夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「そうですね、今イラストをお目に掛けますが、御覧の様に地球とその『ニューアメリカ』とは、当然ながら大
きく軌道が異なります。
 地球は太陽の周りをほぼ円形に回っています。まあ、厳密に言えば円に近い楕円形なのですが、今は
割愛させて頂きます。
 『ニューアメリカ』の方は細長い楕円軌道を取っています。それが地球とこの様に交差するのですが、
今現在殆どの天文学者が地上すれすれを通るだろうと予測しています。
 それでそれを避ける為には、その『ニューアメリカ』の軌道を少し変えてやれば良い訳ですが、問題な
のは最小の爆発で最大の効果をあげることです。
 しかしもう一つあります。それはより確実な手段を取るという事です。これは野球に例えられます。今
ピッチャーが投げたボールが小惑星の方だとしましょう。
 これに小さなピンポン玉をぶつけて軌道を変えるようなものです。しかも大きく変える必要があります。
勿論早ければ早いほど良かったのですが、そう単純には行きません。
 何故なら、早い段階では軌道が地球と交錯するかどうかが分からないからです。仮に交錯しそうだとし
ても正確に分からなければ、何処へピンポン玉をぶつければ良いか分かりません。下手をするとかえって
危険な方向に動いてしまいます」
「なるほど、ボールになりそうな玉を、下手に途中でいじれば、ストライクにしてしまう恐れもあるということ
ですね?」
 やや分かり難い教授の言葉を司会者は噛み砕いて説明した。

「ええ、その通りです。しかし今は今年の末頃に地球と交錯する事がほぼ確定的だと言って良いでしょう」
「あのう、その件に関してなのですが、具体的に何月何日何時何分なのですか? それと場所も知りたい
のですがねえ」
 司会者は核心に迫った。

「それはお話出来ません。国際的な取り決めがあって、具体的な日時は言わない約束になっています。先
ほども言いましたが、その日は実際には来ないのです。
 ですからその日が来る事を具体的に話す訳には参りません。具体的に言えばパニックになったりして、
収拾が付かなくなる恐れがあるからです。
 もう一度おさらいしますが、仮にその時が来たとしたら、全地球規模での壊滅が起きます。何処に居て
も殆ど同じことになります。日時や場所を特定して、いたずらに混乱を引き起こすことは得策ではないで
しょう。お分かりでしょうか?」
「あああ、申し訳御座いません。局に対する電話の大半が日時と場所に関してだと、ディレクターの方か
ら連絡が入りまして、つい聞いてみましたが、ちょっと拙い事でしたね。
 えーっ、テレビを御覧の皆様、今お話した通り、具体的な日時と場所はお教え出来ませんので、どうか
その点はご容赦下さい。
 ああ、それで一つだけお聞きしますが、誰かがその取り決めを破って、詳しい情報を伝えてしまったらど
うするのでしょうか?」
 司会者は有り勝ちな場面を想定したのだった。

「その場合は、先ず情報は根拠の無い出鱈目だと言って、我々関係者が一様に批判する事になってい
ます。それと、その情報の提供者は厳しく罰せられます。
 その情報によってパニックが起り死者が出た場合には、殺人罪が、怪我人が出た場合には傷害罪が
適用される事に国際法の特例措置で決っています。
 それと共に経済的な損失も、その補償金を要求される事となるのです。莫大な金額になる事が予想され
ますから、一生を棒に振ることになるでしょうね。それでもやる人があるかどうか。今の所は無いようです
が」
「へえ、そりゃ大損だ。皆様お聞きの通りですので、知っていてもけっしてお話しない様にして下さい。とこ
ろでXデーの後には発表しても宜しいんでしょう?」
「はい。Xデーは年内ですので、来年になったら幾ら発表してもお咎めはありませんから、そこはご自由に
なさって下さい」
 注意事項を言い終わって教授は何かホッとした様子だった。

「それでは先ほどの続きをどうぞ」
「ええと、再び野球の例をとりましょう。ボールが今はかなりキャッチャーミットに近づいて来ているとします。
キャッチャーミットに絶対に入れない様にするにはどうすれば良いのでしょうか?」
「バットでホームランを打つ!」
 司会者は冗談交じりにそう言った。

「その通りなんです」
「ええっ! まさか、今のは冗談の積りだったのですが?」
 司会者は驚いて聞き返した。
「勿論弾き飛ばす事は出来ません。バットの様に太い棒ではなく、細い棒しかないものとします。『ニューア
メリカ』を弾き飛ばすほどのパワーは有り得ませんが、細い棒位ならあるとするのです。
 アメリカが用意している数メガトンの核爆弾は勢いよく飛んで来る小惑星に対しての細い棒に匹敵します。
全力で振りぬいてもホームランにはなりませんが、ストライクではなく、ボールにする事は出来ます」
「その、どうすれば宜しいんですか?」
 司会者は少しじれったそうに聞いた。教授が中々肝心なことを言わないのでじれったくなったのである。

