夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「そろそろ時間ですね。じゃあ、会議室に行きましょうか」
 食堂で暫く寛いでから、時計を見てチャーリーは言った。怒っているせいか、無口になっているゲルクの代
わりに、進行係を勤めることとなった。

「はーい!」
 やたら元気なのはララだった。チャーリーと情交をたっぷり楽しんだせいか、自然と笑みが零れて来る。
「まあ、随分元気な事。でも、未来教室の邪魔はしないでね。セックスする場所ではないのですからね」
 皮肉めかして正美は言った。ゲルクは無言で歩いて行った。

「いや、皆さん、お待ちしておりましたよ。未来教室は別の場所でやりますからね」
 驚いた事に会議室の中ではケッペルが待っていたのである。
「ええっ! ケッペル先生何時の間に?」
 口の重かったゲルクが言った。

「はははは、ここはまあ、私の庭の様なものですからね。建物の設計は別の人がやりましたが、これから行
く場所は、私とシュナイダー博士、それからアーノルドさんとで作り上げたものなのですよ。さあ、私について
来て下さい。実はねえ、怖い情報があるのですよ。
 ここで『夏休み未来教室』が開かれることは、多くの人が知っています。SWX教団は空からここへ爆撃も
辞さないという情報が入ったからなのですよ。ソフィア関連の筋から入手した情報なんですがね」
 歩きながらケッペルは本当に怖い情報を皆に提供したのだった。

「空から爆撃ですか? しかし空軍基地に空からは無理なんじゃないんですか?」
 チャーリーは当然の様に聞き返した。
「いえいえ、ミサイルですよ。ヘリコプターに搭載したミサイルなんかで攻撃をするらしい。別の情報では化
学兵器を使うとか。何にせよ、この場所に居ることは頗る危険なのです」
「あのう、教室に来る予定のお二人はどうされました?」
 正美は真剣な表情で聞いた。

「はい、たまたまと言うのでしょうか、日本人のお二人はもう、これから行く場所に着いて待っておりますよ。
最終選考に残ったのが日本人だけで、アメリカ人は一人も居なかったのは残念至極ですよ。
 まあ、例外的にキャシャーン君がアメリカ代表という形ですが、彼女はタレントですからねえ。普通の意味
での代表とは少し意味合いが違いますから。チャーリーさんとは特に親しいと聞いておりますからね」
 ケッペルは全員をエアロビ室に連れて行きながらそう言った。

「キャシャーンと特に親しいのですか?」
 正美が顔を強張らせて言った。
「うふふふふ、凄いわね、チャーリーさん。手当たり次第なのかしら?」
 ララは小気味良さそうに言った。

「はははは、彼女とはそんなに深い関係では。コマーシャルとかで一緒になっただけですから。もう、誤解さ
れる様な事を言うなよ、ララちゃん」
「ララちゃん?」
 ちゃんを付けた事に、正美は疑念を持った。親し過ぎる言い方だと思ったのである。

「さあさあ、喧嘩は良くないですよ。皆さん、ここに大きな鏡がありますね」
 ケッペルは女達の恋の争いに、釘をさす意味で秘密の場所の説明に入ったのだった。
「鏡がどうかしたんですか?」
 ララは不思議そうである。

「ここに取っ手らしい物がありますね。チャーリーさん手伝って下さい。せーので、上に引き上げますから。
ただ人間のパワーでお願いしますよ。サイボーグのパワーでは壊れてしまいますからね」
 ケッペルは大鏡の下に、左右に二つ付いている取っ手を指差して言った。間がかなり離れているので、
二人が同時に上げる必要があった。それが一種のキーの役割を担っている様である。

「せーの、それっ!」
 鏡は見事に上へ持ち上がり、裏の壁にドアが現れた。ドアは自動で開いたのである。
「さあ、入りましょう。約二十秒で閉じますからね。ドアが閉じると鏡は自動的に下りて来ますから」
 ケッペルは言いながらドアの向こうに入って行った。他の者達も後に続いた。チャーリーは当然の様に最
後に入った。

「ひょっとして、ノアシティに行くのですか?」
 暫く歩くと、階段があり、下へ下へと伸びている。ゲルクは慎重に聞いてみた。
「いや、その、ちょっと違う。ノアシティは今大改造工事中でね。知っていると思うが、一般公開の為に、都
合の悪い物は見せない様に、蓋を、いや、公開可能な様にしているんでね。ここは別口の地下室へ向かっ
ている。
 行く行くはノアシティに繋げる積りなんだが、まだそこに至っていない。さてこのドアの向こう側がお待ち
かねの地下会議室へ向う通路になっている」
 ケッペルは楽しげに言った。通路には灯りが歩く先々に自動で灯る。後ろを振り返ると、暗くなっている
ので人が行き過ぎると明かりは自動で消えることが良く分かった。

