夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「おい、震えていては拙いぞ。死んだ振りをしろよ。今、燃料の注入に来たんだ。それと、お前の所に、カバー
が掛けられる事になっている。
 ああ、宇宙服を着た連中が二人やって来たぞ。一人がカバーを持っている。うーん、誰なのか、男か女か
も分からないな。
 兎に角動きを止めろ。静止していないと余計な疑いを持たれるかも知れない。どうして非常用の予備コン
トローラーが動いているのかと思われてしまうから拙いんだよ」
 サムライは結構必死になって言った。
「了解。意味は良く分かりませんが、死んだ振りをすれば良いのですね?」
「ああ、速攻でやってくれ」
「えっ? 速攻でやるって何ですか?」
 チュチュには日本語的表現は理解出来ないようである。

「訂正する。直ちに死んだ振りをせよ」
「イエス。死んだ振り、実行します。必要な時には声を掛けて下さい。直ぐ復活しますから」
「分かった」
 間一髪、宇宙遊泳しながら二人の宇宙飛行士が、チュチュの直ぐそばまで来た時に、やっと死んだ振り
が実行されたのである。

「あれ? 今この予備コントローラーが動いていなかったか?」
 若い男の声だった。
「いや、気が付かなかった。通常は動かないと聞いていたけどね。何だったら調べてみるか?」
 やはり若い男の声だった。どうやら宇宙飛行は初めての様である。宇宙服の場合、顔の部分は分厚い
アクリル系の樹脂で出来たスモークの掛った材質で出来ている。
 従って、お互いに相手の顔は見えないのである。スモークが掛っているのは勿論太陽光から皮膚や特に
目を保護する為である。

『調べるだって、おいおい、超拙いぞ。しかし詳しい性能などは聞かされていない筈だけどね。だけど、形が
如何にも変だからね。ああ、頼むから、さっさとカバーを掛けてあっちへ行ってくれないかね』
 サムライは気が気ではなかった。

「ああ、シュナイダーだが、カバーはしたかね?」
 突然画面に博士が現れて、カバー装着をそれと無く催促した。
「ああ、済みません。今直ぐ実行致しますから」
 カバーを持っている男は、やや慌ててカバーの装着に取り掛かった。装着はさして難しくは無い。ピッタリ
の形で何箇所かの留め金が付いている。
 バネが働いて、一度しっかり装着してしまえば、通常の方法では外せない様になっている。敢て外そうと
すれば、特別の工具が必要なのである。
 その工具はそこには無く、地上の施設に置いてあるのだ。従ってキッチリ装着すれば、仮に何か異常を
感知したとしても、カバーの取り外しは破壊する以外に無いのである。事実上は有り得ないことだと言って
良いだろう。

「ガッシャンッ!!」
 結構大きな音が伝わって来た。少し離れた場所の音は真空状態の為に全く聞こえて来ないのだが、何ら
かの物体と接続または接触していれば音はちゃんと聞こえて来る。
 むしろ周囲の音が全く聞こえて来ない分、かえって、様々な音が響いて来るのである。シュナイダー博士が
カバーの装着の必要性に気が付いたのは、宇宙に暫く居てからの事だったのだ。

 万一、むき出しのチュチュの体に触れた者が居たとすれば、それが性行為の真っ最中であれば、それら
しい音が聞かれてしまうのだ。
 博士は慌てて地上にカバー作りを命じ、今回スペースシャトルでやって来た連中に持って来させたのであ
る。

 スペースシャトルには大きな燃料タンクが積み込まれていた。既にそれはニューケッペルスターの格納
施設の真上に来ていて、そこからかなり長いホースが徐々に伸ばされて来ていた。
 燃料注入の支度に忙しい飛行士達にとって、何故小さなカバーが優先的になされなければならないのか、
大いに疑問だったのだ。

「今回のニューケッペルスターは絶対に失敗が許されない。従って予備のコントローラーも付けさせて貰っ
た。ただ、急いだ為にカバーまで気が回らなかった。
 考えてみると、宇宙のゴミとの接触事故でもあれば、いざと言う時取り返しの付かない事になる。簡単な
カバーではあるが、それでも無いよりは遥かにましだろう。
 燃料注入は大仕事だが、カバーだけだったら直ぐ装着出来る。万一の事もあるし、うっかりして忘れでも
したら大変だから、カバーは先に装着する様にお願いしたい」
 博士は如何にもな理由を付けて飛行士達に頼んだのである。

「だけど何か釈然としないよな。燃料こそが絶対で、カバーは普通二の次だろう? なんだかあべこべな気
がするけどね」
「確かに少し妙な気がするな。何か特別な事情があるんじゃないのか?」
「特別な事情って何だ? 特別な事なんかあったか? 特別と言えば、今回の一番の謎はニューケッペル
スターが無人だという事さ。折角のスペースプレーンが泣くってものだよな。そう思わないか?」
「しかし、地球から数千万キロも離れた所に行くんだからね、俺だったら行きたくは無いね。何か帰りがや
ばそうだし」
「まあ、確かにそれはそうだけど。ああ、しかし、それでもやっぱりカバーの件は謎だよ。何か特殊な事情
がある。俺はそう睨んでいるけどね」
 シャトルの中ではそんな会話があったのだが、しかし実際には誰も博士にクレームを付ける者はいなかっ
た。大統領でさえ一目置く男に逆らうのは得策で無いと感じているのだろう。

