夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「はあ、しかしこれは昼食と言うよりも、夕食に近いね。でも、中々美味しいよ。まあ、殆どがインスタント物
とか、冷凍物だけどね。
 ふふふふ、しかし、まさかこれがあるとはね。ちょっと洒落ているよ。この赤いベーコン風の物が何だか
知っているかな?」
 チャーリーは遅い昼食と言うよりも、早めの夕食と言う方が相応しい食事に、舌鼓を打ちながら笑って言っ
た。

「私は知っていますけど、アメリカの人は知らないでしょうね。もっとも若い日本の人も知らないかもしれない
わね。どお、食べたご感想は?」
「うわ、美味しい。今まで食べたことの無い味だわ」
 ララが目を輝かせて言った。

「ふうん、何でしょうね、確かに美味しいのですが」
 ゲルクは首を傾げて言った。
「あはははは、これが鯨の肉なんだよ。ビックリ仰天かな?」
「えっ! うっ、し、知りませんでした。で、でも美味しい。ああ、罪深いことを言ってしまいましたわ」
「うーん、どうしてここにこんな物があるのでしょうか?」
 ララとゲルクは顔をしかめながら言った。二人とも、吐き出しはしなかったがそれ以降は食べなかった。

「さあ、鯨の肉は、今ではとても高価ですからね。日本でもそうそうは食べられませんよ。何か意味がある
のかそれとも、今度ここの住人になる、ゴールドマンジュニア将軍の好みなのでしょうかね?」
 そう言いながら、何か策略がありそうだと、チャーリーは感じた。

「まあ、皆さんが食べないのなら私が食べますが、しかし何を食べ何を食べないかは個人の自由ではあり
ませんか?」
「しかし、鯨は絶滅の恐れがあります。それを捕って食べるのは感心しませんが」
 ゲルクはアメリカ的な常識を言った。

「それは考え違いです。一部の鯨は既に増え過ぎの傾向があります。自然界のバランスを考えるのならば、
むしろ積極的に捕獲して有効に使うべきです。
 例えばオーストラリアのカンガルーの様にです。熱心に保護した結果、今では逆に増え過ぎたカンガルー
に困って、とうとう捕獲を認める様になったじゃありませんか。その肉を缶詰等にして売っていると聞きまし
たが違いますか?」
「でも、鯨は少し位増えても、害は無いでしょう?」
 ララがやはりアメリカ人らしい反論をした。

「ところがそうじゃない。鯨は大食漢です。膨大な量の魚を食べている。詳しいデータは忘れましたが本当に
凄い量なんですよ。
 このままでは世界の海は鯨だらけになって、魚が極端に減り、自然界のバランス、食物連鎖が破壊され
て、結局、それは鯨の絶滅に繋がるし、世界の漁業にとっても由々しい大問題になります。
 あなた方欧米の人達が鯨を食べないのは、どちらかと言えば宗教的な色彩が強い。だから今言った科学
的根拠に基づく、日本等の捕鯨国の主張に耳を傾けないのです。
 もう一度言いますが、このままではかえって鯨を絶滅させる恐れがあるのですよ。そこのところを良く考え
て頂きたい。
 ああ、はははは、ここで議論しても始まりませんがね。ただ不思議な事はここに鯨の肉があったという事で
す。どうも何か臭いますね。自爆テロといい、鯨の肉といい、何か罠の様な気がしますね」
 チャーリーは話の方向をそらして、鯨論争を避ける事にした。宗教的な感情論を持ち出す欧米の人達と
鯨論争をしても、虚しいだけである事を良く知っていたからである。

「うーん、そうかな、食物連鎖の破壊に関しては何か違う様な気がしますが。しかしチャーリーさんの言う様
に、鯨の肉が非常に高価だとすると、ここの冷蔵庫に入っていたのは如何にも不自然ですね」
「そう言われてみればそうね。私は子供の頃に鯨を食べた事があるけど、とても美味しかった記憶があるわ。
それでチャーリーさんもきっと喜ぶだろうと思って出してみたんだけど、確かにおかしいわね。
 私もスーパーで売っていたのを見た事がありますけど、物凄く高くて、とても買えなかったという記憶があ
ります。本当に罠かも知れませんわね」
 正美もチャーリーに調子を合わせて、鯨肉陰謀説を採用したのである。

「罠って、毒でも入っているんでしょうか……」
 ララは青くなって言った。
「うーん、お腹は痛く無いですか皆さん? 私はサイボーグなので通常の毒には平気なんですが」
 チャーリーは三人を代わる代わる見たが、別に苦しそうな表情の者はいなかった。どうやら毒を入れたり
はしていないようである。

「それは多分こんな事ではないでしょうか?」
 ゲルクは何か閃いたらしい。
「と言うと?」
 チャーリーはゲルクの推理に期待した。中々切れる頭の持ち主である事を良く知っていたからである。

