夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「ふふん、サイボーグに本格的もへったくれも無いだろう? 宜しい、どっちが本物か決着を付けようじゃな
いか。
 ここは少し狭いから外に出ないか? まあ、ここでやっても良いが、店を破壊しては気の毒だからね。そ
れとも私の部下になるかね? 体がバラバラになる前にギブアップした方が良いと思うけどねえ」
 男は自分こそが本物でチャーリーを最初から偽物と決め付けた様な言い方をした。絶対の自信を持って
いるようだった。

「表に出て白黒を付けた方が良さそうだね。確かにここは少し狭過ぎる。ただ言わせて貰うと、君こそギブ
アップした方が良いと思うよ。軽い怪我位じゃ済みませんよ」
 チャーリーも一歩も引かなかった。

「ふん、交渉決裂ですね。じゃあ外に出ましょう。ふふふ、嬉しいねえ、これで大っぴらに人殺しが出来る。
あんたも少しは腕に覚えがあるんだろう?」
「まあね、しかし私は殺さないから安心して良いよ。本気で掛って来なさい」
「あはははは!!」
 チャーリーの言葉を笑ったのは偽チャーリーの部下らしい五人だった。大半が外へ出たが、ごつい男達
は暫くは体をよじって笑っていた。

「はははは、本当に命知らずのお馬鹿さんですね貴方は。私が空を飛んだり、鋼鉄の棒を曲げたりするの
を何かのトリックだとでも思っているのでしょう?
 生憎だったね、私は一切トリックを使っていないのですよ。さっきのパフォーマンスを見ましたよね? あ
れにも一切トリックは無い。
 例えば私の指の力はプロレスラーのようなごつい連中の腕の骨を、握っただけで粉々に破壊してしまうん
ですよ。
 さて観衆も大分集まって来たようですからそろそろ行きますよ! これが最後の警告だ、ギブアップする
なら今の内だぞ、でないと本当に死にますよ、それっ!」
「ビュンッ!」
 観衆に感じられたのは男の動く風の音だけだった。時速に直せば軽く百キロを超えたスピードで男の拳は
チャーリーの顔面目掛けて襲って来たのである。

「うあっ!」
 チャーリーはかわすだけで精一杯だった。しかも次々に拳は繰り出される。それに蹴りも加わって、男の
攻撃は凄まじかった。チャーリーはひたすら逃げ回った。

『何というスピード!! 駄目だ、とても攻撃どころではない。それに指に装着しているのは指輪の様に見
えるけど本当はパワーナックルとでも言うのか、特殊な合金を使っている様に思える。
 通常の鉄位だったら敢て顔面を殴らせるんだけど、あの自信からして、恐らくかなりのダメージを受ける
のに違いないだろう。
 しかし部分的サイボーグだったら大きな欠陥がある。それはスタミナが持たないことだ。必死に攻撃して
来るのがその証拠だ。
 長引けば拙い事を知っている様にも思える。案の定だ、段々息が上がって来たぞ。それ! もう少しの辛
抱だ!」
 目にも留まらないスピードで男は攻撃したがチャーリーは決定的なダメージを受けない程度に必死になっ
て逃げ回った。数分後、明らかに男のスピードが落ちて来た。

「そりゃっ!」
「ガシッ!」
 初めてチャーリーが反撃した。男のスピードはかなり落ちて、チャーリーの攻撃をかわし切れなかった。
何時もだったら、ここいら辺りで畳み掛けて攻撃するのだが、今は慎重だった。

『下手に攻撃して、生身の部分にパンチが当たったら、命に関わる。手加減して攻撃しよう』
「はりゃっ!」
 気合の一撃は見事に男の腹部に決ったのである。
「ドスッ!」
 その攻撃は相当身に応えたらしく、男は顔をしかめてその場にうずくまった。

「ボスッ!」
「ボスッ!」
「畜生やりやがったな!」
 男の手下の五人は一斉に銃を取り出した。

「ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ!」
 続け様に八回位のパンチの音がした。一秒ほどしか経っていなかったが、手下の五人はほぼ全員が顎の
骨を砕かれて悶絶していたのである。
 更に何発かは偽チャーリーの顔面や腹部にお見舞いされたのだった。男の体力が回復して来ていたので、
再び弱らせる目的があった。

「救急車の手配をお願いします。ああ、この偽チャーリーには私も付き添いますから。この青年のパワーは
本物のようですからね、途中で暴れられたら手に負えませんから」
 十分ほどで救急車がやって来て、倒れている偽チャーリーとその仲間達を運び出したのである。チャーリー
は偽チャーリーの救急車に乗り込んで、見張りをする事にした。
 行き先は近くの総合病院である。当面悪さが出来ないのは、顎の骨を砕かれた偽チャーリーの手下らし
いごつい男達であるが、ボスの青年は重傷なのか、軽傷だが痛みで参っているだけなのかはっきり分から
ないので、チャーリーが暫く付き添う事にした。ハルクと正美は警察関係者と共に病院に向うことになった。

