夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「ああ、でも、ンピヘカさんのと比べると少し筒の方が短いですわね」
使われる矢の方も若干形が違うが、筒の長さは一目瞭然、一メートル余りのチャーリー用の筒に対して、ン
ピヘカの筒は二倍位もある。二メートルを超えているのだ。
「ああ、別に構いませんよ。今回は多分完敗ですから。それじゃあ、やってみますよ」
吹き矢を筒の手前に押し込んでからじっと構えて狙いを定めて、
「フッ!」
息を思いっ切りきり吹き出す。
「ええーーーっ!!」
会場内から驚きの声が上がった。しかし今回は賞賛ではなく失望と意外さとであった。
「あ、はははは、チャーリーさんこれも演出ですか?」
「いや、これで精一杯なんですよ。要領も良く分かりませんし」
チャーリーの吹き矢は僅か数メートルしか飛んで行かなかったのだ。
「済みません、ちょっと貸してくれますか? あの、吹き矢と筒に不具合があるかも知れませんから、私がやっ
てみますが宜しいでしょうか?」
慌ててアンディが言った。異論は無く今度はアンディが同様にやってみたのだった。
「ああーーーーっ!」
アンデイの飛ばした吹き矢は十数メートル飛んだが的にはやはり届かなかった。しかし、今までの経過から
すると、少なくとも超人的能力を持つチャーリーだったら、命中はしないまでも的には届く筈だった。
「ま、ま、参りましたね。しかし、ルールはルールですから、次はンピヘカさんどうぞおやりになって下さい」
「はい、ふっ!」
ンピヘカは無造作にやった。的には見事に届いたが、命中はしなかった。かなり大きく外れている。ここに
来て大会のトーンはすっかり下がってしまった。
「それじゃあ、次は私ですね、ふっ!」
「あーあっ!」
またも届かなかった。ただ飛距離は要領が分かって来たのか、大分伸びたがそれでもまだアンディには及ば
なかった。
「それじゃ次は私ですな、ふっ!」
二度目は大分惜しかったが命中はしなかった。更に今度はチャーリーがやったが、少しずつ距離は伸びた
が、五回やっても一度も届かなかったのだった。
「わーーーっ!!」
急に歓声が湧き起こったのは五回目にして始めてンピヘカの吹き矢が的の中心の十センチの円内に命中
したからである。
「おおっ!」
六回目、とうとうチャーリーの吹き矢も的に届いた。しかし的の中心からは遠く離れていて、勿論0点である。
その後もンピヘカは調子が出て来たのか、連続で的中させ、最終結果は六対ゼロで圧勝だった。
大歓声の中、ンピヘカは笑顔で手を振りながら会場を後にしたのである。
恐らくは、あの強いチャーリーに圧勝した男として、南米の郷里では英雄扱いになることだろうと思われたの
だった。
「いや、しかし、チャーリーさんの意外な弱点が露見してしまいましたね。何とか的には届く様になりましたが、
残念ながら一発も当たりませんでした。これはどう考えたら宜しいのでしょうか?」
不思議そうにしてアンディは聞いた。
「はははは、私としては、的に届いたことが殆ど奇跡ですよ。何しろ私には肺がありませんからね。呼吸をして
いるように見せかけているだけであって、サイボーグには呼吸器官は無いのですから」
チャーリーは苦笑しながら言った。
「あああーーーっ!! そうか、そうだったんだ!!」
チャーリーの説明に会場中が納得したのだった。
「しかし、それでしたらどうして吹き矢が飛ばせたのですか?」
今度はキャシャーンが聞いた。
「先ほども言いましたが、見せかけることが出来ます。強い息を出してみせる事は出来るのです。その機能を
最大限に利用してやってみましたが、遠くへ飛ばすだけで精一杯で正確さは犠牲にせざるを得ません。
もしもっと短い距離だったら、或いは何とかなったかも知れません。でも、まあ、一つ、二つ負けても良いん
じゃありませんか? それともそれでは都合が悪いのですか?」
チャーリーは少し勘ぐる言い方をした。
「いえいえ、とんでも御座いません。それでは次の競技に移りたいと思います。説明はキャシャーン、お願いし
ます」
「はい、かしこまりました。それでは今度は正に正確さを競う競技、エアーライフル撃ちにしたいと思います。
ただしこれも普通に撃つのではありません。
的を十個用意いたしました。しかも今回はお二人同時に撃ちます。エアーライフルは風が禁物。先ほども多
少風が吹かない様に柵等を使いましたが、今回は更にすっぽり覆って行います。
今その準備中ですが、いわば長方形のテントの中に入って競技をして頂きます。さあ、準備が出来ましたね。
それでは会場まで参りましょう。観客の皆さんには大型テレビスクリーンで御覧頂きます」
