夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「はははは、逃げる訳には行かないようですね。じゃあ、戦いますが、私は彼を攻撃しても良いのですか。一
言だけ断っておきますが、相手の攻撃が厳しければ厳しいほど私の攻撃も厳しくなります。
 夢中になると、首が吹っ飛ぶ事も有り得ますよ。手足がバラバラになることもね。高圧電流鞭を使うのだった
らその位の覚悟はしないと」
 チャーリーもやや厳しい態度を取った。

「はい、今はまだ着ておりませんが、彼には超強化防護服を着て貰いますから、遠慮される事はありません。
ただ、彼が倒れたり、場外に飛び出してしまったり、或いはギブアップしたら攻撃を止めて下さい。
 その時点で貴方の勝が決定しますから。それから鞭に流れる電流ですが、リモコンスイッチを三人の審判
がそれぞれに持っています。
 その内の一人でもスイッチを切れば電流は切れる仕組みになっています。ですので、万一貴方が倒れた場
合には即座にスイッチが切られる事になりますが、時によってはその前に切られる事も有り得ます。
 その場合直ちに攻撃は終了して下さい。その時点で試合は終了と致しますから。それでもし三分経っても決
着が付かなければ引き分けにします。最初のお約束通りその場合には貴方の勝とみなします」
 アンディは一気に試合のルール上の要点を言った。

「分かりました。引き分けなら私の勝になる訳ですね。こう見えても意外に負けず嫌いでしてね。むざむざと負
けていませんよ。時間もあれですからさっそくやりましょう。ああ、ちょっと待って下さい」
 チャーリーはキャロルの事が気になったのだった。

「キャロル、小用があったら直ぐ行って来なさい。それまで待っているから」
 小声で耳打ちした。先ほどから少しもぞもぞ動いていたので、チャーリーにはピンと来たのである。命令は
絶対なので下手をすると失禁してしまう事があるのだ。それも何と無く想像が付いたのだった。

「はい、申し訳御座いません。少しお待ち下さい。直ぐに戻って参ります」
 キャロルは済まなさそうにして走って行った。テレビカメラは非情にもその様子もしっかり写していた。
「余りプライベートな部分は写して欲しくなかったのですがね」
 チャーリーは苦言を呈した。

「ああ、大丈夫です。今日の録画取りの後で編集がありますから、今のはカットされると思いますよ。貴方には
特定の彼女はいないという設定なのですからね。あの、キャロルさんが彼女という事は?」
「違います。彼女とか恋人の事はノーコメントです。ああ、えっと、その電気鞭に関して少し聞いておきたいの
ですが、宜しいですか?」
 少し気に掛る事を聞いておきたいと思った。

「はい、何でしょうか?」
「もし奪い取ったり、引き千切った場合はどうなるのでしょうか? 例えば奪い取って逆に私が電気鞭で攻撃し
ても宜しいのですか?」
「ああ、その場合は貴方の勝ですね。貴方に電気鞭を持たれたら勝負になりませんから」
「なるほど。しかし手違いで電気が切られなかったら危ないですけどね。彼の防護服は電気を通さないんです
か?」
「はい、そう聞いております。鞭にはコードが付いていますからね、下手をするとコードが絡まって自分に鞭を
当てる場合もあるかも知れませんので、高度の絶縁状態にしてあると聞いております」
「そうですか、それを聞いて安心しました。ああ、キャロルが帰って来ましたね。ちょっとお待ちを」
 チャーリーは走って行ってキャロルに再び耳打ちをしてから戻って来たのだった。

「さあ、始めましょう」
「じゃあ、試合開始の準備をして下さい。こっちはOKですから」
 アンディはチャーリーの準備が整った事を大声で伝えた。さっそく鞭を使う男は厳重な防護服に身を固めた。

「それでは、超人対怪人の対戦を行います。超人は我等のチャーリー・クラストファー!! 怪人は電気鞭男、
ミスター・ウィップマーーーン!! 三分間一本勝負、それでは通電開始、試合始め!!」
 アンディは最初はステージ上にいたが、両者の名前をコールした直後に、ステージから降りて試合開始を
宣言した。
 それから即座に安全と言われるステージの端から五メートル以上離れた位置で、イスに座って観戦する事に
したのである。
 分厚い遮蔽(しゃへい)ガラス越しに試合を観戦するのだ。ガラスは結構高さがあったが、念の為に全員立
たずに座って観戦する事になった。高圧電流はそれほどにも危険なのである。

 三方に分かれている審判もガラスの内側に座っている。勿論レフリーなど居ない。ステージ上は生身の人間
にとっては死のステージなのだ。
 今はそのステージから十メートル以上離れた位置で、雇われ応援団達が息を潜めて見ていた。じっと息を殺
して見守るという演出なのだろう。
 実際恐ろしくて声を上げられる状態ではなかった。会場では、四方八方から当てられる強力なライトで浮か
び上がった、ステージ上の二人だけが動き回っていたのである。