「ああ、あばら骨が折れているみたいですよ、二、三本ね」
 救急車の中で救急隊員が言った。
「ふむ、分かりました。ただこの男のパワーは尋常じゃありませんからね。用心した方が良い」
 チャーリーは救急隊員にそう言って注意を促した。

「はい、えっと、偽のチャーリー・クラストファーですよね?」
 隊員の一人が何の気なしに、そう言った。
「ああ、確かに俺は偽物だ。悪いがこちらのチャーリー・クラストファーさんと二人だけで話がある。少し離れ
てくれないか。まあ、救急車の中じゃ、余り遠くには行けないけどね」
 少し前の偽チャーリーとは打って変わった弱々しい態度だった。

「了解しました。我々は患者さんの要望に出来るだけ応える義務を負っている。じゃ、その、チャ、チャー
リー・クラストファーさん、あの、宜しくお願いします」
 隊員の一人は相当に緊張した面持ちで言った。

「あ、あの、テレビで見ました。も、物凄いことをしますね。はははは、私は貴方のファンなんですよ。あ、
後でサインお願いします。じゃあ、また後で」
 もう一人の隊員はチャーリーにサインさえ要求して去った。と言っても二メートルほど前に行っただけであ
る。それでも一応チャーリーと偽チャーリーとは一対一で話せる様な感じになった。

「はははは、ざまは無いですね。滑稽でしょう? 所詮はお金持ちのボンボンのお遊びに過ぎなかった。ど
うぞ笑って下さい」
 青年は思いっ切り自分を卑下したのだった。

「余り話をしない方が良い。傷に障りさわりますよ」
「はははは、大丈夫ですよ。しかし、どうして部分的なサイボーグだと見破れたんですか?」
「呼吸をしているからですよ、如何にも自然に。それに少しですがワインを飲んだでしょう?」
「ああ、あんたは違うのか?」
「はい。呼吸は見せ掛けだし、最初からワインを飲む事は出来なかった。ワインばかりじゃなくて飲み食い
出来る様になったのは、サイボーグになってから何年も後の事ですよ。
 貴方がサイボーグになったのは最近なんでしょう? それにしてもパワーとスピードには驚きましたよ。
腕と脚が生身の人間とは違うのかな?」
 男はもう暴れることは無さそうだと感じて、チャーリーは優しく言った。

「良く分かりますね、さすがはチャーリー・クラストファーさんだ。私はボブと言います。ボブ・ディラス。ディラ
ス家と言えば一応アメリカではトップクラスの大富豪なんですよ。
 私はそこのバカ息子。バイクをぶっ飛ばしている最中に転倒して大怪我。両手両足が駄目になって切断
したんですよ。
 自業自得でした。後部座席に乗せた俺の彼女の一人は即死でした。気の毒な事をしました。そんな事が
あってからもう十年になります。
 金持ちは色々な情報を手に入れるのが、一般庶民よりも速いんです。十年位前から俺は、その、私は
、いや、私ばかりではなく、我が一族はサイボーグの存在を知っておりました」
「ほ、ほう、そんなに前から」
 チャーリーはかなり驚いた。十年前と言えばサイボーグになってからそう年数は経っていない。

「そこで、我が一族は、と言うよりも私自身がせめて両手両足だけでもサイボーグ化出来ないかと思った
のですよ。
 ただ、そのスタッフが中々集められなかった。その方面の研究者はアメリカには余り居なかったからです。
それでも諦めずに、莫大な資金を注ぎ込んで何とかなったのは数年前のことでした。
 その後改良に改良を加えて、とうとう超人的な能力を身に付ける所まで来たのです。そして最近の貴方
の活躍。
 私は貴方に成り代わりたいと思った。貴方の名声も何もかもを自分の手中に収めたいと思ったのです。
しかしその為には貴方が邪魔だった」
「私が邪魔?」
 チャーリーには段々ボブの言う意味が飲み込めて来ていた。

「はい。そこで私は、正確に言うと私の両親は貴方の抹殺を命じたのです。SWX教団の幹部の一人なの
ですよ、父はね。それと母もね。
 ただ、念の為に言っておきます。私はSWX教団員ではありません。私は教団員にはなれないのですよ、
絶対にね」
「えっと、それはどういうことですか?」
「はははは、私が両親の子では無いからです。私は父が黒人女性と戯れで作ったカスの様な子供なので
すよ。黒人の血を受け継いでいる者は如何なる理由があってもSWX教団にはなれないのです。
 それでも不幸中の幸いと言う奴で、私は皮膚の色が白い。それ幸いと両親の子として育てられました。
彼らには他に子供がありません。母は、育ての母は子供を作れない体だったのですよ」
 ボブは衝撃的な事実を話し始めたのだった。

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