夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「ふーむ、それでどうなったのかな?」
「十五の年になって私は事実を知りました。両親との血液型の不一致です。まあ、良くあるパターンですよ
ね。それでお決まりの転落が始まった訳です。
 随分酷い事をして来ました。それから数年後にさっき言ったバイクの事故。いっその事死ねば良かったん
ですが、不幸にも生き残った。
 それから色々あって、俺は凄いパワーを身に着けました。顔も少し整形して、貴方に似た顔にして貰った
んですよ。少しは似ているでしょう?」
「なるほど、確かに似ていると言えばそう思えなくも無いね。まあ、そっくりと言うのには程遠いと思えるけど
ね」
 チャーリーは正直に言った。簡単に言えば何処と無く似ている位だろう。

「本当はもし俺が自分の生い立ちに気が付かなければ、今頃はSWX教団の若きエースとか言われていた
のでしょうけど、両親はそれを望んだのだけど、俺は嫌だった。
 俺の方から断って、そして荒れ狂った。何人も殺していますよ。レイプもやった。しかしその都度両親は
お金で処理した。
 それがまた俺には耐えられない事だった。その後、バイク事故の後、俺は少し考え方を変えた。普通の
義手や義足では俺のプライドが許さなかったんですよ。
 えへへへへ、世間で誉めそやされている、大黄河夕一郎とかチャーリー・クラストファー並になりたいと
思った。
 しかしその内に、あんたを超えようと思ったのさ。俺がナンバーワンになるのさ。それっ! 捕まえたぞ!
あはははは、油断しましたね!」
 しんみり話していたのでチャーリーは確かに気を許していた。

「そりゃ、そりゃ! どうです、腕の骨が折れちゃいますよ! えへへへへ!」
 ボブは改心した様子から一変して、悪党の面構えに変った。笑いながらチャーリーの右腕を掴むと今度
は右手の拳で凄いパンチの嵐である。

「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、……」
 指輪型のパワーナックルがチャーリーの顔に容赦なく浴びせられた。
「オイッ! 止めろ!」
 救急隊員達は止めに入ろうとしたが、
「ああ、私なら大丈夫ですから、危険ですからこっちへは来ないで下さい」
 チャーリーは左手でストップの意思表示をした。

「しかし、顔が血だらけです!」
 救急隊員の一人が思い余ってそう叫んだのだった。
「いいえ、全然平気なんですよ。私は人間ではありません。サイボーグですからね。ボブ君、どうした? 
ちっとも痛くないぞ。この血は偽物なんですよ。もっと力を入れて殴れよ。さあ、どうした?」
 顔中血だらけになりながら、チャーリーは殆ど口を動かさずにそう言ったのである。

「バチッ!」
 何かが切れた音がした。
「うあっ! く、くそう!」
 ボブのしていた指輪型のパワーナックルが切れて何処かへ飛んで行ってしまったのだった。その為にま
ともに拳がチャーリーの顔を殴ったから堪らない。機械仕掛けの彼の拳は簡単に潰れてしまったのである。

「腕の骨を握り潰すんじゃないのかね? 随分驚いているようだね。何処から声が出て来ていると思ってい
るんだろう?」
「うぐぐぐぐ、う、煩い!」
 チャーリーの顔は皮膚が破れて数十パーセント位骨が露出していた。普通だったら、気絶している事は
勿論、命すら危ない状態である。
 それが平然と話をしているのだから当事者ばかりではなく、側で見ていた救急隊員すら、恐怖で身の縮
む思いをしていた。

「ううううっ! お、俺の負けだ。さあ、殺すなり何なり好きにしろ!」
 どうにもならないと知って、ボブはとうとう諦めた。右手の拳が潰れて、更に手首の関節まで壊れて、手
の指も含めて手首から先が全く動かない状態になっていた。
 しかもその一帯がかなりの量の血しぶきで凄惨極まりなかった。普通だったら直視出来ないレベルであ
る。その様な状況を何度も経験している二人の救急隊員だったが、目の前での惨状に、二人とも嘔吐を
催して、ついに吐き出してしまったのである。

「ああ、申し訳ない。ふふ、ボブ君、それでも君はまだ幸せだよ。こうして生きているんだし、それに両親に
愛されている。
 本来だったら、SWX教の教義から君は抹殺されていた筈だよね。しかしご両親はそうはしなかった。自
分達が頑なに信じている宗教の教義すら超えた愛を持っていたんだよ。
 だから君の言う事を何でも聞いたし、どんな罪からも君をかばい通そうとした。それでも両親には絶対に
感謝したくないだろうけど、でも、君の両親の君に対する愛情は本物だと思うけどね。
 ああ、そろそろ到着だ。君の胸は、君の心臓は生身の人間の様だね。でもね、俺は君には死んで欲しく
なかったんですよ。部分的にとは言っても、同じサイボーグとして生きていて欲しいんですよ」
 救急車が病院に到着すると、ボブもチャーリーも治療室に入ったが、チャーリーの方が重傷だと言う事
になって、サイボーグだから平気だと言う説明に、悪戦苦闘したのだった。

