夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「もしもし、キャロル?」
自分の部屋に戻ると早速キャロルに電話した。
「はい、ご主人様、うふっ!」
「おいおい、私はメイドを雇った覚えは無いぞ」
「ああ、申し訳御座いません。ただ、ああ、貴方の声を今私は独占しているのですわね。それだけでワクワ
クしますわ。
あのう、お飲み物は何になさいますか? 赤ワイン? 白? それともビールが良いかしら。ああ、あの日
本酒も御座いますわよ。お摘みは私の、キャッ! 恥ずかしくて申し上げられませーん!」
キャロルは一人で盛り上がっていた。
「昼間から酒は飲まないよ。しかしそうだな、少し暑いから冷たいもの、アイスクリームが冷蔵庫の中にあっ
たよね?」
「はい、冷蔵庫と言いますか、冷凍庫に沢山入っていますわ」
「アイスクリームを用意しておいてくれないか? 少し冷静になって話し合うことにしようよ」
「はーい、甘い甘いアイスクリームを用意してお待ちしておりますわ。うふふふ、直ぐにいらして下さいねっ!」
「ああ、今直ぐ行くから」
受話器を置くと、
「ふう!」
溜息を吐いて2号室のキャロルの部屋に向かった。
『セックスをして問題が解決するんだったら簡単なんだけど、その手が通用するほど現実は甘くないからな。
精神障害者の場合、情交がかえって病状を悪化させる場合がある。
自分の経験なんかから、その位の事は容易に想像出来る。御伽噺(おとぎばなし)にキスで目覚める話な
んかあるから、ついそんな事を考えてしまうのかも知れないけど、そんな事は病気というものが分かってい
ない者の考えることなんだよね……』
キャロルの部屋に入る一瞬前にそんな事を考えていた。しかし一応その様な考えをすっかり白紙に戻して
からドアをノックして部屋に入って行った。
「お待ちしておりました、ご主人様、ああ、済みません、チャーリー様。アイスクリームはちゃんと支度してお
りましたわよ。さあ、一緒に食べましょう」
キャロルは満面の笑顔でチャーリーを迎えた。しかしその服装にドキリとした。
『えっ! このミニスカートとノーブラのTシャツは何かを連想させるぞ。ああ、そうか、キラ星、鏡川キラ星に、
どこか似ている! ううう、駄目だ、激しく情欲を感じる!』
全く同じという訳ではないのだが、さっきまでイスに座っていたからか、何故かスカートがたくし上がってい
る。元々極端に短いミニスカートなので太腿が露になり、その中央に純白の光沢のあるパンティらしき物が
チラリと見えるのだ。
今までは余り気にしていなかった豊満な胸も、キラ星を連想してしまうと酷く気になった。彼女に対する一
種のコンプレックスが、申し訳なく思う気持ちが、今、情欲の爆発と言う形で出現したのである。しかしそれ
でも必死になって気持を抑えて、何気なく言葉を交わす。
「あれ? テーブルの上に一人分しかないぞ? キャロルは食べないのか?」
チャーリーはちょっと妙だと思った。
「うっふん、そんな、言わなくても分かって居るくせに、私が食べさせてあげるのよ。私にはアレして分けて下
さい。キャッ! あははははんっ!」
キャロルは甘えっぱなしだった。まるで正気の様にも思える。
『うーん、変だな、言葉に矛盾は無い。仕方が無い、まあ、仰せの通りにしてみるか……』
チャーリーは手探り状態でキャロルに対応した。しかし危ない心情でもある。
『拙いぞ、少し一物が立ってる。ばれない様に兎に角座ろう』
イスに座って勃起を誤魔化し、取り敢えずアイスクリームを普通にスプーンで食べようとしたが、
「ううん、駄目よ、私が食べさせてア・ゲ・ル!」
直ぐ隣に座ってスプーンでチャーリーの口にアイスを入れた。かなり量は多い。
「う、うーん、私にお口から頂戴」
何処までも甘えて来る。これが正常な精神状態の女性だったら何も問題は無いのだが、何処で異常行動
を起すか分からないと思うと気が気ではない。
『ええい、兎に角口移しでアイスクリームを食べさせよう。なるようになれ、だ!』
チャーリーは本当にアイスクリームを口移しにした。キャロルは美味しそうに食べたが、口の中のアイスが
少なくなったところで、待っていましたとばかりに舌を絡めて来た。
『やっぱり来たか。まあ、ご要望にお応えしておこう』
チャーリーは冷静にキスをした積りだったが、もう下腹部ははちきれそうになっていたし、まるでキラ星と
キスをしている気分だったのだ。その後一旦はキスを中断して、彼女のベットに入り、早速情を絡め始めた
のだった。
『あああ、キラ星、申し訳なかった。せめてものお詫びに、精一杯セックッスをさせて貰うよ!』
