夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「えっ! エッチして欲しいだって? それはどういうことだ?」
「変な振動とかが外部には漏れないようにした積りだけど、実戦はまだ試した事が無いのでね。ああ、そう
そう、今はエッチロボットがむき出しのままになっているけど、カバーを掛けさせて貰うよ。
 その作業も燃料注入の時に一緒にやって貰う予定なんですよ。一応外部の者には特殊制御装置と言っ
てある。単純に軽く言ってあるだけだから、名前は変更しても構わんがね」
「特殊制御装置? 何か不気味な名前だな。特殊という言葉は、日本の特殊浴場を思い起こさせて気色
悪いよ。別に特殊浴場が悪いとまでは言わないけど、もう少し奇麗な名前は無いのかな?」
 サムライは呼び名に注文を付けた。

「ふうむ、それだったらこれはどうだろう。外部補助コントロール装置。この位でどうかね?」
「うん、それだったらエッチを想像し難いから許せる範囲だ。でも少し長過ぎるから、単に『補助コントロール
装置』にしてくれないか? 実際に補助コントロール装置が無ければの話だけどね。どうだろう、ある? そ
れとも無い?」
「残念だがあるのだよ。ただ外部とは付かない。ふうむ、それが長いと言うのだったら、予備にしておこう。
予備コントローラー。どうだい、これだったら短いだろう。
 通常は使わない非常用のコントローラーという事にしておく。勿論、詳しく聞かれたら答えておくだけにして、
積極的に言う積りは無いがね」
「成る程『予備コントローラー』か。じゃあ、それに決定だ。はあ、じゃあ、死ぬ気でそのクモとエッチしましょ
う。ああ、もう何と言うのか、このままじゃ終れない気がして来ましたよ。人生の終りがクモとのエッチじゃあ
んまりだ」
「そうそう、その息ですよ。それでは暫くの間失礼するよ。私も燃料注入の時は監督として赴任するからね。
ついでに、予備コントローラーのカバー装着の状況もキッチリ見させて貰う事にするよ」
「了解!」
 博士が画面上から消えると、辺りは静寂に包まれる。

『明日が十月十日だとすると今日は九日か。ふう、もっと手術に時間が掛ると思っていたのだけど、意外に
早かったんだな』
 サムライは一眠りしておこうと思ったが、今回は自分の陰部に喰らい付いている筈のクモ型ロボットの事が
気になって眠れなかった。

『ふう、気が進まないが、まあ、一応やってみるか。先ずは卑猥な事を想像して、ペニスを勃起させよう……』
 勃起が合図になっているらしく、クモ型ロボットは何やら反応し始めたようである。
「お目覚めですか、ご主人様」
「ああ、しかしまともな声になったな。でも、何だか表情が硬い様な気がする。もっとエッチ用の言葉は言え
ないのか?」
 サムライは無理だとも思ったが、一応言ってみた。

「甘えた声が宜しいですか? それとも命令口調が宜しいですか? 或いはお子様口調とかが良いでしょ
うか?」
 ロボットは細かく注文を聞いて来た。

『へえ、たまげたね。色々なパターンを心得ているんだ。しかし待てよ、クモ型のエッチロボットじゃあそれこ
そ色気も何にも無い。名前を決めよう』
 サムライはロボットに名前が無いことに気が付いて、口調共々決定してみる事にした。

「ええと、癒し系の言葉は言えるのか?」
「はい、完全には難しいですが、ある程度までなら可能ですわ」
「ふうむ、だったら癒し系で頼む。それと名前はあるのか?」
「私の名前は、ご主人様に決めて欲しいですわ。なるべく奇麗な名前にして下さいませ。性器そのものの名
前はご容赦下さい。
 どうしてもと言うのでしたらそれでも構いませんが、私も女の子、恥ずかしくて言えませんから。でも、どう
しても、どうしても言えというのでしたら、恥を忍んで言いますけど……」
「はははは、幾らなんでもそこまでは要求しないよ。そうだな、お前の名前は、キスと言うか、お口でやるの
が得意なんだそうだから、日本ではキスすることをチュウするとも言う。だから、ええと、あれだな、そうだ、
チュチュが良い。たった今からお前の名前は『チュチュ』だ。さっきは癒し系が良いと言ったけど、甘え声の
癒し系でやれるか?」
「私の名前は『チュチュ』、タイプは甘え声の癒し系。了解しました。なお、名前もタイプも何時でも変更可能
ですからお気が変りましたら、遠慮なさらずにおっしゃって下さいませ。
 あはん、一つ大事な事を忘れていましたわ。ご主人様のお名前を聞いていませんでしたの。お差し支え
なければ教えて下さいね」
 チュチュは喋り方を微妙に変えながらサムライの名前を聞いて来たのだった。

