夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「さて、応援団、チアガールの人達、ブラスバンドの人達も殆どが帰ってしまって、随分寂しくなりましたが、し
かし思ったほどは静かではありませんよ。
 熱狂的なファン達はまだまだ残っております。この番組が放映される段になって、どの様な具合になるのか
全く分かりませんが、最後まで残っている数十人の人達は正に真性のチャーリーファンとお見受けしました。
 まあ、中には暇だからと言う人や、ボーナス狙いの人もあるかも知れませんが、局ではきっとボーナスを弾
んでくれるでしょう、多分。
 それではお待たせしました。いよいよ正確さの競技、最終ラウンドと行きましょう。例によって説明の方、
キャシャーン、宜しく!」
 アンディは人の少なくなった分余計に賑やかに喋り続けて、競技内容の説明をキャシャーンに頼んだ。

「ハーイ、この日の為に日夜練習を続けて来た、ブーメランの名手、遥々(はるばる)ドイツからやって参りま
した、ウォルフ・ブルームさんです。どうぞ宜しくお願いします。
 尚、ウォルフさんはドイツ訛りは御座いますが英語もかなり話せますので、今日は通訳無しで行きたいと思
います」
「ヨロシク。アマリエイゴハトクイデハアリマセンガ、マア、キョウギニハサシツカエアリマセンカラ、ダイジョウブ
デス。チャーリーサン、ヨロシクネ」
「こちらこそ、どうぞ宜しくお願い致します」
 型通りの挨拶をして、更にキャシャーンは説明を続けた。

「拳銃や弓矢や吹き矢等のように、飛ばす本体以外の道具は使わず、専ら己の腕の力と長年の修練の賜物、
それがブーメラン競技です。
 ブーメランはオーストラリアの原住民アボリジニーの物が有名ですが、その起源は古く、何処の地方が発祥
の地なのかは定かではないようです。
 今回は行って戻って来る事を絶対条件とした競技に致します。何かに当たると戻って来れませんから、特に
正確さを記する為に、ろうそくの炎を消して戻って来る、最高難度の記録に挑戦して頂きます。
 エアーライフルの時と同じテントを使いますが、今回は一人ずつ競技を行います。ブーメランがUターンして
戻って来る為に、少し広い場所が必要なのでそうさせて頂きます。
 制限時間は十分間。但し独特のルールがあります。ろうそくは大きさも高さも距離も違う二十のろうそく立
ての上に火をつけておきますが、もしブーメランが戻って来なかった場合には、ご自分で走って行って、その
ブーメランを持って来て、所定の位置からやり直して頂きます。
 ブーメランの数は一個のみ。万一破損した場合にはその時点でゲームオーバーです。また、短いろうそく
の場合は五分ほどで燃え尽きて消えてしまうかも知れませんし、うっかりすると走ってブーメランを取りに行っ
た時に消してしまうかも知れません。その場合でも再点火はしません。ろうそくの代りもありません。
 もし制限時間内に全てのろうそくを消した場合にはその時点でゲーム終了です。一個一点、合計二十点満
点です。
 今回ばかりはチャーリーさんが圧倒的に不利ですので、後攻とします。テントの外、特設ステージに居て、
モニターテレビを見ながら、その飛ばし方や要領を参考になさって下さい。それでは、最初にウォルフさん、ど
うぞこちらへ」
 キャシャーンはウォルフを長方形のテントの方に案内した。

「さあ、今回はチャーリーさんと特設スステージでご一緒にモニターテレビを見て、色々お話を伺いたいと思い
ます。改めましてチャーリーさん宜しくお願いします」
「はい、宜しくお願いします。ああ、ちょっと待って下さい」
 チャーリーは不安げに立っていたキャロルをステージの側に呼び、折り畳みの椅子を持って来て貰って、
そこに座らせた。
 それから急いでステージに戻ってアンディと話を始めたのである。少しすると、キャシャーンが戻って来た。
テント内にはウォルフが一人だけで競技を開始した。

 今回のルールは特に集中力の必要な競技になっているので、邪魔にならないように、一人にさせたのであ
る。競技開始は自己申告制である。最初の一投目から時計が動き始める。
 テント内にもモニターテレビがあって、残り時間も表示されるので、時間の経過も十分に良く分かるように
なっていた。

「先ずウォルフさんの第一投目、す、素晴しい、一気に二つ消しましたよ。それでちゃんと戻って来て、手で
キャッチ。見事に成功です」
 アンディが中継した。
「一度に二つ消しても良いんですね?」
「はい。ただし、戻って来たブーメランをキャッチしないと、得点にはなりません。しかも再点火しませんから大
きな損になります。チャーリーさんはブーメランをされたことはおありですか?」
 キャシャーンは言葉はよそ行きだったが、気持ち的には随分親しげに聞いた。

