分が腕に直結されているのが特長です。つまり腕を広げる事に
よって羽の角度をアナログ的に調節出来ます。自由に角度を調節出来るのです。
羽は一定の角度、チャーリーさんの体形や体重などを考慮に入れて作りました。また若干ですが右と左の
開く角度を変えられます。
それによって旋回がかなり自由に出来る様になりました。それとやり方次第で曲芸飛行や急停止、キリモミ落
下も可能です。
勿論落下しっぱなしでは命に関わりますが、途中で羽を一杯に広げて急停止すれば、大丈夫地上に安全に
着地可能です」
「しかし、その必要性があるのかな? まあ、必要な事と言えばスピードアップ位だと思うけどね。三百キロ以上
出せると聞きましたが?」
チャーリーは青年の言う事、特に曲芸飛行と言う言葉に違和感を覚えたのである。
「はい、スピードは相当出せると思います。それで上手く行けば、そのスピードを利用すれば、それと上手く風
に乗れば最初の高度よりもかなり高く飛び上がれます。
人間が、まあ、チャーリーさんの場合はサイボーグですが、鳥にもなれる訳です。曲芸飛行と言うのはおまけ
の様なものですが、うんと高く飛び上がれれば、空で遊ぶことも可能だと言いたかった訳です」
「なるほど、おまけですか。しかし今の話を聞くとかなり練習が必要なようですが?」
「はい、それで、幸い今日はここはお休みです。ケッペルスターは滑走路の両側に寄せてありますので思う存
分練習出来ます。早速ですがローラースケートを履いて練習して下さい。
それとローラースケートもハイテク超合金を使っておりますので、前のものの二倍もスピードが出せます。
さあ、君達チャーリーさんにローラースケートを履かせてあげて」
青年はテキパキと言うと、チャーリーをお風呂に入れた連中を呼んで、今度はローラースケートを履く手伝い
をした。
「いや、まあ、スケート位自分一人で履きますから」
「まあ、そう仰らずにお手伝いさせて下さい。お願いします。チャーリー様のお側に居られる事に無上の喜びを
感じる者ばかりですので。
それにご自分で履かれるよりも私達の方が上手ですわ。何度も練習致しましたから。どうぞお足をのべて下
さい。二人が肩をお貸し致しますから」
二人の女性が両側から肩を貸し、チャーリーは仕方無しに片足ずつをのべてローラースケートの靴を履かせ
て貰った。
『若い女性にかしずかれるのは良い気分だが、余り度が過ぎると、かえって困惑するよ。この状態を林果が見
ていたら何と言うか。後が怖いよ全く。まさか見ていないよね?』
チャーリーは気になって辺りをきょろきょろ見回したが、来る用事が特にあるとは思えなかったので、当然
の事ではあったが幸いにもそれらしい姿は無かった。
『ふう、どうやら見ていないようだ。それにしてもどうしてここまでやる? 後でギャラの要求なんてするんじゃな
いだろうな?』
何処までも疑り深いチャーリーであったが、それはどうやら取越し苦労だった様である。無事に超人スタイル
(?)が完成して、その若いこざっぱりした格好の女性達は、少し離れた位置に立って晴れがましい顔で立って
いた。神のごとくに崇拝する男性の役に立てて、ただただ嬉しい、そんなイメージに感じられたのだった。
「ふうん、じゃあ、やってみます。初めてなので転ぶかも知れませんよ。おっと、ゴーグルを下げてっと。ああ、
そうそう今回は意識スイッチは使わないんですね?」
「ああ、そういう事になる。その分シンプルに出来たので、むしろ扱い易いと思うよ。それとスピードをつけて高
所から飛び降りる時はスキーのジャンプ競技の様な感じになる。そういうイメージでやると良いと思うよ」
ケッペルのアドバイスは中々急所を捉えた的確なものだった。