夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「まだ後二分ありますよ。ここで締め括りのお話を頂けると嬉しいのですが」
司会者は何とか話を止めない様に、教授に促したのである。
「そ、そうですね。もうこうなったらあれですね、多少暴露しちゃいましょう。その、今度のケッペルスター、
ニューケッペルスターは無人機と聞いております。
しかも、宇宙で燃料を補給する。今まで宇宙で燃料を補給した事は一度もありませんでした。今回初めて
燃料の補給という離れ業を実行する予定なのですよ。
簡単に思うかも知れませんが、地上や空中に比べると桁違いに難しいのです。例えば地上でガソリンを入
れる時には、或いは空中でもそうなのですが、一滴位漏れても大したことはありません。
しかし宇宙では認められません。ご承知と思いますが、宇宙空間では太陽の光が当たった場所と日陰の
場所とは極端に温度差があります。
その一方で燃料は大抵爆発的に燃える物が多い。たった一滴の燃料でも宇宙空間では爆発する危険性
があり、周囲にあるロケットや人員に大きな影響を及ぼす恐れがあります。
従って一滴も零さない技術が必要になるのです。今までそのようなことが一度も行われた事が無いのは、
その為だったのです。
その問題点をシュナイダー博士が解決して、今宇宙でニュータイプのケッペルスターの到着を待っている
のですよ」
「へえーっ! これはスクープですよ! いや、最後に素晴しいお話を聞けました。教授、今日は本当に有
り難う御座いました!」
「いや、はははは、これで私は教授職を棒に振ったでしょうよ」
ガックリと肩を落とす教授の顔をアップにして放送は終了したのだった。
その局の放送の視聴率は局としては最高記録の50.7パーセントを記録したのである。後日、教授は自
ら言った通り、解職されたのだった。
幸いにも、一般的に好感を持って受け入れられて、今では、出演した放送局の科学系のコメンテーター
として活躍している様である。
『おかしい、何か変だぞ。これは夢か? いや、俺は覚醒している。かなりのGが掛っている。あれ、今度は
少し違う状態になった。何だ、このフワフワする気持ちの悪い感触は?』
昇は近頃、以前には全く感じたことの無い状態に戸惑っていた。
『これって無重量状態? どうしてだ? 俺は雑種の男に生まれ変わるのじゃなかったのか? ううむ、無
重量状態が長い。
もう間違いない。俺は宇宙に来ているぞ! ああ、目が見えて来た。音も聞こえる。それにしてもいきなり
宇宙かよ!』
昇は怒りを感じた。しかし何も出来なかった。手足が無いようなのだ。
「お早うメサイヤ君。驚かせて済まなかった」
「ああ、シュナイダー博士。お久し振りですね。しかしこれはどういうことですか?」
「はははは、怒っているだろうね」
「当然ですよ。何もかも聞いていた話と違う!」
「こんな事は余り言いたくは無いが、人質を取っている。申し訳ないが彼女、つまり林果さんとその子息の
昇一君は我々の監視下にある。
勿論、彼等に危害を加える気は無い。たとえ君が我々の要求に応じなくても、彼等をどうこうする積りは
無い。
ただ君にお願いがあるのだよ。なるべく聞いて貰いたいのだがね。まあ、理不尽だと怒る気持も分かるが、
どうにもならなくてね。前にも言った事があったかと思うが、人質は周囲の説得用だ」
博士は冷静な言い方をした。昇の行動パターンを良く心得ているのだ。結局昇は正義の人なのだという
事をしっかりと認識していたのである。
「ああ、そうですか。それで、メサイヤというのは?」
「なあに、君の新しい名前だよ。ギリシャ語だったらキリストということになる」
「はははは、神の存在を全く信じない私に最も相応しくない名前ですね。いっその事、元々の名前の昇を英
語読みにして、その、朝日が昇るという意味にして、サンライズというのはどうです?」
昇は半ばやけくそで言った。
「OK! そういう言葉を、君自身が自分の名前を言うのを待っていたのさ。しかしサンライズじゃ芸が無さ
過ぎるよ。いっその事『サムライ』ならどうかね? 私は好きだがね」
「ああ、まあ、どうでも良いですよ」
「はははは、じゃあ、君のニューネームは『サムライ』に決定!」
博士は何時になくはしゃいでいた。
「何がそんなに愉快なんですか? こっちは手も足も、女性を喜ばせる、アレも付いていないんですよ。そ
れに顔は何処にあるんです?」
「まあ、そんなに焦らないで聞いてくれたまえ。君の体について、これからじっくりとお話しようと思っている