「あはははは、まあ、チャーリー、凄い包帯ね。まるでミイラ男だわ」
 一応病院の個室に入って、ベットの上に座っているチャーリーの姿を見て正美は遠慮なく笑った。
「しかし、彼はボブ・ディラスだったんですね。まあ、ボブの名前までは知りませんでしたが、ディラス家と言
えばアメリカ合衆国で知らないものは居ませんよ。
 それにしてもあのパワーはマジックなんかじゃなかったんですね。そうすると、ケビン警部の臆病とも思
える態度は正に正解だったんですね」
 ハルクは感嘆して言った。

「まあ、そういうことです。彼の態度は映画のヒーローにはなり得ないものだと思いますが、彼の様な男こ
そ真のヒーローだと思います。
 直ぐ目の前に山の頂上があっても、引き返す事の出来る、強靭な精神力。多くの人にバッシングされる
事を覚悟の行動。まあ、私は彼を高く評価しますね。そうしなかったら、功を焦って、彼を自分達で捕まえ
ようとしていたら、数十人、場合によっては数百人の犠牲者が出たと思いますよ。
 何しろ私のこの顔面をここまでにしたのですからね。少し切れた事はあっても、こんなにボコボコにされ
たのは初めてですからね」
 チャーリーは顔を軽く擦りながら言った。

「もう、真の勇者だのと言ってないで、チャーリー、少しは自分の身を大事にしてよね。どうして好きな様に
殴らせていたのかしら? 何とでも出来たでしょう?」
 正美は大いに不満だった。

「うーん、彼を改心させたかった。それとあの場面で彼の例えば胸を殴ったら、彼は死ぬかも知れなかった。
あばら骨が折れていて危険だったしね。
 他の部位、と言っても顔面位しかなかったのですけど、あの減らず口を黙らせる為には、相当の一撃で
無いと、収まらないでしょうしね。
 そうなったらやっぱり命に関わる危険があります。でもね、本当の事を言うと、彼の指輪、まあ、指輪型の
パワーナックルとか言う奴だったけど、最初の一撃を顔面に受けて、これだったら好きに殴らせても大丈
夫だと判断したからなんですよ。
 もし予想通りのスーパーハイテク超合金クラスだったら、顔面の骨格に傷が付く恐れがありましたから、
その場合は一発殴って眠らせる積りだったのですよ。死ぬ恐れもあるけどそれは正当防衛ということで了承
して貰うしかないでしょう」
「へえ、そこまで考えるのに何秒掛ったの? 一秒位?」
「まあ、一発目の直後、瞬間的にだから、コンマ一秒程度かな」
 そんな話を暫く続けてから、病院側の好意と警察からの要請とで、一晩だけ病院に泊まれることになった。

 次の日には三人はサンフランシスコの偽者退治に向かったのである。専ら警察関係者に車で送って貰っ
ての、偽者退治だった。
 手こずったのはロスのボブだけであった。五日後のお昼頃には、三人はロサンゼルス国際空港から今
回もまたスーパージャンボ1000に乗ってオーランド国際空港に戻る事になったのである。

「しかしあれね、本当に凄かったのは、ロスのボブ・ディラスだけで、後は皆マジックだったわね。ちょっと
拍子抜けね。何かつまらないわ」
 四、五人の偽物を退治して、三人は意気揚々と帰る事になったが、飛行機の中で正美は恐ろしい事を
言い出し掛けていた。

「拍子抜けの方が良いよ。皆がボブクラスだったら、今頃私は全身包帯だらけの、それこそすっかりミイラ
男になってのお帰りになる。それだけは勘弁して欲しいね」
「はははは、そういう姿も何だか面白そうですね。今でも十分ミイラ男ですが。何しろ顔中包帯なんですか
らね、はははは」
 ハルクは殆ど笑い転げていたが、
「でも私は笑えないわ。西海岸に来てから五日間、誰かさんとはキスも何も無いんですからね。何かこう
イライラするわね。
 そうねえ、オークランド空港に着いたら、帰りの車は私が運転するわ。ねえ、ハルク、良いでしょう? こ
こ暫く車の運転から遠ざかっていたから、折角の免許にカビが生えちゃうわよ。良いでしょう、チャー、その、
サンダーさん」
 真顔で正美はそう言ったのである。

「えっ、それは、そのちょっと拙いですよ。ああ、じゃあ、空港から、スーパーハイウェイの入り口までにしま
しょうよ。運転に不慣れな人は、ハイウェイは無理ですから。そうですよね、えっと、サンダーさん」
 ハルクは青くなってチャーリーに同意を求めたのだった。

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