キャシャーンの案内で一行は少し離れた位置にある長方形のテントに入って行った。中では一人の女性が
難しそうな顔で待っていた。
「それではご紹介しましょう。新しいタイプのエアーライフル、連射エアーライフルの現在の世界チャンピオン、
エイコ・ヘプバーンさんです。
名前からもお分かりかと思いますが、彼女は日系二世の女性です。連射エアーライフルというのはごく最近
出来たばかりの空気銃の事で、弾が二十連発で出ます。
それを全部制限時間内に撃って的中率を競うのですが、今回は趣向を凝らして御覧の様に十個の風船の
的が空中にランダムな感じで浮いています。
的の大きさは全て同じで直径が約二十センチなのですが、距離が違います。遠ければ遠いほど得点が高
く設定してあります。
一番手前から1点、2点、3点、となって、最後が10点です。当たらなければ勿論0点ですが、全てに当たる
とボーナスの的が出てきます。
ただしその的は糸の繋いでいない風船であって、上へ登って行きます。一番上に上がってしまうと、死角に
なってしまってもう撃ち落す事は出来ません。その時点で競技終了となります」
長々とキャシャーンは説明した。淀み無く見事に説明し切って、本来の彼女の本領を発揮し、アンディを始め
として周囲の関係者達を安心させたのだった。
「エイコです、宜しく」
「チャーリーです、宜しく」
エイコは神経質そうな小柄な女性だった。殆ど何も喋らなかったので、アンディが少し付け加えた。
「ええと、エイコさんは、チャーリーさんをご存知ですよね?」
「はい。ただ、エアーライフルのご経験は無いと思うのですがどうなんですか?」
「はははは、そうです。テレビでちょっと見た事がある位ですね。普通はじっくり的を狙うんじゃないんですか?」
「ええ、以前は。でも私には性に合いません。この連射タイプが出て来てから、やり始めたんです。面白くて夢
中になっているうちに、何時の間にか世界チャンピオンになっていました。
だけどいきなり始めて当たるほど甘いとは思いませんけどね。ちょっと馬鹿にしているんじゃありませんか?
私は断りたかったんですけど、両親がどうしてもというので仕方なくやって来たんです。
ただやる以上は全力を尽くします。手加減は一切しませんので、悪く思わないで下さいね。さあ、それじゃあ、
始めましょうか? ああ、でも、不正は無いでしょうね?」
全く無言だったエイコは喋りだすと止らない感じだったが、何かと批判的だった。
「ハイ、その点は大丈夫です。その為に、お二人とも同じ条件の設定をしましたし、場所と銃とはエイコさんに
選んで頂きます。
銃は赤色に塗ってある方と、青色に塗ってある方どちらを選びますか? 念の為に言いますと、赤い銃には
赤い弾が、青い銃には青い弾が入っています」
アンディはやや険しい表情で言った。不正を疑われてカチンと来ていたのである。
「そうね、私は青い銃にするわ。それじゃあ、チャーリーさんは赤い銃ね」
大きな籠に入れてスタッフが持って来た二丁のエアーライフルの銃を、エイコは両方持って、その一方の赤
い銃をチャーリーに手渡した。
自分で持つことによって、不正があるかどうかの確認をした様に見えた。テレビ局側のスタッフはムッとした
が、
「ああ、わざわざどうも有り難う。申し訳ないんだけど、使い方を教えて下さい」
ピリピリした雰囲気を和らげる為に、敢えてチャーリーはエイコに聞いたのだった。
「物凄く簡単よ。先ずここの安全装置を外して、後はただ引き金を引くだけよ。勿論銃口は絶対に人には向け
てはいけないわね。普通銃口は真上か真下に向けるものよ」
「ああ、なるほど、良く分かりました。じゃあ、ぼちぼち行きますか?」
「ええ、そうしましょう」
二人が準備完了の意思表示をしたので、
「最後にもう一つ、右のコースと左のコースとどちらを選ばれますか? これもエイコさんお決め下さい」
今度はキャシャーンが怒り出したくなる気持ちを抑えて丁寧に言った。
「ええと、じゃあ、私は左にするわね。チャーリーさんは右ね」
チャーリーはエイコの言う通りにしたのだったが、直前になって、
「ああ、私はやっぱり右にするわね。それと銃も赤にするわ。良いでしょう?」
何とも用心深い態度だったが、アンディは切れそうになった。
「それで終わりにして下さいね。もう時間もありませんから!」
少し怒鳴ったのだった。
「はははは、ゴーサインを出して下さい。何時でも良いわよ」
結局、エイコは赤い銃で右のコースを選択して競技が始まった。制限時間は五分間。じっくり狙いを定めて
いられないが、急いでロスすると弾は二十発と決っているのでそれだけ不利になる。初めての競技にチャー
リーは戸惑っていた。