ところだからね」
博士はいたってのんびりムードだった。大きな山を一つ超えたので安堵しているのだろう。
「じっくりとですか。しかしあれですね。空腹になりませんし、尿意や便意も催しませんが?」
「申し訳ない。今回はカットさせて貰った。その代わり、セックスだけは可能にした。ただし、機械の舌、ロ
ボットの舌で君のアレを嘗め回すだけだがね。
その位でご容赦してくれないか? まあ、ノーと言っても今更どうにもならないけどね。私達もロボットの
舌には随分とお世話になっている。
こんなことを言っては世の女性達に申し訳ないのだが、人間とは比較にならないほど良くてね。何しろ
こっちの要求を百パーセント聞いてくれる。
ああだこうだと文句を言わないし、その気になれば何時間でもやってくれるしね。使い方は後でじっくりと
研究してくれたまえ。
さて、本題に入ろう。もう目的は分かっていると思うが、君は小惑星『ニューアメリカ』の近くにまで行って、
核爆弾を炸裂させれば良いのだよ。
その為の勉強を三日ほどで終了して、四日後に実行だ。今までもかなり使っていたが、君の作業は全て
意識スイッチになる」
「ええと、肝心な事が分からないぞ。俺は何に乗って行くんだ? ケッペルスターか? それとも別のロケッ
トやひょっとしてスペースシャトルか?」
昇、いや、今度からはサムライである。サムライには博士の言葉がピンとは来ていなかったのだ。
「ああ、そうそう、言い忘れていたが、今君は、ニューケッペルスターそのものなんだよ。ちょっと言い難くて
ね。一応君の前のモニターテレビに君の全容を映し出して見せよう」
博士が言うと、畳一枚位の大型モニターに自分の姿が移っていた。
「あああ、とうとう俺は機械に成り下がったか。はははは、まあ、何時かはこうなる事は覚悟していましたか
ら別に良いですけどね。
でも、随分大きな格納庫ですね。こんな物を良く短期間のうちに作れましたね。ずっと以前から作ってい
たのですか?」
サムライは自分が完璧な機械にされたことに一瞬は怒りを感じたが、直ぐ人質の存在を思い出して堪え
たのだった。
「なあに、簡単に組み立てただけだからね。機密性はゼロに近い。だからそこには生身の人間は宇宙服
無しでは行けないんだよ。
しかし簡単でも覆いがあれば太陽光の直射は避けられるし、高速で接近する宇宙のゴミからも身を守れ
るからね。
さて、それでは講義に移るが宜しいかね? ああ、その前に一休みするかね? そうそう、ロボットの愛
人について言っておくと、彼女も君の意識スイッチで呼び出すことが出来る。君から見て右後方にボックス
があり、普段はそこに格納されているからね。
ただ彼女の姿は余り見ない方が良いだろう。何しろすっかりロボットそのものでね。色気も何にも無いん
だよ」
博士はがっかりした感じで言った。
「はははは、見るなと言われると尚更見たくなりますよ。でも、そんなに殺風景じゃ、アレが萎れてしまいま
すよ。大丈夫なんですか?」
「ふふふふ、それは大丈夫。上手く飼い慣らせば最上のエッチが楽しめる。そっちを先にしてみるかね?
私は急がないよ」
博士は余裕を見せた。
「いいえ、勉強を優先にして下さい。いやあ、勉学意欲に燃えるなあ」
サムライは皮肉った。
「私をそんなに苛(いじ)めないでくれたまえ。……それじゃあ、始めましょう。テキストはモニター画面に出
るからそれを使えば良い。
それから筆記用具は無いから、サムライは意識スイッチを使って画面を切り替えて記入すれば良い。さあ
やってみようか」
はたから見ると実に奇妙な光景だった。教える側は普通でも、教わる側は何しろスペースプレーンなの
だから。
博士との言葉のやり取りも、殆どが意識スイッチを使っている。意識スイッチは大幅に改良され、大して
苦も無く、サムライは講義を受け続けたのだった。
「それでは今日はこの位にしておきましょう。続きはまた明日。グッド・ラック!」
博士は講義に疲れただろうに陽気にその場を去ったのである。ただその陽気さは何か無理していたの
かも知れなかった。
『ふぁーあ、何か疲れたな。えっと、ロボットの愛人を呼び出すか? いや、それは後で良い。今は疲れたか
ら一眠りしよう』
サムライには博士の言った、色気も何も無いロボットという言い方が、酷く気に掛ったのである。
『色気も何にも無い? ああ、駄目だ、眠くてしょうがない。先ずは眠ろう』
ロボットの愛人の舌技に多少の期待感はあったが、実際眠くて仕方が無かったのである。