「ええっ! まだ先があるんですか?」
 少しウンザリしてララが言った。
「はははは、もう直ですよ。次のドアの向こうが会議室ですからね。ああ、そうそう、気が付かなかったかも
知れませんが、本当は自動ドアが幾つもあって、人が通り過ぎると静かに閉じるんですよ。明かりも自動的
に消えます」
「随分厳重なんですね。まるで核シェルターみたいだわ」
 正美が少し驚いて言った。
「その通りなのですよ。ゴールドマン・ジュニア将軍が住む住宅ですよ。いざという時には、ここに避難する
という寸法なんですよ」
 ケッペルがそう言った途端だった。

「ゴゴゴゴゴーーーッ!!」
 何か凄い音が響いて来たのだった。しかしかなり遠くに感じられる。
「な、な、何なの、今の音と振動は! 上の方から響いて来たわよ!」
 ララが驚いて叫んだ。

「ああ、やっぱり来ましたか。今のは多分、ミサイルが撃ち込まれた音でしょう。やっぱり防げなかった。
ふう、間一髪でしたよ。今丁度午前九時。ふうむ、情報通りだ。ああ、もう着きましたよ」
 ケッペルは目の前のドアを開けながら、多少落胆して言った。

「いらっしゃい! お待ちしておりましたよ。はははは、いや、本当に、何ともはや」
 チャーリー一行を出迎えたのはアーノルドだった。後ろに林果、信念、そしてキャシャーンが居た。皆青い
顔をしている。
 ただ会議室と言っても、ドアが沢山あって、その向こうの方にも幾つか部屋がありそうだった。かなりの
長期間人が暮らせる、核シェルターになっているらしい。

「いや、皆さんを騙したみたいで悪かったが、この場所については秘密だったんです。秘密にし通す積り
だった。
 ところがソフィア、恐らくはSWX教団の司令によっての行動でしょうが、自爆テロで予定がすっかり変
わってしまった。
 ああ、まあ、皆さん座って下さい。少し詳しくお話致しますから。チャーリーさん、未来教室の方は、もう少
し後でお願いします。宜しいですか?」
「はい、まだ九時少し過ぎたところですから大丈夫です。元々十時からの予定ですからね」
「ああ、それは助かります。じゃあ、皆さん座った所で、経緯をお話致しましょう」
 会議室とは言っても学校の教室風に机とイスが並んでいる。教師用の特別の教壇などは無かったが、
生徒用のと同じ机とイスが向き合わせに置いてある。アーノルドはそのイスには座らずに机の前に立って
話し始めた。

 イスには銘々勝手に座ったが、意識的にララだけがチャーリーの右隣に座った。いや、キャシャーンの左
隣にさり気無く、内心はかなり意識してゲルクが座ったのだった。

「今回の事件、ソフィアと言うよりも、SWX教団の恐るべき陰謀に我々は気が付きました。自爆テロから、
彼女の関係者が続々と逮捕され、その内の何人かが計画を話したのです。
 どうやって聞き出したかは聞かないで貰いたい。一つだけお断りしておきますが、拷問はしていない。しか
し中には卑怯と言う人もあるでしょう。まあ、詳しい事は言えませんがその様な特殊な方法を使いました。
 何にせよ、彼らの計画の全貌が自爆テロによって発覚したのだから皮肉なものです。もうご存知かも知れ
ませんがSWX教団には過激派と穏健派と二派があって争っています。しかし彼らの目的はただ一つ」
「目的? 白人絶対優位説を唱えているんでしょう?」
 キャシャーンは疑問に思った。

「はい、一応そうなのですが、とんでもない計画がありました。彼等は地球の征服を狙っていたのです。ま
さかと思うでしょうが本気でした。いや、本気です。
 さっきの音を聞いたでしょう? 彼らの攻撃を知っていてもアメリカ空軍はそれを防げなかった。勿論そ
の他の軍隊もです。何故でしょうか?」
「強力な人質があったとか?」
 ゲルクはすかさず言った。

「はい、その通りです。彼等はアメリカ大統領を抑えている。SWX教団がクラストファー大統領と親しくして
いたのはこの日の為だったのです。
 今度の選挙の為に莫大な資金援助をしています。当然SWX教団の幹部の食事の招待は断れません。
ただし表向きは教団の幹部だとは誰も知りません。大統領だけしかね。
 無論大統領が本音を漏らす訳もありません。全ては秘密裏に行われているのですから。つまり今大統領
は彼らの手中にあります。
 その大統領が、例えばミサイルを積んだヘリコプターに乗っていたら、たとえミサイル発射の可能性があっ
たとしても、我々はおいそれとはそのヘリを撃ち落せない。
 実際にどの様な方法を講じたのかはまだ分からないが、何れにせよそれに類する方法だと考えられるの
ですよ」
 アーノルドは悲痛な表情で言ったのである。

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