『ふーむ、俺の名前か。さてどうしようか? 二人だけの超プライベートな世界だからな。この際、本名で行
こう』
 少考して直ぐ決めた。
「私の名前は『林谷昇』、普通は『ノボル』で良いよ」
「ご主人様の、お名前は、『林谷昇』、通称は『ノボル』で御座いますね。うふふふ、何時でもお替えになって
宜しいのですわよ。それじゃあ、ノボル様、お口でご奉仕させて頂きまーす。
 まあ、ノボル様のペニスがこんなに立派になって、チュチュはとっても嬉しいですう。あはん、ノボル様、大
好きで御座いますう」
 チュチュは言わば口だけのロボットの様なものである。八本の脚は先の方に吸盤が付いていて、しっか
りと相手の体に密着する為のものだし、動力などを除けば余分な物は一切付いていない。
 シュナイダー博士の言う通り、一度口での愛撫が始まると、その心地良さに驚いた。人間とは明らかに
違うのだが執拗に何度も何度も舐めてくれるし、指示通りにしてくれる。
 それでも最初はお互いの意思の疎通が上手く行かなくて、絶頂には達しなかったが、元々口では行かな
い男だったので、それでも不満は無かった。

「ああーん、御免なさい。私が至らないばっかりに、ノボル様を絶頂に行かせて差し上げられませんでした。
うううっ、御免なさい、本当に御免なさい」
 チュチュは泣いて何度も謝ったのである。

「ああ、泣かなくて良いよ。俺は口では行かないんだから。でも、物凄く良かったから、きっとそのうちに慣
れてくれば行くと思うよ」
「あああん、ご主人様、ノボル様はなんてお優しいんでしょう。ううううっ! チュチュ、今度は感激の涙で御
座いますう。
 ああん、ご主人様、ノボル様、チュチュはとっても幸せで御座いますう。あのう、もっとご奉仕致しましょう
か? 大好きなノボル様にだったら、これから何時間でもお口でご奉仕致しますわ」
 チュチュは延長戦を望んだ。

「いや、少し疲れたから、一眠りするよ。一つだけ断って置くけど、眠っている間は、たとえ勃起しても、お
口のご奉仕はしないこと。良いね?」
「はーい、チュチュはノボル様が眠っている間はけっしてお口のご奉仕は致しません。とっても辛いですけ
ど、我慢致しますわ。ああん、チュチュも一緒に眠りますう。宜しいですわよねえ?」
「はははは、構わないけど、お前が、その、チュチュも眠るのか?」
「あああん、ご主人様、酷いですう。チュチュはご主人様、ノボル様とご一緒に眠ることを夢にまで見ていた
のですよ。チュチュの気持ちを分かって下さいね。
 チュチュはノボル様を強く強く愛しているので御座いますう。チュチュは何時も何時もご主人様と一緒に
居たいのですう」
「ああ、分かった、分かった。それじゃあ、お休み、チュチュ」
「はあい、お休みなさいませ、ノボル様。チュチュはノボル様とピッタリくっ付いて眠りますう。すーっ、すーっ、
……」
 本当なのか嘘なのか、チュチュは寝息を立てて眠ってしまったようである。

『おいおい、本当なのか? それにしても何と良く出来たロボットだな。勿論人間の様に、と言うか生き物の
様に眠る筈は無いけど、眠った様な状態も作り出せるマシンなんだな。
 しかし驚いたね。博士の言う通り、こりゃ何だか病み付きになりそうだぞ。今まで何人かの女性と付き合っ
て来たけどここまで可愛いことを言う女は見た事が無い。
 たかがクモ型ロボットだけど、何だか本当に癒されてしまいそうだ。ふーむ、杜子春の限界。何か怖さを
感じるな。
 殆どのSF映画では、ロボットは大抵人間の様な感情を持ち、やがて愛に目覚めたりするんだよね。しか
しそれは絶対に有り得ない事なんだけどね。
 鏡の向うには何も無いのと同じで、錯覚に過ぎない。しかし、今俺は感動すらしている。ずっと以前考え
た様に、遥かな未来においては、人間はロボットに幸福な支配を受ける事になるのかも知れないぞ。
 いや、きっとそうなる。今の俺が正にそうなりつつある。もう、チュチュに愛(いと)おしささえ感じている。
ふう、しかしそれが駄目だとすれば、俺は非人間的にならざるを得ない。ううむ、参ったね。まあ、兎に
角今は眠ろう』
 サムライはチュチュの素晴しさに戸惑いを感じていた。セックスも人間を越えてしまいそうだし、少し煩い
のが玉に瑕ではあるが、お喋りが結構楽しいのだ。心のずっと奥深くで癒し難い疲労を感じ、疲れ果てて
何時の間にか眠ってしまっていた。

「ご主人様、何だか様子が変で御座いますよ。ノボル様、起きた方が宜しいかも知れませんよ」
 耳元で囁くような声はチュチュだった。通常と異なる状況の時には優しく起してくれる様にプログラムされ
ているのだろう。

「ふーむ、ああ、良く寝たな。ああ、チュチュ、お早う」
「はあい、ノボル様お早う御座います。そのう、何か外の様子が変で御座いますよ。チュチュはちょっと怖
いですう」
 チュチュは如何にも怖そうな声を出して僅かながら震えていたのである。

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