夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「はははは、俺は構わないぜ。サイボーグだか何だか知らないが、俺は誰にも負けないぜ。念の為に言って
置くが、足に付けているからと言っても、普通のモーターバイクと何も変らんのだぜ。
見たところそちらさんのは、性能は良さそうだが普通のローラースケートだ。おまけにその背中の羽は何な
んだ? 空を飛ぶのには役に立ちそうだが、あはははは、地上を走るんだぜ。
気の毒過ぎるから、ハンディをやろうか? 例えば、二周位のハンディだったら全然構わないぞ。いいや、三
周でも四周でも良いぞ。なんだったら五周にしようか?」
ローラーマンは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で言った。
「いや、一応ルールでこっちもスピードが得意と言った以上は、ハンディは要りません。まあ、こっちのローラー
スケートには動力はありませんが、自分の体が動力になっていますから、大丈夫です。アンディさん、一つ聞い
ても良いですか?」
「はい、何でしょうか?」
「もし私が負けた場合にはどうなるんでしょうか? 何かあるんですか?」
「何かと言うと?」
「つまり、これ以上の挑戦が出来なくなるとか、ギャラが減るとか」
「いや、一度や二度負けてもどうという事はありません。全部やって何勝何敗になるか、私達はサイボーグで
ある貴方の実力を知りたいのです」
「ああ、そうですか。じゃあ、たとえ負けても十戦全部やれる訳ですね?」
「はい、勿論です」
アンディは胸を張って言った。
「ええと、負けても大丈夫らしいですから、心置きなくやれますね。じゃあ、行きましょう。どうぞスタートの合図
をして下さい。私は何時でもOKですから」
「ハンディが要らないとは良い度胸だ。それに負けてもどうと言うことが無いんだったら、こっちも安心して圧勝
出来る。さあ、スタートの合図をしてくれ。何時でも良いぞ!」
二人はスタートの構えをした。
「ギュルン、ギュルン、ギューーーーンッ!!」
ローラーマンはエンジンを掛けてスタンバイした。どうやらエンジンに点火するスターターは手に持っているリ
モコンで操作するらしい。
「位置について、用意、パンッ!」
スタートの合図は専門のスタートマンが昔ながらのピストルの空砲で行った。この道何十年と言うベテランで
あった。番組を格調高くする為の演出の一環であろう。
先ず飛び出したのはローラーマンだった。急激な加速で時速にして百キロ近かった。ただ、カーブがきつい
ので時速百キロ位が限界であろう。
「えっ!」
一周したところで後ろを振り向いたローラーマンはギョッとした。百メートル以上引き離したと思っていたのに、
直ぐ後ろにピッタリくっ付いて来ていたのである。
チャーリーは羽が邪魔なので手を振ってリズム良く滑る事は不可能だった。にも拘らず悠然と滑って来る。
ローラーマンは焦りを感じた。
『う、噂に違(たが)わず化物だな!』
思わずそう感じてしまった。ローラーマンの走りはただ単に足を揃えて転ばない様にしているだけだったのだ。
ローラースケートに乗るという感じではなく、何処までも超小型のバイク二台に乗っている感じなのである。
『くそっ! このままではどこかで抜かれてしまう!』
そう思って、リモコンを操作して更にギリギリまでスピスピードを上げた。時速は百三十キロになった。スピー
ドはまだまだ上げられるのだが、もうこれ以上ではカーブを曲がり切れないのだ。
それでも三周目までは何とかなったのだったが、四周目辺りになると、チャーリーの接近はますます近かっ
た。もう追い越されそうなのだ。
『畜生このままでは追い抜かれてしまう。ええい、スピードをもっと上げるぞ!』
ローラーマンは焦ってスピードを百五十キロまでアップした。カーブ地点はその分傾斜もきついので余りス
ピードを落とさなくても良い設計にしてあるのだが、それでもここまで速くなると、カーブを曲がり切れないので、
どうしてもスピードダウンせざるを得なかった。
足を揃えてただ速く走るだけでは細かい調整が出来ずに、カーブではスピードを落とすしかないのである。
チャーリーはそのチャンスを待っていた。
「お先に失礼します!」
六周目に入ってから、一言断ってカーブであっけなく抜き去った。その後もスピードを落とさずに走れたので、
むしろ差がどんどん広がり、最後の十周目にはほぼ一周の差が付いた。
「ゴーーーールッ!!」
「ウオオオオーーーーッ!!」
ゴールのコールと共に、会場のボルテージは一挙に上がった。大きな拍手と歓声に包まれ、更にブラスバン
ドの演奏に乗ったチアガール達の派手なパフォーマンスが、チャーリーの快挙をど派手に祝福したのである。
『ああ、こんな事が前にも何度かあったな……』
会場内は凄い興奮状態だったがチャーリーの気持ちは冷めていた。
『所詮は機械の力だ!』