「まあ、子供の時にちょっと遊んだ程度ですね。余りはっきり覚えていませんけどね」
「ウォルフさん二投目。今回は一つだけ消しました。キャッチ成功。これで三点獲得。しかし、ろうそくまでの距
離が四個目からかなり離れます。徐々に難しくなって参ります。ここまでで何か参考になった所とか御座いま
すか?」
「うーん、余り分かりませんが、手首のためというか、投げると言うより水平に飛ばすんですね。しかもやや上
に飛ばす。ほんのちょっとの経験しかありませんが、見ているだけで何と無く分かって来たような気がします」
 チャーリーは本当は大して分かりはしなかったのだが、何か言わないと拙いと思ってそう言ってみたのだった。

「ああ、ウォルフさん四つ目をミスしましたわよ。ろうそくも消えなかったし、ブーメランが途中で落ちて仕舞いま
したわ!」
 キャシャーンは冷静に言った積りだったが、顔が笑っていた。

「キャシャーン、えこひいきはいけませんよ。チャーリーさんに応援したい気持は分かりますが、遥々ドイツか
らやって来たウォルフさんに悪いですよ」
 アンディは軽い言い方ながらはっきり注意した。

「ああ、済みません、惜しいですわね、また失敗です。今度はキャッチはしましたが、ろうそくは消えませんで
した。一度失敗すると、後を引くのでしょうか」
 キャシャーンは今度は笑わずに真面目な顔で言った。

「ああ、今度は立て続けに三回連続で成功しました。あああ、しかし、また失敗。今度はろうそくが消えたのに、
キャッチ出来ませんでした。これは痛恨のミスです。世界チャンピオンに何度もなった事のある、ウォルフ氏で
もこんなに失敗するんですね」
 アンディは苦そうな顔で言った。キャシャーンがまた笑顔なのである。顔をしかめて彼女に注意を促したの
だった。

「……、タイムアップ! ろうそくの火は全部消えましたが、キャッチを二度しくじっております。合計点は18点。
いよいよ我等がチャーリー・クリストファーさんの出番です。
 しかし今回は相当に難しいと思われます。事前のスタッフの試技ではせいぜい5点位でした。特に遠い位置
のろうそくの火は誰も消せませんでした。
 それを考えるとウォルフさんの凄さが分かると思います。曲がりなりにも全て消したのですからね。今回、
チャーリーさんがもし15点以上取ったとすれば、我々としては勝利と見做しても良いと考えております。さあ、
キャシャーン、チャーリーさんをご案内して下さい」
 アンディは勢い良く言った。数十人の観衆達はウォルフの健闘を称えると共に、チャーリーへの期待感を大
歓声で示したのだった。

「さあチャーリーさん、先ず一投目。ああ、残念ですが、全く見当違いに飛んで行ってしまいました。えええっ!」
「ウオオオーーーッ!」
 チャーリーの一投目、ブーメランがろうそくをかすりもせずに下に落ちたのだが、それを拾いに行くスピード
の速さに全員が目を見張った。ろうそくの側ではゆっくりと歩いたが、他の場所の動きは殆ど見えなかった。

「二度、三度と失敗を繰り返しておりますが、これはひょっとするとわざとかも知れません」
 アンディは今度は特設ステージに来たウォルフを相手にそう言った。
「ナルホド、コウヤッテ、レンシュウシテイルノデスネ。ウウム、ナニカオソロシサヲカンジマス」
 ウォルフはチャーリーのやり方に脅威を感じた。

「そろそろ練習は良いな。さあ、ここから本番だ!」
 結構大きな声で独り言を呟いてから、チャーリーは本格的にろうそくを消しに掛った。練習に五分掛けて、そ
れから本格的にろうそくの炎を消し始めたが、見事に次々に消えて行く。
 少し残念だったのは、中位の位置にあった短いろうそくが一本だけだったが消えてしまったことである。ろう
そくは残り五本。
 それらは長いので消えそうも無かったが、時間が切迫していた。距離もあるので慎重にならざるを得ず、
一投一投に時間が掛るのである。

「あと四本よ! 頑張れチャーリー!」
 キャシャーンは個人感情を丸出しにしていた。ウォルフはかなりムッとしていた。
『オレハアテウマナノカ?』
 そう感じたのである。

「さあ、あと三十秒。もう時間がありませんが、しかしまたやりました。あと三本! しかし、この勝負どうなる
んでしょうか?
 我々の考え方からすれば彼は既に勝利を収めています。今の時点で16点ですからね。ああ、もう時間が
無い! 残り二本! ああああ、タイムアップ!
 チャーリーさん17点。惜しくも一点差で負けましたが、チャーリー、君はやっぱり凄いよ! えっと、あれっ?
ウォルフさんは何処へ行った?」
 アンディはハンディ戦の考えで行けば、チャーリーの圧勝と言っても良いと思ったのだが、興奮状態で中継し
ているうちに、何時の間にかウォルフが帰ってしまったことに気が付かなかったのである。

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