夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「ゴーーーッ!!」
 それから凡そ十分ほどして宇宙服に身を包んだ博士が宇宙スクーターに乗って到着した。間も無くかな
りの音を響かせて燃料の注入が始まったのである。

「さて、始まったようだな。じゃあ、ぼちぼち始めようか、チュチュ」
「ぐすんっ! 本当に始めても良いのですか? 私の事が嫌いになった訳じゃあないんでしょうね?」
「はははは、それは心配ないよ。ああ、しかし余り色気の無い状況だね。ふう、拙いねこりゃ。どうもフニャ
チンの様だぞ」
 サムライは性的な興奮が冷めてしまって、すっかりペニスが萎(しお)れて小さくなっている事に気が付いた。

「うふふふふ、お任せ下さい。きっと興奮させて差し上げますから」
 チュチュは自信有り気にそう言うと早速口での奉仕を始めた。だが元々行き難い体質。ペニスの柔らか
い状態が暫く続いたのである。

「えへへへへ、ちょっと手強いですね。いよいよ奥の手を出しますよ。あのう、絶対に嫌いにならないでしょう
ね?」
 チュチュはしつこい位に嫌わない事を確認したのである。

「ああ、勿論、こうなったら矢でも鉄砲でも持って来いだ。遠慮なくやって良いぞ」
「はい。チュチュはご主人のノボル様のそのお言葉を信じます。では、行きます! じゅる、じゅる、じゅる、
じゅる、……」
「うあっ! な、な、何だこれはっ!」
 サムライは全く想像していなかった舌技に戸惑った。

「し、舌が三枚あるのか!」
「はい、二枚舌ではなく三枚舌なんです。これがシュナイダー博士からのプレゼントなんですう。一枚では
人間に負けるけど、三枚だったら絶対負けないって言っていました。ほうら、ペニスが膨らんで来ましたよ」
 セックスの真っ最中、しかも口を使っての、いわゆるフェラチオなのに会話が出来る。ロボットとサイボー
グだから出来る芸当である。

「ううう、くくく、こりゃ参ったぞ。ううむ、あああ、もう行きそうだ。ううう、あああっ!」
 口での奉仕で僅か五分だった。サムライは絶頂に昇りつめたのだった。おそらく口で行ったのはこれが
初めてだろう。
 予想外の快感がサムライを絶頂へと導いた様である。勿論本物の精液など出はしない。作り物ではある
が、チュチュの口の中にかなりの量放出された筈である。

「あああ、素晴しいよ、チュチュ、ふう、すっかり満足したよ。それにしても驚いたね。三枚舌なんてね。これ
が人間相手だったら、たとえ三人掛りでもこうはいかない。
 顔が邪魔になって、あんなに密集してペニスを愛撫出来ないからね。いや、とても良かったけど、精液に
濡れちゃったね。その始末はどうするんだ? そのままじゃ拙いんじゃないか?」
 サムライは事後の始末に困った。何しろ手も足も無いのである。

「うふふふふ、ちゃんと始末出来るんですよ。いまその最中です。大事なご主人のノボル様の精液ですから
勿体無いですが、チュチュのお口の中には吸引ノズルが付いていて、丁寧に吸い込んで一ヶ所に貯めま
す。
 後はそれをヒーターで乾燥させて、凝縮してから小さなゴミ袋に入れて貯えて置きます。ノボル様が小惑星
『ニューアメリカ』に接近したら、その時小惑星目掛けて放出するんです。
 それから核爆発で跡形も無く消えてしまいます。でもその後の事は決められておりません。それは博士か
らお聞き下さい。
 ああん、全然色気の無いお話になってしまいました。御免なさい、今言った事は博士からの伝言なんです。
必ず伝える様にと、私の頭にインプットしたんですよ。ふう、ノボル様の精液処理が完了しました。
 さあ、二度目にチャレンジ致しましょう。何度も何度も致しましょう。私はノボル様のあの時の声が好き。
物凄く興奮しちゃいますう。ああん、もう我慢出来なくなりました。しても良いですよね?」
 チュチュは博士からの伝言をキッチリ伝えると、再びお口のご奉仕をさせてくれるように催促をした。

「ああ、そうだね。まだ燃料の注入が続いているようだし、もう二、三度やることにしよう。はははは、もうパ
ンパンに張り切っているよ。さっきのが素晴しかったからね」
 サムライはチュチュの要求に結局七、八回も応えてその都度絶頂に達し、疑似精液を射出したのだった。
口淫の終了とほぼ同時位に燃料の注入も無事終わり、作業をしていた宇宙飛行士達は全員がシャトルに
引き上げて行った。ただ一人だけシュナイダー博士だけは気に掛る個所があるからと言って、そこに残っ
たのである。

