夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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 車はしかしNASAとは反対の方向、西へ西へと移動して行った。次第に山道に掛って来ている。
「えっと、こっちはNASAとは逆方向ですよ?」
 チャーリーは軽く疑問を言ってみた。

「はい、手術の為の施設がこっちの方にありますからね。まだ暫く掛ります。手術の内容などについては極
秘なので、申し訳ありませんが、ここでは一切お話出来ません。
 今回の事件が我々関係者にとっては実に良い薬になりました。敵は味方の中にも居るのですからね。敵
を欺く為には先ず味方からせよ、という諺がある位ですからね。
 まあ、実際の所は実に残念なのですよ。今回の事件の背景には、親の確執が子供を巻き込んだと思わ
れるところがあるのです」
 ケッペルは如何にも残念そうに顔をしかめて言った。

「親の確執ですか?」
「はい。ジュニアの親、つまりゴールドマン教授の仇と言えば、シュナイダー博士です。その博士を支援して
いるのが私やアーノルドさん、それからチャーリーさん、貴方も仲間だと思われている。
 つまりジュニアにとっては貴方は敵なのですよ。彼はどちらかと言えばSWX教団の中では穏健派だった
ようです。
 しかし父親の確執が彼を過激派に仕立て上げたらしい節がある。捕虜になった兵士達はあらいざらいな
んでも話してくれています。
 お陰で色々なことが分かりました。ただ、まだ時間が余り経っていませんので大した事は聞けて居ません。
全てが明らかになるのはまだまだ先のことでしょう。
 兎に角、事件は一応収まりました。勿論、今回の事件はSWX教団の氷山の一角に過ぎません。本体は
アメリカだけではなく、ヨーロッパにもその拠点を持っているらしいのですが、真相は未だに闇の中です。
ふーっ!」
 ケッペルは深い溜息を吐(つ)いた。

「ふーん、何か雲を掴む様な話ですね。ああ、その、これは余り関係の無い話ですが、まだ目的地まで時間
がありますか?」
「はい、まだ一時間ほどは掛りますよ」
「そうですか、だったら少し今回の事件について、聞いて置きたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
 チャーリーには少し府に落ちない事があった。時間があるようなのでその点を聞いてみることにしたので
ある。

「ええ、何なりとどうぞ。秘密事項以外だったら全てお話致しますよ」
 ケッペルは簡単に了承した。それだけチャーリーを信頼しているのである。
「先ず疑問に感じたのは、最初のミサイルの後、長い空白の時間、その間講義をしていたのですが、何時
間にも亘(わた)って何もありませんでした。
 今回の事件がゴールドマン・ジュニアの仕業だったら、彼は地下に私が居る事を知っているのですから、
どうして追加のミサイルを直ぐに撃たなかったのでしょうか?」
「ああ、その点は簡単なことですよ。はははは、あの時間ジュニアが何処に居たと思います?」
 ケッペルは余裕の笑顔で聞き返した。

「えっと、たぶん空軍基地の何処かでしょう? それとも国防省、通称ペンタゴンにでも居たんじゃないです
か?」
 チャーリーは常識的な判断をしてみせた。

「はははは、我々もそう思っていました。ところが彼はそんな所には居なかったのですよ。彼がいたのはア
メリカ西海岸、ロスアンゼルスの近郊の彼の別荘に居たのです。
 我々は、まあ、主に私とアーノルドさんと彼の部下とですが、ミサイル攻撃があった事を彼に報告しようと
したのに、彼は中々捕まらなかった。
 彼はその頃親しい友人達とゴルフに興じていたのですよ、休暇まで取ってね。探し当てるのに何時間も
掛りましたよ」
「ええっ! そんなに掛ったんですか? でも、普通行き先は知らせて置くんじゃないんですか? 何かの
時の為に」
「普通はそうなんだが、ジュニアは自分に疑いが掛る事を極端に恐れたんだと思われる。だから何千キロも
離れた別荘に居て、しかもミサイル発射の時間はゴルフ場に居た。完璧なアリバイを演出したと思われる
んですよ。
 しかし、我々からの連絡で彼は慌てた。彼は口を閉ざしているが、ミサイルを一発だけ発射したのは彼の
新住居を破壊してしまえばもうそれで地上には出て来れないと思っていたし、ミサイルを何発も撃てば発射
した場所が特定されると思ったからだろう。
 実際我々は複数のミサイル発射で、その発射基地を特定出来たのだからね。しかし我々が生きて彼に
連絡した事から抜け道がある事を知った彼は、追加のミサイル発射を命じた。
 更に、抜け道の出口付近に、三百余名の兵士を送り込んだと考えられる。彼の息の掛った、チャーリー
抹殺部隊だったのだろうね。
 本当に我々は迂闊だったよ、まさかジュニアが主犯格だとは夢にも思わなかった。彼がミサイルを追加
発射したのは、あぶり出しの為だったようだ」
 かなり確信を持ってケッペルは言った。

「あぶり出し?」
「ああ、彼が恐れたのは、地下に籠城される事だった。あの場所は最初から核シェルターとしての機能を
持っているから、籠城には強い。
 その気になれば、二年や三年は楽に籠城出来る。それでは彼はSWX教団の過激派から失敗したと見
做(みな)されるだろう。そうなれば死の制裁を受けることになる。家族諸共ね」
 ケッペルは気の毒そうに言った。