「この赤いベーコンが鯨の肉だということは、我々アメリカ人は殆ど知りません。ですから、もし、チャーリー
さんや正美さんがいなかったら、誰もそれを知らずに食べていたでしょう。それで何事もありません。
 それが鯨だと分かるのは日本人である正美さんや、本来のチャーリーさんだけです。そうなると私達アメ
リカ人とチャーリーさん達日本の人との間でトラブルが起る。今も場合によったらトラぶっていたかも知れ
ません。
 鯨肉の罠はその為に仕掛けられたのでは無いでしょうか? しかしもう一つ考えられます。少しうがった
見方かも知れませんが」
「ふうん、うがった見方と言うと、どういう事だろう? 遠慮なく言ってみてくれよ」
 チャーリーはゲルクが言い易い様に肯定的に聞いてみた。

「それはチャーリーさんが好んで鯨の肉を食べる、と言いたかったのではないでしょうか?」
「ほほう、鯨の肉を好んで食べるねえ。私を貶(おとし)める、そういう考え方なんだ。ふうん、何の為に?」
「ゴールドマン教授の示唆のお陰とチャーリーさん自身のこの間のテレビでの発言から、サイボーグ、スー
パースターの様にも神のごとくにも思われている者が、鯨の肉を食べる輩だ、本当は卑しいのだと言いた
かったのでしょう。
 裏を返せばやっぱり白人は偉いのだ、白人こそ人類の究極の姿なのだ、という事を言いたいのではない
でしょうか?」
 ゲルクは次第に確信を持って言っていた。

「ははーん、成る程、それだったら白人女性の自爆テロと繋がりが出て来る。SWX教団の陰謀の線で一本
にまとまるな。
 うーん、ゲルク君、君の言う通りだろうよきっと。それですっかり辻褄が合うね。いやあ、いつもながら推理
が冴えるね。いや、お見事!」
 チャーリーは感心して言った。

「本当に凄いわね、ゲルク君。その種の推理に関しては脱帽だわ」
 正美も誉めた。
「あははは、私は来たばかりだから、何の事だか良く分からないわ、御免なさい」
 ララにはピンと来なかった様である。チャーリーの熱心なファンで無ければ分からないのも仕方の無いこ
とだった。

「しかし、ゲルク君、話は違うのだけれど、キャシャーンがここに来るとか言ったね?」
「はい、まだ今日明日という訳では無さそうですが。でも、これでは来れそうもありません。軍が承知すると
は思えませんからね」
「ええっ! キャシャーンって言うと、あのタレントのキャシャーン?」
 ララは目を輝かせて言った。

「はい、そうですけど、ララさんは彼女のファンなのかな?」
 ゲルクは少し驚いて言った。彼女のファンは圧倒的に男性が多いからである。
「ええ、私は彼女に憧れているんです。小柄なのにモデルの仕事もしていたでしょう? 私も小柄だから、
何か勇気付けられる気がしているんです。はあ、でも遠く及びませんけどね……」
 ちょっと悲観的に言った。

「いや、そんなにご自分を卑下する事は無いでしょう。十分に素敵ですから大丈夫ですよ」
 チャーリーは慰めの積りで言ったが、
「随分肩を持つのね、チャーリー。私には冷たいのに」
 正美がちょっとすねて言った。

「いや、その、正美さんだって素敵ですよ。素晴しいプロポーションでした、ああ、いや、そう思えますよ。こ
こで見てもラインがとても素敵だ」
 チャーリーは慌てて誤魔化した。全裸の彼女を見ているその気分で言ってしまったのだ。

「はあ、洋服を着ていても分かるんですか? 男の人って、ちょっと嫌らしいですね、座って食事をしている
時でも、女性の裸を想像するんだ。直ぐ目の前にいる私とかを」
 ララは多少ずれた考え方を示した。正美とチャーリーとはホッとした。

「ぼ、ぼ、僕はしませんからね。チャーリーさんは女好きだからするかも知れませんけど、僕はけっしてその
様な事は想像しませんからね」
 ゲルクはチャーリーを批判しながら自分は良い子になった。しかしこれは返って逆効果だったろう。

「ええ、どうしてそんなに慌てるんですか? ゲルクさん怪しいですわよ。それに、私も男の人を見る時に、
たまにですけど、あそこの大きさなんかを想像します。
 それが大人の本心じゃないのかしら? ゲルクさんは何だか嘘吐きだわ。ちょっとがっかりね。その点
チャーリーさんは案外正直で好きですわ」
「はははは、ゲルク君を許してくれよララさん。この人はキャシャーンが大好きなんだから」
「ええっ! まあ、だったら許してあげる。キャシャーンを好きな人に悪い人はいないと思いますわ、うふふふ」
「いやあ、参ったな、あはははは」
 話は妙な方向に行ってしまったが、それでも和気藹々(わきあいあい)に食事は済んで、銘々の部屋で
休む事になった。ララは元のキャロルの部屋4号室に入る事になったのである。

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