「カバーの装着完了しました。これから液体燃料の注入に全力を挙げます」
「ああ、そうしてくれたまえ。私も今そっちへ行くからね。一応地上での実験ではホースからも注入口からも
燃料漏れは一切無かったが、万一の事もある。
 準備が整っても私が行くまでは燃料の注入は実行しないように。宇宙スクーターで三十分ほどでそっち
に行くからね。それじゃあスタンバイの方頼みますよ」
「イエッサー!!」
 二人の宇宙飛行士は疑問など何も無いかのように振舞ったのだった。

「チュチュ、もう良いぞ。これから暫くしたら燃料の注入が始まる。博士の注文だと、燃料注入中にエッチし
ろと言う事だ。理解し難い話だが、まあ、博士のお陰で何とか生きられている身だからね、一応その通り
に実行する。チュチュ、聞いているか?」
「はあい、ご主人、ノボル様。しっかりと聞きました。あと三十分掛るそうですね」
「そうらしいね。それで、その三十分の間何をしようかと思うんだけどね。今は全く眠く無いし、でもエッチす
る気分でもない」
「あのう、ラブラブなお話はどうでしょうか? 三十分したらもうエッチしたくて堪らないようにするのです。ねえ、
そうしましょうよ。ねえん、ねえんっ!」
 チュチュは甘ったれた鼻声を出してサムライを誘った。

「それは駄目だな。俺は直ぐその気になるタイプだから、三十分じゃ長過ぎる。せいぜい五分もあれば十分
にその気になってしまうよ。
 しかしこうして話をしている間に五分経過しちゃったね。後二十分の間何か別のお話しをしようよ。エッチ
以外のお話をね」
「ああん、残念ですう。チュチュはご主人様の事が大好きですから、一杯エッチなお話で盛り上がろうと思っ
たのに、ううん、ノボル様は意地悪です。
 私はこう見えてもノボル様とエッチをする為に生まれて来たのですよ。ずっと、ずーっと、ノボル様とエッチ
することばかり考えて来たんですよ。
 それにノボル様のあそこの事とか性格だとか、一生懸命勉強したんですからね。今日こそはノボル様を行
かせてあげますう。チュチュの必殺技で絶対に行かせてあげますからね」
「ええっ! 必殺技? はははは、セックスに必殺技があるのか? 何か勘違いしているんじゃないだろう
ね?」
 サムライは少しチュチュは偏った教育、セックス教育を受けて来たのだと思った。それでも会話がキッチ
リ成立している事には大いに驚いていた。

『昨日もそうだったけど、何と滑らかな会話だろう。とてもロボットを相手にしているとは思えないな。もう二、
三十年は掛ると思っていたのに、想像以上にロボットの進歩は早いね。ううむ、何か容易ならざる思いだな。
ふうっ!』
 見事なチュチュとの会話でサムライはますます悩みが大きいものになって来ていた。心の中では思わず
溜息を吐いていたのである。

「えへへへへ、それはエッチしたら直ぐに分かります。何だったら直ぐやってみますか? また五分過ぎま
したから、あと十五分ですよ。
 でも人間業じゃないからっていって、チュチュの事を嫌いにならないで下さい。それだけはくれぐれもお願
い致しますう。
 もしノボル様に嫌われたら、チュチュはぐれてしまいますよ。もう、ご主人様をエッチ狂いにさせちゃいま
すからね。朝から晩まで行かせっぱなしにしちゃいます。
 ああん、今のは嘘ですう。本当にくれぐれも嫌いにならないで下さいませ。どうか宜しくお願い致します。
ああ、まだ時間が来ませんか? ああ、チュチュは段々その気になって参りました。
 うふん、ちょっとだけなら良いでしょう? ねえん、あははん、チュッ、チュッ、ああん、もう我慢出来ませ
ん。ああ、ご主人様だって感じてきていますう。立って来ましたよお」
「おいおい、約束違反だぞ。あと十分。その位我慢しろ。お口のご奉仕はそこまでだ。そこで止れ! フリー
ズ!」
 サムライは相当に厳しい言い方をした。

「はい。ノボル様の命令に従います。十分間死に物狂いで我慢します。うううっ、ご主人様、申し訳御座い
ません。
 チュチュはいけない子でした。一杯一杯反省していますから、どうか嫌わないで下さい。うううっ、お願い
します。嫌わないで下さい」
 サムライの厳しい言い方にチュチュは正に人間の様に泣いて謝罪したのである。サムライはますます複
雑な気分になって行く。

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