心の中ではそう自分を卑下していたのである。
「ま、負けました。初めて負けました。しかし、言い訳になるかも知れませんが、直線だったら、コースが直線
だったら負けなかったと思います。コーナーワークが難しくて負けたのですから」
ローラーマンは悔しそうにしながら負けを認めたが、本当の敗北とは思っていないようである。
「そうですか、それじゃあ、もしチャンスが御座いましたら、直線コースで競ってみましょう」
「勝者、チャーリー・クラストファー!!」
時間が無いせいもあるのだろう、アンディがやや強引にチャーリーの勝利を大声で宣言したのだった。負け
たローラーマンは威勢の良かった言葉とは裏腹に、肩を落としてすごすごと帰って行ったのだった。
「いや、素晴しいですね。お次はどう致しましょうか? スピード競技ナンバー2で御座いますが?」
司会者のアンディは、本来はスタンバイしている競技しか出来ない事を知りつつ、チャーリーが自由に言って
くれる事を待っていたのだった。
「うーん、どうしましょうかね?」
チャーリーは正直困った。特に何も思い浮かばないのだ。
「その、あれですね、折角のコースですから、自転車と競争してみませんか?」
「自転車ですか?」
「はい。まあ、普通にやったのでは確かに貴方には勝てません。ですが、自転車にはケイリンという駆け引き
のある競技があります。そこで私共は五人の世界レベルのケイリンの選手を揃えました。
いいえ、その言い方は正直ではありませんね。五人の荒くれ男達と呼ぶべきでしょう。競技の名称はパワー
ケイリン!」
「ええっ! パワーケイリン?」
初めて聞く競技名に首を傾げた。
「ほら、向こうの方からやって来ましたよ、五人の荒くれ者達が。ルールは単純明快、ここのコースを二周する
だけです。
勿論トップでゴールした者が勝ですが、普通のケイリンと違うのは相手との接触OKだというところです。蹴っ
ても殴っても宜しい。
認められていないのは自転車ごとの体当たりです。それをやってしまっては競技そのものが成立しませんか
ら、それだけは認めませんが、素手である限り、何をやってもどこを蹴っても殴ってもOKなのです。
今回は貴方一人に五人が総掛りで挑戦しますが、それでも宜しいでしょうか? ただし、空を飛ぶのは無し
ですよ」
チャーリーは空を飛んで一気に片をつけようと考えたのだが、あっさりと見抜かれてしまったようである。
「はははは、こりゃ大変だ。怪我をしなければ良いのですがね。ああ、あの格好は……」
自転車で併走して来た連中が、先ほど負けて帰ったローラーマンに良く似た格好だった事に驚いたのだった。
「はい、ご覧の通り、先ほどのローラーマンに良く似ているでしょう、装備スタイルがね。今回は特別にあの格好
にして貰ったのです。
噂では貴方の拳は岩をも砕くそうですね。幾らなんでもそのパワーで殴られたら一たまりもありませんから、
ガッシリした防護服に身を固めて貰ったのです。これだったら安心して殴れるでしょう?」
「その、岩をも砕くと言うのはちょっと大袈裟過ぎますが、骨が砕ける事は事実です。ただ私のこの格好では
殴れませんがね。可変翼タイプのミニハングライダーを外して良いですか?」
「申し訳御座いませんが、それは無しという事にして下さい。矛盾しているようですがチャーリーさんは身をか
わすだけで何とか対処して欲しいのです。防護服は念の為の措置です。それでお願いしたいのですが」
アンディはやや厳しい表情を見せた。どうしてもイエスと言って欲しい、そんな気持ちが見え見えだった。
「そうですか、まあ、じゃあ、良いでしょう。二周すれば良いのですね?」
「はい。ただし途中でコースを外れたらアウトです。転倒した場合には、又起き上がって滑走を続けても、それ
はOKですから」
「分かりました、それじゃあ、スタートしましょう」
チャーリーは余りに自分に不利なルールであることに納得出来なかったが、
『負けても、ギャラには響かないのだし、良いとするか』
やや諦めの気持ちで了承したのだった。その同じ頃、チャーリーと一緒に来た、正美、キャロル、ゲルクの
三人はキャシャーンの質問を受けていた。日本語での要旨は以下のようになる。
「私共は、チャーリーさんの噂しか知りません。まあ、テレビでの映像である程度知っておりますが、噂は本当
なのでしょうか?」
「噂と言うと?」
「はい、例えば世にも恐ろしいダウクーガーを一撃で倒したとか、そんなことですけど」
「一撃で倒したと言うのは嘘ね。でも、人間離れした強者である事は確かね。まあ、そもそも人間ではありませ
んけど。例えば彼の頭蓋骨は恐ろしく頑丈で、拳銃の弾でも弾き飛ばします。
もし迂闊に彼の頭を拳で思いっきり殴ったりしたら、殴った人の骨が砕けます。どんなに鍛えた拳でも駄目
です。それだけは止めた方が宜しいですわね」
あっけらかんと正美は言ったが、他の三人は呆然となった。噂で薄々知ってはいたが、正美が言うと実感が
こもっていて、恐怖心すら感ずるのである。