夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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『ふぁーっ! ああ、良く寝たな。そうだ、今日は何月何日なんだ? さっきは怒りの感情を抑えるだけで精
一杯で他の事は考えられなかった。
その為だろうね、眠くて仕方が無かったのは。精神的疲労という奴だよね。博士も悪気があって人質を
取った訳じゃないだろうけど、取られた方は堪らんよ。
ううむ、兎に角、性欲が堪っている感じだ。一応男としての機能だけは残してくれた様だけど、しかし、こ
れってギャグマンガみたいだぞ。
はははは、傑作だよな、宇宙飛行機にペニスが付いているんだからね。あはははは、こりゃ大傑作だ!
く、く、く、く、駄目だ可笑しくて笑いが止らない! あっはははは……』
サムライは暫く笑い続けた。しかし何処にも声は漏れていない。意識スイッチはそれこそ意識によって切
られているので、音声は彼の心の中だけで響いている。
『はーっ! ああ、可笑しかった。やっと笑いの衝動が収まって来たよ。ああ、しかしサイボーグになりたて
の時の様に、空腹感は無いのに、何か食欲の衝動らしきものを感じる。
仕方が無い、気を紛らわす為にも、エッチロボットとかいう奴のお世話になりますか。ああ、しかし何か
判然としないねえ』
大いに疑問を感じながらも、他にする事も無いので、凄い舌技を持つとかいうロボットを意識スイッチで
呼び出すことにした。
「オヨビデゴザイマスカ、ゴシュジンサマ」
一応女性の声である。しかし余り滑らかとは言えない。ただ自分が日本人である事が知られている様で
ちゃんと日本語だったことに驚いた。
「あ、ああ、その、口でエッチしてくれ」
「ショウチイタシマシタ。シュナイダーハカセカラ、オキキトオモイマスガ、イッタイカシマス。ヨロシイデショウ
カ?」
「ええっ! 一体化? 何も聞いていないぞ!」
「モウシワケゴザイマセン。キイテイテモイナクテモ、イッタイカシマス。クルシクハゴザイマセンノデ、ホンノ
スコシダケオジカンヲクダサイ」
「いやだ、止めろ!」
サムライはテレビのモニターに姿を映し出してみた。右後方から来るらしいセックスロボットの姿を直接は
見れないのだ。
『うわっ! 何だこいつは!』
それは一言で言えば、機械で出来た直径五十センチ位のクモの様なものだった。無重量状態なのでそ
のままでは上手く目的地には辿り着けない。
その為なのか、如何にも虫らしく、ボックスから抜け出したそのクモみたいな奴は、格納庫の内壁を這い
ずり回りながら、徐々にニューケッペルスターに近寄って来たのである。
『気、気持ちが悪い! 来るな! 来るな!』
自分のうろたえ振りを知られたくなくて、サムライは心の中で必死になって拒否し続けた。しかし、自分自
身は全く体を、ニューケッペルスターを動かせないのである。
その辺はさすがにシュナイダー博士、エンジン系統の意識スイッチは無効にしてあるようだった。この様
な場合を十分に予想していたのだろう。
『うわあっ! 車軸を這い登って来る。気、気色悪い! 博士、あんたも人が悪いよ、こんなのにあそこを
舐められるかと思うと、ぞっとするじゃないか! こんな事じゃあ、協力はしかねるぞ!』
サムライは半ば切れそうになっていた。気色の悪いクモみたいなのと合体するのだという。しかも事前に
何の予告も無い。
「ゴシュジンサマ、ヨウヤクタドリツキマシタ。コレカラガッタイシマス。ゴメイレイニハ、ヒャクパーセントシタ
ガイマスカラ、スエナガクカワイガッテクダサイマセ。ソレデハガッタイ!」
「や、止めろっ! 頼む、止めてくれっ!」
そのクモみたいなエッチロボットはサムライをご主人様と呼びながら、しかし一切の命令を無視して、強
引に合体したのである。
「ガシャンッ!!」
宇宙なので外からの音は聞こえないが、機械の作動した音は機体の振動として伝わって来る。
『うぎゃっ!! ううううっ、もう駄目かも知れない!!』
サムライはエッチロボットと称しているそのクモみたいなものに、ペニスを食い千切られる様な恐怖心を
感じたのだった。
『あれっ? 別に痛くも何とも無いぞ。ふーっ、どうやら噛み付かれる事は無さそうだな。はーっ、やれやれ』
サムライが安堵すると、丁度時間になったのか、大型画面に博士が現れた。
「さて、二日目の講義に入りましょう。お目覚めですよね?」
サムライの事情にお構いなく博士は講義を開始しようとしたのである。
「ちょっと、幾らなんでも酷いじゃないか!」
サムライは気持ち的には目を吊り上げて怒鳴った。その一瞬は人質の事を忘れた。