「ええっ! 家族諸共ですか?」
「はい、捕虜の兵士達が白状したのですから間違いありませんよ。多くの兵士が死に物狂いで貴方を倒そ
うとした背景には、そういった恐ろしい掟があるからなんですよ」
「うーん、宗教の最も悪い面ですよねそれは。宗教を人を動かす為の、絶対に言う事を聞かせる為の道具
として使っている。
 人の幸福の為にあるいという、表向きの看板が、実際には看板だけなんて事は良くあることですよね。
『神からの命令だ』という脅し文句で、リーダーだけが恩恵に与(あずか)るパターンは一部の過激な宗教
団体では良くあるテクニックですよね。
 今回私は、若干の手加減をしました。そんな事もあろうかと思っていましたからね。罪を憎んで人を憎ま
ず、そんな感じにしたのですが、それで正解でしたよ」
 チャーリーはホッとしていた。

「なるほど、チャーリーさんにしては死者が少なかったのは、そういう事があったのですか、はーっ!」
 ケッペルは今度は感慨深げに溜息を吐いたが、思い出した様に更に話を続けた。

「ああ、そうそう、我々がジュニアを疑いだしたのは、報告してから、間も無く二発目のミサイルが撃ち込ま
れたからなんです。
 しかも多くの兵士が、何処の部隊に所属しているのか分からない兵士が、強力な銃や手投げ弾を持って、
出口付近の住宅に集合していると聞かされてピンと来たのですよ。
 気の毒だったのは住宅を護衛していた、兵士達です。彼等は勇敢に戦いました。しかし多勢に無勢、相
当粘ったらしいのですが、十数人全員が討ち死にしました。本当に気の毒な事をしました」
「その人達には、せめて残された家族には、十分な保障をしてあげたいですね。その点は、何とかお願い
します」
「勿論ですとも。ただ、そのような事もあろうかと、住宅から地下の入り口付近に到達することは相当に難
しくしておいたのですよ。普通に歩いている限り、永遠にその場所に行き着かない位にね」
「へえーっ、それは有り難かったですが、どうしてですか? それと出口付近の倉庫も核シェルター並だっ
たのは何故でしょうか?」
 ここでもチャーリーは常識的なことを聞いたが、実際何故なのかはさっぱり分からなかった。

「理由は割合簡単です。出口の住宅は一般の住宅です。従って、原則護衛は居ません。今回は事件があっ
たから護衛を付けましたが、本来は付けない積りでした。その方が重要な建物ではないという、カムフラー
ジュになるからです」
「ははあ、なるほど」
「ところがそうすると、時には泥棒なんかが入り込むかも知れない。その為に、地下の入り口付近には辿り
着けない様にして置いたのですよ」
「ふうむ、それでは入り口付近の倉庫みたいな核シェルターは何の為に?」
「それは緊急避難用です。あの場所は空軍基地です。敵の核ミサイルの飛来も有り得る場所なのですよ」
「はい、確かに」
「そんな時に、今回『夏休み未来教室』の開かれた場所まで走って逃げ入るのは、時間が掛って大変です。
一分一秒を争う時には取り敢えずあそこに入って、爆風をやり過ごします。
 放射線の汚染が酷い時には暫く籠城して放射線のレベルが下がるのを待つのですよ。その為にわざわざ
入り口付近にも作って置いたのです」
「そうなんですか、良く分かりました。うーん、完璧ですね」
 チャーリーは感心して言った。

「いや、いや、それよりも、敵の兵士達によくやられませんでしたね。あれだけの装備と訓練を積んで来た
連中ですよ。貴方の能力に、我々はいつも驚かされる。一体どうやったら殆ど無傷で居られるのでしょうね?」
 ケッペルはチャーリーが全くと言って良いほど傷付けられていない事を不思議がった。

「それは大したことはありませんよ。本当の事を言うと、彼等の重装備が命取りだったのです。頑強な防護
服に重い銃や大きな手投げ弾を持っていました。
 その為に動作がかなり遅かった。それに対して、私の動きは時速に直せば、平均六十キロ位。しかも瞬
間的には百キロを軽く超えます。
 スピードに全くついて来れませんでしたし、少し離れた所から銃を向けた者は、逆に命を落としました。一瞬
で側に寄って行けますからね。
 私のパンチは防弾チョッキすら打破るほどの破壊力があります。数人がやられた所で大抵はやけくそに
なったようです。
 その為か、命を落とすと知っていながら尚襲って来た者が大勢居ました。宗教の力の怖さを改めて知りま
した。
 やられてもやられても尚襲い掛かって来るのには参りましたが、残り二十人位になると、さすがに戦意喪
失して命乞いをする者が現れました。
 それでも数人は襲って来たのですが、彼らを眠らせると、後はもう、残った者達全員の必死になっての命
乞いでした。正直言って少し迷いました。命乞いの振りをして襲って来るかも知れないからです」
 チャーリーは苦しかった心情を吐露したのだった。

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