夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

                              286


「さあ、対戦相手の美女の登場です!」
 アンディは大声でステージ上で叫んだ。今回も観衆や審判達はガラスの後ろから見守る事になるが、今度
は高圧電流の恐怖ではなく、水に濡れない為だった。

 紹介された美女は全身を白い大きなタオルで覆っていて、見えているのは足先と目の辺りだけだった。
「えーーーっ!」
 大きなタオルを司会者の紹介と同時に格好良く脱ぎ捨てると、現れたのはかなり際どい水着姿のキャシャー
ンだった。一応ビキニスタイルではあるが、布切れの部分はごく少なく、多少恥ずかしそうにしている。
 意外だという反応は、つい先ほどまで会場内の一角に居たからである。正美とゲルクの側で説明していた
姿は皆に目撃されている。

「私でがっかりした?」
 キャシャーンは幾分厳しい表情で対峙するチャーリーに聞いた。
「いや、ちょっと意外だったけど、ただその姿は頂けない。セクシー過ぎてちょっと困るよ。少なくとも競技と言
うか、真剣勝負に相応しくないような気がするけどね」
 実際チャーリーは目のやり場に困った。

『うーん、奇麗だ。身長は裸足で丁度俺と同じ位だな。靴を履いていないのはスリップ防止の為なのかな。ま
あ、水着だから裸足も自然だけど、それにしてもプロポーションは俺好みだな。
 いわゆる欧米タイプのプロポーションじゃない、まあ七頭身位だろうね。やたらひょろひょろと背が高い八頭
身が欧米の美人の基準だけど、本当に調和が取れているとは俺には思えないね。
 乳房も大きからず小さからず、僅かに贅肉がある方が俺には美しく思えるしね。全体としてふっくらした感
じは大抵の男が好むと思うのだけどねえ。しかし、こんな場所で情欲を感じては拙いな』
 チャーリーはぼんやりとそんな事を考えていた。下腹部がむずむずして来て困ってもいたのである。

「試合開始!!」
 大声でアンディは宣言したのだが、下腹部が起って来るのをやっとの思いで抑えていたので、最初の動作は
緩慢だった。

「シュッ! シュッ! シュッ!」
 未来的なライフル銃の様な感じの超高圧水鉄砲で、情け容赦なく撃って来た。最初際どい所でかわすしかな
かったので、チャーリーの着ていた服が数箇所切れてしまったのだった。
「オオオーーーッ!!」
 キャシャーンの攻勢に場内は色めき立った。もう少し深く当たれば、恐らくタオルが投げ入れられていただろ
うと思われたからである。

 そうなってからやっと本来の動きになった。
「ビュンッ! ビュンッ!」
 はたからはチャーリーの速い動きが見えていたが、ステージ上のキャシャーンにはもう彼の姿は見えなかっ
た。何処に居るのか分からずに目くらめっぽう撃っていたのだが、
「ガッシャーンッ!!」
 水鉄砲の水タンクがあっけなく壊されてしまって、しかもそれを簡単に取り上げられてしまったのである。そ
の間僅か一秒足らずの出来事だった。

 そのタンクが壊されてから水鉄砲を取り上げられるまでの状況は、余りに速く誰にも見え無かった。テレビ放
送ではスロービデオで再生される事になるのだろう。
 水鉄砲を取り上げられて、右往左往しているキャシャーンの様子を、テレビカメラは楽しげに撮影していたの
だったが、随分遅れてタオルが投げ込まれた。
 やっと試合は終了したのだが、時間的にはたった一分位のものだった。チャーリーが最初のんびり動いてい
たのは、今度も殆どの観客とキャシャーン自身も演出だと思ったようである。

 投げ込まれたタオルをこれ幸いとキャシャーンは腰に巻いた。もっと大きなタオルだったら胸ごと隠すのだ
が、余り大きくなかったので、下腹部を覆う位しか出来なかった。
「ウオオオオーーーーッ!! チャーリーバンザイ!! イイゾーーーッ!!」
 またも少し間の抜けたタイミングでチャーリーを礼賛する大声援が起こったのだった。

「チャーリーさん、今回はもっと遊んでくれても良かったのに。乳首ポロリが無くて残念で、ああ、いや、何でも
御座いません。
 どうですかキャシャーン、実際に戦ってみて。最初は勝てるかも知れないと思ったんじゃありませんか? 
実際チャーリーさんの服が三ヶ所も切れましたからね」
「結局私は遊ばれていたんですね。わざとかすらせて、試合を盛り上げようとしたんでしょう? 本当だったら
数秒で終っていたんでしょう?」
 キャシャーンはまた馬鹿にされたと思った。

「うーん、違うんですけどね。でもここでは理由を言えませんから後でお話します。さあ、次、お願いします。
ああ、その前に、キャロルにお話をしないと」
 何かに付けてキャロルに指示を出した。テレビカメラはやはり丹念にチャーリーの行動を追った。その間、
キャシャーンは小走りにステージを降りて着替え室に行ったのだった。着替えて正美とゲルクの居る場所で説
明を続けるようである。