 博士はそこから少し離れた位置にある宇宙ステーションに今は居住している。シャトルの連中は別の作
業もあるので、そのシャトルごと移動して行った。
「ああ、サムライ君、聞こえるかね?」
 博士は格納庫の中に宇宙スクーターごと入って来てチュチュの居る場所でそう言った。互いに無線で話し
合うことが出来る。

「はい、良く聞こえますよ。ああ、それと、私のペットみたいなロボットは、まあ、露骨に言えば、セックスロ
ボットですが、チュチュと名前を付けましたから」
「ああ、そうかね。チュチュね。ふうむ、ピッタリの名前だね。ところで約束通り、エッチはしたんだろうね?」
「はい、言われた通り、燃料注入中はずっとしていましたよ。はははは、しかし三枚舌には驚きましたよ。
お陰様で見事に果てました。七、八回も果てたので、もうすっかり満足しています」
「満足したかね。それは良かった。こっちは燃料注入中、かなり聞き耳を立てていたし、今、分析をしてい
るのだがね」
「何の分析ですか?」
「一応、君の体、ニューケッペルスターに音響振動測定器を何ヶ所かに仕掛けて置いたのでね、今無線制
御でその報告を傍受しているんだが、どうやら合格のようだ」
 博士は安心して言った。

「合格? それって一体……?」
 サムライには何の事だかさっぱり分からなかった。
「はははは、君はいまや、人間と言うより、一つのマシンだ。全世界の注目するね。そのマシンを世界中が
注目し、何かと観測したがるだろう。
 そんな時に、たとえ間接的にせよ、エッチらしい振動やら音やら、場合によっては声なんかが記録された
ら拙いだろう?」
「ああ、確かに、誰も乗っていないのかどうか疑われますね。でも普通は分からないでしょう?」
「これは用心なんだよ。万一に備えてのね」
「随分用心深いんですね。万に一つも無いと思いますがね」
「はははは、その通りだが、私は今まで何度も無用心の為に煮え湯を飲まされている。特にゴールドマン
教授には痛い目にあわされた。
 それ以来私は用心に用心を重ねる様になったのだよ。君だってダウクーガー、いや、金森田玄斎に酷い
目に何度かあわされているんだろう? 結果として用心深くなったんじゃないのかね?」
「ああ、確かにそれは言えてますね」
 博士の言葉に一応は納得したのだが、その他に聞きたい事は沢山あった。しかし、突如として割り込ん
で来た者があった。

「ストーップ! お二人とも私の存在を忘れていませんか? 私も話の輪に入りたいですう」
 チュチュが不満を漏らしたのである。
「フリーズ! フリーズ! フリーズ!」
 今度は突然博士が呪文の様に、『フリーズ!』を三回繰り返して言ったのだった。

「えっと、今のは何ですか?」
「はははは、チュチュが煩い時にはこう言えば宜しい。一時停止の命令になっている。逆に一時停止の
解除は『オープン!』を三回言えば良い」
「ああ、そんな便利な言葉があったんですか。なるほど、確かにチュチュが何も言わなくなりましたね。一時
停止というと、この話は聞こえていないのですか?」
「そういう事になる。勿論機能の完全停止ではない。幾つかの暗号には反応するし、極端な振動にも反応
する。しかしそれ以外には一切反応しない様に出来ている。
 私達がこのロボット、少々お喋り好きな奴を作った時に、余りにもお喋り過ぎて辟易したので一時停止の
機能を付けたのだよ」
「なるほどそんな経緯があったんですね。しかし何とも言えないほど人間的な喋りのロボットですね。本当
にロボットかどうか疑いを抱いてみたりしたのですが、純粋にロボットなんですよね?」
 サムライは念の為に聞いてみた。

「うーむ、気が付きましたか。これは秘密にして置きたかったんだが、これもサイボーグの一種なのですよ。
人間の脳が使われているんです。
 ただ死に掛けた脳でしてね。ごく一部の脳が使われている。サムライ君、君に執着していたある女性の
脳なんですよ」
「えええ、私に執着している、女性の脳なんですか?」
「ああ、実は数ヶ月前に亡くなった人の脳なんですよ。ただ、厳密に言えば完全には死んでいなかった。し
かし彼女は生前の遺言で、君と共にある事を強く望んでいた。
 私はそれを知ったので、彼女の意思を尊重する事にしたのだが、拙かったかねえ。彼女の意識は無い
のに等しい。
 気の毒だが半分脳死状態だったのでね。普通だったら脳死判定が出ているところだろう。彼女は今自
分が何をしているのかは分からない。しかし彼女の脳の機能の一部は確かに働いているのだよ。
 このようなことが許されるのかどうか余り自信はないが、彼女は君と一緒に居られればそれで満足だと
遺書に残していたので、その通りにしてみたんだがね。……もし嫌だったら、止めるが、どうだろう?」
 博士の言葉はサムライにとって激しい衝撃だった。

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