「ピシッ! シャッ!! ピシッ! シャーッ!!」
 分厚い防護服に身を包んだミスター・ウィップマンがジリジリと間合いを詰めながら、左右の鞭を交互に振り
下ろす。
 鞭は唸り、ステージ上に当たると火花が飛び散る。鞭の扱いが巧みで、普通ならば絶対に側に寄れそうも
無かった。

「ハリャッ!!」
 しかし、試合はあっけなかった。チャーリーは四角いステージの一角に追い詰められて、絶体絶命のピンチ
に思われたのだったが、鞭に委細構わず、真正面から突っ込んで行ったのである。

「ドンッ!!」
 確かに鞭はチャーリーの体に当たった様に見えたが、ウィップマンは体当たりされて場外に吹っ飛んで行っ
たのだった。

「カチッ! カチッ! カチッ!」
 大慌てで審判達は電流のスイッチを切った。チャーリーは平然と立っている。むしろ場外に飛んで行った
ウィップマンの身を案じていた。

「怪我は無いですか?」
 チャーリーの発した最初の言葉がそれだった。
「ああ、大丈夫だ。それにしても、よく平気だったな。普通だったら黒焦げだ。サイボーグと言っても痺れる位の
事はあると聞いていたんだがね」
 全身を痛そうにしながらも、ウィップマンは立ち上がりながら、頭部のヘルメットを取り外してそう言ったので
ある。

「ああ、内緒にしていたんですが、私に電気は通じないんですよ。少し前までは通じていたのですが、最近通じ
なくなりました。
 落雷事故でやられると拙いと思ったのでしょうね、シュナイダー博士がね。ああ、彼の事は禁句だったかな。
しかし彼の名誉の為に言って置きますが、彼は悪い男ではありませんよ。
 はははは、それにしても私の事をもっと良く調べてからこういう企画はするべきでしたね。さあ、兎に角勝ちま
したよ。次は何でしょうか?」
 チャーリーは余裕で次の対戦を催促した。

「もう、チャーリーさんも人が悪い。電気が全然平気だったなんて、本当に、はははは、もう大笑いですね。でも
どうしてそれだったらさっきコーナーに追い詰められたんですか?」
「まあ、自分なりの演出ですよ。一秒で終ったら悪いじゃないですか。スタッフの方々にもウィップマンにもね」
「ウオーーーッ!! 良いぞ、チャーリー、我等が超人!!」
 全く場違いな声援が湧き起こった。普通だったらしらける所だろうが、それでは番組の性格上拙いのだ。
一応派手に声援が演出されて次の試合となった。

「さて、あっけなくチャーリーさんが勝って、今度は何か? さっきのはパワーはパワーでも電気のパワーでし
た。次は、電気が駄目なら水があるさ、です。
 今度は水鉄砲を使います。ただし超高圧水です。鋼鉄さえも切り裂く凄まじいパワーがあります。水鉄砲に
はやや大きな水タンクが付いています。しかし先ほどとは違ってコード等はありませんから、もっと素早く動
けます。
 ただ唯一の欠点は射程距離が短い事です。せいぜい一メートル。それ以上離れると威力がガクンと落ちて
しまいます。
 しかし至近距離では如何にチャーリーさんのボディが頑強であっても切り裂かれる恐れがありますが、それ
でも戦いますか?」
 今度は慎重に聞いた。拒否が可能であることをにおわせた。

「はははは、勿論戦いますが、相手は一人ですか?」
「はい。ただ一つだけ、今回は相手が女性です。それも水着の女性です。何しろ水なので、水着の女性が良
かろうという事で」
「あはははは、洒落なんですか? しかし困りましたね、女性は殴りたくありませんが?」
「そこなんですが、今回だけは相手を攻撃しないで貰いたい」
「はあ? じゃあ、私は逃げ回る一方なんですか?」
「はい。唯一許されるのは水鉄砲を取り上げて、破壊する事です。まあ、取り上げずに破壊しても宜しいので
すがね」
「うーん、そうですね、まあ、やってみましょう。今回も三分ですか?」
「はい。三分間逃げ切れれば貴方の勝ちとしましょう。ただし、貴方の身が危険と判断された場合には、タオル
を投げ入れますからね。そこで試合終了となります。
 勿論、彼女の方の身も危険と判断された場合には、まあこれはアクシデントでしょうが、例えば水着が外れ
たりした場合もタオルとなります。
 私はそっちの方が良いと、ああ、いや、これは口が滑りました。今のは編集でカットして下さい。兎に角それ
で行きますので、宜しく」
 アンディは少しにやけながら言ったのだった。

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