「少し位の軌道修正では実はもう間に合わないのです」
「えええっ! それじゃあ大変だ」
「さっき言ったホームランが実は正解に近いのですよ」
「はあ? と言いますと?」
 司会者は狐に摘まれた様な顔になった。

「つまりボールの芯を捉えて打つことです。そうする事によって弾き飛ばせないまでも下に落とすことが出
来る。それを実際にやるとすると、小惑星の進行方向のまん前で核を爆発させる事です。
 ただし正確さが必要です。それこそピンホール張りの正確さが必要なのですよ。お分かりになりましたで
しょうか?」
「ははあ、成る程、芯を撃つのですね。だったら割合簡単ではありませんか?」
「どうしてですか?」
 今度は教授が不思議そうに聞いた。

「だってそうでしょう、『ニューアメリカ』のど真ん中目掛けて核を撃ち込めば良いのですから」
「ああ、そういうお考えですか。しかしそれでは多数の破片が出ますよ。先程は言いませんでしたが、世界
中の核兵器を使って小惑星ごと吹飛ばす案が何故最後の手段かをね」
「そう言われればそうでした。何故なんですか?」
「それは簡単なこと。膨大な量の岩石の破片が出て、将来の宇宙航行に禍根を残すことになるからです。
現在宇宙空間のゴミが次第に大きな問題になって来ています。
 秒速十キロ前後で飛ぶロケットにとっては、たとえ小さなボルト一個でも危険な凶器になるのですよ。ロ
ケットを貫通してしまいますからね」
「えっ! 貫通するんですか?」
「はい。貫通します。勿論中の人間もね。地球の周りでさえその様な状況ですから、まして沢山の岩石の
破片に太陽系の中を動き回られたら、将来の宇宙への進行は不可能になってしまいますよ」
「なるほどねえ。だったらどうするのですか? ああ、その前にコマーシャル!」
 話が煮詰まって来た所でコマーシャルタイムになった。もう放映時間が残り少ないので、司会者を始めと
する局の関係者はかなり気を揉んでいた。肝心の事を言う前に番組終了では非難ごうごうになる恐れが
あった。

「さあ、残り五分、気合を入れて行きましょう!」
 司会者はあえて残り時間を言って、教授に肝心なことを早く言うようにそれと無く催促したのだった。
「はいはい。先ほどの続きになりますが、核爆発は『ニューアメリカ』の進行方向の直前数秒前ほどの位置
に限ります。
 遠過ぎても近過ぎても駄目です。これが非常に難しいのですよ。一言で言えば、二の矢が使えません。
どうしてかと言えば、一度目がたとえ失敗だったとしても、恐らくは多少の軌道変更が行われた筈です。
 とすれば、その軌道をもう一度正確に測定し直す事が必要になる。しかし仮に計算出来たとしても、地
球により近いのですから、より多くの核が必要になります。そうなったら最早『ニューアメリカ』も無傷では
済みますまい。
 その結果として、粉砕するより方法が無くなってしまうのです。つまり一発で決めるしか方法が無いので
すよ。お分かりでしょうか?」
「なるほど、良く分かりました。ですが、その一発で決める方法があるのですか? ピンホールクラスの正
確さが必要なのでしょう? 技術的に不可能なのではありませんか?」
 司会者も少し分かって来た様である。

「ところがあるのです。しかしそれは極秘情報です。ですが、皆様にちょっとだけお教えしておきましょう」
「はい、是非お願いします」
「ケッペルスターというスペースプレーンをご存知でしょう?」
「ええ、詳しくはありませんが一応知っています」
「近々最新型が公表される筈なのですが、ああ、済みません、今行った事は聞かなかったことにして下さい。
ええと、その、極秘情報ですので、これ以上は言えません。済みませんつい口が滑りました。ああ、その、
コマーシャルはまだですか?」
「いや、そのそれはあと、三分ほど御座いますが、……」
 司会者も言葉に窮した。

「そうそう、今思い出しましたが、シュナイダー博士が現在、宇宙に居る事はご存知でしたか?」
 教授は切羽詰って関連の別口の話しに持って行こうとした。
「いや、それははっきりとは。そうなんですか?」
「はい。実はこれも秘密ではありますが、極秘と言う程の事ではありませんので、お話しても宜しいと思い
ます。
 今回の小惑星の軌道の変更の最高責任者は彼なのでして、ですからシュナイダー計画と言うのですが、
彼の指揮によって、アメリカ軍、特に空軍が動いています。
 あああ、申し訳ない。今言った事も極秘でしたね。困りましたねえ。そろそろコマーシャルじゃないんです
か?」
 教授は何かと口が滑ってしまって、早くコマーシャルにならないかとそればかり考えていたのだった。

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