「次の試合の前に着替えて貰います。濡れてもいますが、随分切れていますからね。ああ、それと小さな焦げ
跡がありますけど、これはさっきの電気鞭との戦いで付いた物ですね?」
 ステージに戻ったチャーリーにアンディが言った。 
「ああ、焦げ跡ですか。はははは、全然気が付かなかったですよ。ああそう言えば皮膚が少し焦げています
ね。さっきの水鉄砲の場合は、ああ、少し皮膚が切れています。でも傷の深さは一ミリ程度ですから苦にするほ
どではありませんね。じゃあ、今着替えてきますから」
 チャーリーはそう言うとキャロルと一緒に着替え室に向かった。部屋の中にキャロルも一緒に入り、一緒に
出て来たところも執拗にカメラは追い掛けている。
 キャロルはステージに一番と言っていいほど近い場所に座った。一応遮蔽ガラスの外側なので、問題は無
かったが、既に大半の観衆達は、キャロルがチャーリーとは特別な関係にあると信じた様である。

「ああ、しかしこれは前に着ていたのに良く似ていますけど、材質なんかが良く分かりましたね。サイズもピッ
タリだし」
 ステージに戻ったチャーリーは感心して言った。
「はい、それはスタッフを誉めてやって下さい。このようなこともあろうかと、何種類もの服を用意したのです
から。サイズの方は貴方の過去の映像から推測した物です。でもピッタリでしょう?」
 アンディは自慢げに言った。

「ああ、そうだったんですか、それはそれはスタッフの方々、ご苦労様です。さあ、パワー系最後の競技です
けど今度は何ですか?」
 チャーリーは精神的に大分疲れていたので、一休みしたくて早く済ませたいと思っていたのである。

「さあ、いよいよ、パワー系の真打登場です。我がアメリカ陸軍の誇る、世界最強のパワースーツを着用した、
その名もズバリ、ミスターパワーマン、どうぞ!!」
「ズシンッ! ズシンッ! ズシンッ! ……」
「ウオオオオーーーーッ!!」
 またしても真打登場ということで、場内は割れんばかりの大声援だった。ゆっくりノッシノッシと歩いて来たの
は、殆どロボットの様なものだった。
 全身を分厚い鋼で覆われていて、如何にも頑丈そうである。しかし動きは遅い。どうやら中に人間が入って
いて、操作しているのだろうが、手や足を動かすと、その通りにロボットスーツが人間の何十倍もの力で動く
のだろう。

「このパワーマンこそが貴方に対等に戦える最強の戦士だと考えられます」
「アメリカ陸軍なんですか?」
「イエス、私は陸軍のパワースーツ部隊の隊長で、ジャックスという者です。宜しくチャーリークラストファー」
 ちょっと驚いたのは、口らしきものが無いのに、声を発した事だった。

「ああ、よ、宜しく。しかし口は、いや、声は何処から出て来るんでしょうね?」
「はははは、口の部分がスピカーになっているのですよ。ただ、何処を銃で撃たれても壊れない様に、穴は空
いていません。
 酸素ボンベを背負っているので、このまま海にだって潜れるんですよ。戦車さえも持ち上げられる、世界一
の力持ち軍団なのです。
 近い将来、我がパワースーツ部隊が活躍する日がやって来るでしょう。今日はそのデモンストレーションの
為にやって来ました。
 貴方を倒して、我々こそが、アメリカにとって最も役に立つのだという事を証明して見せましょう。実は我々
はあの恐怖のシンボル、ダウクーガー退治に志願したのですが、何故か認めて貰えなかった。
 我々がどれだけ悔しい思いをしたか、貴方は知らないでしょうが、貴方の役目は今ここで終るでしょう。我々
が貴方に取って代わる日が目の前に来ているのです。さあ、試合を始めましょう」
 ジャックスは丁寧な口調ながら半ば喧嘩腰だった。

「ま、まあ、冷静にお願いしますよ。それでは簡単にルールをご説明致します。試合時間は前回同様三分。引
き分けはチャーリーさんの勝ちとします。
 今回はタオルはありませんが、ステージから落とされた方が、一緒に落ちた場合には先に落ちた方が負け
です。後はどちらかがギブアップをした場合、そこで試合終了して下さい。
 試合終了後の戦いは一切認めません。また、相手を破壊し過ぎても困ります。たとえ勝ったと思われる試合
でも相手の体の一部を故意に破壊した様な場合には、即座に負けにします。宜しいですか?」
 アンディは特にパワースーツの中に入っている、ジャックスに注意した。力そのものはチャーリーをも凌ぐ筈
だからである。

「一応了承しましたが、見るからにタフそうなので、つい力が入ってしまうかも知れません。その様な場合には
相手を破壊する事もあるかも知れませんが、それは認めて貰えますか?」
 チャーリーは今までになく激しい戦いを予想した。激しい戦いの場合、スーツの一部の破損は十分に考えら
れるからである。

            前 へ        次 へ       目 次 へ        ホーム へ