「おや、どうしたんですか? 何か不都合でも?」
博士は相変わらず暢気(のんき)である。
「どうかしたかだって! 俺はクモとエッチする気は無いし、特に合体だとか一体化だとかは一切聞いてい
ないぞ!」
「ああ、そうでした。忘れておりましたよ。しかしですねえ、明後日にはここを飛び立つのですよ。その後は
全くの孤独です。
ずっと以前にも言った様な気がしますが、帰還するのはかなり難しい。無論百パーセント、いや、九十九
パーセント帰還出来ると思いますが、行きは良い良い帰りは怖い。
そんな歌が日本にあったように思いますが、なんせ帰りは地球を追い掛ける事になるのですよ。行きは
数週間ですが、帰りは倍以上も掛る。
つまり一ヶ月以上を要するのですよ。その間、何で孤独を紛らわせるのです? 地上や宇宙であっても、
宇宙ステーションの中だったら、他に人もいるし、話も出来る。
だがサムライ、君は私としか話は出来ないのですよ。ここを旅立ってからはね。短い期間だったらそれも
良いでしょうが、長くなると女が恋しくなるでしょう?」
「はははは、女が恋しくなる事は確かだが、クモは遠慮したい。今からでも良いから女性の外観のロボット
に変更してくれないか?」
サムライは真面目に言ったのである。
「残念ながらそれは出来ない。君の姿はテレビカメラで写されて、全世界に放映されるのだよ。女風なもの
が乗っていたり、くっ付いていたのでは如何にも具合が悪い。
我々は何かと批判の種にされている。そんな時に女形のロボットがあったら、それだけで厳しい批判を被
るのは目に見えている。
私としては、君が無事帰還した暁には最後の手術をしようと考えている。より人間的なサイボーグになっ
て貰う積りなんです。もう二度と手術の要らない体になって貰う積りなんですよ。
ただその為には莫大なお金が掛る。ここで良い印象を全世界に与えておけば、寄付金だけで何とか手術
代を賄えられるだろう。
君はクモと言ったが正にその通りなのだ。誰もエッチロボットとは思うまい。勿論何らかの装置の様に見
えるようにしてあるし、君の陰部は一切見えないから安心してくれたまえ」
博士は自信満々に言った。
「ううむ、それならそうと、一言くらい言ってくれても良いと思いますがね。それだったら、俺だって拒否はし
ませんよ」
サムライはまだムカついている。
「はははは、いや、その、私も年だねえ。実は本当に忘れたのだよ。申し訳ない。何と言うのか、さすがに
クモ型とは言い難くてね、そうこうしている内に失念してしまった。
まあ、だから見ない方が良いと言ったんだがねえ。色気も何も無いって言っただろう? そう言っておけ
ば大体推測が付くと思っていたんですよ。いや、申し訳なかった」
博士は一応頭を下げて謝罪した。
「ま、まあ、仕方ないですね。で、今の所何も感じませんが、本当に気持が良いんですよね?」
サムライはちょっと博士の言葉を疑った。
「はははは、後で試してくれたまえ。今日はちょっと用事があるので、講義を急ぎたいのだが宜しいかな?」
「は、はい。じゃあ、行きましょう」
徐々にサムライの気持ちは収まって来ていた。
『忘れたというのは口実臭いけど、言い難かったのは本当だろう。後で試してみて、余り良くなかったら思
いっきり皮肉ってやろう。まあ、その位しか憂さの晴らしようが無いしね。だけどせめてアレだけでも何とか
なら無いのかな……』
サムライはクモとのエッチに全く期待感は無かったが、一つだけ注文をつけたい事があった。
「あのう、その前に一つだけ、注文したいのですが、良いでしょうか?」
「ああ、何でも言ってくれ給え」
「声ですよ。声がたどたどしくて、感じが実に悪い。これじゃあ気分が出ませんよ」
「おっと、それも忘れていたが、今現在、ソフトを送付している最中だ。見違える様な声になっているだろう
からそれも後で試してみれば分かる事だよ。他に何かあるかね?」
「いいえ、まあ、そんなところです」
「じゃあ、行こうか」
「はい」
サムライのクレームは一応は解消された。講義は五時間ほど続いて終了した。やはりどっと疲れが出る。
「さあ、これで講義そのものは終った。後は実戦練習だが、それは十時間後となる。思った通り、以前に
ケッペルスターの講義を受けていてくれて助かったよ。これだったらほぼ問題なくやれるだろう。
ああ、それから、出発直前、明後日の一応アメリカ東部時間で十月十日午前一時に最終の燃料の注
入があるからね、宜しく頼むよ。その時には他の連中も来て手伝う事になっているからね。もっとも、君は
エッチしていても良いよ。
むしろエッチしていて貰いたい。それが外部に一切漏れない事を確認したいのでね。お願い出来るかね。
無理にとは言えないがね」
博士は意外な事を言った。