姿形も言葉も違うキャロルが今はキラ星に見えた。もう精神障害の事など忘れて夢中で情を交わした。唯
一気にしたのは時間である。
『余り長いと正美に疑われる。短く中身の濃いセックッスにしなければ!』
そう思うと自然と激しい情交になった。キャロルはアメリカ人らしく遠慮なく絶叫した。チャーリーは一時間
の間に四、五回も果てて、十分に性の喜びを堪能したのである。
キャロルの喜び様は凄まじかった。もう隠す事など出来ない。少なくともゲルクには声を聞かれてしまっ
ただろう。
予定は一時間位だったが、情交の後も暫く抱き合ってキスを続けたので結局は二時間掛ってチャーリーは
自分の部屋に戻った。
『はあ、結局はキャロルとはセックスをしただけだったな。しかし、うーん、何も問題は無さそうだけどねえ』
自分の部屋に戻ってから冷静に考えてみたが、特に問題はなかった。しかし長く居ても更に性行為を求
めて来そうだったので、
「もう予定の一時間を随分オーバーしている。今日はここまでにするよ」
そう言って有無を言わせずにキャロルの部屋を出て来たのだった。キャロルは名残惜しそうにしながらも、
濃厚な営みに満足したのだろう、
「うふふふ、それじゃあ、また明日ね」
と、あっさりとチャーリーを解放したのだった。
『あれだけ大きな声を出したんだからねえ、正美だって分かっているだろうね。うーん、また頭が痛くなって来
た。だけど、さっきは本当はキャロルとじゃなくて、キラ星とやっていたんだよな。
まさかそうとは言えないよな。俺が夢中でやっていられたのはキラ星だと思っていたからだしね。彼女には
幾ら謝っても謝り足りない位だけど、これで幾らか気が楽になったよ。
その意味じゃあキャロルに感謝、感謝だけど、しかし今度はキャロルを騙した事になるしねえ。ああ、一難
去ってまた一難と言う事か。まあ、兎に角、今度は正美だ。ううむ、彼女怒っているだろうねえ……』
覚悟を決めて正美に電話した。
「あっと、正美さん?」
チャーリーは遠慮なく日本語で言った。その方が少しでも怒りを静められると思ったのである。
「はい、正美です。その、お飲み物は何になさいます?」
正美も当然の様に日本語で答えたが、怒りの感情を隠している。
「ええと、うーん、ワインは有るよね?」
「えっ! はい、御座いますけど。そう言えば夕食の時間になりましたわね。随分掛ったんですね、あの女と」
明らかに知っていた。
「あ、ああ、その、成り行きでね。その、そっちで、簡単で良いから夕食にしたいんだけどね。ワインとお摘み
で良いんだけど」
「分かりました。あの、あのう、今夜は泊って行ってくれませんか?」
正美は大胆な提案をした。
「ええと、それはちょっと、まあ、それも成り行き次第だな。兎に角行くから」
「はい、分かりました。摘みは冷蔵庫の中にあるもので良いですか? サラミとかチーズとかハムとかですけ
ど。ピクルスもありますわよ。でも、日本の物は殆どありませんけどね。ああ、ただ、何故か日本酒がありま
すわよ。大吟醸と言うのかしらねこれ?」
「そうか、じゃあ、ワインはやめて、そのお酒にするよ。じゃあ、今行く」
「はい」
正美は如何にも怒っていたが、必死で隠そうともしていた。
『バッチリ声を聞かれたんだろうな。と言うか、聞き耳を立てていたんだろうよ。ひょっとしてドアの外で立って
聞いて居たのかも知れない。
ふう、怒った女を黙らせるのには、やっぱりセックスしかないのかねえ。まあ、幾らでもやれるんだけど、し
かし彼女はキラ星には見えないしねえ……』
チャーリーは何とも憂鬱な気分で正美の部屋に入って行った。
「い、いらっしゃい。日本酒支度しておいたわよ。摘みもテーブルの上にてんこ盛りよ。……、さあ、座って頂
戴」
怒りの感情が爆発しそうになるのをグッと堪えている様だった。テーブルの上にはちゃんとグラスが二つ
用意してある。日本酒はあったが、お猪口(ちょこ)などは無いようで、小振りのワイングラスだった。
「ああ、しかし本当に大吟醸なんだ。でもこれを用意した人はアメリカ人だと思うけど、大吟醸の事を知って
いたのかな?」
「その、私は大吟醸って余り知らないんですけど。名前は知っていますけどね。どんなお酒なのかしら。普通
の日本酒とどう違うのかしら?」
正美は努めて平静に言った。
「ああ、お米の中心部分だけを使って造った日本酒なんだよ。とてもフルーティな香がして、日本酒の苦手な
人でも飲めるお酒なんですよ。どちらかと言えばワインに近いんですよ。まあ、開けてみましょう」
チャーリーは出来るだけ正美をなだめる感じで言った。
「ああ、本当に良い香だわ。じゃあ、その、乾杯!」
「乾杯!」
飲むほどに酔うほどに、正美の機嫌は少しずつ回復して行ったのだった。